検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

自然エネルギーを普及する推進母体 連載小説268

2013年04月16日 | 第2部-小説
 将太は自然エネルギーの普及は町民参加をどれだけ多くするかにかかっていると考えていた。住宅用太陽光発電を普及するため町が補助金を出すことが出来れば、それが魅力になり、設置を誘導する。だが自主財政がない占部町はそこに補助金は出せない。
自然エネルギーで電力をまかなうことがどうして大切か。意義を1人でも多くの町民に理解してもらう。それは扇のカナメといっても良いと思う。

 副町長になった松本博に相談すると「自然エネルギー推進協議会を作るのはどうだろう」といった。
「協議会ですか・・・」
 将太がいまいち乗り気でない。
「ダメですか」
 松本は聞き返した。

「協議会というのは意見を出し、協議するだけでしょ。おそらくそこから出る提言を役所として検討し、実施するかどうかを判断する」
「言われる通り、そういう流れですね。それがどこか問題がありますか?」
「私は普及する推進母体のようなものがいいのではと思いますが」
「普及の推進母体ですか。いいですね、それ!」
 松本は大いに賛同した。意見が一致すると名称とメンバー構成を考えた。


問い合わせ対策 連載小説267

2013年04月15日 | 第2部-小説
 将太は今日は、実証実験支援について問い合わせがあるに違いないと思った。手を打たないと仕事にならないと思った。電話応対を最初からするととんでもない時間をとらされる場合がある。問い合わせをスムーズに処理するために町ホームページから資料をダウンロードできるようにする必要がある。施策の目的と概要、受付期間、申請手続き用紙、費用など一式を早めに登庁してホームページにアップしょうと思った。

 いつもより30分、早めに登庁した。12月は1年で日が一番短い。8時前の庁舎駐車場は寒々としていた。冷えた執務室に入ると暖房スイッチを押し、パソコンを起動させ、すばやく更新した。
「これで大丈夫だ」

 将太は背もたれ椅子で大きな伸びをすると庁舎のまわりを散歩したいと思った。今年、当初の冬季気象予報は暖冬予想だったが一転して厳寒予想になった。過去の記録が通じなくなっているという。地球温暖化と関係があるに違いないと思う。福島第一原発の爆発以来、全国の原発は定期検査に入るとそのまま停止した。そして電力会社は火力発電をフル稼働させて原発の発電分をまかなった。温室効果ガスをものすごく排出しているんだろうな。

 12月議会は後半に入っていた。今朝の新聞記事に反応する議員はいるだろうか。もし現れるとどんな質問をするのだろう。期待と不安が襲った。空を見上げると大きな飛行雲が出来ていた。天気は下り坂か。この寒さだと初雪が舞うかも分からない。初めて迎える占部町の冬。身が引き締まった。目を庁舎に転じると見慣れた大平公平、今は町長の軽自動車が駐車場に入るところだった。
「そろそろ戻るか」
 独り言を吐くと将太はきびすを返して、早い霜柱が立つ山の小道を戻った。

全国紙地方版に載る 連載小説266

2013年04月13日 | 第2部-小説
 記者会見があった翌朝、将太は玄関ポストの新聞を取り込み、朝日が差し込む縁側の椅子に腰かけた。占部町の自然エネルギー推進室長に就任した将太はセカンドハウスを占部町役場から車で10分のところの古民家を改装して妻、彰子と暮らすことにした。しかし彰子は1週間に3日ほどしかいない。仕事をもっているわけではなかったが東京に仲良しグループがいる。東京の歴史探索に熱中していた。

「東京は面白いわよ」という。
 古地図と現在地図を重ね合わせ、比較できる地図を持ち、史跡を発見すると写真に撮り、それをネタに喫茶店で話をしていると1日はあっと過ぎるという。午後4時になるとだれもが「主人があるさいのよ」といって解散するという。
 彰子はそれから1人、銀座に出て、画廊めぐりをしたり松屋などをショッピングする。地下の食品売り場でひと皿、ふた皿のめずらしい食べ物を買い求め、家でゆったり食べるのが楽しいという。彰子は今の時間の過ごし方に満足しているようだ。それはそれでいいと将太は思う。

