tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

スタグフレーションとは

2008年05月20日 10時08分18秒 | 経済
スタグフレーションとは
 スタグネーション(=stagnation:経済停滞)とインフレーション (=inflation:物価上昇)の合成語で、不況期の物価上昇のことを言いますが、どういうときにこれが起こるかというと、「コストが上がっても売値がなかなか上げられない」時に起こります。

 最近でも、輸入原材料価格は上がっているのに、国内物価があげにくいということで、スタグフレーションが心配といった意見もあります。輸入原材料が上がって、コストアップで利益が出ない時には、理論的にはその分製品値上げでカバーしてスタグフレーションを回避するのが良いのでしょう。輸入原材料価格の上昇は世界共通ですから、日本の国際競争力には影響ありません。

 ところが、賃金上昇でコストアップが起こっているときには、製品、サービスに価格転嫁すると、その分国際競争力が弱まるという問題が起こります。
オイルショック後に欧米が経験した「人件費コストアップによるスタグフレーション」は、原油値上がりで起きたインフレを賃上げでカバーしようとする労組、賃上げ分を価格に転嫁しようとする企業というサイクルで、自家製インフレの悪循環(賃金と物価のスパイラルともいわれました)を起こしたことが原因です。

しかし、その過程で国際競争力が弱くなるので価格は十分には上げられません。それで利益が落ち込み、不況になって雇用が減ると、今度は政府が労働時間短縮で雇用を増やそうとし、一層の人件費のコストアップになるということを繰り返した結果です。
これは先進国経済の病気だということで、イギリス病、アメリカ病、ドイツ病などといわれたわけです。

当時は、その説明ということで「スタグフレーション」とい言葉が大流行でした。このときの教訓は、
①輸入インフレは賃上げでは対応できない。値上がりに我慢して耐えるしかない
②値上がりを賃上げでカバーしようとすると、スタグフレーションを招いてしまうから止めたようがいい
という二点のようです。


石油危機後日談:ジャパンアズナンバーワン

2008年05月15日 09時52分21秒 | 経済
石油危機後日談:ジャパンアズナンバーワン
 前々回、第1次オイルショックの後、日本の労使は、4-5年かけて「輸入インフレから起こった自家製インフレ(賃金コストプッシュ・インフレ)を収めたと書きましたが、そのプロセスを数字で見ましょう。
 1974年度に賃上げは33パーセントに達し、消費者物価上昇は22パーセントになりましたが、「こんなことでは日本は国際競争力を失い日本経済は破綻する」と考えた労使の理性的、合理的な話し合いにより年々賃上げ率は下がり、13%、9%、9%、6%、6%(1979) となり、それにつれて、消費者物価指数の上昇率も、10%、9%、7%、3%、5%(1979) と下がって、1978年には3%と、当時としては正常な経済状態に戻りました。1979年の5%は第2次オイルショックの影響です

 ところでその後日談ですが、79年には第2次オイルショックが起こり、輸入原油価格は3倍になりましたが、第1次オイルショックの経験から学んだ日本の労使は、大幅賃上げなどはせず、冷静な労使交渉で、 自家製インフレを起こさず、その結果、日本経済は世界で最も安定したものとなり、ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授をして「ジャパンアズナンバーワン」と書かしめたという輝かしい日本経済の実現になります。

 一方、欧米諸国は、相変わらず無理な賃上げや時短で人件費コストの上昇を続け、イギリス病、アメリカ病、ドイツ病などといわれたスタグフレーションに苦しむことになりました。この脱出には、イギリスのサッチャー改革、アメリカのレーガン改革を待つことになります。

 さらにまたその後日談を付け加えますと、こうした日本経済の快走を怖れ、円の大幅切り上げで、それをストップさせたのが1985年のプラザ合意です。円の切り上げの恐ろしさには、またいずれ 触れたいと思います。


生産性向上の手段

2008年05月12日 12時19分15秒 | 経営
生産性向上の手段
 生産性にはいろいろな種類がありますが、一般的に生産性向上といえば、 「付加価値労働生産性」 の向上をいいます。理由は簡単で、付加価値労働生産性は1人当たりの 付加価値生産の上昇ですから、その上昇が、1人当たりの所得の上昇、個々人の生活の豊かさに直接つながる数字だからです。

 ところで、生産は人間が資本を使ってやるものですから、生産性の向上にも「人間のサイド」と「資本のサイド」があります。解り易い例として物を運ぶこと、「輸送」における生産性を考えて見ましょう。

 先ず人間のサイドを考えて見ます。歩いて運ぶよりも走って運ぶ、筋肉を鍛えて、より重いものを担げるようにする、といったことでも生産性は上がります。もう少し知的な、5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、躾:職場環境の改善運動)やQC活動(より合理的な仕事の仕方を考える改善活動)でも、かなりの生産性向上は出来ます。しかし人間の体力、気力、精神力には限度がありますから、そうした努力での生産性の向上にも限界があります。生産性を2倍に上げるの至難の業でしょう。

