臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 3-2

2024-06-07 16:21:30 | 声明・要望・質問・申し入れ

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

3-2

3-1の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例
2,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、テヘランでは臓器摘出直前に0.15%、米国では臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後

3-2(このページ)の見出し
3,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与され効いた!
4,脳死とされた成人の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)
5,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
      何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者

6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

3-3の見出し
7,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
8,脳死判定を誤る原因

 


 

3,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与されて効いた!

 脳死判定の補助検査にアトロピンテストがある。脈が遅くなった場合の治療薬として使われているアトロピンが効く患者は、脳が正常に働いている人だけ、という原理を用いる検査だ(アトロピンは迷走神経性徐脈に適応があるが、心臓迷走神経中枢は延髄にある)。
 患者の脳機能が正常ならばアトロピンを投与すると脈が速くなるため、脳死を疑われる患者に投与して「脈が速くなったら脳は正常に働いている」「脈が変わらなかったら脳に異常が生じている」と診断する。
 このためアトロピンが脳死患者に効かないことは、この薬剤を使う医師には常識だが、日本医科大学付属第二病院における法的脳死30例目では「(脳死ドナーの)徐脈時にはアトロピンは無効とされるが、我々の症例では有効であった」と報告された。

出典=大島正行:脳死ドナーの麻酔管理経験、日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号付属CD、1-023、2004

出典=大島正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔、LiSA、11(9)、960-962、2004は「プレジア用のカニュレーションを行った際、心拍数40bpmという徐脈となった。アトロピン0.5㎎を投与したところ、心拍数は回復した」と記載している。

 そもそも薬が効かない患者と見込まれるのに、敢えて投与したことが異常だ。もし脳死臓器摘出の現場で、ドナーにアトロピンを投与して効いたら脳死ではないことになり、臓器摘出は中止しなければならなくなるはずだ。臓器提供施設に臓器を摘出するために赴いた移植医が、施設側の脳死判定を確かめる検査を行い、そして脳死を否定することになる結果を得たならば、以後は臓器提供への協力を期待できなくなるであろう。こうした危険を知りながら投与したことは、臓器提供施設側の承諾の下に、臓器を摘出するドナーを薬物の実験台に使っている疑いを示す。

 

 伊勢崎市民病院における法的脳死582例目でもアトロピンが効き、「副交感神経系以外のM2受容体を遮断することで血圧上昇に寄与した可能性」が提示された。

出典=飯塚紗希:脳死下臓器摘出術の管理経験、日本臨床麻酔学会第39回大会抄録号、S292、2019

 薬物が効果を発揮する受容体を探索するための人体実験を行ったのか?

 


 

4,脳死とされた成人の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

 

 ニューヨーク大学ラングーンヘルスは、2023年7月14日に遺伝子操作されたブタの腎臓を脳死状態の57歳男性に移植した。61日間の観察の後、9月13日に所定の終了日に達し、腎臓は除去され、人工呼吸器が外され、遺体は家族に戻された。本症例より前に同施設が行った遺伝子操作ブタ腎臓のヒト「脳死」者への移植2例では、ともに観察時間は54時間だった。今回の3例目では、以前は観察されていなかった軽度の拒絶反応が認められた。
出典=Two-Month Study of Pig Kidney Xenotransplantation Gives New Hope to the Future of the Organ Supply
https://nyulangone.org/news/two-month-study-pig-kidney-xenotransplantation-gives-new-hope-future-organ-supply

 

 アラブ首長国連邦のクリーブランドクリニック・アブダビでは、2017年10月1日から2022年10月1日までに、脳死宣告から1週間以降の臓器提供が10例あった。内訳は脳死宣告から30日後が1例、29日後が1例、14日後が1例、10日後が2例、9日後が1例、8日後が1例、7日後は3例。文末の結論は「Our study demonstrates that, in extenuating circumstances, it is possible to preserve viability of donor organs for several weeks after brain death and successfully perform organ procurement surgery(私たちの研究は、酌量すべき状況では、脳死後数週間ドナー臓器の生存能力を維持し、臓器調達手術を成功させることが可能であることを示しています)」
出典=Haamid Siddique:Late organ procurement as much as 30 days after brain death,Transplantation,107(10S1),3,2023
https://journals.lww.com/transplantjournal/fulltext/2023/10001/115_3__late_organ_procurement_as_much_as_30_days.3.aspx

