彦四郎の中国生活

中国滞在記

「日本文化名編選読」のONLINE講義より―大学の学生たちも教員も、いまだ大学構内には戻ることはできない

2020-06-30 08:26:40 | 滞在記

 梅雨時期の6月も終わり、明日から7月となる。2月中旬から開始予定だった大学の2学期(後期)は、1カ月間の休学(閉鎖)を経て3月16日より時間割通りONLINEでの講義(授業)が開始された。あれから3カ月半が経過したが、中国国内でも感染者数の少ない省だった福建省の大学ではあるが、いまだ大学構内には学生たちや教員は立ち入ることはできない封鎖状況となっている。

 北京では6月中旬頃より新型コロナウイルスの2次感染が起きていて、北京市内の一定の地区のロックダウンだけでなく、隣接する河北省の安新県では住民約50万人近くを対象に厳格なロックダウン(都市封鎖)が始まっている。この半月ほどで北京を中心とした新しい感染者数は300人を超えている。

 例年であれば6月20日頃に挙行される大学の卒業式も今年はONLINEでの学部・学科ごとの卒業式となって配信された。6月末日の今頃、大学構内の水辺の睡蓮が美しく開花し、マンゴーの実も大きくなりつつある季節かと思う。沖縄の那覇市と同じ緯度にある福建省福州市も、もうすでに梅雨が明けていて、連日35度くらいの、猛烈な湿気をともなう季節に入っているかと思う。

 日本の東京都では一昨日、昨日と新規感染者が連日50~60人を超して、日本全体での新規の感染拡大数は一昨日は112人、昨日は110人と百人越え。数字的には2次感染拡大の緊急事態宣言発令のレベルだが、政府による感染対策会議の突如の解散宣言など、政府や東京都の感染対策が混乱して無策となっている状況はとても不安でもある。新宿歌舞伎町などのホストクラブやキャバクラなど夜の町関連の感染対策は早急にとる必要があるように思うのだが、ほぼ無対策状況となっているため、感染拡大は東京を起点として全国的にさらに深刻になる可能性が高い。

 世界では1000万人の感染者数を超え、死者数も50万人を超えた。

 大学構内の蓮も開花し始め、あと半月くらいで水辺一面にに緑とピンクの光景が広がってくる頃かと思う。大学の後期の講義も一昨日28日で終了した。昨日の6月29日~7月10日までの2週間はONLINEでの後期期末試験期間となり、7月11日から9月6日までは夏季休暇(夏休み)期間となる。今日30日は、私が担当している2回生「日語会話4」の期末会話試験が一人一人とのONLIEで行われる。一人につき10分程度の会話試験が36人を対象に実施予定。6~7時間を要する。

 後期に担当していた講義の一つ「日本文化名編選読」の授業も先週26日(金)に終了した。全15回(90分×15)の授業だったが、16回目の先週金曜日には期末試験をONLINEで実施した。

 この講義の内容は、まず8回の講義で9つの基礎文献を学習する。1、日本文化の源を学ぶ➡①『風土』(和辻哲郎)・②『東洋の理想』(岡倉天心)。 2、日本の国とはどんな国なのかを学ぶ➡③『水と緑の国、日本』(富山和子)。 3、日本民族とはどんな民族なのかを学ぶ ➡④『武士道』(新渡戸稲造)・『菊と刀』(ルース・ベネディクト)・⑤『タテ社会の人間関係―単一社会の理論』(中根千枝)を取り扱う。文化の基底となる「日本の風土・自然・民族性・歴史社会、日本の国とはどんな国なのか、どんな社会で、どんな民族なのか」を基礎文献を通して学ばせる。この基礎を学ばないと、「なぜ、その文化(個々の)が誕生したのか」のより深い考察や理解ができないからだ。

  4、日本文化の志向性と諸文化について学ぶ―なぜそのような文化が生まれてきたのか―日本の風土・歴史・民族性・社会性なとから考察する。➡⑥『「縮み」志向の日本人』(李御寧・韓国)・⑦『日本人の生活文化』(郁達夫・中国)。・⑧『ウチとソトの言語文化学―文法を文化で切る』(牧野成一)。5、日本人の美意識と文化について学ぶ。➡『陰翳礼讃』(谷崎潤一郎・⑨『「いき」の構造』(九鬼周造)

 9つの基礎文献ともに内容はかなり難しさがある。日本の大学生たちでも理解はけっこう難しいだろう。これを日本語能力がまだついていない中国人学生たちにいかに理解してもらうのかが講義の工夫がとても求められるところだ。莫大な時間をかけて準備することとなる。ましてや、ONLINEでの授業はとても大変だが、この講義内容の面白さをできるだけ学生たちに伝えたいと思い準備を工夫する。