 今朝は彰子がいない。将太は手にした朝刊を開いた。昨日の記者会見の記事、載っているとすれば地方版の紙面だ。開くと探す必要がない大きさで「自然エネルギーの技術開発支援、占部町で全国初の取り組み」の見出しが目に飛び込んだ。
 大平町長が記者の質問に答えた占部町で実証実験を希望している水力発電開発者が顔写真付で載っていた。
「考案した水車が実際どれだけの発電をするのか。実際の川で稼動させるとどうなるのか。実験ができなかったが今回、できるようになった。たいへん喜んでいます」とコメントしていた。

 記者は記者会見のあと、実証実験希望の業者名を将太から聞きだすと、その足で業者を取材したようだ。地元紙を開いた。記事は一段ベタで「占部町、2年後に電力100%自給めざす」とあった。記事は町長が説明した骨子冒頭をそのまま載せていた。

めざとく、するどい記者 連載小説265

2013年04月12日 | 第2部-小説
 ポテンシャル調査の質問をした記者が再び手を挙げて質問をした。
「配られた資料に『自然エネルギーの新技術開発のため実証試験の便宜を図る』とあります。これは具体的にどういうことをされるのですか」

 その施策は技術開発で苦労した経験を持つ将太ならではの発案に基づいて立てた施策だった。よくぞそこに気がついたと将太は記者を見た。
「自然エネルギーの技術はどの分野もまだ開発途上だと思います。さまざまな分野がある中で太陽光電池は大企業でなければ取り組めないと思います。しかし風力と水力、木質を含むバイオマス発電は中小企業の方、あるいは発明家の人がチャレンジできると思います。そうした意欲を持つ人たちは沢山おられる。ところが実験する場所がなく、苦労しているというお話を聞きます。例えば水力発電。原理は非常にシンプルです。問題は落ち葉と砂だと聞きます。落ち葉が導入口を塞ぐ、砂がタービンに入り込んで羽根を傷つけ、破壊する。これをいかに解決するか小水力の最大の課題と聞きます。私どもが考えているのは水力、風力と地中熱の開発をめざす方に実験場所の提供と操業データー支援、宿泊所を提供したいと考えています」

「これはすでに希望しているところはあるのですか」
「ええ、1つ伺っています」
「分かりました」
 記者はそれ以上質問をしなかった。そして記者会見は終わった。席を立ち、部屋から出る町長に先ほどの質問をした記者が声をかけた。


沈黙した記者 連載小説264

2013年04月11日 | 第2部-小説
 記者会見に集まったのは3社だった。他の新聞社・報道機関は占部町のような小さい自治体の首長の町政施策には興味がないのだと将太は思った。3社がくることに驚いたのは副町長になった松本だった。これまで複数のメディアが来たことはないという。話題になるようなものはないからだという。唯一、メディアが押しかけるかもと思ったのは平成の大合併で合併を選択しない決断をした時だったが一段記事にも出なかった。

 合併を推進する国の方針に沿わない動きは報道しない。親しくしていた記者がそう教えた。大平町長は始めての記者会見であった。敬語や謙遜語を使って丁寧に応対している。それに増長したのか、質問した30代前半と思われる記者は町長を斬った。埋蔵金とは、よく言うものだ。町の財政報告のどこに埋蔵金があるというのか。言葉は恐ろしい、ひとり歩きをするからだ。その危惧を大平も察したようだ。

「埋蔵金とかいうお金、もしあれば本当にありがたい。喉から手が出るほど欲しい。もしご存知でしたら教えていただきたい。残念ながら、そのようなお金、一切ありません。これは決算カードを見ていただけばすぐ分かることです」とキッパリ否定した。記者のこめかみがピクっと動くのがわかった。大平町長は言葉を続けた。

「ただいま記者の方がおっしゃった住宅用太陽光パネル4kWの設置費、230万円はパネル本体価格でしょうか。設置費用とおっしゃったように思います。その場合は工事費を含む価格かと思います。ご質問がもしパネル価格であればそれはおよそ1年ほど前の価格かと思います。現在は価格が下がり190万円を切っていると思います。私どもは価格調査もしてまいりまして、パネル価格は今後さらに下がると見ています。そこで現在設定している価格は1kW当たり39万円と見込んでいます。4kWですと156万円です」

 記者席から反論の声は上がらなかった。しーんと沈黙の空気が流れた。おそらくどの記者も太陽光パネルの現在の市場価格を知らないからだと将太は思った。大平町長が答弁で説明した太陽光パネルは日本製ではなかった。日本製の最新太陽光パネルのカタログ価格は230万円を大きく上回っていた。


