読書日和

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「何者」朝井リョウ

2014-08-02 01:45:01 | 小説
運良く図書館で巡り会った一冊です。
今回ご紹介するのは「何者」(著:朝井リョウ)です。

-----内容-----
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」
就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。
学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……
自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。
この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。
影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。
第148回直木賞受賞作。

-----感想-----
御山大学に在籍する5人の就職活動の物語です。
語りは二宮拓人による一人称。
拓人は大学の「劇団プラネット」でかつての友・烏丸ギンジとともにツートップを張っていましたが、現在は引退しています。

拓人とルームシェアで同居しているのが神谷光太郎。
OVERMUSICという学生バンドのヴォーカルで、冒頭の学園祭で引退ライブをやっていました。
明るくおちゃらけたところがあり、ムードメーカー的な存在です。

アメリカ留学から帰ってきたのが田名部瑞月。
光太郎と瑞月は以前付き合っていました。
ちなみに拓人も瑞月のことが好きで、何度も瑞月への伝えられない想いが綴られていました。

彼氏、彼女で同棲しているのが宮本隆良と小早川理香です。
小早川理香が瑞月と友達で、それがきっかけとなってこの5人が集まることになりました。
5人は全員ツイッターをやっていて、それぞれアカウントを交換しました。
以後、この5人に烏丸ギンジを加えた6人のツイート(つぶやき)が物語によく登場します。
烏丸ギンジは大学を中退して劇団「毒とビスケット」を立ち上げていて、拓人がギンジのことを気にしているため、ツイートが登場するようです。
拓人が頻繁にギンジのツイッターでのつぶやきを見ているということだと思います。

ほどなくして12月になり、就職活動が始まります。
「12月1日に就職サイトがオープンするからね。やっぱそっから本格始動って感じだよ」とあったのですが、これはリクルートのサイトのことを言っているのかなと思います。
最初から凄く気合いが入っているのが理香と瑞月で、光太郎は何も準備していないと言って焦っていて、拓人はどこか冷めた感じ、隆良は就職活動自体しないと言っていました。

隆良の持論は凄く痛々しかったです。
「俺は就活しないよ。去年、一年間休学してて、自分は就活とか就職とかそういうのに向いてないなって分かったから。いま?いまは、いろんな人と出会って、いろんな人と話して、たくさん本を読んでモノを見て。会社に入らなくても生きていけるようになるための準備期間、ってとこかな。原発があんなことになって、この国にずっと住み続けられるのかもわからないし、どんな大きな会社だっていつどうなるのかわからない。そんな中で、不安定なこの国の、いつ崩れ落ちるのかわからないような仕組みの上にある企業に身を委ねるって、どういう感覚なんだろうって俺なんかは思っちゃうんだよね。いまちょうどコラムの依頼とかもらえるようになって、人脈も広がってきたところ。ていうか逆に聞きたいんだけど、いまこの時代で団体に所属するメリットって何?」

これに対し、拓人は以下のように分析していました。
個人の話を、大きな話にすり替える。そうされると、誰も何も言えなくなってしまう。就職の話をしていたと思ったら、いつのまにかこの国の仕組みの話になっていた。そんな大きなテーマに、真っ向から意見を言える人はいない。こんなやり方で自分の優位性を確かめているとしたら、隆良の足元は相当ぐらぐらなんだろうな、と俺は思った。

話のすり替えはまさにそのとおりで、いきなり原発を出してきて、この国は危ない、危ない国の企業に所属する意味はない、よって所属しない俺こそが正しい、というような主張をしています。
私が特に痛々しいと思ったのが、最後の「逆に聞きたいんだけど、いまこの時代で団体に所属するメリットって何?」の部分。
これは質問をしているというより、何で団体になんか所属するの?と相手を馬鹿にしている意味合いが強いです。
ここで思うのが、本当に自分の行動に自信があるのであれば、わざわざこんなことを言って必死に防御壁を作って、自分を優位に立たせようとはしないだろうということ。
自信がないから、何とかして自分を優位に立たせたくて、こういう発言になるのだと思います。

拓人は「昼はカフェ、夜はバーというスタイルのチェーン店」でアルバイトをしています
これは「PRONT」のことを言っているのだと思います。
ここで一緒に働いている「サワ先輩」は御山大の理系の大学院の一年生で、拓人はだいぶお世話になっています。
物語の後半で印象的な場面のある人です。

