米本土上空を飛行していた中国の「偵察気球(スパイ気球)」問題が急展開した。ジョー・バイデン米大統領の命令を受け、米軍の最新鋭ステルス戦闘機「F22ラプター」が4日午後(日本時間5日未明)、空対空ミサイル「サイドワインダー」を発射し、気球を撃墜したのだ。バイデン政権は、中国政府の「民間の気象研究用飛行船」という説明に納得せず、「スパイ気球」と断定し、「明白な主権侵害と国際法違反」と激怒していた。中国政府は即座に「強烈な不満と抗議」を表明するなど逆ギレした。習近平政権はメンツを失い、「対抗措置の可能性」を示唆している。米中の緊張感が高まっている。
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「撃墜を成功させたパイロットらを称賛したい」
バイデン大統領は4日、こう誇らしげに語った。記者団への説明によると、地上に被害が出るリスクがなくなり次第、スパイ気球を撃ち落とすよう、国防総省に厳命していたという。
同省によると、南部バージニア州の基地から離陸した米北方軍のF22戦闘機が、同サウスカロライナ州沖約10キロの領海上空でスパイ気球を撃ち落とした。空対空ミサイル「サイドワインダー」が使用された。
スパイ気球は1月28日、米アラスカ沖のアリューシャン列島近くから米国領空に侵入した。高度約1万8000メートルを飛行し、バス3台ほどの大きさで、操縦可能な状態だったとみられる。アラスカ州上空からカナダの空域に侵入後、31日以降は米西部アイダホ州から米国上空に再侵入し、東へ飛行した。
その間、米軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設がある西部モンタナ州上空も通過した。国防総省高官は「明らかに、機密性の高い米軍施設上空を飛んでいた」といい、「偵察用」と断定した。
一方、中国側は気球撃墜に逆ギレした。
中国外務省は5日、「強烈な不満と抗議」「国際的な慣例に深刻に違反している」などと反発した。
米本土上空での気球の飛行が発覚すると、中国外務省は「民間の気象研究用飛行船」と説明し、偏西風の影響で予定の飛行コースから不可抗力で大きく外れたと主張していた。
「民間」と説明していたはずだが、撃墜されると中国国防省が5日、「明らかに過度の反応だ」「必要な手段を使って類似の状況を処理する権利を留保する」などと反発する報道官談話を発表した。
まさに、「衣の下から鎧(よろい)が見える」というしかない。
ロイド・オースティン米国防長官は「米本土の戦略的拠点を監視する目的で中国が使用していた」と突き放した。米軍はスパイ気球の残骸を回収して、分析を試みる方針だ。
今回の事態をどう見るか。
中国事情に精通する評論家の石平氏は「米中関係が一挙に緊張して破綻しかねない。関係改善を狙っていた習国家主席には誤算で、最悪の事態だ」と分析し、続けた。
「気球が中国のものと認めざるを得なかったうえ、数日間、姿をさらされ最後は撃墜された。日常的な『スパイ行為』があらわになり、メンツが潰された。中国の声明は最も弱い表現で弱腰だ。対国内的に強がってみせても、対外的には、なかったことにしたいのだろう」
スパイ気球が確認された後、米国とカナダが共同運用する「北米航空宇宙防衛司令部」(NORAD)が厳戒態勢で監視した。
アントニー・ブリンケン米国務長官は予定していた訪中を延期した。3日、中国外交トップの王毅共産党政治局員と電話会談して、「明白な主権侵害と国際法違反」と批判した。その後の記者会見でも、「われわれの領空から偵察気球を撤去する」と言明していた。バイデン政権として、有言実行した。
石平氏は「米中関係の決定的な転換点になり得る。米国民は『中国の明確な危険性』を目撃した。米本土上空の飛行は異常事態だ。習氏は気球に乗せ、『覇権主義』と『悪事』を米国に〝宣伝〟した。中国は対米関係改善をあきらめ、強硬姿勢を加速する可能性がある。ロシアとの最接近もあり得る」と語る。
米軍が「世界最強」といわれるF22戦闘機を出撃させた理由は何か。同機は「超音速巡航能力」「短距離離着陸能力」「高いステルス能力」を持ち、「ラプター(猛禽類)」の愛称を持つ。
軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「米軍で最も高性能で、機動力がある主力戦闘機だ。高度の飛行能力にもたけ、上空2万メートル程度を飛ぶ気球に対応するには最適だったのだろう。気球に搭載した機材を可能な限り、無傷で解析するため、気球本体に命中しなくても近くで起爆する『近接信管』を用いたとみられる。撃墜に用いた『サイドワインダー』は、赤外線を用い標的を捕捉する。間違いなく、一発で撃ち落とすことができる方法だった」と解説した。
以上、ZACZAC
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