竹崎の万葉集耕読

日本人のこころの拠り所である「万葉集」を味わい、閉塞感の漂う現代日本人のこころを耕したい。

「訓読」という言語変換システム

2012-06-22 06:05:08 | 日記
  日本人のこころの歌・こぼれ話
    ざっくり古代和歌文学史 (7)

  「訓読」という言語変換システム
        (日本語の特性一)

 言語学上、原初の日本語がどの言語系統に属するものかについては、いまだに解明さておらず、現在ではどの語族にも属さない「孤立言語」とされている。文字については、通説では弥生時代後期の2,3世紀ごろには中国大陸から朝鮮半島経由で漢字が渡来していたとされている。しかし、それは「音声を伴った言語」としてでなく、「未知の記号で表記された隣国の文化資料」として、断片的に流入したものであった。
 7世紀以降、ようやく国家体制を整えたわが国の支配層は、モデルとすべき先進国の政治思想、宗教・文化、法律、文学として、各分野にわたるコンテンツを盛り込んだ漢字漢文資料を積極的にわが国に持ち帰るようになった。
古代の日本人は、そうした異国の文字で記述された先進文化を、バイリンガルの「通訳」を介して理解しようとはしなかった。漢字漢文の文書に「訓点」という、いわば言語変換のプログラム記号を付して、即座に「訓読」してしまう魔術的なシステムを完成させた。

 言語を、語の機能に従って形態的に類別すると、次の三種類になる。
(1)語形(尾)変化による「屈折語」―英語、ドイツ語、フランス語など。
(2)語順による「孤立語」―中国語など。
(3)付属語、活用語尾による「膠着語」―日本語、朝鮮語、モンゴル語など。

 「訓読」とは、「孤立語」の漢文に、「返り点」を付して語順を変更し、「ヲコト点―後に送りかな」を付記して、一気に「膠着語」の日本文に変換しながら内容を把握する技法である。こういう外国文書の解読法は、自国語の特性を損なわない、世界史上類例のない、有効な方法であった。