森の案内人 田所清

自然観察「独り言」

キバナノコマノツメ(スミレ科)

2006年07月31日 | 自然観察日記
 音から推理して「黄花駒爪」と書くのだろう。面白い名前である。花弁を馬の爪に見立てたあたりその発想のユニークさが光る。黄色スミレで高山性の種である。鳳凰三山では亜高山帯から出現して山頂部まで見られた。
 キスミレの仲間でいうと、太平洋側では非常にまれで高山か日本海側にその分布が偏っている。
 太平洋側では黄色のスミレは極一部の山地でしか見られない。それも個体数は非常に少ない。私が見たものでは静岡の焼津の高草山でイチゲキスミレくらいである。高山ではキバナノコマノツメを筆頭にタカネスミレなど黄色のスミレに出会うことが多い。
 ところが、この越後ではキスミレは豊富だ。オオバキスミレが大量に群生していて、まさにキスミレの故郷といったところ。越後の一つの自慢である。
 

センジュガンピ(ナデシコ科)

2006年07月30日 | 自然観察日記
 日光中禅寺湖の千手ヶ原で発見され、中国のガンピに似ることから付けられたという。深い樹林帯を歩いていると澄み切った白色の花が疲れを癒してくれる。まさに森の妖精のようだ。そういう意味でもう少し環境にふさわしい命名していただきたかった。
 鳳凰山の帰りにオオシラビソの樹林帯で見たものだが、このときも悪天候のさなかその出会いは一服の安らぎを与えてくれた。群生するようなことはなく点々とナデシコ様の優しい花を見せてくれた。夏場、花の少なくなる頃の深い森の宝石である。

ハクサンシャクナゲ(ツツジ科) 苞葉 その3

2006年07月29日 | 自然観察日記
 苞葉にもう一種。先日の鳳凰山に登ったときに出会ったもので、ハクサンシャクナゲの葉である。新芽が展葉したものだが、全体が一つの花のように花弁状に黄色がかった白色になっている。花の付いた枝の葉が色づいているのではなく、新しく葉を広げた部分が白い。緑色の展葉も沢山あるが、このような状態のものも結構見かけた。やはり苞葉と考えていいだろう。
 シャクナゲは結構完成した花を作るし、結実も比較的いいように思うのだが、これがどういう意味を持つのかは興味津々というところ。新しい形を工夫し挑戦している姿だろうか。
 

ハンゲショウ(ドクダミ科) 苞葉 その2

2006年07月29日 | 自然観察日記
 苞葉というものを考えるとき、非常に判りやすい種だ。ドクダミの仲間のハンゲショウ。「半夏生」と書くそうだが「半化粧」の方が理解しやすい。越後に野生を知らないが庭の花としてよく栽培されている。上部の葉が白化しあたかも花弁のようである。その腋から花穂をだす。この部分のさらなる統合によって完成された花を想像するのは難しくはないだろう。

マタタビ(サルナシ科) 苞葉 その1

2006年07月29日 | 自然観察日記
 山岳道路を走っていると白い葉が目に付く。マタタビの苞葉だ。遠目からでも直ぐそれとわかる。大きな株になると数m平方くらいの白い布をかぶせたような状態になる。個体は雌雄異株で苞葉はどちらも白化するようだ(そういえばしっかり確認していない!)。
 花弁も起源は葉である。花がどういう過程で形成されてきたかを考えるとき、苞葉の存在は重要である。もちろんマタタビは独自に花を形成するが、比較的小さく目立つ花ではない。白い苞葉を持つことによって、遠くから昆虫を呼び寄せる手段に利用していると考えられるが、全体的に雑然としていて発展途上のようだ。この機能が更に発展していくとどのような形態を獲得していくのだろう。興味深いところである。

