瀬崎祐の本棚

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詩集「ビオラ ソロリアプリセアーナのある庭」 方喰あい子 (2021/07) 土曜美術社出版販売

2021-08-24 17:44:04 | 詩集
第6詩集。110頁に33編を収める。カバー写真にはビオラの花が映っている。

Ⅲ章に分けられたⅠには、紫陽花、ダリア、ニッコウキスゲなどのさまざまな花木を詩った作品が収めれている。それらの花木にはそれぞれにそれにまつわる人々の思い出があり、やさしい視線が投げかけられている。
橙色の君子蘭は高齢のYさんが株分けしてくれたもの。そのYさんは今は認知症になってしまったのだが、今は話者が、

   Yさんの君子蘭を株分けして
   お隣にあげたら
   何時だったか
   君子蘭が咲きましたよ
   主人がとても喜んで・・・・・・
   奥様の顔が綻んでいた

   花が終わると
   風に吹かれて株分けをする
               (「Yさんの君子蘭」最終部分)

花と一緒にやさしさも株分けをしているようだ。

Ⅱ、Ⅲには祖父母や両親を始めとした話者の周りの人々が描かれている。これまでの話者を育て、支え、そして今は話者が支えている人々がそこにいる。
「下駄箱」。祖母に連れられていった入学式の日に、いくらさがしても下駄箱にひらがなの話者の名札がない。よく似た”かたくいあいこ”はあったのだが、話者の名前はない。

   通りがかった先生に
   祖母がしきりに頼む
   「孫の下駄箱がねえんですよ。
    よおーく 捜したんですがねぇー」

読み間違いがわかって「かたくいあいこの下駄箱」に祖母はズックと草履を入れたのだった。孫のために必死になってくれていた祖母の姿は、今となっても脳裏から消えることはないのだろう。祖母の愛情があり、その思い出を大切にしている話者の愛情もここにはある。

冒頭の詩集タイトル作品で草花の世話をしていた話者は「生き物たちの 花木や草花の/命をつないでいる」と気づいている。そして巻末の作品「じりじりとした夏」では、翅が少しこわれた蝶やちいさなバッタを見て「炎天下/生き物も/わたしも/生をつなぐ」と記している。この詩集に流れているのは生命に対するやさしさだった。

コメント
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