羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-09-28 19:18:54 | 日記
エトワールの長髪が解けた。目を見開くアルスラーン。自分に決意させた、いつかの娘だった。「殺したのはお前か?!」「自ら命を絶たれた」「嘘だッ! うああッ!!」エトワールは剣を手にアルスラーンに襲い掛かった。剣を抜いて受け、慌ててかわすアルスラーン。「私を欺き続けたばかりか、大切な人までも奪った! 絶対にっ、許さないっ!!」涙ぐんで壁までアルスラーンを弾くエトワール。さらに突きを打つが、アルスラーンは床に転げて避けた。エトワールは剣を振り上げた。「うおおおっ!!」止めを刺そうとするエトワール! しかし、矢が二人の間に撃ち込まれ、「殿下!」ファランギースが手勢と共に部屋に突入してきた。ファランギースは短剣でエトワールを剣ごと払い、壁に叩き付け、床に倒した。「殺すなっ!」アルスラーンが制し、暴れるエトワールは生け捕りにされた。
程無く、聖マヌエル城は陥落した。自害が相次いだこともあり、城の生存者は僅かな傷病者と投降者のみだった。アルスラーンはこれを庇護するよう命じた。また姿の見えないダリューンを探したアルスラーンは、中庭の水場で倒れ込んでいるのを見付けた。「ダリューン!」「殿下、面目ございませぬ。討ち損じてしまいました」「お主が無事ならそれでよい」「殿下も」二人は互いの無事に安堵した。
食糧庫では、穀類の搬入口から悲鳴を上げてアルフリードが落ちてきていた。駆け寄るナルサス。「ぷはっ」穀類から顔を出すアルフリード、頬のゾット族の化粧が取れ掛かっていた。「アルフリード」「あたしどうなったの? あっ、生きてる!」突入隊で生きて見付かったのは今のところアルフリードだけ。笑ってしまうナルサスだった。
ダリューンがジャスワントに手当てされキシュワードにも気遣われ、のんびり麦酒を呑むクバードにファランギースが感心する中、アルスラーンは牢のエトワールの元を訪れていた。
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-09-28 19:18:45 | 日記
「自害されたのは、本当なのだな?」「従者達の言った通りだ」確かに従者もその場にはいたが、真偽は定かではない。だが、エトワールは信じた。「立派な方だった」涙するエトワール。「ペシャワールで出会ったのが、本当の君だったのだな」「違う! 私は騎士っ、エトワールだ!!」一転、真っ赤になるエトワール。「お腹空いてるだろう?」「異教徒の施しなど受けられるかっ!」腹が鳴るエトワール。「これは敵の食べ物だ。食べれば食糧が減り、敵に損害を与えることになる」エトワールは不満顔だが、アルスラーンから湯気の立つ椀を格子越しに取り、掻き込んだ。
「聞かせてくれないか? なぜ騎士になろうと思ったのか?」「私の本名はエステルという」エステルは養子先に子が無かった為、『男』として騎士になる道を選んでいた。エステルは女の名であるので捨てたという。「お前達の食糧を減らしてやりたい」「おかわりだね」アルスラーンは籠から取り出した食糧を二つに割り半分をエステルに、残り半分は自分でかじった。「変わっているな、お前は。王が王らしくせぬから、パルスは都を奪われる目に遭うのだ!」アルスラーンはエステルに向き直った。
「戦を避ける方法は、無いのだろうか?」「はぁ? 無理な話だ」宗教の違いを持ち出すエステル。「共に暮らすやり方もあるのではないだろうか?!」「無いっ!」教典を取り出すアルスラーン。「何度も読んだ。ルシタニアの権力者達は教えを利用しているだけではないか?! 異教徒だからといって、殺す必要は無いッ!」「黙れッ!! 何でそんなことを言うんだ? 出ていけっ!」エステルは牢の中で叫び、背を向け泣き出した。「エトワール、明日、死者に祈りを捧げてくれないか? ルシタニアの死者にはルシタニアの祈りが必要だろう」牢の鍵を開けて、アルスラーンは去って行った。
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-09-28 19:18:34 | 日記
翌日、城の傍に掘られた巨大な墓穴に布に包まれた無数のルシタニアの死者達が横たえられ、ファランギースが祈りの歌を歌っていた。ファランギースが歌い終えるとアルスラーンに手振りで招かれ、逃げ出さずにいたエステルが現れ、周囲のパルス兵達は軽くどよめかせた。「生きていたか」兵の中にエラムを見付け、擦れ違い様にエステルは言った。「共に戦った、同胞達よ。イアルダボートの聖なる信徒達よ、汝らは神の元に祝福される。魂よ、安らかなれ」エステルは、祈りを捧げた。
エクバターナでは、陥落の報せに苛立つギスカールの元にヒルメスが現れていた。「よくもおめおめと、帰還できたものだなッ?!」「聖マヌエル城とやらは、神の加護に恵まれなかったのだろう」「どう償うつもりだ?!」「失態? くっふふふ、ははははっ!」ギスカールの怒りは頂点に達した。「こやつを引っ捕らえよっ!!」殺到する玉座の間の兵達! ヒルメスは笑って剣を抜き、全て斬り伏せた。ギスカールも剣を取ったが、突進したヒルメスは剣を払い、壁に叩き付けると、喉元に刃を当てた。
「血迷ったか?」「人払いをしてやったまでだ。我名はヒルメス、父の名はオスロエスという。思い知らせる必要がある。パルスの正統な王が、この俺、ヒルメスだということをなっ」ヒルメスは仮面を取った。「なぜ、素性を明かす気になった?」「お前の真に望むモノは何だ? パルスではないだろう?」ギスカールは笑みを浮かべた。「なるほど、そういうことか。よかろう、パルスの玉座はお主の物だ」ギスカールは玉座に歩みより、これに触れた。「ヒルメス、私をルシタニアの王にできるか?」「お望みとあらば、陛下」ヒルメスは芝居がかって応えた。
支度を整えたアルスラーン軍は盗賊の棲みか等にならぬよう、聖マヌエル城を燃やし、エクバターナへ向け出立した。
     4に続く

