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He who laughs last laughs best

心をあわせ’’聖域’’を目指せ

2017-06-09 12:55:55 | ひとりごと
「夏雷」(大倉崇裕)を読んで以来、この作者の登山経験の有無が気になっていたことは、「ずぶずぶの素人 その壱」にも書いた通りだ。
気になりながら本を読む時間が取れないでいたが、先日 大倉氏の経歴を記した本を見つけてしまったので、読んでみることにした。
「聖域」(大倉崇裕)

本の帯より
『安西おまえはなぜ死んだ?
「「安西が落ちた」好敵手であり親友でもあった男の滑落の報せに、草庭は動揺する。認めたくない事実を受け入れようとした瞬間、草庭の頭に浮かんだひとつの疑問―安西はなぜ滑落したのか?彼の登攀技術は完璧だった。山に登る上で必要な資質を、すべて具えた男だった。その安西が、なぜ?三年前のある事故以来、山に背を向けてきた草庭は、安西の死の謎を解き明かすために再び山と向き合うことを決意する。』

本書を山岳ミステリーとして読めば、正直なところ、その種明かしは読み始めてすぐに予測がついてしまった。
とは云え、とりあえず本書は推理小説のジャンルに含まれるので、その種明かしは書かないが、姿の見えない重要人のカラクリは「失踪者」(下村敦史)と ほぼ同じである。「紛いものが目指す捏造のてっぺん」
更には、帯が本書のあらすじを全て語りつくしているため、何をモチベーションにして読み進めようかと考えた時、本書の題名「聖域」が指し示しているものが何かが気になり始めた。
山を語る際の「聖域」とは、素直に考えれば、頂上のことである。

本書の山屋さんが目指す山は、8000メートル級の山であったり、もはや数少ない未踏峰といわれる山だ。
それらの頂上は勿論’’聖域’’と呼ばれるに相応しいし、本書のエピローグで’’聖域’’という言葉が用いられるときも、それは明確に山頂を指している。
だが、これは深読みにすぎるかもしれないが、本書から私が受け取る’’聖域’’という言葉には、単純に山の頂上という以上のものがある。

本書の主人公・草庭は学生時代の遭難事故をきっかけに山を離れていたが、そんな草庭を山に復帰させたがる者たちがいた。
草庭の山のパートナーだった安西や、大学山岳部の顧問だった教授や、勤務先の大先輩たちだ。
個々に見れば、それぞれ違う事情も目的もあるのだが、そこで一致するのは、草庭に自分の夢を託すということだ。
勤務先の大先輩は「いずれ(草庭が)八千メートルを極めてくれると信じていた。それを見るのが、俺の夢でもあった」と言い、草庭が山に関わることで職場におこる厄介事の処理を一人で負ってくれていた。
山岳部顧問の教授は「海外遠征は俺の夢でもあったんだからな。託せる奴がいるだけ、俺は幸せものだ」と言い、安西の滑落の謎の真相に迫る度に危険な目に遭う草庭の危機を救おうとする。
そして、この二人は安西の夢(目標)を引く次ぐのは、山のパートナーだった草庭だと信じている。

本書は確かに山岳小説なので、’’聖域’’(山頂)という夢を追う者・それを引き継ぐ者・応援する者という登場人物で構成されているが、誰にとってもそれぞれに 目標やそれを後押しする者があると思う時、本書の「聖域」というタイトルと、その達成に自らの夢を重ね応援する熱い想いが、心を温かくした。

個々人にも、例えば家庭や職場や社会活動において、誰かに目標や夢を託したり、それを応援することがあると思う。
夢(目標)を託すと云うと、ともすれば利己的な打算が働きがちだが、個人的な利害を超えた大きな夢を実現しようとするときには、夢を繋いでいくしかない場合もある。
そのような夢の領域を’’聖域’’というのかもしれないと感じながら今週 本書を読んでいたのは、今日という日が皇太子ご夫妻の御成婚記念日であり、天皇譲位の特例法が成立する日でもあるからだと思う。

皇太子御夫妻は御成婚から8年、悲しい流産を経て授かられたお姫様がお一人おられる。
お姫様ご誕生から何度も女性天皇を望む声はあがるが、その度に様々な横やりが入り実現せぬままに、皇族方の人数も寂しい状況となっている。
日本は2039年、出産可能な女性が激減するため地方自治体が半減すると云われているだけでなく、現在すでに人口減に転じており、女性を労働力として必要とする政府は「女性が輝く社会」「一億総活躍社会」と謳っている。

だが、皇室の唯一のお姫様は、女性だということ一点をもって、その存在が否定されたままでおられる。

皇室の、いや日本のあるべき方向性を示すためにも、今 男女の命がともに等しく、男女が対等な立場で手を携えていくことの重要性を明らかにするべきだと思うが、事はそう簡単には運ばない。
日本の古代は輝かしく、世界に先駆け女性が活躍し女性天皇がおられたにもかかわらず、現在の日本は明治期の荒ぶれ者がつくった決まりごとを後生大事に抱え込み、事は一歩も進まない。

このような世にあっての女性天皇の実現は、その夢を体現なさる方にとっても、託す者・応援する者にとっても未踏峰であり’’聖域’’であるがゆえに、実現への道程は厳しく長いと思われるが、女性が男性とともに輝く社会の実現は、国民一人一人にとって希望となると信じるので、また信念を大声で云うことが出来る社会であることは、誰にとっても生きやすいものだと信じるので、今日6月9日に、これからも’’聖域’’を極める方々を心をこめて応援し続けたいと決意を新たにしている。

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