 9回目から13回目までの5回の講義内容は、日本の諸文化について学習していく。日本と中国を主に比較しながら、それまでの8回の授業内容を振り返りながら、「なぜそのような文化が生まれてきたのか」を学生たちとともに考察する。「❶日本の化粧文化、❷日本の料理文化・食文化、❸日本の入浴(風呂)・温泉文化、❹日本の宗教文化、❺日本の衣服文化、❻日本の家屋(建築)文化、❼日本の匠(技術)文化・商売における信用重視文化―職業倫理、企業文化、接客文化❽日本の伝統芸術(絵画・陶芸・華道・茶道)、❾日本の伝統芸能(歌舞伎・能・日本舞踊・人形浄瑠璃)、❿日本の漫画・アニメ文化⓫日中・自然観比較、⓬日中・結婚式と葬儀比較—生死観の比較など。

 そして、14・15回目は、日本文化に関連しての「学生発表」(1人が6〜8分程度のppを使ってのプレゼンテーション)。この学生発表では、さまざまな日本文化がプレゼンテーションされるので、私も学生たちもより多くの日本文化ジャンルのことを学ぶことができる。16回目は期末試験となる。期末試験は先週金曜日26日にONLINEで行った。

 以下、学生たちがプレゼンしたテーマである。「"菊と刀"の中の日本文化」「日本の妖怪文化から見た日本人の民族性」「中日のドラマや映画の比較」「日本の写真文化」「日本のことわざ―動物相関」「歌舞伎役者」「日本のアニメ文化」「日本の婚礼和服」

 「日本の服装文化―和服」「日本庭園」「日本の建築文化」「日本の和服とゆかた」「日本の飲食文化」

 「日本の妖怪文化」「日本の建築―日中比較」「日本の妖怪文化と中国の妖怪文化比較」

 「日本の漫画文化」「日本の花街―芸妓文化」「日本の妖怪と迷信文化」「天下五剣」「日本の行列文化」「日本の迷信―日中比較」「日本の食文化」

 「日本の猫文化」「日本の建物―日本に行ってみたら」「日本の着物」「日本の絵画―大和絵」「日本の花道文化」「日本の弁当文化」「中国・日本の伝統祝日比較」「日本人の自然観」「桜」。以上2クラス32人の発表テーマ。日本語学科3回生は35人在籍だが、他の3人は現在 広島大学に1年間の交換留学中。

◆期末試験は6月26日に実施。試験課題を連絡した。ONLINE授業のため、例年の教室での一斉試験(120分間)は行わず、7月2日までにレポート形式で、解答を私のEメールに送信することを指示。試験問題はONLINE実施のため全て論述問題で、それなりに難しく高度な問題。例年の平均点は85~86点くらい。

◆試験問題(課題)は次の通り。

問題一、「『風土』の中で、和辻哲郎は世界を3つの風土圏として説明しています。これについて300~400字程度で述べなさい。」 問題二、「日本の宗教文化について、200~300字程度で述べなさい。」 問題三、「ルース・ベネディクトの著書『菊と刀』、中根千枝の著書『タテ社会の人間関係』、新渡戸稲造の著書『武士道』や今回の授業で学習した他の文献などを念頭に置き、"日本人とはどんな民族性の傾向をもっているのか"を300~400字程度で述べなさい。」 問題四、「『水と緑の国、日本』で富山和子氏は、"日本の国とはどんな国"だと言っていますか。300字程度で述べなさい。」 問題五、「李御寧の著書『縮み志向の日本人』、郁達夫の著書『日本人の生活文化』や今回の授業で学習した文献を念頭に置き、"日本文化とはどんな文化なのか"を300~400字程度で述べなさい。」

問題六、「日本人の自然観と中国人の自然観の違いを、"自然に対する態度"という観点から200~300字程度で述べなさい。 問題七、「牧野成一著『ウチとソトの言語文化学―文法を文化で切る』などを参考に、日本語と日本社会・文化などとの関係性を、"敬語や語順や断定回避・曖昧表現"などを例にあげて、300字程度で述べなさい。」 問題八、「谷崎潤一郎の著書『陰翳礼讃』や九鬼周造の著書『"いき"の構造』や、今回の授業で学習した他の文献などを念頭において、"日本人の美意識とはどんなものか」を200~300字程度で述べなさい。」 問題九、「日本の化粧文化の特徴について、韓国や中国と比較して、200~300字程度で述べなさい。」 問題十、「日本文化名編選読の学習を通じて、"日本の国、民族、そして日本文化"の①どんなことに興味や関心を持ちましたか。また、②そのことのどんなところに興味がありますか。300~400字程度で述べなさい。」

◆日本人の4回生の大学生がいきなりこの問題を出されても、50点以上をとるのは難しいかと思う。日本の高校や大学教育の中で、「日本の国とはどんな国なのか、日本文化とはどんな文化なのか、日本民族とはどんな民族としての傾向をもっているのか」などに関して、学習する機会が少ないようだ。日本文化学に関する私が選んだ基本文献9つは、日本理解のためにはとても重要な著作かと思う。

◆3カ月半を振り返って、ONLINE授業では、学習成果という点では、通常の教室授業の70%くらいだろうかと思う。