アルスラーン戦記 4

2015-09-28 19:18:21 | 日記
アルスラーンはルシタニアの傷病者や当ての無い者等がついてくることを認めていた。エステルは馬に引かれた大型の荷台で、慣れぬ様子で傷病者や妊婦の世話をしていた。「大丈夫だ。私が必ず、皆を故郷に届けてやるからな」励ますが、手元が覚束ないエステル。「不器用なヤツ」「何だとっ?」エラムが手伝いだした。「教えてやる、足手纏いになるなよ」エステルは世話を焼いてきたエラムを見ていた。
行軍は続き、野営地の傍でエステルが水を汲んでいるとファランギースが現れた。「精が出るな」「お主は、進んであいつに仕えておると言ったな?」「玉座にはそれ自信の意思は無い。それは正義の椅子にもなるし、悪逆の席にもなる。人間が政を行う以上、完璧であることも無いが、それに近付こうとする努力を怠れば、王は悪への坂を転げ落ちるであろう。王太子殿下はいつも努力しておられる、そのことが、仕える者の目には明らかなのだ。お主はどうじゃ?」「ふんっ! 私はお前達を見張っているだけだっ」エステルは桶を持って去って行った。
夜、野営地でエステルがルシタニアの者達の食事の世話をしていると、アルスラーンが一人でふらりと現れ、人々を動揺させた。「この教典を返そうと思って」「来い!」「痛てててっ」エステルはアルスラーンの耳を引っ張って人気の無い所へ連れて行った。「不用心だぞ?!」「いつもこんな感じだが?」「何なんだこの軍は?」「大切な物をありがとう」「返す必要は無い。改宗させてやるのだから」「それは無いと思うが」「用事はそれだけか?!」「手伝えることはあるか?」「もっと偉そうにしていろっ!」エステルは怒って去ってしまった。
そんなある朝、ルシタニアの妊婦の子をファランギースが取り上げた。男子で、元気よく泣いた。「エトワール様、抱いてあげて」その母はエステルに布で包まれた我が子を差し出した。
     5に続く

アルスラーン戦記 5 完

2015-09-28 19:18:13 | 日記
「私が?」受け取るが、危なっかしい手つきのエステル。「見ちゃいらんないねぇ」アルフリードが横から赤子を抱き直した。「こう抱くんだよ、ほら」アルフリードはエステルにそっと赤子を返した。「きっと立派な盗賊になるよぉ?」「とんでもないっ! 騎士になるのだ!!」赤子が小さな手でエステルの指を掴むと、エステルは涙が止まらなくなった。(どのような神を信じるのであれ、人々の慈しみが、この子の道を照らしますように)見守るファランギースは祈った。
アズライールは整然の行軍するパルス軍の上空を飛び、愉快そうな馬上のアルスラーンの腕に止まった。「長い旅をしてきた感じがする」「ええ、二人で始めた戦でした」左隣にはダリューンがいた。「思い出に浸るのは早い。気を抜く暇は無いぞ?」右隣にはナルサスがいた。「馬鹿を言え、俺の体は気合いでみなぎっている!」「殿下、こやつには戦う以外無いようです」「お前こそ、戦で策を巡らすこと以外何もできないではないかっ?」「私は、芸術家なのだ!」アルスラーンは笑った。そこにいつの日かのギーヴの詩が重なった。『耳有る者よ、聞けよかし、美き国、パルスの物語を。心有る者よ、思い起こし、解放王アルスラーンの御代を』当のギーヴは「見付けてやろうか、王位継承の証とやらを」城のごとき岩山に来ていた。「行くぞ! エクバターナ!!」アルスラーンはアズライールを天高く飛ばし、軍勢を進めるのだった。
・・・ 後半、看護少女エステル物語になっていたが完結ッ! ヒルメス関連は強引に畳んだ。魔術師達は基本スルー!! 元はあくまで小説&漫画原作ストック少な過ぎ&漫画原作ベースだから返ってアニオリ難しい&奴隷云々でTBS陣が本気出す&ゲーム化でゲーム会社が本気出す、とかなり多重に複雑な状況での制作だった気配。次のGもどうなることやら。アル戦も一見鉄板企画で苦闘したしなぁ。