私が暮らす京都の自宅から車で10分くらいのところに「男山団地」がある。日本住宅公団が中心となり造成され、1972年に入居が始まってから50年ほどが経つこの団地内の種々の木々の紅葉、毎年みごとに色付きを見せてくれる。新型コロナ問題で、日本での滞在が1年近くになる今年、ここの紅葉をほぼ8年ぶりに見ることができた。
国宝「石清水八幡宮」のある男山に連なる丘陵地(男山丘陵)。この丘陵地を境に東方は京都府、西方は大阪府となる。もよりの駅は京阪電鉄「樟葉駅」や「石清水八幡駅」で、ちょうど京都の中心地「祇園四条」と大阪の中心地「淀屋橋」「梅田」の中間地点にあたる。このため大阪や京都のベットタウンとなっている。現在は、賃貸の団地棟は現在「UR都市機構(お部屋探しはURであーる)」が管轄し、「礼金なし・保証人なし・仲介料なし」「月4万円~6万円の賃貸料金」。男山団地の戸数は約8600戸、人口は約3万5千人となっている。賃貸棟群、分譲棟群、そして一戸建てからなる。
付近には木津川・桂川・宇治川の三川合流地点の背割り堤があり、全国的な桜の名所として知られる。三川が合流して淀川となる。また、団地の東方には田園地域も多く残る。団地の木々も50年経て大きくなり葉を繁らせる。まあ、交通の利便性があり、落ち着きのある自然環境にも恵まれた団地となっている男山団地の丘陵地。
丘陵地の展望の良いところからは、京都盆地とそれらを取り囲む山々である愛宕山や比叡山や北山・西山・東山の各連山、山城地方から奈良方面の山々、そして琵琶湖西岸の比良山系までもが見える。そして、大阪平野や高層ビル群、生駒山系、和歌山方面の山々や淡路島方面、神戸あたりの町や背後の六甲山系までが見渡せる。
男山団地で紅葉している木々は、楓(カエデ)、桜(ソメイヨシノ)、ナンキンハゼ、モミジバフウ、銀杏(イチョウ)、プラタナスなど。10月下旬から11月中旬頃までが見ごろになり、下旬頃まで紅葉が続く。私は11月8日にここの紅葉を見に久しぶりに訪れた。
私はこのA棟地区を校区に含む小学校に、2000年代の初頭に赴任していたことがあった。4月下旬の家庭訪問時、5階まである団地群の階段を上り下りしていたが、その頃には木々はもうすでに大きく高くなっていた。「はげ山も50年間放置すれば森が蘇る」と言われるが、ここの木々の紅葉もまた たいしたものになってきている。団地の幹線道路には欅(けやき)の並木が紅葉していて これまた美しい。
京都府内にもたくさんの紅葉が美しい団地があるが、大規模な団地といえば、ここ男山団地の他に「洛西ニュータウン」(京都市右京区)がある。ここも日本住宅公団が開発し、1976年から入居が始まった。戸数約1万戸、人口約4万人の団地となっている。ここの並木の紅葉もまた素晴らしい。(特に桂坂の並木の紅葉は見事)
京都の我が家の富有柿の木も紅葉が美しかった。10月下旬頃から紅葉が始まり、中旬に見ごろを迎え、下旬には落葉してきている。今年は豊作で100個あまりが鈴なりに実をならせた。ここに住み始めたころに70~80cmほどの苗木を植えたのだが、30年間ほどでここまでに大きくなった。私の人生は約半分だ。そして、この柿の木とともに子供たちも大きくなり成長していった。
富有柿の小枝を切って、銀閣寺界隈に暮らす娘の家に持って行き、孫たちに室内での木の枝の柿採りをさせてみた。
その孫たちが娘夫妻とともに11月15日(日)に我が家にやってきた。男山団地の「さくら公園」には「こども動物園」がある。馬(ポニー)、山羊(やぎ)、ウサギ、孔雀(くじゃく)、白鳥などがいる。下の孫娘の遙(はるか)が馬の背に乗せてもらっていた。ドングリの木もここは多く、地面にはたくさんのドングリが落ちていて、孫たちはドングリ拾いに興じてもいた。A棟地区の紅葉を見に行き、きれいな落ち葉を拾い集めてもいた。私の次の次の世代が未来に向かって成長し始めてきている。
―モミジとカエデの違いとは?―私もあまり知らなかったのだが‥‥
「紅葉(こうよう)」・「紅葉(もみじ)」・「楓(かえで)」、この3つの言葉を漢字で書くとこうなる。「紅葉(こうよう)」とは秋になり朝夕夜と日中の寒暖差が激しくなると起こる(葉の葉緑素が分解され、かつ、葉に蓄えられていた糖分が赤や黄色を生み出す色素が生成される)、葉の色が黄色やオレンジや赤になることを指すのだが、「紅葉(もみじ)」と「楓(かえで)」はどう違うのだろう。調べてみると‥‥。
紅葉(もみじ)も楓(かえで)も、同じカエデ科カエデ属の樹木の種類で、モミジ科やモミジ属は存在しない。「モミジ」とはカエデの葉の別名としての日本独特の呼び方だと言う。英語圏では、「カエデ」も「モミジ」も「maple(メープル)」と呼ばれ、日本語独特呼び方の「モミジ」は、「Japanese maple」と訳されるようだ。
日本語では葉っぱの深い切込みが5つ以上あり、掌(て)の平(ひら)を広げたような形状をしている小さめのカエデを「モミジ」と呼ぶ。そして、それ以外の切れ込みが浅く葉先の先端が極細の形状になっているものを「カエデ」と呼ぶ。カエデという日本語は、「蛙手(かえるて)」に似ている形状からきていると言われている。形状の少しの違いも名称区別表現をする日本人。細部まで自然を愛でる風情を感じさせるのが日本らしい。
