彦四郎の中国生活

中国滞在記

「中国の夢」—中華民族の偉大な復興の示す意味とは❷TBS報道1930「国恥地図に覗く中国の‥」

2022-06-18 14:38:03 | 滞在記

 中国・習近平政権の掲げる「中国の夢」とは、軍事的にも経済的にも世界第一の強国となり、中国国民の経済的生活でも先進国となることを目指す長期的視野をもつ国家戦略を意味する大スローガン。

 日本という国は、第二次世界大戦での敗戦後、10年ほどで経済的復興を成し遂げて、高度経済成長期となり1964年には念願の東京オリンピックを開催した。おそらく、日本の歴史上で、この1960年代〜70年代とは、日本国民が最も「希望に満ちた20年間」だったのではないかと思われる。一方の中国という国は、1840年代からの1970年代までの約140年間は、「国辱・屈辱の100年+国内動乱・苦難の40年間」。それを経て、1990年代から2010年の高度経済成長期となり、中国国民が歴史上で最も「希望に満ちた20年間」だったのではないかと、私には思われる。

 だが、2010年頃の中国国民にとっては、1949年から続く中国共産党支配体制に対する不満も大きくなってきていた時期でもあった。その不満の大きな要因の一つが、「政権内の汚職」「党幹部内に蔓延している底なしの汚職」であった。この頃から中国の経済成長率も峠を越え低下傾向に転じる。2012年に発足した習近平政権にとって、「この中国共産党の威信低下をどうくい止めて、上昇させていくのか」が最も重要な政治目標となった。

 このために講じた政治・経済対策がまずは「汚職撲滅」の大キャンペーン。いわゆる、「蠅も虎も叩く」。これとともに、「中国の夢」を大スローガン(国家戦略)に掲げ、中国国民に「新たな夢と希望」をもたせるようにした。2015年から本格化した「一帯一路」政策もその大きな政策の一つだった。そして、南シナ海などの領海を国際的に主張し、島々を事実上占有化もしていった。「中国の夢」とは、この領土・領海の拡大とも関連するものだということを示してきた。

 日本のテレビ局の一つ「TBS」放送。毎日放送の系列につながる放送局だが、このTBSの報道番組の一つに、「報道1930」がある。BSでの放送で、平日の19:30から始まる1時間24分の報道番組だ。キャスター(司会)は松原耕二氏。彼はTBSの日曜日の朝の報道番組「サンデーモーニング」でも時々、コメンテーターとして出演している。コメンテーターとしては力量不足の感はあるが、司会としての能力は高い。この「報道1930」は、かなり優れた報道番組だと思われる。

 ここ3カ月間は、「ロシアのウクライナ侵攻」問題関連を取り上げることが多いが、この6月3日は「ウクライナ侵攻と重なる?"国恥地図"に覗(のぞ)く中国の領土的野心」という特集テーマ。6月9日は「中ロの友情に限界はない―中国とロシアの"本当の関係"/友情に限界なしも‥静観の中国」という特集テーマ。

 さて、6月3日の特集報道は、「プーチン大統領と習近平主席の歴史観」に共通性が見られる?との指摘から始まった。2月24日から始まったロシアのウクライナ侵攻は、かってのロシア帝国時代の18世紀に、ロシア帝国が支配下においた「ノボロシア」(ウクライナ領の東部・南部地域)へ重点的に侵攻し、支配しているとし、プーチン大統領の歴史観に言及。この「かって版図(領土)だったところの奪還」という歴史観・領土への野心と、習近平主席の「中国の夢—領土奪還」への歴史認識に共通性があるのではないかという視点での報道。

 ロシアは、かってのソ連邦の崩壊(1991年)による30%の版図の消滅による喪失感、中国は屈辱の100年による版図の大きな消滅という歴史的事実の想起。プーチン大統領も習近平国家主席も、「愛国主義、ナショナリズム」の国民への高揚感を高める中で、政権への国民の求心力・支持拡大を高めていくということでは共通性があるという視点だ。いずれにしても権力維持のためということがその根底に覗かれるのだが‥。

 この中国の「国恥地図」は、1930年頃に時の国民党政権によって作成され教科書にも掲載された。当時、文盲(もんもう)人口の多かった中国の一般の人々に、地図という視覚に訴えたものだった。この地図には、中国の版図として、沖縄諸島や奄美大島もまた入っている。1928年に書かれた蒋介石の日記には、「毎日起床し 国恥を肝に銘じ 国恥を雪辱するまでは決して止めないと誓う」と書かれている。