自然観察林 生きもの生態マップ の紹介

2006年07月28日 | 自然観察日記
 長岡の森林インストラクター3人で長岡市の東山自然観察林の生態マップを作成し、ようやく発行にこぎつけたので紹介したい。日野グリーンファンドの助成を受けて平成16年から始めた事業なのだが、新潟県中越大震災に見舞われて予定を大幅に遅らせての完成である。自然観察林の入園もようやく解禁になったので是非利用して欲しいと思っている。
 ごく普通の里山でそれも無理な公園化に晒された「自然観察林」なのだが、本来の越後の里山の生物を多くの写真で紹介した作品である。現場で生活している動物植物やキノコまで、全種を紹介するとはいかないまでもかなりこだわったものである。動物の担当者のM氏は凄まじい情熱を費やして通い続けた。見ごたえのある写真が多く掲載されている。想いは身近な自然の素晴らしさを知ってもらうとともに、それをどう生かし守っていくかを考えていく素材になればと願っている。
 長岡市役所・長岡市観光課・市科学博物館・市民センター・ふるさと体験農業センター・東山ファミリーランドに置かせてもらっている。2000部の限定で無料配布している。興味のあられる方は是非活用していただきたい。

コメツツジ(ツツジ科) 駒止湿原にて その11

2006年07月28日 | 自然観察日記
 駒止湿原脇の林道沿いにコメツツジが咲いていた。葉に3本の脈が目立つからオオコメツツジとされる日本海側に分布する種であろう。ツツジらしからぬものでそれと気づかれないかもしれないが、しみじみ眺めればツツジ科の特徴が見えてくる。花弁が5分裂したり4分裂したり結構あいまいでDNAレベルでどうなっているのかいぶかってしまう。変異の途中で形質が安定しない発展途上の種であろうか。
 越後でもあちこちで見かけるのだが、多くは標高1500m以下の乾燥した尾根筋に群生している感じで、日当たりがいい場所に見られるのだが、湿原の周辺の日当たりのいいところにもあるのだろうか。見つけた個体はあまり日当たりがいい場所ではなかった。

クロヅル(ニシキギ科) 駒止湿原にて その10

2006年07月28日 | 自然観察日記
 クロヅルは蔓が褐色になるからの命名で鶴とは無関係。雪国ならごく普通の植物。駒止湿原の周辺部の伐採地跡地などの明るい林や林道脇にも沢山見られる。人から見ればあまり注目されない植物だが、昆虫にとってはとても大切なものらしい。多くの蝶や甲虫が吸蜜のために群がっている。この時期昆虫の種や量が多くさらに花をつける植物が比較的少ない時期のためだろうか、過密状態に見える。ベニシジミなどのシジミチョウやチャバネセセリなどのセセリチョウが沢山訪れていた。
 

ノリウツギ(ユキノシタ科) 駒止湿原にて その9

2006年07月27日 | 自然観察日記
 ノリウツギは何処にでも見られる植物という印象で、この駒止湿原にも沢山ある。越後の山野を歩き回って、この時期のアジサイは青はエゾアジサイ、白はノリウツギと思えばいい。もっとも中越地方にはタマアジサイが分布していないから単純に区別できるし、太平洋側のヤマアジサイのような白いものが無いからである。
 ノリウツギは樹皮から和紙を作るさいに必要な「ねり」の原料となったことからこの名前がある。同じように利用されるトロロアオイも「ねり」の原料だそうだ、ノリウツギの分布していない地域ではないだろうか。
 里山から和紙の原材料であるコウゾやミツマタを調達し、そして紙すきに必要な「ねり」も里山の植物を工夫し利用する古人の知恵や技に素直に感銘を受けている。

