臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

改定臓器移植法下の法的脳死判定・臓器摘出に関する申し入れ

2010-09-27 22:25:37 | 声明・要望・質問・申し入れ

 2010年9月27日

  厚生労働大臣    細川律夫様                           
  健康局長       外山千也様
  臓器移植対策室長 辺見 聡様
                                 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
事務局長 川見公子

申し入れ書

 

 2010年7月17日より施行された改定臓器移植法下で、臓器提供者の生前の書面による意志表示が無く、家族の承諾のみによる法的脳死判定・臓器摘出が行われています。
 法的脳死判定・臓器摘出が行われた施設名はもちろんのこと、ほとんどの情報が開示されず、検証も一年後に始めるとの発表です。検証せず情報の開示もしないで、このまま進めることは、厚生労働大臣が約束した「透明性の高い国民が信頼できる移植医療」とはほど遠いものです。
  改定臓器移植法は、臓器提供者には、脳死判定および臓器提供を拒否する意思がなかった者がなりうるとしていますが、これらの拒否する意思がないことを、どのように確認されたのでしょうか?私たちは、「脳死」と診断されて家族と長期にわたって暮らす多くの人々の存在を知っています。ドナーとされた方のご家族は、突然の交通事故や脳疾患の混乱のなかで臓器提供を決断したと考えられますが、「脳死」についてどんな説明がされたのでしょうか?臓器提供施設が従来より拡大していると見込まれますが、脳死判定医は的確な資格を有しているのでしょうか。疑問は尽きません。
  以下質問をいたしますので、ご回答いただけますよう、申し入れます。  
 
質問項目
 
1、「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議」(座長=藤原研司・横浜労災病院名誉院長)は、この間の家族承諾での臓器提供について、一年後に検証を行うとしているが、あまりにも情報の非開示が多いことは問題である。以下について明らかにされたい。

①臓器提供者において、「臓器摘出および脳死判定に従う意思がないことを表示した者ではないこと」について、また「知的障害者でないこと」について、誰がどのように確認したのか。
②法的脳死判定17例目の検証会議報告書を公表されたい。またこの事例が非公開とされてきた理由も説明されたい。
 「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議」が行なった検証では、臓器提供施設側の医師が公表した文献においても、問題点がみられるにもかかわらず、検証会議は、それらの問題点を等閑視するだけでなく、甚だしくは報告書さえも公表していないケースもある。
 例えば、法的脳死判定17例目(新潟市民病院)は、『新潟市民病院医誌』23巻1号p67~p72(2002年)において、2001年8月15日12時頃に、主治医より妻に「脳死に近い状態である」と説明したところ、妻よりドナーカード所有を告げられ、臓器提供目的で昇圧剤の使用を開始したことを報告している。これは臨床的脳死診断の約9時間前、法的脳死判定確定の約26時間前のことである。
 また同病院の今井昭雄氏(新潟県医師会)は、『新潟県医師会報』630号p10~p14(2002年)に、この臓器提供例において「急変後、主治医は自分の患者さんをなんとか助けることができないのか悩みぬいていただけに、脳死に近い状態であることを説明した際、ご家族から『ドナーカードを持っているが、臓器提供ができないでしょうか』と言われて、戸惑いが隠せなかった」と書いている。
 つまり法的脳死判定17例目は、ドナー候補者の家族が先導して、法的に脳死ではない患者を臓器提供目的で管理するように仕向けた=死亡していない患者を、臓器提供目的のドナー管理を開始し傷害致死を行なった可能性がある。ところが、この法的脳死判定17例目の報告書は公表もされていない。
 このような現状から、私たちは、臓器提供者の人権は守られたのか=脳死判定まで治療が行われたか、「脳死」の状態や臓器提供についてどのような説明が行われたのか、どんな立場の人が説明したのか、家族が承諾に至った経緯(手続きも含む)、について大いに懸念と疑問を持っている。

③家族承諾脳死例については、生前のドナーの意思が不明なだけに、救命医療の内容、家族への説明、承諾の経緯について、早急に情報を公開しないと人権侵害の多発は避けられないと懸念する。これらの情報を開示されたい。