美しい紅葉が見られるのは地球上でも限られた地域だ。東アジアやヨーロッパの一部、北アメリカ大陸の東部に限られる。その中でも、日本の紅葉は美しいと言われる。葉の色彩が鮮かで、かつ多様性に富んでいるようだ。欧米やロシアの紅葉は美しい。同じような樹木の紅葉がずらりと森となっているさまは壮観だ。(※亜寒帯のロシアとモンゴル、カナダ、そして北海道で見た紅葉は壮観だった。カナダの国旗は「カエデ」である。モンゴル北部やロシアでは8月下旬から紅葉が始まっていた。) だが、樹木の種類が同じものが多く、紅葉も単色となりがちだ。それに比べると日本では、赤やオレンジ、黄色、茶色、そして微妙な色合いのものなどが混在し、常緑樹の緑も混ざって、多様で美しい紅葉が見られる。
日本には落葉樹がとても多い。それは1~3万年前の氷河期に、日本列島では広葉樹が生き延びたからだと言われる。日本列島は周りを海に囲まれていたため氷河期であっても、比較的暖かい海流も海岸線を流れ、海岸線の地形とも相まって多種多様な広葉樹が生き延びた奇跡のような気象条件のあった場所だとされる。このため、世界の文明史でも「四大文明」発祥の地以外にもう一つ、「日本の縄文文明」(約2万年前~約3千年前)は特筆に値すると、今、世界史の研究者の間でも見直しも始まってきている。
つまり、広葉樹が守られた日本列島では、狩猟採集文明が永らく維持され続けた奇跡の文明があったということである。そして最近、そのような世界史の見直しもあり、「日本の縄文文明」(※青森県の三内丸山遺跡など)の歴史遺産が世界遺産として登録される可能性が高まりつつあるようだ。
温帯や亜寒帯の気候で、日本で言えば本州・四国・九州と北海道。亜熱帯の沖縄では見られない。私が暮らす亜熱帯の中国福建省でも紅葉する木々は少しはあるが、ちょっとだけ黄色みがかり、すぐに茶褐色になり落葉する。そして90%以上は常緑樹。ちよっとした紅葉かな?は、11月の時期が最も多いが、3月・4月に紅葉する木々もあり、四季の季節感を感じにくい。これは福建省の対岸にある台湾も同じかと思う。(台湾でも山岳地帯は違うかも)
季節感を尊ぶ感性が、さまざまな植物の名前を作り、ちょっした違いであっても呼称が違うという言語文化を生み出したのが日本語の世界でもある。「もみじ」と「かえで」の区別とは、そんな日本という国のことを感じさせる一つの例証なのだろうかと思う。
―街路樹や公園、住宅地や里山など、紅葉の美しい木々は―
紅葉が美しい木といえば、まず、「モミジ」と「イチョウ」があげられるが、それ以外の紅葉の美しい木が日本にはたくさんある。でも、名前はわからないということも多いかもしれないが‥。
上記の写真、左より①②はプラタナス。モミジハスズカケとも呼ばれる。スズカケの木。黄色から徐々に褐色になり落葉する。鈴のような丸い実ができる。立教大学の構内の風情を詠った「友と語らん すずかけの小径(みち)‥」の歌詞の歌はこの樹木。左より③④はモミジハフウ。名前からするとモミジの仲間?と思ってしまうが、モミジハフウはフウ科の樹木。トゲのある実はクリスマスの飾りとしてもよく使われている。トゲに触ってもそんなに痛くはない。やさしいトゲだ。左より⑤⑥はドウダンツツジ。紅葉の後半、葉っぱは燃えるような真っ赤になり、最後はえんじ色になり落葉する。
上記の写真、左より①は桂(カツラ)。楡(ニレ)とも呼ばれる。里山によく見られる。日本の大学では北海道大学はこの木が多い。丸い葉が可愛く、銀杏(イチョウ)のように真っ黄色になる。左より②③はナンキンハゼ。かなりの大木になる。葉っぱの形は、トランプの♠スペードに少し似ていて可愛い。紅葉とともに黒い皮がはじけて登場する白く小さな実も可愛い。左より④⑤はハナミズキ。木々の中ではいち早く紅葉する。黄色からさらに真っ赤に紅葉する。赤い小さな実をつける。⑥桜の中でも特にソメイヨシノは日本に多い。10月上旬ころから赤っぽく紅葉し、茶褐色になり落葉する。桜並木の多い日本では、この紅葉並木もまた風情がある。
上記の写真、左より①②は漆(ウルシ)、③④⑤はハゼ。まだ背丈が伸びていないものも美しい。大木になるとその紅葉のさまは壮観でもある。山里によく見られる。
他に紅葉が美しいのは、街路樹に多い欅(ケヤキ)。庭によく見られる南天(ナンテン)の紅葉や柿の木の紅葉。そして、稲が実り葉が黄色く紅葉するさまも壮観で美しい。ススキの野原が黄土色に紅葉するさま。紅葉する樹木や植物が他にもいっぱいいっぱいある日本列島。木の種類によって紅葉の色合いも様々。燃えるような赤、落ち着いた赤、そして黄色、オレンジ色、茶褐色。多種多様な木々や植物が混在して植物が混在するこの日本列島。
私の大学での「日本概況」の授業(3回生対象)では、「地理・地形・自然」編で、「日本の国って どんな国?!」の問いかけ、「水と緑の豊かな国、日本。」をキーワードとして中国人学生たちに講義をする。その緑が秋になると多様な紅葉の国ともなる。