彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国のワクチン外交「健康のシルクロード」建設―王毅外相「ワクチンの友になりましょう」と各国に働きかける

2020-12-30 19:02:42 | 滞在記

 「コロナ禍を止める切り札として期待されているのがワクチンだ。英国、中国などでは接種が始まり、日本も早ければ来年3月にも接種開始が見込まれる。各国がワクチン確保を急ぐなか、韓国のようにワクチン確保で出遅れた国も。開発情報を狙うサイバー攻撃も激化するワクチン戦争状態だ。」と、12月12日の日刊紙「夕刊フジ」は「コロナワクチン 確保戦争激化」という見出しで伝えていた。

 この記事によると、「米国デューク大学の調査によると、各国の確保数は、インドが最多の16億回分、欧州連合(EU)15億8500万回分、米国10億1000万回分、COVAX(※主に途上国向けに購入する枠組み)7億回分、カナダ3億5800万回分、英国3億5500万回分、インドネシア3億5300万回分、日本2億9000万回分、ブラジル1億9000万回分、メキシコ1億5990万回分、ラテンアメリカ(ブラジル以外)1億5000万回分、オーストラリア1億3480万回分などと続く。独自のワクチン開発をしている中国やロシアは詳細を公表していない。」と、ワクチン確保の国別データーが掲載されていた。

 朝日新聞12月11日付でも「各国・地域のワクチン供給量」との見出し記事が掲載されていた。(※この記事でも中国とロシアのデーターは掲載されていなかった。) 

    12月29日の日本のテレビ報道では、「中国上海 多くの店で通常通りの営業 マスク着用義務・人数制限などの規制はほぼ設けず」「中国は感染抑え込んだ 厳しい制限も徐々にゆるめる」「他の国に先駆け 感染拡大抑え込んだと内外にアピール」のテレップ。 この中国、すでに100万人以上の人にワクチン接種が行われているとも伝わる。

 中国では9月10日ころに、「中国産ワクチン」が初公開された。WHOによると この9月中旬時点で最後のワクチン臨床試験が行われ開発がすすむ世界のワクチンの9種類のうち、中国産は4種類だという。中国の製薬会社の担当者は「これまでワクチンによる明らかな副作用は1例もありません」と公表会の会場で表明していた。

 9月下旬、中国国務院新聞為公室(報道室)は会見を開き、「年内のワクチン生産能力は約6億回分、来年には年間で約10億回分の生産能力を持つことができる」と表明と日本のテレビ報道は伝えていた。

 世界各国が、供給量に限りのある新型コロナワクチン確保に奔走する中で、中国は積極的に、資金力の弱い国々に中国製ワクチンの提供を申し出ている。そして、外交上の長期的な見返りもワクチン提供国に求めている。新型コロナ流行初期の中国政府の対応への世界の怒りや批判をかわし、中国のバイオテクノロジー企業の知名度を上げ、アジア内外での中国の影響力を強化・拡大するなどの多数のメリットを計算に入れた「健康シルクロード」外交とも呼ばれる。

 中国は3月・4月・5月の世界的パンデミックの初期には、マスクや防護服などの大量輸出を急ぎ、医療が逼迫(ひっぱく)していた欧州・アフリカ各地に医療チームを派遣した。そして今、欧米の製薬会社がワクチンの供給を始める中で、自国製ワクチンの大量供給を開始し、次々と合意を結んでいる。相手国には中国との関係がぎくしゃくしていたフィリピンやマレーシアなども含まれる。

 中国外交官や王毅外相などがこの9月以降頻繁に各国を訪問し、ワクチン外交をとりおこなってきている。ロシアも自国製のワクチンを開発し、世界に先駆けて治験終了を宣言し接種を開始したが、治験に対する不信からその安全性には大きな不安がロシア国民に広がっていて自国での接種は進んでいないと伝わる。中国のワクチン外交は、「ロシアなどの国々への中国製ワクチンの供給に、"優先権"を考慮する」と表明。フィリピンは現在、日本以上に感染拡大がすごいのだが、この中国製ワクチンの提供を巡ってドゥテルテ大統領は、「南シナ海での中国との係争をワクチンと引き換えに棚上げにする」とも言明し波紋をよんでもいる。

 このフィリピン大統領と中国王毅外相との9月の会談で、王毅氏は「中国でのワクチン開発が進んだら、需要に応じて貴国に優先権を配分します。"ワクチンの友"になりましょう」と表明した。中国は、低・中所得国のワクチン市場のわずか15%を獲得しただけで、約28億ドル(約3000億円)の純利益を見込めると試算されている。

 ワクチン接種を推進するには、超低温での輸送を可能にする低温物流網や保管施設の整備も必要だが、これらも中国はワクチンとともに世界の低・中所得国に資金を提供し、整備にあたるもようだ。これらの建設でも中国に多額の純利益が転がり込んでくる。また、中国政府はブラジル、モロッコ、インドネシアなどにワクチン製造施設を建設しているほか、中南米諸国に10億ドル(約1100億円)規模の資金提供を約束している。

 「健康のシルクロード(Health Silk Road)」と銘打たれた一連の取り組みは全て、中国の国際的な評判を回復しつつ、中国企業向けの新たな市場を開拓することにつながっている。

 このような中国のワクチン外交「健康シルクロード」政策が進む中、12月中旬、ブラジル政府が「中国製造の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用基準が不透明だ」(安全性にたいする問題)と批判声明を出した。ブラジルでは、中国の製薬会社・シノバック社製のワクチンの治験(臨床試験協力)がこれまでに大規模に行われてきていて、年内に合わせて600万回分の中国製ワクチンが供給される見込みとなっていた。

