冬子さんが、ラッピングされたピンクの花の鉢を、大事そうに抱えてやって来た。
おはようございます。
マスターが、ドアを、押さえながら、挨拶した。
冬子さんは、花の鉢を、カウンターに、そっと置いた。
「駅前の花屋さんで、売っていたのよ。綺麗でしょ?」
ルピナスですね。マスターが、答える。
「流石、マスターね。私の知り合いの男の方で、チューリップくらいしか、知らない方がいるわよ。」と、言って褒めた。
「出窓のあたりにでも、飾ってあげて」と、冬子さんが言った。
コーヒーの準備をしていたマスターが、私が頂いちゃって良いんですかと、尋ねた。
「私、一人で愛でるより、皆さんに見て頂いた方が、花も、喜ぶわよ。」
二人が、そんなやり取りをしている所に、散歩帰りらしい年配の客が、入って来た。
目ざとく、ルピナスの花を見つけると、綺麗な桜草ですねと、声を掛けた。
マスターは、笑いを堪えながら、ルピナスって、言うんですよと、客に教えた。
冬子さんは、何時もの席に戻り、素知らぬ顔で、☕を啜った。