検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

町長からの贈り物 連載小説259

2013年04月05日 | 第2部-小説
「湯飲みの花はすべてこの占部町の花です。もっともっと沢山の花が咲くのですがその中から好きな花を描いた。もしよければ、これを大平さん、あなたにお譲りしたい。受け取っていただけますか」

 その言葉に公平は「これをですか」と驚きの声をあげた。
それは大滝夫婦にとって青春の思い出がいっぱい詰まった記念品に違いない。だからこそこれまで大切にしてきたのだ。大滝は「何の価値もない」というが妻・芳江は陶芸評論家であることは去年、大滝の家を訪問したとき知った。インターネットで検索するとその世界でおおいに活躍している人だった。目の前の人はあくまで大滝の妻であった。

 その人の初期の作品を譲るという。大平公平が驚くのも無理はない。
「湯飲みは全部で12個あります」
 大滝は芳江と相談して決めたようだ。芳江は大滝の話に軽くうなずくだけだった。
「ありがたく頂戴します」
 公平はかしこまって言った。
「そうですか。ありがとう。これで少し肩の荷が下りた。わしたちが亡くなったらこの湯飲みはどうなるのか。それが気がかりでした。良い人に貰われてこの湯飲みたちも安心したことでしょ」

 大滝は心底、安堵したようにいった。
贈呈の話が終わると、大滝夫妻は湯飲みを作った時の思い出話を語った。
 それは占部町が急速に寂れ始めた時のことだった。このまま時がすぎると占部町はゴーストタウンになるのでは。2人は日本の原風景があちらこちらに残る占部町を描きとどめようと思って創ったのが湯飲みだった。

 故郷が大きく崩れていくことに対する愛おしさが強かったという。以来、2人は生まれた町と日本の文化を守ることを自分たちの生き方にしたという。
そうした話をすると大滝は話を一転させた。