  このブラジル政府の批判に対し、中国外交部は即座に会見をもち、「中国の企業は科学的な規律と管理要求に基づき、ワクチンの研究開発を進めてきた」と反発し、そのうえで、すでに一部の国では中国製ワクチンの使用が承認されていることを挙げ、安全性は国際基準を満たしていることを強調した。

 

 

 


中国・香港・台湾・韓国、東アジアのCOVID19感染状況―防疫はそら怖ろしいくらいに徹底している中国

2020-12-30 11:18:37 | 滞在記

 今日は2020年12月30日、今晩から明日31日の大晦日の夜、元日の朝にかけて、数年来の大雪が降るという予報。中国はこの年末の30・31日も休日ではなく通常通り学校も会社も授業や仕事がある。1月1日の元旦だけが休日となり、2日から学校も会社も始まる。中国の正月は「春節」、2021年の春節は2月12日から始まり、2月26日の「元宵節」をもって終わる。ほぼ2週間の「春節期間」。

 日本にいてオンライン授業で私が担当する大学の年末年始の講義は12月31日もあり、1月5日からまた再開される。福井県南越前町の越前海岸沿いの集落に、コロナ禍下に一人暮らしをする母親のようすを見に、この1年間毎月帰省していた。この正月、1月1日に車で帰省する予定だったが、大雪予報のため、JR北陸線も運休の可能性もあり、正月三ケ日の帰省は難しいようだ。今日、そのことを母に連絡をしなくてはならない。この季節、故郷の越前海岸は「越前水仙」が咲き誇るのだが、豪雪が降ると例年は降雪の少ない海岸線の水仙は、雪の重みで茎が折れてしまうものが多くなる。私の実家の海岸沿いの山にある水仙畑、今日はもう香りたかく花を開花させ始めているだろうが、明日の雪でどうなるか‥。

 ちなみに、今年2020年の「春節」は1月25日からだった。1月23日の突如の「武漢封鎖」、新型コロナウイル(COVID19)の感染拡大・世界的パンデミックは1年あまりを経てなお底なしの感染拡大を広げてきている。12月下旬には世界の感染者数は8200万人となり年明けには1億人に迫るだろう。実に世界人口の70人に1人が感染するという状況だ。日本での感染第3波、12月に入り1日に、1000人〜4000人、最近では3000人台が連日続く。

 さて、勤め先の中国の大学の方からまだ「中国に戻ってください」との連絡はないが、大学は1月20日頃から2月28日(日)までが冬休みとなり、3月1日(月)から新学期(2学期・後期)の授業が始まる。このため、3週間の隔離期間(空港近くの指定ホテル2週間、自宅1週間)があるので、2月上旬に中国に渡航してくださいという連絡が入るかもしれないので、戦々恐々とはしている。まあ、まだ少なくとも1か月間ほどは日本に滞在できるが‥。そろそろ覚悟を決め初めての中国渡航となる日は近いかもしれない。

 中国は、世界一厳しく厳格で、徹底した「新型コロナ防疫対策」を1月23日からのこの1年間あまりを実施してきている。それはもう「ここまでやるか」と徹底している。さしずめ、外国(日本)から戻って来た私などは、自宅アパートのある団地の「社区」(住民の自治会組織で、中国共産党の下部・末端組織)からは超監視人物となる。私の部屋は8階にあるが、新たにわたし用に玄関ドア前に監視カメラが設置され、隔離期間は絶対外出しないように監視もされるようだ。

 食料の買い出しにも行けない1週間だが、知り合いにアパートに来てもらうのも禁止、部屋には日本から以前に買ってきていた魚の缶詰類が40個ほど残っているはずなので、それを食べて1週間を過ごすことになりそうだ。隔離期間が終わり、バスに乗って大学に通勤できるとなるが、中国ではバスや電車も「スマホ携帯電話に登録されているコロナ陰性証明アプリ」の提示が義務付けられている。それが自分のつたない中国語能力とつたないスマホ操作技術ではたしてできるのかどうかなどもとても心配だ。

 12月20日付の朝日新聞の一面記事は「武漢"元通り"街に人混み 強権で陽性 市中感染ゼロ」の見出し記事。今年の12月に入り中国の武漢では様々な「疫病完全克服 勝利」を祝うイベントが行われた。「コロナ戦争と人々の戦い」をテーマとした人民劇や大規模展示会の開催などなど。そして国内外に「超強権をもってコロナ禍と戦った中国共産党政権の諸政策の功績」をアピールしている。

 おそらく防疫対策では世界で最も徹底した、世界最先端のIT技術も全国民的に駆使した中国のコロナ対応、対策。今年の2月下旬の第一次感染拡大で8万人以上の感染者が中国全土で確認された。しかし、その時期をピークとして、感染拡大は下降線となっていった。そして、3月上旬には習近平国家主席が武漢入りをして、終息に向かっていることを内外にアピールした。さらに、4月上旬の中国の「清明節」の三連休、中国全土で観光に訪れる人が多くなって、「コロナに勝利した」感が全国的に訪れた。中国国民にとっては100以上の都市や省が封鎖されて隔離生活が2カ月間にわたった開放の4月でもあった。