 

 米国フロリダ大学医学部付属病院、妊娠13週の31歳女性では胎児への影響を考慮して無呼吸テストは行わなかったが脳スキャンで3分間の静的画像を得て脳死宣告した。妊娠33週に帝王切開で2142グラムの女児を出産、母親への人工呼吸は停止、女児は5日後に退院した。

出典=Natalia Moguillansky: Brain Dead and Pregnant,Cureus,15(8),e44172,2023
https://www.cureus.com/articles/176169-brain-dead-and-pregnant#!/

 

 ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学病院、妊娠17週の29歳女性が自動車事故で1週間後に脳死判定された。妊婦は感染症、肺炎などあったが、5か月後に満期で健康な赤ちゃんを出産。心臓、肝臓と腎臓が移植のために摘出された。

出典=Payam Akhyari:Successful transplantation of a heart donated 5 months after brain death of a pregnant young woman,The Journal of Heart and Lung Transplantation,38(10),1121,2019
https://www.jhltonline.org/article/S1053-2498(19)31553-0/fulltext(抄録)

 

 ドイツのジュリウス・マクシミリアン大学病院では、交通事故で28歳女性が脳死と判定され、25週後に経腟分娩し、移植用に心臓、腎臓、膵臓が摘出された。

出典=Ann Kristin Reinhold:Vaginal delivery in the 30+4 weeks of pregnancy and organ donation after brain death in early pregnancy,BMJ case reports, 30,12(9),e231601,2019
https://casereports.bmj.com/content/12/9/e231601(抄録)

 

 熊本大学病院で妊娠22週の32歳女性を脳死と判定(正式な無呼吸テストは低酸素の懸念から行わなかった)、妊娠33週で経腟分娩(自然分娩)し、翌週に無呼吸テストで自発呼吸の無いことを確認した。8週間後に転院、約1年後に死亡した。

出典=(日本語)今村裕子:妊娠33週で自然経腟分娩にて生児を得た脳死とされうる状態の妊婦の1例、日本周産期・新生児医学会雑誌、52(1)、94-98、2016
   (英語)Kinoshita Yoshihiro:Healthy baby delivered vaginally from a brain-dead mother, Acute Medicine & Surgery,2(3),211-213,2015
   https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.95

 

 脳死の一般向け説明として「脳死になったら数日のうちに心臓も止まる」がある。しかし脳死出産は、脳死と判定された患者の中に数日間以上、生命維持が可能な患者がいること。加えて生命体の特質=子孫を残すことができる患者もいること・・・死んではおらず生きていることを示す。

 脳死出産について、竹内(注1)は2002年に「(世界中から)ほぼ年に1例弱の頻度で報告されている。脳死判定後の生命維持期間は1~107日で記載の明らかな11例の平均は56日、11例の出産方法はすべて帝王切開、脳死出産後の臓器提供は3例(生命維持期間は44日間、54日間、100日間)」としたが、竹内が記載した以外で2002年より前に日本国内だけでも他に4例の脳死生産、1例の脳死死産が確認できる。
 近年は上記のように生命維持期間は長期化した症例が報告されている。
 経腟分娩例も前記ジュリウス・マクシミリアン大学病院例、熊本大学病院例のほかに新潟大学病院例(注2)がある。
 脳死判定における無呼吸テストは、胎児および胎児への悪影響を考慮して行っていない症例が多い。

 

文献

(注1) 竹内一夫:脳死出産、産婦人科の世界、54(6)、551-558、2002
(注2) 佐藤芳昭:脳死患者より経腟分娩例について、母性衛生、24(3~4)、48-49、1983

 


 

5,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?

