検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

大滝町長の妻 連載小説257

2013年04月03日 | 第2部-小説
 その翌日の夜、大平公平と冨田将太は大滝町長の自宅に呼ばれていた。「ぜひ話をしておきたいことがある」と大滝から公平に電話があったという。「できれば冨田さんと一緒にきていただきたい」という注文もついていた。将太は町長選挙があるものと覚悟を決め、東京の妻には10日間、家に戻らないと伝えてあったのでなんの支障もなく、二人連れ立って約束の時間に町長宅を訪ねた。

 庭に入った車の音で公平たちの到着を知った大滝町長の妻が玄関を開けて姿を見せた。妻には去年、大滝を訪問したとき、会っている。名前の紹介は受けていないが芳江という名前だということは知っている。陶芸家の大滝の妻は細身の人でいつももジーパン姿で束ねた髪を和手ぬぐいで覆っているが今日のその人はスラックス姿で髪は後ろに丸めて留めているようだった。

「わざわざすみませんね。町長さんに自宅までお越しいただいて」とわびの言葉をいって2人を迎えた。言われた公平はおおいに恐縮して「とんでもないです。声をかけていただいて恐縮しています。どうぞよろしくお願いします」と応えた。玄関のたたきに革靴が一足きちんとそろえてあった。一目みて大滝町長の靴ではないと思った。だれか来ているのだ。「だれだろう」と思いながら応接室に案内された。

 ガラス戸を開けるとそこに大滝と松本博がいた。2人が入ると松本はすくっと席を立ち「大平さん、町長ご当選、おめでとうございます」と深々と頭をさげていった。
「やめろよ。そんな風にするのは」といいながら大滝に向かって「今日は、お招きをいただきありがとうございます」とあいさつをした。
 ほどなくして大滝の妻が茶器を盆に乗せて現れた。
「妻の芳江です」

 芳江は盆をテーブルの上に置くと公平と将太に向かって「妻の芳江です。このたびは主人が大変、お世話になりました。ありがとうございます」と小さく頭を下げていった。
「いえ、お世話になったのは私のほうです」
 公平が立ち上がって言うと大滝が「いや、太平さん、お座りください。私も妻も本当に助けられたと思っています」と頭を下げて言った。
「私は、みなさんご承知の通り、ガンにかかっています。年寄りだから進行は遅いようですが先のことは分かりません。大平さんに町長を引き受けていただいて私も、治療に心置きなく専念できます。平穏に身を引くことができた。妻ともどもありがたいと思っています」
 大滝がそういうと妻の芳江が頭を下げた。