ケルベロスの基地

三本脚で立つ~思考の経路

BABYMETAL探究(ミラーニューロン)

2015-03-28 15:19:13 | babymetal
ミラーニューロン、をご存じだろうか?

今までここで重ねてきた考察は、結果として、

BABYMETALの、とりわけYUI&MOAの「振り」=「演」奏が、今までのヘヴィ・メタル・バンドのヴォーカリストが何となく(あるいはブルース・ディッキンソンやロブ・ハルフォードのように意識的に)行ってきた、表情や身振りを、美少女が踊るという前代未聞・空前絶後のかたちで、見せる=魅せるものとして比類のない高品質で実現したものだ、

ということを確認するものだったのだが、
では、なぜ彼女たちのパフォーマンスはこんなにも「中毒」性が高いのか(こんなブログを書き綴っているのもまさにその症状の一つですね)、
という謎を考えるうえで、ミラーニューロンをめぐる脳科学の知見は、大いに示唆的である。

ミラーニューロンとは、脳神経細胞の一種で、簡単に言えば、踊っているひとを見ているときには僕たちの脳のミラーニューロンが自分が踊っているのと同じように発火している、という性質をもつ。

『ミラーニューロンの発見 「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』マルコ・イアコボーニ(ハヤカワ文庫NF)には、次のような記載がある。

「私たちの脳にある一部の細胞―すなわちミラーニューロン―は、自分でサッカーボールを蹴ったときにも、ボールが蹴られるのを見たときにも、ボールが蹴られる音を聞いたときにも、果ては「蹴る」という単語を発したり聞いたりしただけでも、すべて同じように発火する。」

この細胞の発見は、とりわけ哲学的なアポリア「他我問題」(なぜ我々は他人のこころがわかるのか?)を根こそぎ粉砕してしまう破壊力を持つものであるのだが、BABYMETALがなぜこれほどメタルヘッズを虜にするのか、を考えるヒントとしてもたいへん参考になる。

BABYMETALを視聴しているとき、僕たちの脳の、他のバンドを視聴している時には活性化されないニューロンが活性化されている。

しかし、それはそれだけなのではないのか?脳の細胞が活性化されるなんて、僕たちの意識の前景にも出てこない、しょせん電気信号の反応に過ぎないのではないか?

ところが、驚くべき、こんな実験結果があるのだ。
「まず被験者に二人の人間が腕相撲をしているところを観察させ、次いで一人の人間がどもりながら音読しているところを観察させて、それぞれの状況における被験者の筋活動を測定した。被験者は額と手のひらと唇と腕に電極をつけられ、目の前の光景を観察しているあいだに各部位の筋活動を測定された。…被験者の唇で記録された筋活動は、どもりながら音読している人を被験者が見ているときに最も高くなった。そして腕の筋活動が最も高くなったのは、腕相撲を見ているときだった!ちょうど実験物理学において、物質が特定周波数のエネルギーによって励起されると振動する傾向があるように、観察者の筋肉も、実際に運動している人間のせわしなく活動する筋肉に共鳴しているように思われた。」
この実験自体は、ミラーニューロンの発見以前のものなのだが、前述したミラーニューロンの存在を考えると、理にかなっている。

つまり、
ミラーニューロンという脳内細胞の活性化は、単に脳内の活動で終わるのではなく、実際に僕たちの筋肉を動かしてもいるのだ。

すなわち、YUI&MOAの「振り」=「舞」踊を観ているとき、僕たちは、ミラーニューロンの発火を経由して、自分が踊っているときに動かす筋肉を動かしている、ということだ。単に、BABYMETALのパフォーマンスは、他のヘヴィ・メタル・バンドよりもビジュアルにおける情報量が多い、というだけではなく、実際に、僕たちの身体を揺り動かすものなのだ。


さらに、BABYMETALの「演」奏には、とりわけMOAMETALによる「表情」もある。

「幸せそうな顔や怒った顔を見ているときの被験者の顔の筋肉の活動」を測定した実験において「人が微笑むときに収縮させる頬の筋肉の活動は、被験者が幸せそうな顔を見ているときに高くなり、人が怒るときに収縮させる眉の筋肉の活動は、被験者が怒った顔を見ているときに高くなったのである。」
「ただ見ているだけの別人の表情を、あたかも私たち自身が浮かべているかのようにミラーニューロンが発火することで、シミュレートされた顔面のフィードバックのメカニズムが実現する。このシミュレーション過程は、努力して意図的に他人の身になったふりをするものではない。苦もなく、自動的に、無意識のうちに行われる脳内ミラーリング(=脳内模倣)である。」


MOAMETALの微笑みを見ているとき、僕たちは、ミラーニューロンの作用で、無自覚に微笑んでいる、のだ。BABYMETALのライヴ映像を観る楽しさ。他に類を見ない多幸感。それは、ここからも来ているのだろう。
あるいは、継続中の『イジメ、ダメ、ゼッタイ』の、プログレッシヴな構成の重要な要素としても、YUI・MOAの合いの手や微笑みがある。基調としての、<悲しさ><戦い><決意><祈り>などのうえに、<笑顔>が絶妙に配置されることで、何度見聞きしても飽きることのない、複雑な味わいが生まれているのだ。
このへんに、BABYMETALの中毒性の秘密がある。(もちろん、楽曲のよさ、SU-METALの歌・声の魅力、神バンドの演奏の確かさ、は、当然のこととしてここでの論考はスタートしている)


舞踊の天使、YUIMETAL。
微笑の天使、MOAMETAL。

おなじみの、このキャッチフレーズは、単なるカワイイキャラクターの設定だけではなく、BABYMETALの「演」奏が与えてくれる、唯一無二の「刺激」の宣言でもあるのだ。

繰り返しになるが、僕は、YUI・MOAの「振り」を、「演」奏だと考える。そこには、とりわけMOAMETALが見せる、微笑みも含まれる。それは、飾り物・プラスアルファの付加価値、というよりも、脳内のミラーニューロンを介して実際に僕たちの身体を揺り動かすという意味で、真の「演」奏なのである

BABYMETALを考える・語る際に、早くこのことが共通の認識として定着すればよいのに、と思う。