 2008年6月3日、衆議院厚生労働委員会臓器移植法改正法案審査小委員会において、委員から「脳死は、脳幹の機能を初め、生命維持機能が失われたものと聞いておりますけれども、具体的に体がどのような状態になるのか、このところをお伺いしたい」と質問されて、心臓摘出の経験のある福嶌教偉参考人(大阪大学医学部教授・当時)は以下枠内を述べた。
「まず一番は脳と脳幹の停止ということですので、息をしないということが一番大事なところになります。
 脳には、脳神経といういろいろな神経がございますが、その機能がなくなります。ただ、問題になりますのは、脳幹よりも下の神経が生きておりますので、痛みというものは感じないわけですが、痛み刺激が与えられた場合に筋肉が動く可能性というのはこれはございます。ですから、例えば、脳死の状態の患者さんの臓器を摘出する際に筋肉弛緩剤を使わないと、筋肉が弛緩しないとできないということは確かです。
 ただし、痛みをとめるようなお薬、いわゆる鎮静剤に当たるもの、あるいは鎮痛剤に当たるもの、こういったものを使わなくても摘出はできます。ですから、麻酔剤によってそういったものが変わるようであれば、それは脳死ではないと私は考えております。
 実際に五十例ほどの提供の現場に私は携わって、最初のときには、麻酔科の先生が脳死の方のそういう循環管理ということをされたことがありませんので、吸入麻酔薬を使われた症例がございましたが、これは誤解を招くということで、現在では一切使っておりません。使わなくても、それによる特別な血圧の変動であるとか痛みを思わせるような所見というのはございません。
 一応、そういうのが脳死の状態と私は理解しております」

出典=議事録https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/018716920080603001.htm

 

 福嶌参考人は「(臓器摘出時の脳死ドナーへの麻酔は)現在では一切使っておりません」と言ったが、この発言の約3週間前である2008年5月14日の法的脳死71例目で獨協医科大学越谷病院は「麻酔維持は、純酸素とレミフェンタニル0.2μ/㎏/minの持続静注投与で行なった」。

出典=神戸義人:獨協医科大学での初めての脳死からの臓器摘出術の麻酔経験、Dokkyo Journal of Medical Sciences、35(3)、191-195、2008
https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=735&item_no=1&page_id=28&block_id=52

 

 83例目で手稲渓仁会病院はレミフェンタニルを投与した。

出典=小嶋大樹:脳死ドナーからの多臓器摘出手術の麻酔経験、日本臨床麻酔学会誌、30(6)、S237、2010

 

 132例目で山陰労災病院麻酔科は「臓器摘出術の麻酔」に関わった。

出典=小山茂美:脳死下臓器提供の全身管理の一例、麻酔と蘇生、47(3)、58、2011

 

 424例目、2016年12月30日の脳死判定と見込まれる文献は、「全身麻酔下に胸骨中ほどから下腹部まで正中切開で開腹し,肝臓の肉眼的所見は問題ないと判断した」と脳死ドナーに麻酔がかけられていたことを明記している。

出典=梅邑晃:マージナルドナーからの脳死肝グラフトを用いて救命した 肝細胞がん合併非代償性肝硬変の1例、移植、52(4-5)、397-403、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/52/4-5/52_397/_pdf/-char/ja

 他方で脳死臓器摘出時に筋弛緩剤は投与するものの、麻酔は使わないで臓器を摘出した症例も確認できるため、脳死臓器摘出の現場では「麻酔をかけなければ臓器摘出を完遂できなかった症例」と「麻酔なしで臓器摘出ができた症例」が混在していることになる。しかし臓器提供施設マニュアルはp32で「原則として、吸入麻酔薬、麻薬は使用しない」と禁止している。

出典=臓器提供施設のマニュアル化に関する研究班:臓器提供施設マニュアル(平成22年度)、32、2011
https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/flow_chart01.pdf

 

 懸念すべきことは、法的脳死が宣告され臓器提供者とされた人のなかに、実は脳不全が軽症な人が混在している可能性だ。そのような人が臓器摘出時に激痛・恐怖・絶望を感じつつ生きたまま解剖される場合に、麻酔をかけないと臓器が摘出できないと見込まれる。これは福嶌参考人が「鎮静剤に当たるもの、あるいは鎮痛剤に当たるもの、こういったものを使わなくても摘出はできます。ですから、麻酔剤によってそういったものが変わるようであれば、それは脳死ではないと私は考えております」と述べたとおりのことでもある。
 生理的には、福嶌参考人の発言の前段にある、脳死判定にかかわりのないとされる一部の神経が生きていることによる生体反応と、それに麻酔が効くことは生理的にはありうる。他方で、誤って脳死と判定され臓器摘出を強行した場合に、麻酔が必要になることもありうることであり「想定外」としてはならない。

 

