(前回からの続き)
前回、「カブノミクス」(「アベノミクス」を表現したわたしの勝手な造語で、そのプラス効果が「株のみ」ということ)の年金基金を使ったリスク資産投資のスタート日は、日銀「追加緩和」が発動され、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がリスク投資偏重の新しい運用ポートフォリオを公表した2014年10月31日、そしてその投資の「発射台」すなわち内外の株や外債を買い上げていくうえでのゼロベースとなったのは同日の下記市況値(終値):
日経平均:16413.76円、TOPIX:1333.64
ダウ平均:17390.52ドル、S&P500種平均:2018.05
ドル/円:112.32円
となっていると書きました。これを換言すると、運用資産の価額がこれら発射台数値を下回ったら(この数値に近い水準まで下がったら)上記リスク投資は明らかな失敗、つまり年金基金が運用損を抱え込むことになってしまうことになります。したがってカブノミクスを推進する安倍政権・黒田日銀は上記発射台を「防衛線」のように強く意識しているはずだと推測するわけです。その根拠が2月11日以降の為替の荒っぽい動き。110円に向かって急速に下がっていたドル円が突如、2円あまりも急騰して112~113円台に戻ったのはおそらく政府・日銀が為替介入したからでしょう(両者は介入の有無を明らかにしていないが)・・・この「112円」ラインを死守するべく・・・
ところで、リスク資産投資はリターン極大・リスク極小を図る観点から当然、底値・安値で買いを入れ、ピーク・高値で手仕舞う、というスタンスで取り組みたいもの。その元手が自己責任の私財ではなく、多額評価損の発生がけっして許されない国民の年金原資であればなおさらです。では上の発射台がそんなリスク投資にふさわしい安値圏といえる水準だったのか・・・?
まずは株価です。以前も書いたようにアベノミクスの実質的スタートは2012年11月、ということで同月末日の日本の株価(終値)は、日経平均9446.01円、TOPIX781.46です。これらに対する上記発射台の値は日経平均で73.8%、TOPIXで70.7%も高くなっています。いっぽうこの間(2012~2014年)のわが国の経済成長率はこちらの記事に書いたとおりの低迷ぶりで、世界共通基準のドルベースでは20%以上もの超マイナス成長・・・ということだけでも分かるとおり、発射台の株価ですらすでにファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から大きく上方に乖離した「バブル」価格だったことが明白です。
アメリカの株価も同様、いやそれ以上にバブリーです。米株価は2008年秋のリーマン・ショック後の混乱が(とりあえず)落ち着きつつあった2009年3月を底(ダウ平均6469.95)に長期上昇トレンドを描いてきました。もちろんその上昇率(169%!)も米実体経済のパフォーマンス(経済成長率など)を大きく上回るもの。ということは2009年3月から5年7か月も経った2014年10月時点の株価もまたバブル水準とみるべきでしょう。実際、そんなバブルのあまりの膨張ぶりを警戒したからこそ同月29日、FRBは株価押し上げエンジンとなったQE3を終えたわけで・・・
つぎに為替レートです。上記のように発射台となったドル/円は112円あまり。では2014年10月の実質実効レートはどうだったかというと同74.48円!・・・つまり市場レートは実質実効レートに対して50%もの「超」円安ドル高水準です。てな具合で、外貨建て資産投資も異常なほどにドル高の時点から派手に開始されたことが分かるわけです・・・
以上からいえるのは、政府・日銀の後押しを受けたGPIFによる年金基金を元手にしたリスク資産投資はスタート時点からすでに底値・安値とは真逆の高値、それもピーク値水準だったこと。ようするに、そんな株高ドル高の局面から始められたカブノミクスの公金を投入した内外の株や外債の買い上げは・・・その初っ端から、とんでもないくらいの「高値掴み」で、評価損を被るリスクがきわめて高いものだった、ということです・・・