 番組のテロップには、「中国人の心にある"国恥地図"」「中華新教科書」「国家とは何か、主権とは何か、愛国それから国を守るとは」「大中華帝国の再来 大清帝国を継承している中華人民共和国が‥」「中国において、ノボロシアに匹敵すると考えられるのは‥」の文字。ノンフィクション作家でニューヨーク在住の譚璐美(たん・ろみ)氏[71歳](日本生まれ育つ、父は中国人・母は日本人)は、この国恥地図と現代中国でのナショナリズムの動きについて「地図が示す意志が働いていると思います」と語っていた。

 同番組で、かって次の3つの「国恥記念日」が制定されていたことについて説明もされていた。それによれば、「①8月29日 アヘン戦争終結後の南京条約による香港のイギリスーの割譲、②9月7日 1901年"義和団の騒乱"後の北京議定書に調印し、多額の賠償金を連合国軍側に支払い、③9月18日 1931年 日本軍による満州事変のきっかけとなる柳条湖事件の勃発➡満州の日本支配。」(※この「国恥記念日は、1980年代にはなくなっていた。2014年に「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」が定められ、12月13日に国家行事として追悼が行われている。)

 昨年10月、辛亥革命110周年記念大会で、習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興を」と題して、演説を行った。その核心部分について同番組では、「1840年のアヘン戦争以降、西側諸国は中国の大地でやりたい放題に勝手にふるまい、国は侮辱を受け、人民は苦しめられた。文明は国塵を受け、中国人民と中華民族は、かってない災難に直面した。中華民族の偉大な復興を実現することが中国民族の最も偉大な夢だ。」と、この時の習近平国家主席の演説に注目していた。「中国の夢」とは「中華民族の偉大な復興」のことであり、これはかっての中国の最大版図を意識もしてかのことと読み取れもする。

 そのかっての版図として、習近平主席が「核心」としているのが台湾統一だ。中国の魏鳳和国防相も李作成参謀部参謀長も、米国に対し、「台湾統一を阻止するならば、中米関係に破壊的な影響を与える」と、この4月20日の米国オースティン国防長官との電話対話で語った。

 私も時々買うこともある中国の雑誌『中国国家地理』。なかなかすぐれた地理雑誌だが、2013年3月号には、「海南探底—中国人的海洋夢」が特集されていた。特に2015年以降、海洋への進出を強め始めてきた中国政府。かっての「国恥地図」には領海となっていた南シナ海全域の領有化を進め、西太平洋への進出のための列島第1線、第2線(グアムまで)、第3線(ハワイまで)を策定し、日本領海にまで防空識別圏を策定している。

 「国恥地図」に描かれたかっての朝貢国である東南アジアや中央アジア諸国とは、現在、「一帯一路」政策により、中国の影響力を格段に強めてきてもいる。これもまた「中華民族の偉大なる復興」「中国の夢」の実現の柱。

■譚璐美氏は、『中国"国恥地図"の謎を解く』(新潮新書)を2021年10月に出版している。書籍表紙帯には、「海洋進出、一帯一路、覇権主義—すべての起源はこの地図だった」と書かれている。譚氏によれば、「中国はここ数年、地図に強いこだわりを見せている」という。2017年には、中国国内にある世界地図を調査して、「認めていない国境線が描かれている」として、3万点あまりを一斉に廃棄した。これ以後、外国人でもビジネスや観光で中国に行った際、町の書店で買った古地図や地図帳を国外へ持ち出そうとすると、税関で厳しい審査を受けることとなった。もし、税関が「違法な地図だ」と判断すれば、没収されるだけでなく、罰金や禁固刑になる恐れもあると譚氏は語る。

 今日6月18日付朝日新聞には、「中国3隻目の空母進水」「中国空母 米国を猛追—最新鋭装置 台湾有事想定か」の見出し記事。記事には、「海峡を挟んで台湾と向き合う福建省。最新鋭空母は"福建"と命名されたところにも、台湾統一への思惑がにじむ」と書かれていた。「中国の夢」「強軍夢」は進む。

 昨日17日、ロシア海軍の艦艇7隻が千葉県沖を航行した。同日、中国海軍の艦艇2隻が対馬海峡を航行。昨年10月23日には、中国・ロシア海軍の艦艇10隻(中露各5隻)が、日本海から津軽海峡を抜け、日本沿岸近くの太平洋を南下、さらに鹿児島県の大隅海峡を通過、日本列島をほぼ一周するという合同軍事演習を行っている。

 

 

 

 


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