何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者

 臓器提供施設マニュアルで脳死臓器摘出時の麻酔を原則禁止しているため、臓器移植コーディネーターから臓器提供の選択肢について説明を受けるドナー候補者家族も、臓器摘出時に麻酔をかける可能性は説明されていないと見込まれる。2018年秋まで日本臓器移植ネットワークのウェブサイトからダウンロードできた臓器提供候補者の患者家族むけ説明文書「臓器提供についてご家族の皆様方に ご確認いただきたいこと」も、臓器摘出時に麻酔をかける可能性は記載していない。
 こうした情報隠蔽の結果は、善意で臓器を提供するドナー本人そしてドナーの家族が背負わされる。もしも脳死判定が誤っていたら最悪の場合、ドナーは生きたまま解剖され臓器を切り取られる激痛を麻酔もかけられずに感じ続け、恐怖、絶望のなかで死に至らしめられる。家族も臓器提供を後悔し続けるからだ。

 山崎吾郎著「臓器移植の人類学(世界思想社・2015年)」に、娘からの臓器摘出に同意した母親の語りが載っている(p87~p88)。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんです。もうその時は忙しくて」

 脳死下で臓器を提供したドナーの遺族が回答したアンケートにも深刻な回答が寄せられた。日本臓器移植ネットワークが行った「臓器提供に関するアンケート調査」https://www.jotnw.or.jp/news/detail.php?id=1-781&place=top は、「問18-1.臓器提供をご承諾された後のことについて、あなたのお気持ちやお考えをお伺いします。『ご本人またはお子様』が臓器の摘出手術を受けることに関して 不安を感じましたか」という問いに、回答者の24%が「感じた」、22%が「やや感じた」と回答し、半数近くが不安を感じていた。
 そして「問18-2.【問18-1】で少しでも不安を感じたという方にお聞きします。 不安に感じることはどのようなことでしたか。 当てはまるものに全てに○をつけてください」には、痛みはないか63、苦しくないか58、提供できるだろうか57、外見の変化はないか46、怖くないか33、寂しくないか27、寒くないか18、手術を乗り越えられるだろうか16」など、家族は臓器摘出時に苦痛、恐怖を感じる不安を感じていた。
 自由記述に「脳死状態とはいえ、身体にメスを入れることで、痛み等を感じないのか、我々の話をすべて聴いていて、殺されると思っていないか」「摘出手術において麻酔を使用するのか、使用しない場合は本人が痛いと声を発したら、中止をする選択肢は有るのか不安である」「もしかしたら、もしかしたら、生きかえるのではと、何回も思った」「とにかくごめんね。という思いでした」など。
「問19.死亡宣告を受けてから『ご本人またはお子様』が手術室へ向かうまでのお気持ちを教えてください」には、「手術室の様子を見れないので、起きあがったりしなかったか?もし起き上がっていたら自分、申し訳ないと思います。今でも夜になると時々」という回答もある。

 

 日本移植学会は、臓器移植法が制定された当時に「フェア・ベスト・オープン」に行うと宣伝していた。現代の医療は、患者本人の自己決定が尊重されることが基本中の基本という。しかし現実は、自己決定の前提となる正しく充分な情報提供はなされていない。

 



6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

 

横浜市立みなと赤十字病院例=51歳男性が突然の意識障害で心停止し小脳出血と診断。昏睡状態のままで瞳孔が散大し、脳幹反射がなく、自発呼吸、電気的脳活動がなく脳死状態と判断され、家族は臓器提供を選択。5日目に行われた最初の脳死判定の呼吸検査中に、腹式呼吸を繰り返す呼吸のような動きがあったため中止された。9日目の頭部の磁気共鳴画像では血流がないことを示し、体性感覚誘発電位検査では脳由来電位は示されなかった。家族は臓器提供を拒否し、患者は20日目に亡くなった。

出典=Shinichi Kida:Respiratory-like movements during an apnea test,Acute medicine & surgery,11(1),e959,2024
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.959

注1:この症例報告は、脳死が否定されたとは断定していないが、否定される可能性もある旨を書いている。結論の原文は以下。
(CONCLUSION Respiratory‐like movements can occur during the apnea test in patients considered to be brain dead. This phenomenon may be associated with cervical spinal activity. Further investigation is warranted to clarify this possibility.)