この作品は拓人の一人称なだけあって、拓人が相手の話を聞きつつ心の内側で感じていることが、かなりリアルに描き出されています。
上記の隆良の発言への分析などがそうでした。
拓人が見ている人の言動への心のざわつきがしばしば描かれていて、読んでいるほうも心がザワザワしてきます
またこの作品では「何者かになれる」「何者にもなれない」というように、「何者」という言葉がよく出てきます。

拓人は心の中ではかなり色々なことを考えていますが、実際に話すときは言葉を選んでいて、真の心の内はほとんど見せていません。
そんな拓人が自分というものを作らずに話せる相手が瑞月さんで、これが瑞月さんに惹かれる理由なのかなと思います。

理香もなかなか際どい就職活動をしていました。
ツイッターにはメールアドレスからアカウントを検索できる機能があるのですが、理香はこれを使って面接の前にOB訪問した時に教えて貰ったアドレスからツイッターのアカウントを検索し、ツイッター上で「今日は御社の面接に行ってきます。どんなお話をさせてくださるのかすごく楽しみです」とアピールしていました。
光太郎が拓人にこの話をして、二人とも理香のその方法に引いていました。
これは理香としては「使えるものは全て使い、全力でぶつかる」という就職活動への強い攻撃的姿勢の表れだと思います。
問題は相手がどう思うかで、アドレスからツイッターのアカウントまで検索してアピールしてくるとは意識の高い子だなと思うか、そこまでするかとドン引きするかはどちらになるか分からないです。
理香の就職活動は強い攻撃的姿勢で一貫していて、面接の際に話す時

「私は留学をしていましたが~」
「私は海外の企業でインターン経験がありますが~」
「私が学際の実行委員の広報班長をしていたころの経験からすると~」
「私がカンボジアに学校を建てるプロジェクトに参加していた経験をもとに話せば~」

と、話す時に必ず自分のアピールをしてから話し出していました。
これも聞いている面接官にウザがられる可能性があり、諸刃の剣です。
まさに目一杯まで、マイナスに作用するかも知れない領域まで攻撃的姿勢を高めて就活に当たっていっていました。

面白かったのが、料理を作っていた光太郎が
「パスタに使うインスタントのミートソースはカレー粉が入っていないだけで、キーマカレーの材料とあとは一緒」
と言っていたこと。
そうしてミートソースにカレー粉を入れて、その他チーズやナスを加えたりしてキーマカレーを作ってしまいました。
しかも意外と美味しいらしく、周りからは好評でした。
読んでいたら何となく食べてみたくなりました(笑)

そしてこの物語で屈指の見所だったのが、瑞月さんがある人物に語る(諭す)場面。

「私たちはもう、たったひとり、自分だけで、自分の人生を見つめなきゃいけない」

「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから」

斜に構えていることに対する、物凄く説得力のある言葉の数々でした。
この部分は数ページに渡って続く、名場面でした。
ぜひこの作品を読むことがあればこの部分に注目してほしいなと思います。

そして最後、すごく印象的だったのが以下の言葉です。
「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ」

就職活動であれこれと武装してみたところで、何者にもなれるわけではなく、自分はあくまで自分です。
現状の自分自身と向き合い、理想の自分とのギャップを受け止めて、受け入れて、理想の自分に近付くべく努力できたとしたら、就活もその先の社会人生活も、きっと良い結果になると思います。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
暑いですね (latifa)
2014-08-07 14:07:21
はまかぜさん、こんにちは!
この本、図書館に普通にあったんですね^^
私が借りた時は、順番待ちが凄かったのだけれど・・。

朝井リョウ君って早稲田大学出身だから、良い処にポンポン就職できるんじゃないのかなーなんて思っていたら、近年は早稲田でも就職が楽じゃないそうで・・・。

フェイスブックとか、資格とか留学とか、色々最近の就職や学生事情などがかいま見れて興味深い本でした。
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latifaさんへ (はまかぜ)
2014-08-08 00:29:15
こんにちは!
図書館に行ったら偶然この本に巡り会えてラッキーでした^^
早稲田でも就職が楽ではないのですか。
やはり競争が激しいですよね。
朝井リョウ君が凄いのは、作家として小説を書きつつ、就職して会社にも行っているところですね。
会社の仕事で経験したことはきっと今後の作品にも生かされてくるのではと思います。
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