2、「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議」はメンバーを今後拡充することを考えている、と報道されている。検証会議のメンバーに、小児科医師はもちろんのこと、脳死からの臓器提供に慎重な姿勢を示している患者団体や弁護士、研究者を加え、公平で透明性の高い第三者機関に拡充するべきと考えるがいかがか?
 また、臓器移植関連学会協議会が「今後検証は学会に任せるべき」という提案をしていたが、検証は第三者の検証機関が行うべきと考える。厚労省の方向性を明確にされたい。

3、脳死判定医について
 「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)は、「脳死判定は、脳神経外科医、神経内科医、救急医又は麻酔・蘇生科・集中治療医であって、それぞれの学会専門医又は学会認定医の資格を持ち、かつ脳死判定に関して豊富な経験を有し、しかも臓器移植にかかわらない医師が2名以上で行うこと。臓器提供施設においては、脳死判定を行う者について、あらかじめ倫理委員会等の委員会において選定を行うとともに、選定された者の氏名、診療科目、専門医等の資格、経験年数等について、その情報の開示を求められた場合には、提示できるようにするものとすること」と規定している。
以下の項目について回答されたい。

①「脳死判定に関して豊富な経験を有し」とは、成人で何回、小児で何回の経験があることをいうのか、その経験回数と根拠を示されたい。
②過去の脳死判定経験において、用いられた脳死判定基準は、日本国内の脳死判定基準に限定しているのか、正規の脳死判定とは異なる一般的脳死判定や脳死とされうるとの診断(臨床的脳死診断)、そして海外の脳死判定基準の運用経験も含むのか。
 また、それを妥当とするなら、その根拠を示されたい。
③法的脳死判定に従事することがガイドライン上可能な、成人の脳死判定医、小児の脳死判定医は、それぞれ全国に何人いるのか。それぞれの施設数も明示されたい。
④脳死判定医は臓器移植にかかわらない医師であることとされているが、沖縄県の浦添総合病院では、救急総合診療部長が院内移植コーディネーターであると記載されている(『日本救急医学会雑誌』18巻8号p383、2007年)。また、藤田保健衛生大学救命救急センター脳神経外科病棟では、1980年頃から毎朝、臓器ドナーの探索目的で腎移植医が脳外科医と同行回診している(『現代医学』41巻2号p369~p373、1993年 『泌尿器外科』7巻2号p105~p109、1994年)。
 このような体制は、ともに不適切と考えるが、厚生労働省の見解はいかがか。
 また、全国の臓器提供施設で同様の事例があればその施設名を確認願いたい。



4、提供した家族はみな「誰かの体の中で生きてよかった」「誰かを助けられてよかった」と話したと、同じような言葉が発表されていて疑問に感じる。家族のコメントを誘導する移植コーディネーター用のマニュアルが存在するのか?

5、ドナー候補者の家族に対する説明において、脳死判定後も長期に心臓が動き続ける症例があることや臓器を摘出する際に麻酔を投与することなど、脳死判定された患者の実態や臓器摘出の実際について、ドナー候補者の家族は詳しい説明をうけているのか。臓器移植コーディネーターの、死体臓器ドナー候補者家族に対する説明のマニュアルを、法的脳死判定および心停止後の臓器提供の両方のケースについて提示いただきたい。

6、「長期脳死」の実態調査を行うべきと考えるが、厚生科学研究などで行う予定はあるか。

7、厚労省と臓器移植ネットワーク作成のリーフレットの「脳死」の説明について、例えば「脳死と判定された場合、多くは10日以内に心停止に至るといわれていますが、長期に生存し体調も安定して成長する例もあります」のように改正するべきと考えるが、いかがか。

8、長妻前厚労大臣は法律の解釈について、「周知徹底する」と国会で答弁された。国民が手にするリーフレットに「脳死は一般の医療現場では人の死ではありません。臓器提供を承諾したときに限り人の死と扱われます」と書くべきと考えるが、いかがか。 

9、臓器移植法を問い直す市民ネットワークは、改定臓器移植法に関する申し入れ(2009年12月22日)において、「Ⅳ 脳死判定に係る事項に関して」として以下の5項目を指摘した。(参考に09年12月22日付 申し入れ書を添えます)
(1)脳死判定後の長期間生存例について
(2)脳死判定の不確実性について
(3)その他、判定基準を否定する例について
(4)無呼吸テストについて
(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の脳死判定について
 これら5項目それぞれについての見解を示していただきたい。

 

以上

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