ケルベロスの基地

三本脚で立つ~思考の経路

BABYMETAL探究(「成功」?考)

2015-07-08 10:27:46 | babymetal
BABYMETALはなぜ成功したのか?
というような商業的観点からの分析を、ときどき目にする。
経済学・経営学というもの全般に対する個人的な不信感はおいておいても、「BABYMETALが成功したのはメタルというジャンルに徹底的にこだわったからです」みたいな分析の言説には(皆さんの多くと同じように)唖然とするしかない。

BABYMETALがヘヴィメタルであること、
その”困難さ”を見ること・感じることのできない人間には、BABYMETALがいま為しつつある「奇跡」など全く見えていない、つまりBABYMETALのBの字の半分さえも、まるでわかっちゃいないのだ。

このブログの言い方でいえば、「突然変異」。
そこに触れえないまま、「世界的大人気、その秘密は?」のような「自然淘汰での生き残り」だけに目をあてて、手持ちの理論で料理して見せるBABYMETALをめぐる言説は、無害ではあれ、無益なものだ。
誰の何の役にも立たないし、ちっとも面白くもない。

経済学者やコンサルタントたちにとっては「ヒット商品」としての分析の対象のひとつなのだろうし、「ヒットした」という現象としての結果から、それはなぜなのか?と帰納的に(あるいは手持ちの理論から演繹的に)分析する、それしか彼らにはできないのだから、彼らがそうするのは仕方がないことなのだ。
僕も、別に腹を立てたりしているわけではない。

ただ、あまりにもとんちんかん、だと思うだけである。

そもそも、BABYMETALは「成功」したのか?

彼らがいう成功とは何なのだろうか?世界的にファンが増えつつあることは確かだが、でも僕の娘たち(大学生と中学生)に訊いても、ほとんどの同級生(つまり国内の中学生・高校生・大学生)はその存在すら知らない、と言う。国内においても決して知名度がズバ抜けているわけでもない。ましてや海外で、みんなが知っている、なんてあるはずがない。(これは、BABYMETALが、まさしくメタルアーティストだ、ということなのか。)
海外で発売したアルバムが、その国のヒットチャートの上位に来ることも特にない。当たり前だ。国内でも、じわじわと売れ続けているのが凄いのであって、爆発的なヒットをしたわけではない。
つまり、BABYMETALは「ヒット商品」ではないのだ。
確実に言えるのは、BABYMETALの音盤、映像作品、そして何よりもライヴを体験し、彼女たちに魅せられるファンが増えつつある、ということだ。僕のように、魂を鷲づかみにされて、鳥肌を立てたり涙を流したりしながら音盤・映像盤を視聴しまくり、運よくライヴのチケットが取れれば何をさておいても馳せ参じ、汗を飛び散らせながら歌い踊りまくる、そんな人たちがじわじわと増えつつある、ということだ。
商品としての消費者の増大ではなく、その高い音楽性・芸術性・経験したことのない楽しさに魅せられるファンが少しずつ広がっていること。

そして、これこそが、BABYMETALの「本懐」なのである。

世間的にどうしてもアイドル・ソングってお手軽なイメージが強いと思うんですよ。パァーッと作ってアイドルの人も仮歌を聴いて一回二回歌を入れて終わり!みたいな。ポンポン量産されるような。インスタントラーメン作っている感覚というか。そういう感じだと音楽ファンとしては面白くないなと。時間かかるけど面白いほうがいいなって。

ここにこうして引用するまでもなく、皆さんご存知であろうKOBAMETALの発言(『ヘドバン』第1号)だが、これが、気取ったセリフ、大言壮語などでは全くなく、まさにこれを愚直に・真摯に行ない続け、その結果として(ヒット商品としてではなく)人生の伴侶ともいえるような高い質の音楽作品としてファンを獲得している、BABYMETALの根幹にある考え方だ。
これを「ヒット商品」として分析しよう、というその出発点そのものが、まったくピントが外れているのである。

