リラは1度もアンジョルラスにクリスマスの贈り物を貰ったことがありません。
物語を読んでくれたり、迷子のリラを探してくれたり、とても優しいのに
なぜか誕生日もクリスマスも忘れているようなところが彼にはありました。
12月、パリには雪が降っています。
故郷のマルセイユでは、あまり雪は降りませんでした。
暖かく穏やかな気候の故郷、
けれど、どんな極寒の夜よりも辛い日々もありました。
アンジョルラスがパリへと旅立った日・・・そして・・・
いつか帰ってくると信じていたのに、4年経っても帰らないと聞かされた日。
彼の母から二人が結ばれることは無いと告げられた日。
希望を失ったリラに、アンジョルラスの母は、とうとうパリ行きを許してくれました。
もちろん、それが結婚を許してくれたのだなどとは、リラも思ってはいません。
第一、アンジョルラスがリラに愛を語ったことなど無いのだから。
パリに出てきた日のことをリラは思い出していました。
それはリラが庭先で拾われたのと同じ、ちょうどリラの花の季節でした。
数日の馬車の旅にも、リラはまったく疲れを感じませんでした。
一人旅にも、恐怖や不安は感じません。
寂しげな育ての両親の顔や、何かを思っているようなアンジョルラスの母の顔
別れが辛くて泣いている幼い弟たち、可愛がってくれた他の使用人たち
リラも別れは辛かったのですが、それにも増してアンジョルラスに逢える喜びに
満たされていました。
ひとつ大きな不安がありましたが。
リラにとっては、天にも昇るようなアンジョルラスとの再会。
けれど、彼にとってはどうなんだろう?
もう私のことなど忘れただろうか? だって、故郷に帰りたいと思ってはくれないのだから。
これから待つのが天国なのか地獄なのか、リラは指先が冷たくなるほど緊張していました。
リラがパリに来るのに乗ったのはディリジャンス(乗り合い馬車)
蒸気機関車はまだ走っていません。馬車の速度とか、途中で泊まったのかとか、色々と
わからないんだけど、途中で馬を替えたりしたのかな?食事やトイレなんかはどうしていたんだろう?
パリ→マルセイユ間は860キロって・・・あれ、私、前に655キロって書いてる。いい加減ですみません。
地図上の直線距離(都市の境から境の最短距離かな)と、路線の距離(駅から駅の距離)の違い?
で、860キロを信じるとしたら、東京→広島間くらいだそうです。
もちろん、この時代は道路も橋も今と大違いだろうし、馬や御者も休みがいるだろうし
山道だと、スピードは出ないだろうし・・・乗り心地も悪いだろうし
リラ、大変だっただろうな。
・・・と思ってたら、実は他にも大変なことが。
ジャン・バルジャンが囚人用の旅券を持っていて色々差別される場面があるけど、
この時代、囚人ではなくても、国内で旅をするのには旅券(パスポート)が必要だったそうです。
旅券を手に入れるには身元保証人がいるし、パリに入るには市門から入らなくてはならない。
パリは城砦都市だから、関所を通るような感じかな?
18世紀以前は外敵の侵略を防ぐものでも、19世紀の市門は入ってくる品に関税をかける場所だったとか。
徴税人の壁と呼ばれて、パリに税収は入るものの、当然物価は高くなって貧民には住み難い。
税金、何に使ってたんだろう。
リラがパリでしばらく住むのは、アンジョルラスの母の知人の家です。
ひっそりと静かに暮らす未亡人の家・・・
数人の召使いがいるだけで、あまり人の出入りはありません。
おかしな男に目をつけられることも、召使いの身分なのか養女なのか、パリにまで
行かせてもらうリラの身分を詮索する人間もいない静かな家です。
到着の翌日、早速、リラはアンジョルラスの下宿を訪ねました。
想像していたよりパリの街は汚く、華やかな表通りを一歩入ると、
じめじめと荒廃した貧民街が広がっていました。
アンジョルラスの住む場所は、そんな荒廃とは無縁な地域。
大学にもほど近いところに立つ瀟洒な建物です。
立派な門構えで門番夫婦も住んでいます。
リラはおずおずと門番の女房らしき女性に声をかけました。
「アンジョルラス? ここには、そんな名の人いないよ。」
リラは慌てて故郷の奥様の書付けを取り出しました。
若い娘が会いにいっても、通してくれないと思ったので、一言、事情を書いてくれて
いたのです。
それを見た門番の女房の態度は一変しました。
「あの人、ときどき変な女たちからつけられてたからね。ちゃんとした知り合いだったんだね。」
やや気の毒そうに
「本当にもう1年くらい前から、ここにはいないんだよ。たまに、そうだね、ひと月に2度ほど
手紙を取りに来るくらいで。少し前に来たから当分来ないんじゃないかと思うよ。」
アンジョルラスは、最初に両親が手配した上等な下宿を少し前に出ていました。
人の出入りの多い、華やかな社交の雰囲気に何年経っても馴染めなかったのです。
そして、今の彼は、ある目的のためにお金を貯めていました。
宿を変えたのを両親に知られたくない彼は、門番の女に手紙の保管を頼んでいました。
アンジョルラスを気に入っていた門番の女は、たまに彼が手紙を取りに来るのを
むしろ楽しみにしていました。
門番の女はアンジョルラスの住所を知りません。
彼が今度来たら、リラのことを伝えてくれると約束してくれましたが、それがいつかは
わからないのでした。
リラは目の前がまっくらになりました。どうしたらいいの?
・・・ここ2日ほど、これを考えてたんですが、ここで止まりました。続きはまだ浮かんでないw
ちょっとした番外編w
そうだ、大学、大学の前で待てば・・・
リラは恥ずかしいのをこらえて、パリ大学の校内に入り(当時、部外者入れたのかは知らない)
聞いてまわりました。
「どなたか、アンジョルラスという人をご存知ないですか?ブロンドのイケメンです。」
僕はブロンド、イケメンなアンジョルラスだけど、何か?
その青年の名はアントワーヌ(アントン)・ヴタイバーン・アンジョルラス
あ、ぼく、ロベール(ロブ)・ズットゥ・マリウス・ポンメルシーです。
どの青年も、とても親切に話を聞いてくれましたが、誰もアンジョルラスを知りません。
(アンジョルラス、在籍すれどもミュザンに入り浸りだからね。)
外では目立ってるんだけどなぁ(うるさくて)
けれど皆、リラの少ない言葉からでもリラの恋心を読み取りました。
「何かあったら教えるから、またここにおいで」
そういうと、学生たちは去って行きました。
アントワーヌ(アントン)は密かにため息をつきました。
彼も叶わぬ恋をしていたのです。
相手は修道女、道に倒れた浮浪者や乞食を助ける美しい女性でした。
(まだこの時代はナースという職業はないんだよね?)
決して結ばれることは無い恋でした。
尼僧院に入る前はアキレッタと呼ばれていて、小柄で愛らしい良く笑う少女だったそうです。
彼女がなぜ修道女になったのかは知りません。
そして気のせいでしょうか?彼女の目にときどき彼への熱い想いが見えるのは。
いや、思い過ごしだ、うぬぼれるな、アントワーヌは自分をいさめました。
白いかぼそい彼女の手が起す小さな奇跡を見て、アントワーヌも自身のあり方を考えていました。
そして、彼はやがて革命へと身を投じて行くのです。
て、ちょっと困ったなw
バリケードにアンジョルラスがふたり。
あ、マリウスもふたりになっちゃうw
それと、アキ&アントンジョルラス、美化しすぎちゃった。ぜんぜん別人w