2020年11月30日
衆議院法務委員会
委員長 義家弘介様
与党筆頭理事 稲田朋美様
野党筆頭理事 階 猛 様
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~
緊急要請書
『生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案』は、いのちの選別を進めかねない内容であり、拙速な採決は行わないでください。
私たちは、「脳死」を人の死とすることや「尊厳死・安楽死」など、いのちを切り捨てていく動きに反対してきました。また、こうしたいのちの切り捨ては、出生をめぐっても行われてきたことから、出生前診断や着床前診断などにも、強い危機感をもってきました。
こうした観点からこの法案を読むと、以下に述べる重大な問題があると考えます。私たちの懸念を払拭するような議論を行っていただくとともに、今国会での拙速な採決を行わないでください。
(1)法案の基本理念の中に、優生思想を反映した条文があること
この法案の基本理念を、第三条で規定していますが、その4項には次の規定が置かれています。
「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする。」
この規定にある「心身ともに健やかに生まれ」とは、しょうがいをもって生まれる子供の生存を否定しかねない内容であり、旧優生保護法の目的である「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と同じ意味とも解することができます。
そのため、第4条に規定する国の施策は、優生政策を進める施策になりかねず、第六条の知識の普及も優生思想の普及になりかねません。
「生命倫理」への配慮という記述もありますが、その内容は規定されておらず、優生政策につながる第三条4項の規定をカバーするものにはなりえません。国会は、『旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律』を採決した時に、優生思想、優生政策がどれだけ危険なものであるかを心に刻んで採決されたのではなかったのでしょうか。
(2)生殖細胞の売買などに道を開く危険性
この法案では、生殖補助医療について、何等の規制も規定していないので、生殖細胞の売買に道を開きかねません。もし、こうした売買を容認するとすれば、「優秀な人」の生殖細胞が高値で売買されるような優生社会を作りかねません。
附則の第三条によれば、「おおむね二年を目途として」、衆参「両議院の常任委員会の合同審査会」などの議論を行った上で、「生殖補助医療及びその提供に関する規制の在り方」などを検討して法制上の措置などを行う、としています。そうであるならば、法案の本則の部分も、この検討を踏まえた上で採決する必要があるはずです。そうでなければ、この検討の間に既成事実が作られてしまうのではないでしょうか。
この付則第三条の1項2号では、「生殖補助医療に用いられる精子、卵子又は胚の提供(医療機関による供給を含む。)・・・」などという記述もあります。これは、医療機関以外からの供給も予定しているということであり、営利を目的とした生殖細胞バンクの解禁さえも念頭にあるのではないか、と危惧されます。
さらに、附則第三条3項においては、「第三章の規定の特例」も検討されるようです。本則第三章は、体外受精と人工授精を行った場合の親子関係についての規定ですが、このほかの特例を作るということは、何を検討しようとしているのでしょうか。代理母の解禁などを行おうとしているのではないか、と懸念されます。
外国の事例から、代理母となった人たちの健康が損なわれたり、しょうがい児が生まれた場合に、その子の受け取りを拒否する人たちが現れてしまうことが知られています。いまだ国会では代理母の是非の問題は十分に議論されていないと思われます。これは代理母の健康被害やしょうがいをもって生まれた児への人権侵害にも波及しかねないことから、綿密な議論が必要です。波及していく事柄が多いと考えられるにもかかわらず、そのことへの認識も示さないまま「第三章の規定の特例」の検討規定まで置こうとすることは、この法案提案者が拙速な議論しか予定していないものと懸念せざるを得ません。
●結論として
私たちは、「生殖補助医療」が優生思想・優生政策を強めかねない内容をもっているがゆえに、重大な関心を払ってきました。にも拘わらず、国会がきちんとした検討を行わず、明らかに優生政策につながる規定も含めた法案を採決しようとしていることについて、強い危機感を覚えます。
きちんとした検討と議論を経ずに、このような法案を拙速に採決するのは止めてください。