毒ある記者の質問 連載小説263

2013年04月10日 | 第2部-小説
「ただいまのご質問、水力発電に関して最初にお答えしたいと思います。ご質問の通り、環境省のポテンシャル調査によるとこの占部町には水力発電に適した河川はないことになっています。そこで私どもは複数の小水力発電事業者からご意見をたまわりました。するとすべての小水力発電事業者から小水力、マイクロ水力を設置できる適地はいくつもあるとの判定を頂戴しました。水力発電を設置する場合、水利権者の承諾を必要とするなど課題が多くありますが占部町の河川は町が水利権を持っていますので設置に難しい問題はないと考えています。太陽光発電の設置について、ご心配の質問がございました。魁より始めよという言葉がございます。まずは町が設置をして、発電量と売電量、売電収入を公表して太陽光発電を設置するとどうなるかを知っていただく。太陽光発電は工事が簡単ですぐ取り付けることができ、すぐ発電するすぐれものです」

 大平町長が答弁を終えると別の記者が手をあげて質問をした。
「町長がめざしているのは電力自給でしょ。太陽光発電を1つ設置したところで電力自給にならないでしょ。町長の今のお話は電力自給についての答えになっていないですよ。太陽光発電で電力自給をするには相当の設置が必要でしょ。太陽光発電、住宅の平均は約4kWで、設置費用は約230万円と聞きます。仮に100倍の400kWとすると単純に計算で2億3000万円必要です。占部町は財源のない町でしょ。これだけの事業をするには何か埋蔵金が出てきたのですか」
  記者の毒がある質問に他の記者から笑いが起こった。

記者の質問 連載小説262

2013年04月09日 | 第2部-小説
 「それは申し訳ございません。うっかりいい忘れました。なにしろ新米町長です。会見に上がっていますから、この通り、汗をかいています」
 その言葉に記者の間から笑い声が起こった。
「ええ、達成目標は4年後です」
 すると記者の間から「4年後!」と驚きの声が上がり、挙手抜きで「メインの電源は何ですか」。

 最前列の記者から挙がった。地元紙の記者だった。
「太陽光発電と水力発電です」
大平町長の答弁に質問の記者が再質問をした。
「町長は選挙戦の中で森林資源を活用した木質バイオマス発電を強調されていたように思います。マニフェストを変更されるのですか」

「私の説明が誤解を招いているようですが木質バイオマス発電は占部町の町おこしの根幹として考えているのはさきほどご説明した通りです。しかしこの木質バイオマス発電は関係するステークホルダが多く、協議・調整に一定の時間もかかります。推進対策室も設けてすでに動いていますがこれとは別に先ほどご案内した太陽光発電と水力発電を導入してエネルギー自給を達成させたいと思っています」

「その場合、相当数の太陽光発電の設置が必要と思いますが住民所得から見て、大丈夫なのでしょうか。また水力発電は環境省のポテンシャル調査ではこの占部町はポテンシャルゼロです。計画にかなり楽天的なところがあるように感じますがいかがですか」
 将太はその記者の質問を聞いて、この記者はそれなりの勉強をしている人間だと思った。
 

記者会見 連載小説261

2013年04月08日 | 第2部-小説
  大平公平が初登庁してひと月が過ぎていた。臨時議会を踏まえて占部町の執行部体制は変化し、対策室が1つ増えた。副町長に総務課課長の松本博が昇格し、自然エネルギー推進室が新設され、初代室長に冨田将太が着任した。

 県内マスコミは新たに新設された「自然エネルギー推進室」に関心を寄せ、町長取材の申し込みが相次いでいた。新任町長は小さな自治体とはいえ、日程はぎっしり詰まっている。

 松本副町長は日を決めて記者会見をすることにした。今日はその日である。
会見場は町長室に隣接した会議室を用意した。県庁につめる記者クラブの代表幹事社に聞くと、出席予定は3社だという。記者クラブには全国紙、地方紙、業界・専門紙を入れて22社が入っている。
「3社とは少ない」と松本は思った。その情報はただちに新町長・大平と将太にも知らされた。

