瀬崎祐の本棚

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詩集「へいたんな丘に立ち」 小篠真琴 (2022/05) アオサギ

2022-06-21 22:33:52 | 詩集
第2詩集。93頁に24編を収める。
カバーには北海道在住の作者が撮影した写真が使われている。夏空の下になだらかに続く丘の稜線がおだやかだ。このような地での生活から書かれた作品が並んでいる。

「かもめを見送った日」。過疎の地で自家用車を運転できない人はバスに頼らなければならないが、収益が見込めないバス路線は廃止されてしまう。そんな状況にある地ではオンデマンドバスが導入されるという。しかし、病院へ通うおばあちゃんはどうすればいいのだろう。

   ひだり足の傷痕が ずきずきと痛んでは
   風に吹かれるたびに疼き出す

   疼きが強まると やがてじわりと雨が降った
   きょうも明日の午後からも
   雨が降ったなら体が濡れるだけ

足の便が不自由になるおばあちゃんと、古傷による話者の足の痛みの感覚が重なり合って、作品に深みを持たせていた。

「朝のひと時」は集中では珍しいファンタジー色の強い作品。食パンの耳からは2匹のうさぎがとび出し、キノコの化け物もあらわれる。絵本のように楽しい情景が展開されていた。

「つまずいた少年」。かけっこで転んだ少年は恥ずかしくて足を挫いたふりをした。すると、地球は高速自転して、

   気がつけば
   劇的ドラマの大号泣も
   メガネにスーツのエリートたちも

   とっくに
   ふるい人達に
   なりかわっていたから
   さあ
   立ち上がろう

この作品でもそうであるように、対象を見つめる作者の視点はいつも優しい。その人やそのものが、そのままの姿でそこに存在することを認めている優しさである。

ただ、あまりにもの優しさが作品から緊張感を奪っている気もしてしまう。遠くからはへいたんに見えた丘にも、ところによっては窪みがあり石が転がっているかもしれない。しかし、それを感じ取ることが作者にとって幸せなことか否かはわからないのだが。
コメント
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