  その後、6月以降からは「感染」は東北三省(黒竜江・吉林・遼寧)や北京などでぽつぽつと感染が発生したが、その町の何百万人にも及ぶPCR検査の即時実施、一部地域の都市封鎖などの政策を矢継ぎ早におこない、防疫を徹底し封じこめてきている。また、6月以降は「外国からの訪問者や帰国者からの感染再拡大」に防疫対策シフトの重点が移ってきた。このころから、地方や省、都市によって学校への登校も再開されている。私が勤める中国南部福建省の大学に学生たちが8カ月ぶりに戻って来たのは2020年9月上旬だった。(※学生たちは学外に出るには特別の許可が必要ではあったが‥)

 10月に入り中旬に、上海や南部の広東省で 数名の感染者が確認され、これも迅速な対応措置がとられた。そして12月に入った。12月中旬から、遼寧省の大連や北京などで感染者が確認され、それぞれ二桁となり緊張が走っている。大連市では12月15日以降感染者数が39人確認された。全市民600万人のPCR検査が実施され、都市間の移動にはPCR検査の陰性証明の提示が求められ、よほどの理由がない限り認可されない「都市移動」の強い措置も取られている。クラスターが発生した地区の何十万人の住民は12月24日—1月6日まで家を出てはいけないという居住隔離通告が社区の委員会より各家の玄関ドアに貼られている。

 「北京三区13人感染新冠、病原来自何処?」の中国の報道記事。首都・北京では12月下旬になり感染が確認され、感染者確認数は現在、40人近いようだ。北京のある地区は地区封鎖となっている。「このクラスターはどこからきたのか?外国から帰国した無症状の保菌者から北京市民が感染したのか?また、米国からの輸入食料品(冷凍魚など)由来なのか?」報道の一面には冷凍された魚の写真が大きく掲載されてもいた。また、遼寧省の省都・瀋陽で12月24日ころに老齢者1人の感染が判明した。市当局はたった一人の市中感染判明でも「戦時状態」を宣言、地区封鎖とともに、感染者の孫が通う学校は当然封鎖され、その学校の生徒の家族も含め、14日間の自宅隔離が現在行われている。

 四川省の省都「成都」で12月上旬に、半年ぶりに市中感染者が確認された。日本のテレビで、「市中感染 地区封鎖に女性抗議、"私にも生活がある!!なぜ地区に隔離されなければならないんだ!!と叫ぶ」という動画映像が報道されていた。生活道路を封鎖しているトタンなどの壁を攀じ登って地区外にでようとしたが、即座にかけつけた警察に拘束されて隔離ホテルに連れていかれた。

 11月10日付の朝日新聞に「濃厚接触者のテート場所も特定 文書流出 中国当局に批判も」との見出し記事。中国ではスマホ携帯や全国で1億台ちかい監視カメラの顔認証(誰かがすぐに判明できる)で、個人の行動や誰と会っているのかなどをかなりの短時間で割り出すことができる超超超監視国家となっている。スーパーでの買い物も、顔認証決済支払いシステムが広がり始めている社会だ。コロナ感染者との濃厚接触者もこのビックデーターの活用で過去と未来を追跡されることとなる。このことを示す中国当局の文書が流出してしまい、「やりすぎ批判」の声もでているとの報道記事。

 さしずめ私も中国に戻れば、このような監視対象者にリストアップされるのだろうか。「外国からの入国者は要注意」は、中国では徹底している。また、なんらかの感染がもし判明しても、いつも中国生活で支援してもらっている大学の関係者や学生たち、卒業生たちとは接触禁止となるので、自力で中国の当局者や社区、病院関係者と対応せねばならなくなる。意思疎通、言語の壁がとてても大きい。

 香港での感染拡大は12月に入って中国ではちょっと深刻だ。最近では一日(単日)感染判明が;連日100人近くとなってきているとの報道がされた。11月下旬、ダンス愛好家の集まりで60人のクラスターが発生するなどけっこう大変だ。感染力が1.7倍となっている欧米からの変異種コロナ感染も報告がされている。中国でもこの変異種コロナには敏感に警戒感を強めてきている。

 人口2350万人と日本の人口の1/4ほどの台湾は、世界のコロナ防疫対策としては、コロナ対策での人権的な取り組みも含めて、他国が追随できない、世界で最も優秀な地区だ。そして、世界で最もコロナ禍の安全な地区だ。現在までの台湾での感染確認数は770人。そのほとんどが空港の入国検査での感染判明者。いわゆるそれ以外の市中感染(域内感染)者はたったの56人。(※日本の人口比率と比較したら、日本では18人程度となる。)このため、世界のコロナ禍下、日本からの留学希望者も台湾の大学への希望者が激増してもいる。

 5月以降この市中感染者はゼロだったが、8カ月ぶりについに一人の市中感染者が確認されてしまった。米国から台湾に飛行機で入国したニュージーランド人の男性パイロット(60代)。彼が所属する航空会社の同僚パイロット2人も感染が確認された。彼は、感染確認後も台湾入国後の行動や接触者を正しく申告しなかった。しかし、彼との濃厚接触者の30代台湾女性の市中感染が確認された。

 PCR検査を全国民的に迅速に実施してきた「K防疫」の韓国。首都ソウルを中心に実質的には第二波の感染拡大が11月上旬より始まり、11月中旬には単日300人、そして12月19日の最近では単日1000人を超えた。文政権は改めて防疫対策に取り組んでいる。

※中国では現在、新たなコロナ感染者は水も漏らさぬ徹底した2重・3重の防疫対策により、ほぼ抑え込まれていと言っていいだろう。感染が判明して徹底的な防疫政策で1か月ほどで終息に向かわせている。例えば、1月上旬から日本にずっと滞在して、3月からオンライン授業を続けている私に対しても、2月上旬からの11カ月間ずっと、毎日、大学の担当者に対して早朝の体温の報告をしなければならない。たまに忘れることがあると、その日のうちに「体温報告がまだですよ」という連絡が入る。