 次に資本の面を考えて見ましょう。担いで運んで稼いだ金を少しずつ貯金して5千円貯め、中古の自転車を買います。途端に輸送の生産性は3倍ぐらい上がります。それで稼いで貯金して、今度は5万円で中古のモータバイクを買います。上り坂でも長距離でも平気で運べるようになります。それで金を稼いで今度は50万円で軽トラを買います。・・・・・。
 こうして「仕事のために投下する資本」を増やすと、生産性はどこまでも上がります。一人当たりどれだけ資本を使っているかを「労働の資本装備率」といいます。中古自転車なら、この人の「資本装備率」は5千円、中古バイクなら5万円、軽トラなら50万円です。経験的には、「資本装備率」を上げるとほぼ比例的に生産性が上がると言われます。

 生産性向上には「資本支出」が必要です。資本を支出して設備を高度化すれば、汗水たらさなくても生産性が上がります。しかし、そのためには、先ず資本を蓄積しなければなりません。さらにそうした資本設備を活用できる前提は、新しい高度な資本設備を開発する人間サイドの努力(輸送ならば、たとえばリニアモーターの開発など)と、もうひとつ、新しい高度な設備を使いこなすための人間サイドの教育訓練といった「人間サイド」のたゆまぬ努力がなくてはなりません。
 やはり、社会を豊かにするための付加価値生産性の向上は、人間と資本(資本設備)の、巧みな組み合わせ(協力関係)で進歩するもののようです。

インフレの原因(その3:自家製インフレ)

2008年05月10日 10時31分36秒 | 経済
インフレの原因(その3:自家製インフレ)
 現実のインフレは複合的要素で起きることが多く、たとえば、今の中国のインフレは、輸入インフレと自家製インフレの同時進行でしょう。しかし、一般的に、最も困ったインフレは実は「自家製インフレ」のようで、これは始まるとなかなか直りません。

 「自家製インフレ」というのは日本語で、英語では home-made inflation 「ホームメード・インフレ」です。全く同じではありませんが、「コストプッシュ・インフレ」などとも言われます。つまり、国内で何らかのコストが上昇することによって、製品やサービスの値上げをせざるを得なくなり、インフレが起こるという状態です。

 国内コストといえば、生産の3要素「土地、労働、資本」の要素費用である「地代、人件費、資本費」ということになりますが、地代と資本費を資本費としてまとめてしまえば、人件費(賃金、社会保険料など)と資本費(金利、賃借料、利益など)となります。この中で総コスト(=総要素費用=国民所得)の6-7割を占めるのが人件費(国民経済計算では雇用者報酬)で、通常これが上がることが自家製インフレの原因です。

 もちろん労働生産性(当ブログ2008年4月「付加価値と生産性」参照)が上がれば、人件費の上昇を吸収してインフレにはなりません。しかし何か他の原因があってインフレが起こると、「物価が上がって生活が苦しくなったから賃金を上げるべきだ」ということで、生産性に関わりなく、物価上昇を埋め合わせすべきだということで賃金が上がり、自家製インフレを起こします。この場合「賃金コストプッシュ・インフレ」ということになります。

 前回のブログでも触れた第1次オイルショックのあとのインフレは、まさにこれで、石油値上がりのパニックで、物価が年率22パーセントも上がったことが大幅賃上げ(33パーセント)を呼び、輸入インフレを自家製インフレにつなげてしまったのです。このインフレは、その後、労使の理性的な話し合いで4-5年かけて解決に至りましたが、これには 後日談があります。

 長くなりますので、後日談はまたの機会にしますが、自家製インフレの最大の問題は、当該国ではインフレですが、他国はインフレではないということで、その国の国際競争力が落ちてしまうことです。今の中国にはその気配があります。日本でも、近年政府筋が「最低賃金を大幅に上げろ」とか「非正規従業員と正規従業員の賃金の格差を是正せよ」などと言っているようですが、そうしたコスト上昇を生産性上昇で吸収できなければ、自家製インフレの原因に十分なりえます。これらの問題については、このブログでも何回か触れてきましたが、インフレは、その原因と影響範囲を良く見極めないと、じわしわと経済を悪くしてしまう大変厄介なもののようです。
 

インフレの原因(その2:輸入インフレ)

2008年05月06日 12時00分03秒 | 経済
インフレの原因(その2:輸入インフレ)
 原油をはじめ資源価格が上がって、消費者物価が上がり気味になってきました。エネルギーも食料も輸入に頼る日本です。明らかに輸入インフレの様相です。

