検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

沈黙した記者 連載小説264

2013年04月11日 | 第2部-小説
 記者会見に集まったのは3社だった。他の新聞社・報道機関は占部町のような小さい自治体の首長の町政施策には興味がないのだと将太は思った。3社がくることに驚いたのは副町長になった松本だった。これまで複数のメディアが来たことはないという。話題になるようなものはないからだという。唯一、メディアが押しかけるかもと思ったのは平成の大合併で合併を選択しない決断をした時だったが一段記事にも出なかった。

 合併を推進する国の方針に沿わない動きは報道しない。親しくしていた記者がそう教えた。大平町長は始めての記者会見であった。敬語や謙遜語を使って丁寧に応対している。それに増長したのか、質問した30代前半と思われる記者は町長を斬った。埋蔵金とは、よく言うものだ。町の財政報告のどこに埋蔵金があるというのか。言葉は恐ろしい、ひとり歩きをするからだ。その危惧を大平も察したようだ。

「埋蔵金とかいうお金、もしあれば本当にありがたい。喉から手が出るほど欲しい。もしご存知でしたら教えていただきたい。残念ながら、そのようなお金、一切ありません。これは決算カードを見ていただけばすぐ分かることです」とキッパリ否定した。記者のこめかみがピクっと動くのがわかった。大平町長は言葉を続けた。

「ただいま記者の方がおっしゃった住宅用太陽光パネル4kWの設置費、230万円はパネル本体価格でしょうか。設置費用とおっしゃったように思います。その場合は工事費を含む価格かと思います。ご質問がもしパネル価格であればそれはおよそ1年ほど前の価格かと思います。現在は価格が下がり190万円を切っていると思います。私どもは価格調査もしてまいりまして、パネル価格は今後さらに下がると見ています。そこで現在設定している価格は1kW当たり39万円と見込んでいます。4kWですと156万円です」

 記者席から反論の声は上がらなかった。しーんと沈黙の空気が流れた。おそらくどの記者も太陽光パネルの現在の市場価格を知らないからだと将太は思った。大平町長が答弁で説明した太陽光パネルは日本製ではなかった。日本製の最新太陽光パネルのカタログ価格は230万円を大きく上回っていた。