(前回からの続き)
近い将来、ギリシャをはじめとするユーロ圏重債務国の債務整理(借金棒引き)および金融システム救済等のため、ユーロ圏各国には恐ろしいほど巨額の財政支出が必要となるだろう、と前回、綴りました。もちろんそんな大金、ユーロ圏のどの国も用立てすることはできません(「いま」ならともかく、当該債務額が膨張する今後はドイツですら難しいだろう)。
そこで登場するのが・・・「最後の貸し手」ECB(欧州中央銀行)です。で、その各国を救うための手段とは・・・いわずとしれた「財政ファイナンス」・・・って、建前上は(?)ECBにはこれができないことになっている(マーストリヒト条約で禁じられている)のですが、以下のような「グレー」なオペレーションを繰り出して、財政危機に陥った国への資金供与を行う(つまり、限りなく財政ファイナンスに近いことをやる)のではないか、と危惧(?)しています。ECBとしては苦しいところですが、そうでもしないとドロップアウト(デフォルト)する国が出ちゃいますからね・・・。
まずは、QE(量的緩和策)のヴァージョンアップです。ECB(と各国中銀)は、借金利回りの上昇を食い止めるため(?)、今年3月からQEを通じてユーロ圏諸国の国債を買っていますが、ヤバい国と大丈夫な国の違いが明瞭となってきそうなこの先はもっとメリハリをつけるのではないか。つまり前者の国債を後者よりも多く買う、みたいなことをやりそうだ、と・・・。もっともこのQEには国債の全発行額に対する買い入れ量の上限が規定されているから、重債務国の国債だけをひたすら購入するなんてことはちょっと難しいかも・・・
そこで個人的に「ありそうだな」と想像しているのが、ESM(欧州安定メカニズム)債券の購入です。ESMはユーロ圏で危機に陥った国の救済に必要な資金を債券の発行によって確保しますが、今回冒頭のような巨大リスクの発生局面では調達金利が上がって十分な金融支援ができなくなるおそれがあります。そこでECBが投資家に代わってESM債を買い取り、潤沢なマネーをESMへ・・・というよりはESM経由で支援要請国へ供給します。このやり方ならば、これは国債の直接買い取りではないから財政ファイナンスには当たらない、といえる・・・(かな?)。
さらなる手は、すでにギリシャに対して実行しているELA(緊急流動性支援)の拡大展開です。その本来の目的は、担保の拠出と引き換えに、財政危機国の民間銀行に対して預金引き出し等に応じられるだけの流動性を提供するものですが、一方でこのおカネを使ってこれら銀行に当該国の新規国債を買わせるという策もあり得るのではないか・・・(こちらの記事に書いた想定シナリオのとおりです)。これだって、国債を買うのは銀行であってECBではない、と言い訳できそう・・・。
・・・うーん、無い知恵絞って考えてみたけれど、やっぱり無理がありますね。これらのいずれも、あるいはその他のスキームを編み出したとしても、すべては事実上の財政ファイナンスですよ・・・。
それでもユーロ圏が加盟国すべてのデフォルト&ユーロ圏離脱の阻止を決断した以上、ECB・・・のマリオ・ドラギ総裁は上記奇策(?)を含めてとにかく「行動」するしかありません。で、その行動とは・・・「けっして財政ファイナンスではない!」と強弁しながら、そこら中にある巨大債務の穴を埋めるためにひたすらユーロ札を刷り続けることです。まさに「スーパーマリオ」のような異次元緩和、ではなく異次元感覚な動きに違いありませんが、これこそ通貨の番人たる中銀の自殺行為―――通貨に対する信認の崩壊すなわち「ハイパーインフレ」に向けた絶望的なアクション・・・。
・・・かくしてユーロは短い生涯を終え、複数の通貨に分裂することになりました―――これがユーロに対して描く私的な未来予想図です。