 

注2:正式な脳死臓器提供の承諾手続きは法的脳死の宣告後に行われるものであるが、実際には
A: 「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」により法的脳死判定の前から臓器提供目的の処置が行われることがあり、医師の脳死見込みが実質的な脳死判定になっていることがある。また、
B:無呼吸テストを行わない診断を「一般的な脳死判定」として終末期と診断し生命維持を打ち切ったり、心停止後の臓器提供(生前カテーテル挿入の許容など)を行う医療現場の実態がある。
 このため本症例は手続き上は「脳死とされうる診断の誤り」だが、前記AやBの実態から脳死判定の誤りと同等の症例として、ここに掲載した。

 

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  米国ノースカロライナ州の牧師ライアン・マーロウさん(37歳)は、リステリアに感染しアトリウム・ヘルス・ウェイクフォレスト・バプテスト医療センターに入院、約2週間後の2022年8月27日(土)に脳死と宣告されましたが、臓器が摘出される8月30日(火)に家族は足の動きを認め、その後、脳血流が確認され臓器提供は中止された。昏睡状態だが妻が話しかけると心拍数が上昇した。

 脳死ではないことがわかった時刻について「臓器摘出の数分前」とした報道もある。一方、9月1日付のチャーチリーダーズの記事Pastor’s Wife Says Husband Pronounced Dead Is Actually Alive: ‘I Need Ya’ll To Go to Church and Pray’ https://churchleaders.com/news/433243-north-carolina-pastor-wife-dead-alive-pray.html は「月曜日の夜、ミーガンは医師から電話を受け、医師は専門家パネルが間違いを発見し、ライアンは脳死ではないと言いました。彼女がその意味を尋ねると、医師は『彼女の夫がまだ本質的に脳死であるが、病院はライアンの死亡時刻を、土曜日から臓器を摘出する火曜日に変更する』と説明した(Monday evening, Megan received a call from the doctor who said that an expert panel had discovered there was a mistake and that Ryan was not brain dead. When she asked what that meant, the doctor explained her husband was still essentially brain dead, but the hospital would change the time of death from Saturday to Tuesday when Ryan went to have his organs removed)」 

 

 以上で記事の引用が終わり、次の5行は当ブログの仮説です。
 チャーチリーダーズの記事にもとづくと、病院側が8月27日(土)にライアン・マーロウさんに脳死宣告をしたものの、その後に脳死ではないことを確認したため、心停止後の臓器提供に方針を変更し、その旨を8月29日(月)に妻のミーガンさん説明したと推測される。なぜならば死亡時刻を脳死宣告した8月27日(土曜日)ではなく、臓器を摘出する8月30日(火曜日)に変更するとは、人工呼吸など生命維持を停止して心停止をもたらした時刻を死亡時刻とすることと見込まれるからだ。
 しかし、医師が「まだ本質的に脳死である(still essentially brain dead)」と説明した事も影響したのか、妻のミーガンさんは混乱しながらも「夫が脳死である、火曜日に脳死臓器提供を行うんだ」と引き続き思い込んでいた。そこに火曜日当日、足の動き、心拍上昇をみてミーガンさんは脳死ではないことを確信して臓器提供にストップをかけたのではないか?
 臓器提供に前のめりで重症患者の家族への説明に言葉が足りない病院、重篤で社会復帰困難な患者への致死行為を最善の利益とみなす医師、意識障害と脳死の違いに知識が少ない・無頓着な米国民の認識、などの要因が重なり、ドナー候補者家族には臓器摘出直前に脳死ではないことが認識されたのではないか?

 

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 英国・リークで2021年3月13日、ルイス・ロバーツさん(18歳)は自動車にひかれてロイヤル・ストーク大学病院で緊急手術を受けたが、3月17日に脳幹死が宣告され、家族は臓器提供に同意した。即時の生命維持装置の停止も可能だったが、家族は翌朝7時まで待つことにした。姉がベッドサイドに座り、ルイスさんに「1、2、3を数えた後に呼吸するように」と頼んだ。モニターに呼吸を示す4つの茶色の線に気づき、3月18日の午前3時30分頃に医師により自発呼吸が確認された。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。

出典='Miracle' teen injured in crash still fighting days after being 'officially certified dead' 
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teen-injured-crash-still-5223255?_ga=2.174475946.96428472.1616800965-2124080866.1616800916

 