 おそらくだが、感染に対する目の光らせ方は、日本とは比較できないほど、厳しいものがあるように思う。会社や店、社区でもこの体温報告のようなシステムはできているのだろうかと思う。

 

 

 

 

 


「自由で開かれたインド洋・太平洋」中国に対抗する米・英・豪・日・印・仏、独などの連携が強まりつつある

2020-12-28 16:00:18 | 滞在記

 とりわけ台湾海峡を巡る東アジア情勢が緊迫感を増しつつあるなか、中国に対抗して、「自由で開かれたインド洋・太平洋」の実現に向けた米国・英国・豪国(オーストラリア)・印(インド)を中核とした動きが今年の9月以降に突如、強まってきている。

 今年の10月上旬から12月下旬にかけて、この地球上では「中国」関連で一連の目まぐるしい出来事が起きてきている。日本の茂木外相は、アジアや欧州諸国など16か国を訪問し、この「自由で開かれたインド・太平洋問題」について話をしてきた。フランスの外相、ドイツの外相とも会談を行い、東シナ海や南シナ海の情勢について、連携強化で一致してきている。

 10月6日には米・日・豪・印の外相が東京で集まり、4か国外相会議を開いた。日本の主導で欧州の主要国であるフランスとドイツ、そして環太平洋地域の主要国であるアメリカとインドと豪州と日本、さらにイギリスが団結し、中国の覇権主義的な海洋進出を封じ込めようとする姿勢を鮮明にし始めた。つまりは「中国包囲網」の構築だ。

 これらの動きに対して中国は警戒を強め、10月13日、中国の王毅外相は「インド太平洋版の新たなNATO(北大西洋条約機構)の構築を企てている」「東アジアの平和と発展の将来を損なう」と批判、危機感を募らせてもいる。

 前述の10月6日の東京会議と同日に米国・ニューヨークの国連総会第3委員会(人権を担当協議する委員会)の会合で、ドイツの国連大使が、日米英仏を含む39か国を代表して中国の人権問題を批判する声明を発表した。この声明に賛同した国々は、他にイタリアやカナダ、ニュージーランドなど。少なくとも人権問題に関していえば今、中国・ロシア以外の世界の先進国が一致団結して中国を批判する立場をとり始めている。これに対して中国は、アンゴラ、北朝鮮、イラン、キューバ、ジンバブエ、南スーダンなど26か国を代表して、アメリカと西側諸国による「人権侵害」を批判した。

 半年ほど前に、この国連の委員会では、「中国の人権の取り組みを支持する」という国は52か国、「中国を批判する」という国は25か国だったが、数的にはこの国々の支持数は逆転しつつあるようだ。つまり、ドイツなどが旗幟を鮮明にし始めるに及び、半年間で、世界の「中国に対する人権問題」批判の結束が強まりつつあるという状況の変化が起きてきている。

 2017年ころまでは、中国とオーストラリアはまあまあ友好的な関係だったが、その後 両国の関係は、さまざまな問題のために険悪な関係となってきている。その問題の発端とは、中国による「オーストラリア侵略計画」が判明したことによる。潤沢な資金を使って、オーストラリア政界に対して「中国との融和政策」の政治的工作(政治家の買収を含む)を手広く仕掛けていたことだった。中国との融和政策は転換されはじめ、2018年モリソン氏が首相に就任した。これに対する豪州政府の中国批判に対応するように、オーストラリア国籍の人が中国で拘束される事件もおきる。

 そして、今年の4月中旬頃に、オーストラリアのモリソン首相(52歳)は、武漢封鎖に至った「新型コロナウイルス発生源の徹底的な調査の必要性」を表明した。これに対して中国政府側は強い反発を表明、さらに、「自由で開かれたインド太平洋構想」の中核国となりつつあるオーストラリアへの小麦やワインなどの関税引き上げ、石炭や牛肉などへ輸入制限など、さまざまな経済的締め付け政策も行ってきている。モリソン首相は、今、中国との関係は「異常な状況」と話している。

 このような中国と豪州との政治的緊張関係の中の11月30日、中国外交部副報道局長の趙立堅報道官が豪州に喧嘩を売った。彼は豪州兵士がアフガニスタン人の子どもの喉元にナイフを突きつけているように見える写真を自身のツィツターに投稿したのだ。これに豪州のモリソン首相は激怒し、その日のうちに記者会見を開き、この写真は合成された偽造写真だと指摘したうえで、「非常に攻撃的だ。中国政府はこの投稿を恥じるべきだ」と批判。中国政府に謝罪と即座の削除を求めた。

 しかし、12月中の中国のさまざまな報道記事を閲覧している限り、モリソン首相への批判記事に溢れている。趙氏の上司にあたる華春瑩報道局長も豪州政府に反論し、趙報道官の投稿を擁護した。アメリカの報道官は、「(中国がオーストラリアに対して取った行動は)精査なしの誤情報流布と威圧外交の一例。共産党であることを考えても、さらに低い行動だ」と批判。やフランスの報道官やニュージーランドの首相なども、この問題での一連の中国政府の対応を批判や懸念を表明している。

 コロナで始まり、コロナのさらなる感染拡大の真っ最中、世界の感染者が8000万人を超え、1億人に迫りつつある今日12月28日。2021年まであと3日間だが、年明けの2021年には、この東アジアの海域は「対中国包囲網」での軍事的動きが具体的になりそうだ。イギリス政府は2021年1月に最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群を沖縄などの南西諸島周辺を含む西太平洋に向けて派遣し、長期滞在させることが12月5日に報道された。

