54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

ミームの正体

2005年11月02日 | パラソル
スーザン・ブラックモアの「ミームマシンとしての私」を読みながらミームについて考えていた。ミーム(meme)とは遺伝子(gene)とは別のもうひとつの自己複製子で、文化を伝えていくもので、模倣によって複製される。
「心を操るウイルス」などというと、言葉を発したら口からミームという粒子みたいのが飛んできて、耳に入ってきて脳に宿る、というようなイメージをもってしまうが、ミームなどという物質があるとは思えない。アフォーダンスと同じように、ミームも実体のない比喩的な存在でしかないと、私は思っていた。
しかしブラックモアの「ミームとは脳に形成される何か」というような表現を見て私はミームの実体をつかんだ。つまりミームとは脳内に形成された神経ネットワークであると。言い換えるなら、記憶そのものである。ある概念が伝えられると、それは記憶として脳に蓄えられる。その記憶というのは神経回路である。その神経回路は実体であるから、それこそがミームの実体であろうと。
また、「ミームの表現型」というのがあり、これは遺伝でいう表現型のような意味で、えんどう豆なら「丸」と「しわ」という形質。ミームの表現型は、実際に行われるジェスチャーや発せられた言葉、あるいは小説やオーディオから流れる音楽などがあげられる。これらもミームの実体といえるかもしれないが、脳にある記憶をもとに表現されたものであると考えると、ミームの本質はやはり脳内の神経回路ということになろう。

私のミームに対する関心は「強いミームの作り方」だった。強いミームさえ作れれば、売れる小説、売れる音楽、売れる漫画に売れる映画、あるいは洗脳さえもできてしまう。そんなわけで強いミームを作るにはどうすればいいのかという目的をもってミームを調べてきたのだが、ミームの正体は脳内の神経回路であった。
強いミームとは、記憶されやすいものでなければならない。単純かつ繰り返されるものは記憶されやすいだろう。例えば「ゲッツ」。単純であり、その年はテレビで何度も見させられた。
こちらの方が本筋だと思うが、強いミームとは強い感情を伴うものである。記憶を考えると、感情を伴ったほうが記憶されやすい。例えば、とても美しいと感じた人の顔はよく覚えている。同じようにブサイクと感じた顔も覚えてしまうものだ。記憶されにくいのはどうとも思わない普通の顔。神経の仕組みを考えてもわかる。感情は神経伝達物質によって引き起こされるが、その神経伝達物質は神経間の伝達をスムーズにし、神経間のつながりを強くする。つまり神経伝達物質が多いと記憶されやすい状態になる。

強いミームを作るには、記憶に残るようにしなければならない。そのために感情に訴える必要がある。感情に訴えかけるものは広まりやすい。と、なんとも当たり前な結論に至ってしまった。そらおもしろいものは売れるよ。ひどくつまらないものは記憶に残れど売れない。
売れる小説を書くには、感情に訴えるものでなければならない。となると心理学の話になると思われ、「ミーム学」というものは結局もうどうでもいいやと思う昨今であります。
ただ、脳内の神経回路がなぜ自己複製したがるかという問いにはまだ答えられないので、その辺はどうなんでしょうと思ったりしたりたり。