店には、マスターとヤマさん、加藤のおじいちゃんの三人。
このメンバーだけというのは、久し振りだ。
「ヤマさんのおかげで久実さんの仕事も決まったし、やれやれだね。」と、加藤のおじいちゃん。
「オレのおかげというより、カミさんのおかげかな?」とヤマさんが言った。
「それにしても、久実さん、ヤマさんの名前が山吹だって知らなかったみたいで、アルハンブラの社長に言われて、初めて分かったみたいですよ」と、マスターが言った。
加藤のおじいちゃんが、「この店では、ヤマさんで通ってるからね」と、笑った。
加藤のおじいちゃんに、お替りのコーヒーを注ぎながら、マスターが、「ところで、空君のお兄さんの名前が、思い出せなくて」と、尋ねた。
空君のお兄さんだから、陸とか、海とかかな?とヤマさんが、混ぜっ返す。
「せいだよ。星って書いて、せいって読ませるんだよ。」
「ああ、そうでした。星のきれいな夜に生まれたんでしたね。」
マスターは、漸く思い出したと言った。
「星と空で、星空なんて、ロマンチックな名前だよね」と柄にもなくヤマさんが感動したように呟いた。
そんな空気を一変させるように、ヤマさんのスマホが、けたたましく鳴った。
「また、油売ってるんでしょ?」
奥さんの元気の良い声が、スマホから漏れてくる。
はいはいと言いながら、ヤマさんは、軽く手を上げて、店を出て行った。