(-KOBAMETALさんが思うメタルとアイドルの微妙な立ち加減というか…そのバランス感覚っていうのかなり気にしていたりしますか?絶妙なバランスで跨いでいたりしますよね)
それはあるかもしれないですね。どっちかに寄り過ぎてもダメだろうし。メタル方向に寄った場合はそっちはそっちでたくさんいるし。アイドルはアイドルでそれこそたくさんどころのレベルではないくらいいる。そこを狙ってもしょうがないなと思っていて。BABYMETALはオンリーワンってことをテーマにしているんですよ。BABYMETALだけしかできないことをやろうってメンバーとも話していて。そこはつねに考えているかもしれないですね。


さんざん目に・耳にした言葉で、今さら取り上げるまでもない言葉かもしれないが、しかし、よくよく考えて見れば、こんなことを本気で実現しつづけようとするのは、とんでもなく「壮絶な」ことだ。

BABYMETALにしかできないことって、何だ?

例えば、全くヘヴィメタル界になかった声質をもった日本人の少女による日本語の歌唱で、海外のメタルヘッズたちを魅了すること。
例えば、美少女3人がヘヴィメタルを、高速の時にはコミカルな動きの舞踊によって「演」奏すること。
例えば、ヘヴィメタルの楽曲にカワイイ「合いの手」を入れ、観客の熱狂を煽ること。

いやいや、本当に、こうやって文字にしてみると、ほとんど狂気の沙汰、である。
そして、BABYMETALは、その狂気の沙汰を、ストイックに実行し続けている、のだ。

だから、BABYMETALについて本当に語るべきこととは、(「ヒット商品」としての企画の秘密・売れた構造の分析、「一般解」「方程式」の提示などではなく)、目指すべき高い高いヴィジョンを極めて明確に保ち続けながら、それを実現できる能力を持っているであろう才能のある面子(プレイヤー、スタッフ)をきちんと集め、みんなで知恵を出し合いながら丹念に練習・鍛錬を重ね、きちんと結果(観客の熱狂)を出し続けている、ということだ。(経済学はともかく、経営学ならば、このことに焦点をあてて語ることはできるはずだと思うのだが…)

ちなみに、あらためて『ヘドバン』第1号のこんな箇所にも目がとまった。

(-あの3人に対しては、最初からステージに立たせたら凄いとわかっていたわけではなくて、いざステージに立たせてみたらビックリって感じですか?)
そうですね。やっていくうちに本物のBABYMETALになっていったんだと思います。もちろん、みんな真面目だしこっちが出したことに真剣に返してくれるというか…。そこは最初から本気で取り組んでくれてたんですよね。だから楽しいし、楽しくも真剣というか。でもやっぱり…何でしょうね?ライヴを重ねたりとか…どんどんお客さんが増えてきたりとか…いろんなことが重なって本人たちにも自信がついてきたんでしょうし。もっと大きく見せていこうというか…最初は小さいステージでやってたのがZepp Tokyo くらいになると三倍くらいのステージの広さなんで…同じ振り付けでも今までのようにしていても多分小さく動きが見えちゃうんですよ。なるべく大きく見せようって本人たちは意識的なのか無意識なのかやってるので、かなり一人一人の存在は大きく見えてる感じはしますよね。


本物のBABYMETALになっていった、というのは、実に味わい深いコメントだと思う。実際にそうだ。幸いなことに、僕たちは映像盤等を追ってその過程を味わうことができる。ここで書いたYUI・MOAの「バトル」史なんてまさにその典型だろう。

楽曲においても、
デビュー曲の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」は似たようなことのできる(アイドル)ユニットはいるだろうが、最近作の「RoR」や”新たな調べ”はアイドル側からもメタル側からも真似などできない(もちろん舞踊という「演」奏も含めて、である)高みに達している。

アイドルとメタルの融合、という方程式による「ヒット商品」としての分析ではなく、
アイドルとメタルの融合でありながらアイドルでもメタルでもないオンリーワンのBABYMETALへとどんどん先鋭化し続けている、その比類ない唯一性・高みの検証。

BABYMETALの「成功」を語りうるのは、そうした言説であるはずなのだ。











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