 また、同じ日の12月5日の産経新聞では、「日米仏の艦艇と陸上部隊が結集し、南西方面の無人島で上陸訓練を行う」と伝えた上で、「東シナ海と南シナ海で高圧的な海洋進出を強める中国の面前で牽制のメッセージを発信する訓練に欧州のフランス軍までも加わり、対中包囲網の強化と拡大を示す狙いがある」と解説していた。これは、11月下旬から12月上旬まで来日したフランス海軍のトップである海軍参謀総長が産経新聞のインタビューに答えた内容だ。フランス海軍の最新鋭空母「シャルル・ドゴール」が参加するかどうかはわかっていない。

 そして、12月16日の産経新聞では、ドイツの国防相が、日本の岸防衛相とのオンライン対談で、「ドイツ連邦軍の艦船を来年、インド太平洋に派遣する」ことを表明したと報道された。世界トップクラスの五か国(米・英・仏・独・日)の海軍が日本や台湾周辺の海に集まっての連携軍事行動を2021年の前半に行うことに、アメリカと日本だけでない英・仏・独、さらに豪・印の7か国、そしてカナダやニュージーランドという9か国の「中国の海洋進出、台湾侵攻、人権問題」に対抗するための包囲網の結成が進む状況の広がり。

 2020年9月からの数カ月間で上記2つの戦線において対中国包囲網が突如姿を現し迅速に形成されたのは一体なぜなのか。去年までは中国との経済連携に関心を集中させていたドイツやフランスは一体どうして、軍事力まで動員してはるか遠くのインド・太平洋地区に乗り込んで中国と対抗することにしたのか。そして形が見え始めた西側諸国と中国との対立構造は、2021年、22年、そして近未来の中国による台湾統一問題(武力侵攻の可能性も)にどのような影響を及ぼしてくるのか。中国国内の政情はどのような変化がありうるのか。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「フランスは本来、人権問題で世界の先頭に立っていた国だ。コロナ禍に加え、香港やウイグルでの人権弾圧が明らかになったことに目覚め、"人権を犠牲にしたビジネスは続けるべきではない"と方針転換した。この姿勢は評価できる。むしろ、(政治と経済は別という)日本の姿勢が今後問われることになる」と夕刊フジ紙のインタビューに答えていた。

 韓国文政権の支持率がさまざまな問題でこの秋の2カ月間で急落し、40%の支持率を下回り、不支持が60%近くまでに急増している。こんな中、英国政府は12月15日、英国が議長国を務める2021年の先進7か国首脳会議(G7)に韓国、インド、オーストラリアを招待することを発表し、既に3か国に書簡を送付したことを明らかにした。中国寄りの動きを示す韓国文政権はどのような対応をするのだろうか。

 将来的には、G7(サミット)ではなく、民主主義国10か国による「D10」構想が検討され始めているようだ。英国政府は、「共通の課題に取り組み、共通の関心を有する民主主義国家の同志と協力していくというジョンソン首相の構想」と説明した。来年のサミットの日程・開催地は未定。

   (※G7の中でイタリアの現政権だけは、中国との融和政策を続行している。コロナ問題も、中国➡イタリア➡欧州➡アメリカや日本へと感染が拡大していった。イタリアと中国は、特に繊維産業[服飾]での結びつきがとても強く、中国からの移民が多い。今年の春節にイタリアから中国に帰省した人々がイタリアに戻り、欧州での感染拡大につながっていったとされる。)

 2020年の秋から2021年の冬にかけて、コロナパンデミックとともに世界情勢はいろいろ動き始めている。中国政府はこの秋の「五中総会」で、これらのG7諸国の包囲網的動きに対抗するための長期「経済」「軍事」方針を策定した。輸出・輸入にのみの(中心とした)従来の経済に依存しない、「内需型」経済の強化方針。そして、軍事的にも経済的にもG7諸国を圧倒するための科学技術の急速な発展方針だ。

 

 


中国:「貧困撲滅」達成の10年間の取り組みを国内外にアピール―貧困の目安は年収1人当たり6万円

2020-12-20 19:33:02 | 滞在記

 中国共産党の習近平総書記(国家主席)はこの12月3日、党最高指導部会議で、2020年中に貧困人口をなくすとする政権の目標を達成したと国内外に宣言した。新型コロナウイルス感染拡大で経済が打撃を受ける中、習政権は来年7月の中国共産党創建100年の節目に向け「小康社会(ややゆとりのある社会)の全面実現」を掲げてきていた。「貧困ゼロ」を党及び政権の功績として強調し、一党支配の正当性を支える柱として位置付けてきた。コロナ禍の逆風のなか目標を達成したとアピールし、求心力を高める狙いもあるとみられるが、「脱貧困」の問題の根本的な課題(※都市と農村の収入格差は2.64倍など)はなお大きい。

  党機関紙・人民日報など各紙は4日、習近平氏が党政治局常務委員会会議の席上、自身が総書記に就任した2012年からの8年間で、「貧困脱却の目標を期限通り達成し、全世界が注目する重大な勝利を得た」と語ったと報じた。1人当たりの年間可処分所得が2300元(2010年時点)[当時の為替レートで、日本円では約4万6千円]相当という中国独自の基準で約1億人近い人が貧困を脱したという。2020年においては、中国政府の定めるこの「貧困の目安」は1人当たりの年間可処分(純収入)で年間4000元(現在のレートで日本円にして約6万円)未満に変更されている。これらのことは、12月4日付の朝日新聞でも報道されていた。

