声明 改定臓器移植法施行にあたって
2010年7月17日、改定臓器移植法が施行されます。私たちはこの法律の施行に怒りと悲しみをもって強く抗議します。
「脳死判定基準を満たしたら脳死であり、その状態を人の死としてよいのか」という本質的問題はいまだに結論を得ていません。判定が難しく可塑性が高いといわれる小さな子どもに対し、改定ガイドラインは、いわゆる「長期脳死」も脳死判定の対象としました。これは、92年の“脳死臨調”の答申をはるかに踏み越える恣意的な脳死概念の拡大で、許されるはずがありません。
法解釈について、厚労省が「改正後も改正前と同様、一般の医療現場で一律に脳死を人の死とするものではない」とする一方で、日本移植学会は「(医療の現場では)押し並べて脳死は死ということでお願いしたい」とごり押しをするなど、改定法の矛盾が招く現場の混乱は必至です。
またこの一年間、指摘されてきた課題は何一つ改善されていません。小児の救命救急医療体制の未整備、「虐待の判別は困難」という現場の声、“脳死下での臓器提供事例に係る検証会議”の長期にわたる非開催、「脳死からの臓器移植」の経過や問題点の情報開示は今後も約束されない、リーフレットに記載する「脳死」の説明は全く不正確・・・など。こんな状態で施行日を迎えたことに不安と憤りを禁じ得ません。
改定法は、拒否の意思を示した者や虐待を受けた児童からの臓器摘出を否定していますが、本人の拒否の意思が担保される保証も被虐待児が臓器提供の対象とされない保障もない現状では、重大な人権侵害が起きる危険性があります。
国民の大多数は「脳死という状態」の不適切な説明から誤解をしたままです。正確な情報を提供せず、救命治療を尽くす体制もなく、家族の様々な感情を利用して臓器提供の判断を迫るならば、家族に肉親の命を奪ったという後悔の念を生涯に渡って押しつけることになります。
今こそ第二次脳死臨調を発足させて、事実に基づき、脳死概念を見直し、脳死に関する理解を広める活動を推し進めるべきです。
私たちは、他人の死を待ち望む「医療」ではなく、臓器移植以外の治療法の研究・開発を求めます。救命救急医療体制の整備で「脳死」にならない医療を徹底し、虐待や交通事故などを減らす施策を求めます。医療現場で日々築きあげられている医療者と患者との信頼関係が壊されることがないよう、臓器摘出へと誘導されることがないよう、重大な人権侵害が起きないよう、今後も注視していきます。「回復困難とされた命」を家族の承諾で死なせるのではなく、患者を支える医療を、どんな命も平等に大切にされる社会を願い、求めていきます。
2010年7月16日
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
事務局長 川見公子