2021/9/24 ルイス・ロバーツさんは6か月後、母親に「お母さん、愛してる」と会話

 ルイス・ロバーツさんは2021年7月11日に19歳になり、先週末'Mum, I love you.... you're the best'と完全な会話をした。

出典=Miracle teen's first heart-melting words six months after being 'certified dead'
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teens-first-heart-melting-5958854

 

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 米国ニューヨーク州立アップステート医科大学病院に入院した脳内出血の59歳男性、脳死判定のうち無呼吸テストは安全でないと判断され、SPECT(単光子放射型コンピューター断層撮影法)で頭蓋内に血流がないことを確認。家族が臓器提供に同意し脳死宣告されたが、翌朝、咳反射、断続的な自発呼吸、侵害刺激への反応も確認。家族は脳死ではないことを知らされたが、新たな決定がなされる前に患者は心停止した。
当ブログ注:無呼吸テストは行っていないが脳血流なしとして脳死判定された。

出典=Julius Gene S. Latorre: Another Pitfall in Brain Death Diagnosis: Return of Cerebral Function After Determination of Brain Death by Both Clinical and Radionuclide Cerebral Perfusion Imaging, Neurocritical Care,32, 899–905,2020
https://link.springer.com/article/10.1007/s12028-020-00934-2(画面左下のRead full articleをクリックすると全文が読める)

 

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 2017年12月26日、ブライアン・ヒールさん(50歳)は階段から転落し英国サマセット州のヨービル地区病院に搬送され脳幹死と診断。臓器提供者として登録していたため人工呼吸器で管理したところ回復の兆しを見せ、2018年2月12日に昏睡から脱却しはじめた。2018後半にリハビリを終える予定。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。

出典=Lonardo worker from Sherborne making miracle recovery after suffering massive brain injury
https://www.somersetlive.co.uk/news/somerset-news/leonardo-worker-sherborne-makes-miracle-1511883

 

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 2015年1月、テキサス州のジョージ・ピッカリング氏は息子が脳死とされた。医師が人工呼吸の停止を計画、臓器提供の手配も進められていたことに抗議して病院に拳銃を持って立てこもった。3時間の間に、息子は父親の指示に応じて数回、父親の手を握り、脳死ではないと確認できたため警察に投降した。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=2016年8月10日放送「ザ!世界仰天ニュース 息子を守りたい父親の大事件」
https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20160810_03.html

 

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 2010年10月8日、ブルックリンでエミリー・グワシアクスさん(21歳)はトラックにはねられ、ベルビュー病院に搬送された。第2病日、母親は看護師から「娘さんは亡くなられた」と聞かされた。臓器提供に同意後、母親がエミリーに話しかけている時に、エミリーは左手を上げた。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=Hit by a Truck and Given Up for Dead, a Woman Fights Back
http://www.nytimes.com/2010/12/22/nyregion/22about.html(プレビュー)

 

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 3カ月前から中耳炎だった26歳男性は昏睡状態となり、クイーンエリザベス2世健康科学センターにてCTで脳膿瘍が確認され、昏睡発症後7時間で無呼吸も確認され脳死と診断。家族は臓器提供に同意した。血液培養で48時間後に臓器提供の適格性を再評価することになった。脳膿瘍が臓器提供に影響しうるか確認するために、脳死宣告から2時間後にMRIを撮ったところ脳血流があった。患者は昏睡発症から28時間後に自発呼吸が確認された。自発呼吸以外の神経学的検査の結果は以前と同じで、患者は臓器提供者リストから外された。5日後、自発呼吸は弱まり心臓死した。


出典:Derek J. Roberts MD:Should ancillary brain blood flow analyses play a larger role in the neurological determination of death?,Canadian Journal of Anesthesia,57(10),927–935,2010
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12630-010-9359-4 

 

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 マクマスター大学病院において37週で出生した女児が、生後41時間後にカナダの脳死判定基準を満たした。無呼吸テストで動脈血二酸化炭素分圧を54mmHgまで上昇させて自発呼吸がなかった。米国の移植組織により心臓の利用が検討され、米国の脳死判定基準(無呼吸テスト時に動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させる)にもとづいてテストされた。女児は動脈血二酸化炭素分圧が59mmHgまでは無呼吸だったが、その後64mmHgに上昇するまでしっかりと呼吸をした。臓器提供の同意は、両親により撤回された。

出典=Simon D.Levin:Brain death sans frontiers, The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE,318(13),852-853,1988
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM198803313181311(プレビュー)

 

 

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