sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:落下の解剖学

2024-03-01 | 映画


これは確かに良い映画だけど、こういう映画が満席になるのはカンヌの力よね。
たくさんの人が、素晴らしくうまく作られた映画を見にきてくれるのはありがたいんだけど、
カンヌと聞いて見に来た人がスヤースヤーと寝息を立てて寝るのはやめて。
なぜ寝息って普通の呼吸より大きな音なのか・・・(この月2度目でした)

さて、映画ですが万人向けじゃないとは言わないけど、
見る人によって理解の深さの幅がかなり出る映画と思いました。
どんなものでもシンプルな人はシンプルにしか見れないし複雑な人は複雑に見てしまうけど
この映画はその幅をより広げてしまう作品です。

雪深い家の窓から、作家志望の男が転落死し、第一発見者は視覚障害のある11歳の息子。
自殺か他殺か事故か。
人気作家である妻が疑われることになり、裁判が進むにつれ隠されていた事実が明るみに出て
この家族の、最初に見えていたのとは別の面が次々に現れてきます。
それぞれの嫉妬、恨み、軽視、不満、愛情…
でも最後の判決が正しいのか、あるいは誰かが嘘をついていて真相は違うのか、
映画は何も示唆しません。
事件の真相や裁判の行方より、裁判の中で暴かれていくさまざまな出来事から、
それぞれの人物とその複雑な関係、そして夫婦とは、愛とは、を想像させ考えさせるだけです。
観客に最後まで判断をさせないような演出が見事で、
安易な判断ができないままの状態でフラットに見ることで、
現実の人生がそうであるように、世界の複雑さをそのまま味わうことになりますね。

大きな犬がでてきますが、この子の演技が素晴らしく、パルムドッグ賞(!)を取ったそうです。
あと、雪山の中の家、最初に妻がインタビューを受けるシーンでは素敵な別荘のように見えたけど
その後あまり良くない感じの雑然とした感じがわかってきます。
趣味のいい夫婦の素敵な家になるポテンシャルのある家なのに、金銭的な理由からかなにか
ちゃんと手をかけてもらってない、雑に扱われている、大事にされてない感じがある。
安物で間に合わせているものが多そうな家に見えました。
その辺も細かく良く作られている映画だった。

ヒロインは最初キリッとした知的で魅力的な美人に見えたけど
だんだん疲れてただのおばさんになり美人に見えなくなった気がする。うまい。
そして弁護士役の人は、個人的に超超好みの顔なので、彼の顔を見るためにもう一度見たいくらい。笑

以下はネタバレ少々




11歳の息子に親の性生活の話を聞かせるのはつらいなぁ。この子が気の毒で仕方なかった。
わたし個人的には、判決通りは自殺で妻は無実だと思う。
夫婦が破綻してたとしてもまだ愛情はゼロではなかったし、
子供の世話や家事を主にしててくれた夫を殺して彼女が得することがあまりないし
あの状況で自分が疑われるのは必至だったし、殺すにしても別のやり方をしたでしょう。
最愛の息子を第一発見者にするほどの鬼母ではないしね。
ただ冒頭の様子はかなり不自然だったので、それも断言できない気持ちにさせる映画だったな。