 この貧困の目安である年間所得6万4千円というのは、日本の所得感覚から比べるとものすごく低い基準だ。中国はGDPで2010年には日本を上回り、世界第二の経済大国となった。現在は日本の約3倍のGDP額となり、その差は今後ますます開いていくだろう。中国では、社会公共のバスや地下鉄などの交通機関はとても利用金額が低い(市内バスは1元=15円)し、大学の年間学費は平均して7万5千円、大学の寮費[食事別]は年間平均1万5千円などと、日本の10分の1程度ととても安い。

 

 しかし、医療機関(病院)は国民健康保険が整備されていないので、ものすごく高い費用となり、よほどのことがない限り、普通の病院には行かず、近所の低料金の診療所(医者のような人が1人だけ。看護師はいない。)に行き、薬を処方してもらう。食堂などに入れば、200円ほどでそれなりの食事はできるので安い。3LDKの普通のアパートマンションを購入しようとすれば4000万円〜5000万円は平均的にはする。とてつもなく高いものだ。要するに、いろいろな料金や費用がとてもアンバランスだ。そして、海外旅行に行けるような年間所得を得ている人が1億人近くはいるが、一方では貧困層はとても多い。現在、大学を卒業した者の初任給は、ここ数年で高くなってきて、月額3500元〜4000元ほど(約6万円)。これから考えても分かってくると思うが、大卒でも日本の3分の1の所得。つまりGDPでは日本の3倍だが、1人当たりにすると所得水準は日本の方が3倍以上となる。

 中国のメディアが中国人の月収を報じる際に、定収入、中等収入、較高収入(比較的高収入)、高収入という定義を使うが、その月収基準は次のようになる。(※現在のレートは1元=15円)

 低収入:月収2000元未満、中等収入:月収2000~5000元、較高収入:月収5000~10000元、高収入:10000元以上

   中国ではまあ月収が3000~3500元あれば、都市部でもなんとか生活できる。しかし、一人でアパートを借りることは金銭的には余裕がなく、2人で共同生活している独身者はとても多い。(※中国では大学生は4〜8人部屋での寮生活を過ごす。また、中学や高校でも寮生活だったという学生はけっこう多いので、気の合う友人との相部屋でのアパート賃貸には抵抗感はあまりない。)

 今年の5月に一週間にわたって北京で開催された「全国人民代表者会議(日本の国会に相当)」。閉幕後に行われた恒例の記者会見に臨んだ李克強首相(国務院総理)は、人民日報記者からの「貧困脱出闘争の任務は予定通り今年中に完遂するでしょうか」との質問に対して、「中国は人口が多い発展途上国であり、中国国民1人当たりの平均年収は3万元(約47万円)だが、月収1000元(約1万5千円)の人たちが6億人もいる」と答えたことは記憶に新しい。平均年収が3万元というのは、国民一人当たりの月収にしたら12で割れば月収は約2500元(約37500円)となる。

 現在の中国では、月収が1000元までの人が約6億人、月収2000元以下の人を含めると約9.6億人ともいわれる。今回習近平総書記が「貧困撲滅目標達成」の貧困基準である年間4000元(約6万円)は、月収にすると333元(約5000円)となる。まあ、この貧困基準は近年相当中国政府も頑張っていたので、撲滅したとみることはできる。それにしてもこの貧困基準は、仮に日本の諸物価が中国の4倍としても5000円✖4=月額20000円だから、かなり生活するには厳しい金額ではある。しかし、2010年からのこの10年間で、この「貧困撲滅」を達成したことは、中国共産党の政権としての努力はたいしたものではあるとは思う。

◆もう一つの「2010年比、2020年までの10年間でGDPを2倍にするという目標は、2020年度のコロナ禍の問題で達成ができないよう」ではあるが、中国共産党がこの貧困撲滅・小康社会実現に向けた取り組みは、評価できるものであると思う。しかし、生活・医療など国民の基本的生活水準のさらなる向上のためにはいくつかの問題点もある。例えば2010年比・軍事費の膨大な増加など。これらの増加分を医療や生活、家の購入などの国民生活支援に回すだけでもかなり違ってはくるのだろうが‥。中国では、年金額も省や都市ごとに金額はまちまちで、農村部は都市部の5分の1くらいである。(※2035年に中国は高齢化社会となる予想だ。) 

 12月10日は「世界人権デー」だった。この日、中国外交部報道局長は、国内での人権状況に関して、「中国政府は人権の促進と保護を高度に重視している」と語り、さらに、「我々は14億人の衣食住の問題を解決し、8億5000万人以上の貧困人口を減らし、7億7000万人に雇用を提供し、2億5000万人の高齢者、8500万人の障害者と4300万人以上の都市と農村の最低保障制度の人口に基本的な保障を提供し、世界最大の中間所得層を持ち、世界最大規模の教育システム、医療システム、末端組織の民主選挙システムを構築した」と自賛的な報告を行った。(※「末端組織の民主選挙」とは共産党の最も下位の末端組織での選挙"共産党居住地自治会での信任投票"などが一部行われていること。)

 この10日の世界人権デーに合わせて、2015年に逮捕拘束されて裁判も開かれず安否が心配されていた人権派弁護士の一人・王全璋さん(※1年ほど前に裁判が行われ、「国家転覆罪」で4年6カ月の懲役判決。15年7月から刑務所に収監されているので、今年の4月に刑務所を出所。その後もコロナ対策を理由に、すぐに家族が待つ北京に戻ることは許されず、当局の監視下に置かれた。その後、家族と5年ぶりの再会。現在北京の自宅で家族とともに過ごす。)。

