名前・・・。83

2021-06-24 17:41:27 | 小説

店には、マスターとヤマさん、加藤のおじいちゃんの三人。

このメンバーだけというのは、久し振りだ。

「ヤマさんのおかげで久実さんの仕事も決まったし、やれやれだね。」と、加藤のおじいちゃん。

「オレのおかげというより、カミさんのおかげかな?」とヤマさんが言った。

「それにしても、久実さん、ヤマさんの名前が山吹だって知らなかったみたいで、アルハンブラの社長に言われて、初めて分かったみたいですよ」と、マスターが言った。

加藤のおじいちゃんが、「この店では、ヤマさんで通ってるからね」と、笑った。

加藤のおじいちゃんに、お替りのコーヒーを注ぎながら、マスターが、「ところで、空君のお兄さんの名前が、思い出せなくて」と、尋ねた。

空君のお兄さんだから、陸とか、海とかかな?とヤマさんが、混ぜっ返す。

「せいだよ。星って書いて、せいって読ませるんだよ。」

「ああ、そうでした。星のきれいな夜に生まれたんでしたね。

マスターは、漸く思い出したと言った。

「星と空で、星空なんて、ロマンチックな名前だよね」と柄にもなくヤマさんが感動したように呟いた。

そんな空気を一変させるように、ヤマさんのスマホが、けたたましく鳴った。

「また、油売ってるんでしょ?」

奥さんの元気の良い声が、スマホから漏れてくる。

はいはいと言いながら、ヤマさんは、軽く手を上げて、店を出て行った。

 

 

 


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