「コロナ禍を止める切り札として期待されているのがワクチンだ。英国、中国などでは接種が始まり、日本も早ければ来年3月にも接種開始が見込まれる。各国がワクチン確保を急ぐなか、韓国のようにワクチン確保で出遅れた国も。開発情報を狙うサイバー攻撃も激化するワクチン戦争状態だ。」と、12月12日の日刊紙「夕刊フジ」は「コロナワクチン 確保戦争激化」という見出しで伝えていた。
この記事によると、「米国デューク大学の調査によると、各国の確保数は、インドが最多の16億回分、欧州連合(EU)15億8500万回分、米国10億1000万回分、COVAX(※主に途上国向けに購入する枠組み)7億回分、カナダ3億5800万回分、英国3億5500万回分、インドネシア3億5300万回分、日本2億9000万回分、ブラジル1億9000万回分、メキシコ1億5990万回分、ラテンアメリカ(ブラジル以外)1億5000万回分、オーストラリア1億3480万回分などと続く。独自のワクチン開発をしている中国やロシアは詳細を公表していない。」と、ワクチン確保の国別データーが掲載されていた。
朝日新聞12月11日付でも「各国・地域のワクチン供給量」との見出し記事が掲載されていた。(※この記事でも中国とロシアのデーターは掲載されていなかった。)
12月29日の日本のテレビ報道では、「中国上海 多くの店で通常通りの営業 マスク着用義務・人数制限などの規制はほぼ設けず」「中国は感染抑え込んだ 厳しい制限も徐々にゆるめる」「他の国に先駆け 感染拡大抑え込んだと内外にアピール」のテレップ。 この中国、すでに100万人以上の人にワクチン接種が行われているとも伝わる。
中国では9月10日ころに、「中国産ワクチン」が初公開された。WHOによると この9月中旬時点で最後のワクチン臨床試験が行われ開発がすすむ世界のワクチンの9種類のうち、中国産は4種類だという。中国の製薬会社の担当者は「これまでワクチンによる明らかな副作用は1例もありません」と公表会の会場で表明していた。
9月下旬、中国国務院新聞為公室(報道室)は会見を開き、「年内のワクチン生産能力は約6億回分、来年には年間で約10億回分の生産能力を持つことができる」と表明と日本のテレビ報道は伝えていた。
世界各国が、供給量に限りのある新型コロナワクチン確保に奔走する中で、中国は積極的に、資金力の弱い国々に中国製ワクチンの提供を申し出ている。そして、外交上の長期的な見返りもワクチン提供国に求めている。新型コロナ流行初期の中国政府の対応への世界の怒りや批判をかわし、中国のバイオテクノロジー企業の知名度を上げ、アジア内外での中国の影響力を強化・拡大するなどの多数のメリットを計算に入れた「健康シルクロード」外交とも呼ばれる。
中国は3月・4月・5月の世界的パンデミックの初期には、マスクや防護服などの大量輸出を急ぎ、医療が逼迫(ひっぱく)していた欧州・アフリカ各地に医療チームを派遣した。そして今、欧米の製薬会社がワクチンの供給を始める中で、自国製ワクチンの大量供給を開始し、次々と合意を結んでいる。相手国には中国との関係がぎくしゃくしていたフィリピンやマレーシアなども含まれる。
中国外交官や王毅外相などがこの9月以降頻繁に各国を訪問し、ワクチン外交をとりおこなってきている。ロシアも自国製のワクチンを開発し、世界に先駆けて治験終了を宣言し接種を開始したが、治験に対する不信からその安全性には大きな不安がロシア国民に広がっていて自国での接種は進んでいないと伝わる。中国のワクチン外交は、「ロシアなどの国々への中国製ワクチンの供給に、"優先権"を考慮する」と表明。フィリピンは現在、日本以上に感染拡大がすごいのだが、この中国製ワクチンの提供を巡ってドゥテルテ大統領は、「南シナ海での中国との係争をワクチンと引き換えに棚上げにする」とも言明し波紋をよんでもいる。
このフィリピン大統領と中国王毅外相との9月の会談で、王毅氏は「中国でのワクチン開発が進んだら、需要に応じて貴国に優先権を配分します。"ワクチンの友"になりましょう」と表明した。中国は、低・中所得国のワクチン市場のわずか15%を獲得しただけで、約28億ドル(約3000億円)の純利益を見込めると試算されている。
ワクチン接種を推進するには、超低温での輸送を可能にする低温物流網や保管施設の整備も必要だが、これらも中国はワクチンとともに世界の低・中所得国に資金を提供し、整備にあたるもようだ。これらの建設でも中国に多額の純利益が転がり込んでくる。また、中国政府はブラジル、モロッコ、インドネシアなどにワクチン製造施設を建設しているほか、中南米諸国に10億ドル(約1100億円)規模の資金提供を約束している。
「健康のシルクロード(Health Silk Road)」と銘打たれた一連の取り組みは全て、中国の国際的な評判を回復しつつ、中国企業向けの新たな市場を開拓することにつながっている。
このような中国のワクチン外交「健康シルクロード」政策が進む中、12月中旬、ブラジル政府が「中国製造の新型コロナウイルスワクチンの緊急使用基準が不透明だ」(安全性にたいする問題)と批判声明を出した。ブラジルでは、中国の製薬会社・シノバック社製のワクチンの治験(臨床試験協力)がこれまでに大規模に行われてきていて、年内に合わせて600万回分の中国製ワクチンが供給される見込みとなっていた。
このブラジル政府の批判に対し、中国外交部は即座に会見をもち、「中国の企業は科学的な規律と管理要求に基づき、ワクチンの研究開発を進めてきた」と反発し、そのうえで、すでに一部の国では中国製ワクチンの使用が承認されていることを挙げ、安全性は国際基準を満たしていることを強調した。