 9日の朝6時頃に、見知らぬ男たちが王さんのアパートの玄関前に立ちふさがり、外出をさせない措置を講じた。「2〜3日、あなたたちは外出できない」と告げられる。王さんがその理由を尋ねると、「理由はあなたが知っているだろう」と言われるばかりだったようだ。世界人権デーでのなんらかの発信を王さんがすることを阻止するための公安関係者たちの動きであったようだ。

 12月上旬、日本の朝日放送の土曜午前中の報道番組「正義のミカタ」で、「中国における宗教(人権)問題」に関する報道がされていた。イタリア・バチカンのカトリック教会のフランシスコ教皇が、「初のウイグル人権問題への懸念を表明」という報道だった。南米出身の初の教皇として話題と人気をさらったこともあるフランシスコ教皇だが、2018年には、中国におけるカトリック教会の司祭を、「中国政府が選出した司祭をバチカンが追認し認める」という暫定合意を認めてしまった教皇でもあった。従来、世界のカトリック教会の司祭はバチカンが選出し任命するものであった。

 このため、中国でのカトリック教徒は「中国政府公認で、中国政府が独自に任命する教会の司祭と信徒」と「ローマ教皇・バチカンに選出された司祭に忠誠を誓う非公認の地下教会の信徒」に分裂してしまった。(※中国には少なくとも約5千万人のキリスト教信者がいるとされる。)

 このような状況に、多くの宗教指導者や各国政府が(中国政府に対して)この宗教の自由問題で発言し、その行動が高まるにつれ、教皇の沈黙が目立つようになった。そして、この沈黙を続けることが不可能になり、教皇の道徳的権威や人気や支持も失墜し始め、ようやく「ウイグル人権問題」への憂慮を述べたという顛末のようだ。「私は迫害されている人々のことをしばしば考える」とも教皇は述べたようだ。

 前号のブログで、「日中世論調査」のことを記したが、「中国の実像を知る」ことは、これからの日中関係を考えていくうえでも大切なことであると思う。「中国という国の"良い"ところはどこなのか、"良くないところ"はどんなことなのか」。どうしても日々の日本のマスメディアの報道内容に大きく影響されてしまうが、「中国民族とはどんな民族なのか」「中国の歴史とはどんな歴史なのか」などなど、中国の実像を理解することは、これからの日本人にとってもとても重要なのだが‥。

 日本大学芸術学部映画学科の学生が主催する日芸映画祭「中国を知る」が12月12日から18日にかけて、東京・ユーロスペースで開催されていた。日芸映画祭は今年で10回目になるが、彼らが(映画学科の学生たち)が香港情勢の報道に衝撃を受けたことが発端となり、「中国を知る」が今回のテーマとなった。

 作家であり日本大学芸術学部教授の楊逸(芥川賞受賞者)氏は、「小さな銀幕は、異文化を覗く『目』になりうるのです。覗いて、驚いて、知って、理解はきっとそれから始まるでしょう。そして、『日中友好』も、です。」と本企画にコメントを寄せていた。

 上映された作品は以下の15作品。トークショウも実施されたようだ。

①「上海支那事変後方記録」②「戦ふ兵隊」③「独立愚連隊」④「香港の夜」⑤「未完の大局」⑥「ラストエンペラー」⑦「愛について、東京」⑧「天〇門、恋人たち」⑨「イップ・マン序章」⑩「ジョン・ラーベ~南京のシンドラー」

 ⑪「湾生回家」⑫「選挙に出たい」⑬「乱世備忘 僕らの雨傘運動」⑭「珈琲時光」⑮「蟻の兵隊」

 

 

 

 


第16回日中共同世論調査結果―世論調査で分かった中国人の日中協力関係構築への期待

2020-12-20 13:52:29 | 滞在記

 2005年以降、毎年、日本の民間非営利団体「言論NPO」と中国の「中国国際出版集団」が日中共同で行っている「意識調査」がある。日本と中国、それぞれの国民に「相手国(中国・日本)」に対してどう思っているのかを調査し続けているものだ。2020年度のこの「意識調査」の結果が11月中旬に発表された。中国ではこうした政治的な世論調査が行われることはほとんどない。そのため中国国民の考えを把握する上で貴重な調査と言える。

 日本側の世論調査は全国の18歳以上の男女を対象に9月12日から10月4日にかけて訪問留意回収法により実施され、有効回収標本数は1000。中国側の世論調査は北京・上海・広州・成都・瀋陽・武漢・南京・西安・青島・鄭州の10都市で18歳以上の男女を対象に9月15日から10月16日にかけて調査員による面接聴取法により実施され、有効回収標本は1571。

 ―日本人の対中意識は悪化し、中国人の対日意識は改善傾向が足踏み状態に―

 2013年から14年の2年間は、尖閣諸島問題などが大きな影響を与え、「日本の印象」について「良い」と回答した中国人はとても少なかったが、その後は徐々に「良い」が増加してきている。2005年の意識調査以来、日本について「良い」との回答比率は昨年の2019年が最も高い比率だったが、今年2020年の意識調査でも昨年と同水準の「良い/どちらかといえば良い」との回答だった。(日本の印象2020年度「良い/どちらかといえば良い」45.2%)

[日本に対する印象] 良い/どちらかといえば良い(2005年11.6%➡2010年38.3%➡2013年5.2%➡2016年21.7%➡2019年45.9%➡2020年45.2%)

 [日本に対する印象]悪い/どちらかといえば良くない( 2005年62.9%➡2010年59.5%➡ 2013年92.3%➡2016年76.7%➡2019年52.7%➡2020年52.9%)

