tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

エッセンシャルワーカーの賃金問題

2021年03月29日 14時37分14秒 | 労働
エッセンシャルワーカーの賃金問題
 エッセンシャルワーカーという言葉を最近よく耳にします。
 エッセンシャルというのは「基本的に必須」という意味でしょうか。説明では、社会が正常に機能して行くために必須なインフラに関わる仕事がエッセンシャルワークで、それを担当する人たちがエッセンシャルワーカーということになっているようです。

 その意味では、エッセンシャルワーカーの範囲は大変広いのですが、いま特に問題になっているのは、コロナ禍のせいもあり、医師、看護師、保健師、介護関係者などについてです。
 確かに、危険で、重労働で、人手不足なので休みもなかなか取れずしかも賃金は安いといったことが問題になっているのです。

 確かにこうした仕事は対個人サービスが基本で、人間どうしの1対1のサービスが中心なので、生産性が上がりにくい分野です。
 賃金理論では、賃金は生産性の成果(付加価値)の配分ですから生産性が上がらなければ賃金も上がらないという事になります。

 しかし、対個人サービスという仕事は、いかに科学技術が発達しても、必ず社会に必要なものとして残る仕事で、無くなることはないでしょう。
 という事で、こういう仕事の賃金を、どう決めたらいいのかという問題は常に起こりうるのです。

 しかも、こうした仕事は、多くの場合、肉体労働を伴う事が多く、頭を使いのと同時に身体で覚えるといった部分が多いのです。
 一方、伝統的な賃金理論の感覚でいえば、肉体労働は、頭脳労働よりも賃金が低いといった通念が一般的なのではないでしょうか。
 
 もしエッセンシャルワーカーの賃金の低さに、その一因として、こうした通念があるとすれば、これは、これからの経済社会の骨組みの重要な一部をなす賃金システムについて、エッセンシャルワーカーの仕事の価値(=賃金)をより高いものとして基本的な見直しをして行かなければならないのではないかと思うのです。

 というのは、実業によって経済が発展してきた経済が成長する時代の通念を、金融工学をベースに、マネー経済学が急速に発展する現在、同じように持ち続けることはどうも妥当ではないように思われるからです。

 皆様ご存知のように、アメリカの投資銀行などの花形のトレーダーが巨大な報酬を得て当然と思われているようですが、トレーダー養成を目指す場合は初任給を引き上げようといった動きもあるようです。

 投資銀行というのは、本来、起業や企業発展のために資金を用意し、産業企業を育て、そこで生み出された付加価値の中から投資収益を得ようという仕事でしたが、今は、証券、債券、そのデリバティブなどへの投資を通じて、マネーゲームとして「キャピタルゲイン」を得ることが大きな仕事になっているようです。

 この点につては、「 金融業と付加価値」で指摘していますが、キャピタルゲインというのは元来、付加価値を生み出すものではなく、他人の作った付加価値をマネーゲームによって自分の懐に入れることなのです。
 一時は頭脳労働の先端を行くともみられた金融工学ですが、それを駆使して他人の富を自分のものにするような頭脳労働が高賃金職種の筆頭になるような賃金システムは、結果的に経済・社会に衰亡をもたらすものでしょう。

 随分以前に「 金融資本主義の行方 」で古い寓話を取り上げたところですが、話を元に戻して、頭脳と同時に体で覚える部分を多く担わなければならないエッセンシャルワーカーの賃金水準の問題を考えるとき、頭脳労働にもいろいろあるという事を、頭の隅にきっちり入れておかなければならない問題のように思っています。
 
 

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