 記者会見では新しい町政の自然エネルギー施策を発表することになっている。その施策は議会にもまだ提案していない。
施策の発表が終わると記者から質問の手が挙がった。
「大平町長の今の自然エネルギー推進施策の目標は占部町の電力はすべて占部町でつくってまかなう。そう理解してよいですか」
「はい、結構です」と大平は答えた。

 すると別の記者が手を挙げた。
「電力自給の達成目標はいつですか。さきほどのお話に、目標達成年度はなかったと思いますが」

引退町長の安堵 連載小説260

2013年04月06日 | 第2部-小説
「それにしても」
と大滝は言って言葉を続けた。
「林業がこれほどひどく落ち込むとは思わなかった。私もいろいろ考えたが木材需要環境が激変して日本の林業は全体として供給過剰になっている。今は整理淘汰の時代。ここをしのげばなんとかなる。最低ギリギリ、町に製材所は1つ残す。まあ戦線を後退・縮小して再興の到来に備える。そういう思いで貝田さんの占部林業はつぶしてはいけない。支えろとこの松本課長に指示した。しかし占部林業は倒産の瀬戸際にある」
「それは貝田さんご本人からも聞いています」
 公平がこたえた。

「そうですか、そうであれば話は早い。貝田林業の経営を正確につかみ、必要であれば銀行に返済猶予をしてもらう。そしてぜひ、検討してもらいたいことがあります」
「はい、何でしょう」
 大滝の要望に公平は応えた。
「占部林業は占部町一の林業家です。経営支援の一策として木が売れるような施策を考えてほしいのです」

 そういうと大滝は公平の顔をまっすぐに見つめた。
将太は大滝の様子から占部林業の経営は相当追い詰められているのだと思った。
 大滝の要望に公平はほんの1、2秒だったが即答できずにいた。公平が何か言おうとするより早く大滝が話を続けた。
「どうすればいいか方法はこの松本課長に任せると良いと思います」
「占部林業は私たちが考えている町おこしのカナメです。もしつぶれるようなことがあれば私たちが考えていることがうまく運ばないと思いますので占部林業の経営を支えることに力を尽くすのは、大滝さんと同じです」

「そうですか、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」
大滝は安堵した様子を体いっぱいに表わして頭を下げた。

 大滝はあと数日で町長でなくなる。引退するとは思っていなかった自分の手で占部町を再生したかったのだと将太は思う。しかしガンにかかっていることが分かり断念した。気がかりになっていた占部林業問題を公平に引き継ぐことができたことで大滝は本当に安堵している。だが大滝が元気な内に、占部町が確かな再生に動く姿を見せてやりたいと思った。

町長からの贈り物 連載小説259

2013年04月05日 | 第2部-小説
「湯飲みの花はすべてこの占部町の花です。もっともっと沢山の花が咲くのですがその中から好きな花を描いた。もしよければ、これを大平さん、あなたにお譲りしたい。受け取っていただけますか」

 その言葉に公平は「これをですか」と驚きの声をあげた。
それは大滝夫婦にとって青春の思い出がいっぱい詰まった記念品に違いない。だからこそこれまで大切にしてきたのだ。大滝は「何の価値もない」というが妻・芳江は陶芸評論家であることは去年、大滝の家を訪問したとき知った。インターネットで検索するとその世界でおおいに活躍している人だった。目の前の人はあくまで大滝の妻であった。

 その人の初期の作品を譲るという。大平公平が驚くのも無理はない。
「湯飲みは全部で12個あります」
 大滝は芳江と相談して決めたようだ。芳江は大滝の話に軽くうなずくだけだった。
「ありがたく頂戴します」
 公平はかしこまって言った。
「そうですか。ありがとう。これで少し肩の荷が下りた。わしたちが亡くなったらこの湯飲みはどうなるのか。それが気がかりでした。良い人に貰われてこの湯飲みたちも安心したことでしょ」

 大滝は心底、安堵したようにいった。
贈呈の話が終わると、大滝夫妻は湯飲みを作った時の思い出話を語った。
 それは占部町が急速に寂れ始めた時のことだった。このまま時がすぎると占部町はゴーストタウンになるのでは。2人は日本の原風景があちらこちらに残る占部町を描きとどめようと思って創ったのが湯飲みだった。

 故郷が大きく崩れていくことに対する愛おしさが強かったという。以来、2人は生まれた町と日本の文化を守ることを自分たちの生き方にしたという。
そうした話をすると大滝は話を一転させた。