tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「適正賃金」(第6回)、円高、円安と適正賃金の関係

2024年04月01日 14時39分44秒 | 経済

このシリーズの最後に、円高や円安の場合に適正賃金はどうなるのかという問題を考えてみましょう。

これは典型的には、プラザ合意による円高、異次元金融緩和による円安に対し賃金をどうすべきだったのかという事で、日本がやってしまった失敗の反省という事になります。

先ず賃金決定の面から見た円高、円安の意味を定義して、続いて実情や問題点をしるし、そのあと纏めて対応策を考えるという形にします。

<円高>円高というのは、円高の分だけ日本の賃金・物価がドル建てで高くなるという事です。プラザ合意(1985年)の場合は、日本の合意後2年で為替レートが240円から120円になりました。これは、国際価格、つまりドル建てでは2年間に2倍の賃上げをして物価も2倍になったという事です。結果は国際競争力全面的喪失という状態です。

対応策としては、2倍の賃上げに追いつくように生産性の向上に全力を尽くすことと、平均賃金を二分の一に向かって抑える努力をして、国際競争力の回復に全力を挙げる以外に方法はありません。

真面目な日本人は、この両方を徹底的にやり2001~2年には一部の産業は国際際競争力を回復、じりじりとその分野を広げたのが「好況感無き上昇」の時期です。

所がリーマンショック(2008年)で、アメリカがゼロ金利政策を取り、円レートは75円~80円になり日本は力尽きて2012年まで、我慢だけの耐乏の4年間を過ごしました。

<円安>2013~14年日本は黒田日銀がアメリカに倣いゼロ金利政策(異次元金融緩和)を取り、円レートは80円から120円という円安が実現しました。

円安は、ドル建てで日本の賃金と物価が円安分だけ下がるという事です。日本の物価も賃金もドル建てで3割下がったという事です。日本経済は一気に国際競争力を回復しました。

輸出は順調に伸び始め、経済成長率も回復して来ました。問題は円安で輸入物価が上昇、消費者物価も国際価格に向かって上昇を始めた事でしょう。

賃金水準が国際比較(ドル建て)で3割下がったのですから円高の時の逆で国際競争力の面では賃上げの余裕は有ったのですが、日本の労使は、長い不況の意識が消えず、賃上げに消極的でした。これが黒田日銀の「2年で2%インフレ目標達成」が不成功に終わった原因です。

結果的に物価は上がり、賃金は上昇せず、消費不振で経済成長が止まり「低賃金デフレ」状態になっています。そしてこの状態が昨年まで続いてしまったのです。

さて、この経験から我々は何を学ぶべきでしょうか。

円高の時は、徹底した賃金抑制と生産性向上をしなければなりません。日本人は真面目にそれをやってきました。しかし、もともと2倍の円高の克服などは無理なことです。窮余の策だった非正規労働者の多用は、ロストジェネレーションなど日本社会に大きなひずみを残しました。因みに、中国はアメリカの人民元切り上げ要求を断っています。

良く考えれば、真の対策は、そんな円高を受け入れない経済外交でしょう。

円安の場合は、ドル建てでは貧しくなりますが、円建てでは余裕(為替差益など)が出ます。この余裕は賃金にも確り配分しないと「低賃金デフレ」を起こすことに注意すべきでしょう。円安の場合には「適正賃金」の水準は円安の分だけ上がるのです。

大幅な円高・円安は日本経済に歪みを齎します。日銀の言う為替レートは出来るだけ安定が望ましいと言うのは正しいでしょう。

但し、基軸通貨国アメリカが、為替レートを経済戦略に使うために、変動相場制を導入したのです。固定相場制には戻らないでしょうから、政府の経済外交、日銀の金融政策で、経済防衛力を強め、為替レート変動を最小限にし、「為替レートと適正賃金」などという問題で、労使が苦労しないようにするのが一番望ましいのですが、政府は経済防衛力よりミサイル防衛力の方が優先のようです。(このシリーズ終わり)