《創られた賢治から愛すべき真実の賢治に》
以前〝上郷・六角牛〔盆地に白く霧よどみ〕〟において一度触れたことだが、文語詩〔盆地に白く霧よどみ〕の下書稿㈠が、
そこは盆地のへりにして
稲田はせばく水清く
藻を装へる馬ひきて
ひとびと木炭ととのふる
東は仙人六角牛
洞に水湧き雲湧きて
南なだらの高原に
黄金の草こそ春は鳴れ
そこに五つの窓もてる
宿直かねし教室の
やどり木つけし栗の木の
うちめぐらして建てるあり
とは云へなれがそのひとみ
かしこに朽ちんすがたかな
いざかしこにてさびしさを
青空にこそ織りて来よ
<『校本宮澤賢治全集第五巻』(筑摩書房)より>稲田はせばく水清く
藻を装へる馬ひきて
ひとびと木炭ととのふる
東は仙人六角牛
洞に水湧き雲湧きて
南なだらの高原に
黄金の草こそ春は鳴れ
そこに五つの窓もてる
宿直かねし教室の
やどり木つけし栗の木の
うちめぐらして建てるあり
とは云へなれがそのひとみ
かしこに朽ちんすがたかな
いざかしこにてさびしさを
青空にこそ織りて来よ
と、同じくその下書稿㈡が、
凶作地
そこは盆地のへりにして
稲田はせばく水清く
馬は黒藻をよそほへり
やどり木吊けし栗の下
丘に五つの窓もてる
宿直をかねし校舎あり
髪やゝ赤きうなゐ<*1>らの
白たんぽゝの毛を吹かん
とは云へなれがそのひとみ
そこに朽ちなんすがたかは
そらは晴れたりなれを祝ぐ
<『校本宮澤賢治全集第五巻』(筑摩書房)より>稲田はせばく水清く
馬は黒藻をよそほへり
やどり木吊けし栗の下
丘に五つの窓もてる
宿直をかねし校舎あり
髪やゝ赤きうなゐ<*1>らの
白たんぽゝの毛を吹かん
とは云へなれがそのひとみ
そこに朽ちなんすがたかは
そらは晴れたりなれを祝ぐ
となっていて、この「そこに五つの窓もてる/宿直かねし教室の」とか「丘に五つの窓もてる/宿直をかねし校舎」とかは、澤里武治が当時勤務していた上郷小学校をモデルにしていると巷間言われているようだ。ところが、その頃の同校はそんな小さな建物ではなかったということだから、この学校のモデルは当時いくつかあった上郷小学校の分校<*1>のうちのいずれかのことではなかろうかと推測し、しかもここで詠われている人物は巷間澤里武治とされているようだが、それは高瀬露の可能性もあると私は考えていた。それは、賢治は澤里武治に会うために一回だけ昭和6年に遠野に来たことがあるということだが、賢治は昭和7年に上郷小学校に露を訪ねてきたという証言もあるからだ。
ところがこの度、高瀬露の上郷小学校時代の勤務形態を知ることができて、
昭和7年3月31日 上郷高等尋常高等小学校訓導
昭和8年3月31日 休職
昭和9年3月31日 復職
昭和9年3月31日 達曽部尋常高等小学校訓導
ということであり、露の上郷小学校勤務は昭和8年~9年の2年間だが、昭和8年度は休職しているし、昭和9年度には復職しているが同日に達曽部小学校に異動しているから、実質的な勤務は一年間だけであった。おのずから分校勤務もないと判断できる。昭和8年3月31日 休職
昭和9年3月31日 復職
昭和9年3月31日 達曽部尋常高等小学校訓導
したがって、この〔盆地に白く霧よどみ〕に詠まれているモデルが高瀬露の可能性はほぼ皆無であろうことがわかった。となれば、澤里武治の上郷小学校勤務時代に武治が分校に勤めていたことがあるか、それともないのかが今度は知りたくなってきた。
<*1:註> 当時上郷小学校には次のような分校があったようだ。
・上郷小学校平倉分校
・上郷小学校佐比内分校
・上郷小学校細越分校
・上郷小学校来内分校
続きへ。
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《鈴木 守著作案内》
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◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。
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