 輸入インフレというのは、海外の物価上昇が、輸入価格の上昇を通じて、国内の物価を押し上げるというものですから、今回のガソリン価格上昇に典型的に見られるように、国内では手の施しようがありません。(しいて言えば、円高にすれば、海外の物価上昇は相殺されますが、円高が大きな副作用をもたらすことは、プラザ合意以降の円高で経験済みです。)

 ご記憶の方も多いと思いますが、日本は、1973年、第1次オイルショックを経験しています。原油価格が4倍に上がり、上がっただけではなく、原油が確保できなくなるのではといった不安もあり、経済は高度成長からゼロ成長に転落、物価は年に22パーセントも上がるという惨状でした。このときは、多くの人が日用必需品の買いだめに走り、日本中で、トイレットペーパーと洗剤が店頭から消えるといったパニックも起こりました。

 しかし、輸入インフレというのは、海外のインフレが止まれば自然に止まります。大体、資源価格の高騰は、産出国の国策や投機資本の思惑によるところが大きいので、いつまでも上がり続けることは通常ありません。第1次オイルショックの時も、6年後の第2次オイルショックまでは値段は上がらず、第2次オイルショックのあとは、ついこの間まで原油価格は、安定ないし下がるといった状態でした。

 問題が起こるとすれば、輸入インフレで生活が苦しくなったと言って、賃上げ要求が起こり、輸入インフレが国内のコストプッシュ・インフレを誘発することです。第1次オイルショックの時は、この現象が起こり、1974年の賃上げは33パーセントに及び、このインフレを抑制(賃上げを抑えて)するのに4年ほどかかりました。

 第2次オイルショックの時は、第1次オイルショックの失敗から学んだ日本人は、平静に過ごし、失敗を繰り返した諸外国と比較して「ジャパン アズ ナンバーワン」といわれました。

 資源価格など国際商品の価格高騰は、世界中一緒です。日本だけが国際競争上不利になるわけでありません。得をするのは、産出国と腕のいい投機資本でしょうか。因みに、日本はに二度のオイルショックの結果、省エネ技術に集中し、この面では最も進んだ国になりました。

 

インフレの原因(その1)

2008年05月03日 13時38分27秒 | 経済
インフレの原因(その1)
 原油をはじめ資源や穀物の値上がりで日本経済は、従来のデフレ基調からインフレ気味になり、心配やら不満やらの論調がマスコミに多く出ています。
ところで、インフレは何故起こるのでしょうか。今回の場合は、明らかに海外での物価高が輸入品の値上がりといった形で国内に及んでくる「輸入インフレ」です。

 インフレの原因として、通常、経済学でいわれるのは、デマンドプル・インフレ(供給より需要が多いから値上がりする)、コストプッシュ・インフレ(コストが上がって値上げするからインフレになる)の2つですが、より現実に密着して、現実の状況を見ると、大きく次の3つほどがあるように思います。
1、通貨の量を増やすことによるインフレ(単純な貨幣数量説:物の量が増えずに通貨の量が2倍になれば物価は2倍になる)
2、海外での物価値上がりによる「輸入インフレ」
3、国内でのコスト上昇による「ホームメイドインフレ」(自家製インフレ)

 この3つについて最近の日本の経験を見てみると、インフレというものの性質がかなり解るように思います。
今回は、1の通貨の量を増やせばインフレになるかどうかという事を見てみます。

 上の1番目です。通貨の量を増やすとどうなるか、本当にインフレになるのか、というのは、プラザ合意(1885年)後の日本の金融政策を見ると、何となく解るような気がします。
 確かにプラザ合意(1985)から1990年まで、急激な円高による内需の失速を補うようにとのアメリカの意向を受けたのでしょうか、その辺の事情は良く解りませんが、「前川レポート」「新前川レポート」なども出されて、「内需拡大」「労働時間短縮」が喧伝され、その理由として、日本人の生活は貧しい、世界からは「ウサギ小屋に住む働き中毒」といわれて来ているなどと言う論議が蒸し返されました。

 政府、日銀は、国内需要を増やそうとしたのでしょう、マネーサプライ(M2+CD)は1884から1990年の6年間に約1.8倍に増えました。経済成長は実質でこの間1.3倍にしかなっていません。日本中はお金がジャブジャブでした。銀行はこぞって土地融資に狂奔しました。ところがこの間、消費者物価指数は6年で僅か9パーセントしか上がっていません。貨幣数量説は嘘なのでしょうか。しかし確かに上がったものはありました。実はこの間上がったのは、資産価値、特に地価でした。土地バブルです(当ブログ、2008年4月  「キャピタルゲイン」と「インカムゲイン」参照)。

 土地バブルをインフレと言ってよいのかどうか、ちょっと違和感があるところですが、この経験からわかることは、無闇に通貨の量を増やして見ても、そのときに国民が取る行動によって、その効果(インフレの中身?)は変わってくるのではないかということです。

 次回は、2番目の輸入インフレについて、われわれの経験を見てみたいと思います。