トキソウ(ラン科) 駒止湿原にて その8

2006年07月27日 | 自然観察日記
 佐渡の朱鷺に花色が似ているところから付けられた可愛い美しい花だ。実際は花色の変化は大きく純白のものもあるという。明るい湿原なら何処にでも見られたが、湿原がどんどん開発されてなくなることが脅威で絶滅危惧II類に分類されてしまった。
 トキソウに限らず日本の野生植物はそのほとんどが絶滅危惧種といって過言でないかもしれない。植物は勝手に何処にでも生活できる訳ではない。微妙な環境との調和のもとでその生存が成り立っている。その産地のものが無くなったから、他産地のものを簡単に移植してもいいものだろうか。それを増殖して自然保護が出来たと自賛するのはやはり疑問が残る。
 同じ意味で、絶滅した日本の朱鷺の代わりに中国の朱鷺を増殖し野性に放すプロジェクトを手放しで歓迎する立場にはなれない。

コムラサキ(タテハチョウ科) 駒止湿原にて その7

2006年07月26日 | 自然観察日記
 駒止湿原は、ほぼ中央部に林道(農道?)が走っている。開拓のためこの湿原を牧場か何かにしようと試みた感じである。途中で断念したのだろう、かろうじてこの湿原が残された。その林道を使い駐車場まで戻るのだが、この間様々な昆虫が飛来して蜜などを吸っている。
 コムラサキは日本の国蝶のオオムラサキに対比しての命名で、なかなか綺麗な輝きを持つタテハチョウである。テングタテハも目撃したが、こちらはカメラに収めることが出来ず残念だったが、いずれも久しぶりに眼にすることが出来た。駒止湿原は蝶の集まる湿原である。

キンコウカ(ユリ科) 駒止湿原にて その6

2006年07月26日 | 自然観察日記
 高山湿原では好く見られる植物、というより高山性の湿原には無くてはならないもの。しばしば群生して、ニッコウキスゲほどではないにしろ黄色い絨毯になる。キンコウカは「金光花」、柔らかい黄色い花穂が優しい。しかし、かなりな毒成分を持つことが知られている。
 私は沢歩きをするが、よく沢の切り立った崖の水が滴り落ちるようなところにこのキンコウカを見るのだが、岩肌とこの黄色が結構マッチしいい景色になる。

カキラン(ラン科) 駒止湿原にて その5

2006年07月25日 | 自然観察日記
 カキランがあった。全国の湿原や草地に見られるというが、それほど頻繁にでてくるものでもない。湿原のラン科植物としてはトキソウやアサヒラン・トンボソウのほうが馴染みが深い。結構大型の植物で駒止湿原では水でひたひたになるところより上部に生えている。ヨシなどと一緒であった。この湿原が乾燥化が進みだしている一つの指標かもしれない。近縁のエゾスズランもみかけたがこちらは花が付いていなかった。

ヒオウギアヤメ(アヤメ科) 駒止湿原にて その4

2006年07月25日 | 自然観察日記
 アヤメはどちらかといえば陸生の植物だが、このヒオウギアヤメは湿原の植物。湿原にはカキツバタなども見られるのだが、今回は確認していない。
 アヤメは花弁の根元に網目状の文様があるのが特徴で、カキツバタやノハナショウブには網目状の文様はないからそれで判断する。

オオチャバネセセリ(セセリチョウ科) 駒止湿原にて その3

2006年07月24日 | 自然観察日記
 そのセセリチョウの吸蜜の様子をアップした。よく見ると、花弁とガクの隙間から管口を花筒の奥にある蜜線まで伸ばしているように見える。これでは、キスゲにとっては何の恩恵もない。花筒正面から入ってもらって花粉まみれになって吸蜜してもらわないと受粉のためのご褒美の蜜が無駄になる。
 何処で覚えたのかセセリチョウ、面倒くさい受粉なんかに関わらず花の構造の弱点を見つけて蜜を横取りしていることになる。
 花は昆虫と共進化することでここまで発展してきたのに、これではその関係を維持できない。さて、次ぎに花はどのような手段を講じてこの厄介者を攻略するのだろうか。

*ユリ科の花は6枚の花びらがあるが、正確には内側の花弁3+外側のガク3の6枚構成になっている