ケルベロスの基地

三本脚で立つ~思考の経路

BABYMETAL探究(『メタル・エヴォリューション』03の2)

2015-03-09 16:45:00 | babymetal
ヘヴィ・メタルの重要なアイコンである、メロイック・サイン。

BABYMETALのキツネ・サインは、もちろん、このメロイック・サインの変形(オマージュ?パロディ?)なのだが、「メロイックじゃない、キツネさん」「メロイックじゃない、キツネだ」と歌詞にまでして高らかに歌い、自らの存在そのもの・精神そのものの象徴として、さまざまな曲の「振り」としてもたびたび掲げる彼女たちの言動に対して、「俺たちの(神聖なる)メロイック・サインをコケにしやがって!」と憤るメタル原理主義者(たびたび触れているが、その「原理」なるものには確かな根拠はないのだが)も、いるだろう。

しかし、『メタル・エヴォリューション』全11話を通して観ると、まさに実感するのだが、ヘヴィ・メタルとは、轟々と流れる大河のようなもので、一瞬たりとも静止することはない。スタティックに、「これがメタルだ」などというものはなかったし、これからもないのである。あらゆるジャンルの創造物がそうであるように、ヘヴィ・メタルも常に、創造と破壊(破壊と創造)を繰り返してきたのである。「突然変異」と「自然淘汰」によって姿かたちを変えながら続いてきたのだ。その流れ・推進を『エヴォリューション(進化)』と称した緻密なドキュメンタリーが、『M・E』なのだ。

だから、メロイック・サインとて、はじめからメタルに備わっていたものではない。
メロイック・サインの出自は明らかで、もちろん、それは、ロニー・ジェイムズ・ディオである。

メタル・ドキュメンタリーシリーズ第1作『ヘッド・バンガーズ・ジャーニー』では、
「ロニーはメロイックサインを作った。ヘヴィ・メタルのシンボルだ」というサム・ダンの語りの後で、ロニーが次のように語っている。

「祖父母ともイタリア出身だ。祖国の迷信を持って渡米した。子供の頃、祖母に手を引かれ町を歩くと、人にこうしてた。(と、メロイックサインを突き出し)後で知ったがそれはメロイックというもので、悪魔の目で見られた時身を守るものだ。攻撃もできる。だから”発明”はしていないが、世間に広めた。サバスなど偉大なバンドに言及する時、いつもメロイック・サインを作っていたら、僕のサインとして、いつのまにか世間に浸透しただけだ。」

故ロニーが、今のBABYMETALのキツネサインを目にしたら、むしろ、喜ぶだろうなあと(見せてあげたかった、とさえ)思う。祖母のメロイックサインが、日本の可愛い少女たちにキツネサインとして変形されながら引き継がれ、大切なアイコンとして活躍しているのだから。
(BABYMETALの「世界征服」という目標は、<世界中の人がキツネ・サインを掲げる姿>という絵図としてビジュアライズできる。本日のCD大賞受賞は、それに拍車をかけてくれるだろうということで、実におめでたい!たまたまリアルに中継をPCで見ていて、「椎名林檎かな…」なんて思っていたので、「大賞は…」の後のギミ・チョコには鳥肌が立ちました。)


さて、話を『M・E』第3話に戻そう。

UKにおいて、ヘヴィ・メタルの源泉になったZEP、サバス、パープルが、自らをヘヴィ・メタルと呼ばれることを忌避したのに対し、積極的に自らをヘヴィ・メタルと高らかに宣言したのが、ジューダス・プリーストである。(番組では、「初めてブルーズから離れた新しいスタイルのメタル」と紹介されていた。)

ロブ・ハルフォード
「プリーストは、メタルの旗をふることを誇りに思ったよ。」

(この「メタル旗をふる」発言で、僕は、BABYMETALのBrxtonでのアンコールを思いました。)

メタル・ゴッドとは誰が言いだしたのか、僕は知らないが、実績だけではなくこうした精神的態度・姿勢が、彼(ら)をメタル・ゴッドと呼ぶにふさわしい存在にしているのだ、と改めて思った。

ジューダス・プリーストを通してBABYMETALについて考えたことが二点ある。

①ツイン・リード
②ヴィジュアル

だ。

①について、番組では「ステレオ効果」などと形容されていたが、それまでのギター2本とは異なる、ツイン・ギターのシンクロする魅力は、現在までのヘヴィ・メタルにとてつもない影響を与えた「遺伝子」だ。
(しつこいが、これも、「突然変異」として登場し「自然淘汰の過程での生き残り」を経て今に至っているのだ)が、BABYMETALについてここで語りたいのは、神バンドの構成ではなく、やはり三姫の舞踊=「振り」についてである。
(似たような感想は多くの方が持たれていると思うが)、三姫の、とりわけYUI・MOAの、「振り」=舞踊は、まさにジューダス・プリーストが持ち込んだ質のツイン・ギターの魅力を、その身体の動きでヴィジュアルそして空気感として、観客に感じさせるものではないか。(もちろん、それだけではなく、考察途中の『イジメ、ダメ、ゼッタイ』で詳しく分析したいと思っているが、リフとしての役割や、楽器ではなく「振り」であることによる歌詞との関係や感情表現など、さまざまな「演」奏効果を果たしているはずだ)。

KKダウニングとグレン・リプトンは、ウィッシュボーン・アッシュの名を挙げ、彼らのスタイルからインスパイアされたことを番組内で語っていた(『百眼の巨人』は僕も今も愛聴しています)が、ウィッシュボーンのツイン・リードからジューダス・プリーストのツインリードへの「変容」が、ジューダス・プリーストのツインリード・ギターからBABYMETALのツインリード舞踊へと、同じ質の「変容」として行なわれているのではないか。
舞踊で、しかもとんでもない美少女ふたりの「演」奏で、というところが、眩暈がするような「変容」ぶりだが、しかし、それが観客に与えるカッコよさ・昂揚感にはジューダス・プリーストのツイン・リードと同質のものが流れているのだ。

②について、それまではそれほど重要視されていなかった
(音楽の本質とは直接関わらないものと考えられていた)
ルックスを、
ヘヴィ・メタル(に似合うというよりも)を体現するものとして
(例えばレザー・パンツとか、「黒」をまとう、とか)
観客に見せることを持ち込んだのもジューダス・プリーストだった。

ロブ・ハルフォードの語り。
「サウンドを象徴するルックスだ」


そう、この延長線上にありながら、今までにない斬新な最新形態が、BABYMETALだ。

UKで、高らかに自分たちがヘヴィ・メタルであることを宣言したジューダス・プリーストの系譜のうえに、明らかにBABYMETALはある。

逆に言えば、ヘヴィ・メタル史は、その創発期のUKにおいてすでに、やがてBABYMETALを生みだす遺伝子を蔵していたのだ。

そのことを、『M・E』第3回で確認したのでした。