「マスター、加藤さんのお庭のツツジご覧になった?」
冬子さんが、淡いピンクのストールを撒いて、マスターの店にやって来た。
「昨日、買い物帰りに、門のあたりから見せて頂いたけど、今が盛りですね。」
濃いピンクや、白、オレンジなど何種類かのツツジが、見事だ。
新聞ごしに顔をだした加藤のおじいちゃんが、「たいして手入れもしてないんだけど、良く咲いてるよね」と、他人事みたいに言っている。
何時もの席に座った冬子さんに、マスターが、コーヒーを運んでいくと、「はい、これこの間の
筍ご飯のお礼」といって、和菓子屋の包みを、差し出した。
筍は、ヤマさんの差し入れだからと、マスターが遠慮すると、それでもあんなに美味しい筍ご飯は、マスターじゃなきゃ、作れませんよと言って、改めて、包みを渡した。
マスターが、包みを開けると、柏餅が現れた。
緑色の方が、粒あんで、白いほうが、漉しあんですよと、冬子さんが説明してる。
加藤のおじいちゃんにも勧めると、コーヒーに、柏餅は、合うのかなあ?と首をひねりながら口を運んでいる。
「あら、美味しい。自分で買ってきて言うのも、なんですけど、意外に柏餅とコーヒーって、合うわね」と冬子さんが言った。
マスターが、「コーヒーは、煎餅にも合うし、どら焼きにだって会いますよ」と付け足す。
「確かに、上手いよ」と、加藤のおじいちゃんもご機嫌だ。
「これ、あそこの和菓子屋?」
加藤のおじちゃんが、冬子さんに、尋ねてる。
「ええ、松ぼっくりのですよ。」
「店の名前は、ちょっと変だけど、味は良いんだよね。」
加藤のおじいちゃんの言い草に、マスターと冬子さんが、声を上げて笑った。
松ぼっくりは、老夫婦二人でやっている小さな和菓子屋だけど、この辺りでは、評判の店だ。
ツツジを愛で、柏餅に舌鼓を打つ、小さな幸せ・・・。