 [中国に対する印象]良い/どちらかといえば良い(2005年15.1%➡2010年27.3%➡2013年9.6%➡2016年8.0%➡2019年15.0%➡2020年10.0%)

 [中国に対する印象]悪い/どちらかといえば悪い(2005年37.9%➡2010年55.9%➡2013年90.1%➡2016年91.6%➡2019年84.7%➡2020年89.7%)

   また、日中関係について、「重要」と考える人は日本側では64.2%で、調査以来初めて7割を切った。一方、中国側はおよそ8%増え、74.4%になり、日中で逆転する結果となった。「日中の関係を妨げるものとして」、日中双方とも「領土を巡る対立」をあげる人が最も多かった。それは尖閣諸島について、中国側が領有権を主張し、周辺で公船の活動を活発化し、日本側はこれに抗議している現状では当然の結果だと言える。中国で2番目に多かった回答は「米中対立の行方」だった。去年よりも20%近く急増し、27.8%に上った。米中対立が深刻化する中、「日本の同盟国であるアメリカが日中関係を妨げている」と考える中国人が増えている実態が伺える。今回の調査結果では、中国では、米中関係の方が日中関係のよりも「重要」と回答した人が14%近く減った。その一方で、「どちらも同程度に重要」と答えた人が14%増加している。

  一方、日本人の意識調査では、中国の印象で「良くない」との回答比率は89.7%。昨年度はこの「良くない」の比率は84.7%だったが、「良くない」がさらに5.0%アップしている。2016年頃から微増ながら「良くない」は減少傾向が見られ始めてきていたが、これまでの改善傾向から一転して9割近くまでに悪化している。これは、新型コロナウイルスの問題での中国政府の対応や政治体制、香港問題、人権問題、海洋進出問題などでの中国に関する報道が大きく影響しているためだと思われる。「言論NPO」の日本の担当者は、一方の中国人の意識については、「中国では米国との対立の影響で、中国人は日本との関係の重視を再認識しているためか」とコメントしていた。

 今回の調査では、日本人の対日印象は、尖閣諸島を巡る対立で悪化した2013・4年調査から、徐々に改善を始めていたものの、一転悪化している。一方、中国人の対日意識は日本のように悪化せずに、「良い」印象はこれまで続いた改善傾向は足踏みする形になっていることが見て取れる。

―中国人が「米国」と「日本」を切り分けて判断する傾向がみられ始めている―

 軍事的な脅威を感じる国が「ある」と回答した中国人は半数を超え、その8割を超える人が「米国」と回答しており、昨年から10%も増加している。一方で「日本」を軍事的脅威の国だとする中国人は5割を切り、昨年から30%近くも減少した。「日本を軍事的脅威」とする理由については、「日本が米国と連携して中国を包囲している」が最多となっているが、これまで日本と米国は一体として中国側に評価される傾向があったものの、今回は、中国人が米国と日本を分けて判断するという、これまでになかった傾向を示している。

 また、東アジアで軍事紛争や衝突が起こりえる切迫した状況かとの質問には、中国人では「そう思わない」との回答が、「そう思う」を上回った。ただ、中国人が最も危険な東アジアの地域として選んだのは「台湾海峡」の36.6%で突出しており、「南シナ海」、「朝鮮半島」が続いていた。これは、習近平政権が、1年ほど前から「台湾統一への武力侵攻も選択肢の一つ」と内外に宣言したことが大きいかと思う。

―米中対立の状況下、日本は米国・中国とのの関係をどうすべきか―「中国への印象は悪いが、日中の協力は必要」

 また、米中対立下での日中関係の在り方について、約4割の日本人が、「米中対立の影響を最小限に管理して、日中間の協力を促進する」と回答し、「米中対立とは無関係に日中の協力を発展させる」を加えると、日本人の半数近くが、米中対立の中でも日中協力を進めるべきだと回答している。つまり、「中国の印象」は「悪い/どちらかといえば悪い」が約9割の回答意識だが、日中関係は協力関係を維持すべきとの意識は半数の回答意識ということとなる。

 アメリカとの対立を続ける中国が日本への接近を図る一方、日中双方の国民感情にも温度差がとても大きく見られる中で、今後の日中関係はどのように進展、変化していくのか‥‥。この調査はとても貴重だ。

 今年の4回生を対象とした「日本文学名編選読」の授業はオンライン授業でとりおこなっている。(90分・16回授業)  今週の13回目と来週の14回目は、「学生発表」。日本の文学作品の中から一作を選び、7分間程度でプレゼンテーションを学生が行う。今週の12月18日(金)の学生発表の一人は、太宰治の『走れメロス』をプレゼンしていた。この女子学生の最後の読後感想は次のようなものだった。(原文日本語ママ、原文中国語は上記の写真内にあり。)

・この話について、「人を信じて、ただ周りの人との人間関係だけでなく、中国と日本の間の信頼関係を固めることも、私たち日本語学科の学生の役割だ」と思います。

・私たちは、時代の交差点に生まれてきた世代である。中国は急速に発展を遂げ、日本も「令和」の時代を迎えた。これからの両国は、互いにとって重要な仲間となると、私は思っている。けれど、進む道には必ず障害が出てくるだろう。相手への疑い、歴史の恨み‥‥メロスのように、困難にあっても諦めず、その疑いや恨みを、できるだけ消して、現在の平和を守り、相手への信頼を固めることこそ、私たちの役割ではないだろうか。

・そしてまたいつか、中日関係は信頼の彼方に着けると、私は信じている。