読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「居酒屋ぼったくり6」秋川滝美

2017-01-14 19:19:16 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり6」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
暖簾をくぐってほっと一息。
今夜は何を頼もうか。
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある――
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の第6巻!

-----感想-----
今作は次の六編で構成されています。

秋休みの花火大会
振り込め詐欺事件
町の本屋
釣り合わぬ恋
路地裏の出来事
似て非なるもの

「秋休みの花火大会」
「居酒屋ぼったくり」には秋休みがあります。
普段の「ぼったくり」は日曜日以外は全て営業なのですが、10月の体育の日を入れた三連休だけは秋休みとして全て休むことにしています。
妹の馨は姉の美音に、せっかくの秋休みなのだから要に旅行に連れて行ってもらえと言ってきます。

この話では鮭の缶詰を使った鮭団子が登場しました。
鮭缶をボウルに開け、そこに細かく刻んだ玉葱とつなぎの片栗粉、胡椒を少々入れ、さらに風味を出すために醤油を数滴入れてからボウルの中身をかきまぜ、団子にして揚げれば完成です。
簡単なメニューですがなかなか美味しそうでした。

三連休初日、要から電話がかかってきます。
三連休になったのを知らせなかったことを怒っていました。
美音は三連休も全て仕事でさらに体育の日には出張にも行く要を気遣ったのですが、要としては「どこかに連れていって」と言ってほしかったようです。
美音と要が付き合うようになり、段々とラブコメ要素が強くなってきているなと思いました。

要が北関東のとある町で行われる競技花火大会を見に行かないかと誘います。
何と要は最前列の桟敷席を押さえていました。
物凄い大迫力の花火を見ることができ、この桟敷席での花火を見てみたいなと思いました。
古来、『花火は江戸の花』と言われている。
この言葉が興味を引きました。
「夏ともなれば、東京のあちこちで花火大会が開催される」ともあり、たしかに東京の花火大会は数が多く、さらに花火が1万発以上も上がる大規模花火大会がいくつもあるのも凄いことだと思います。


「振り込め詐欺事件」
先日オープンしたばかりのショッピングプラザ下町に出掛けた美音は、ATMの前で馨が年配男性と押し問答しているところに遭遇します。
年配男性は「孫が今日中にお金を振り込まないと会社を首になってしまうと電話をかけてきた」と言っていて、典型的な振り込め詐欺でした。
馨はATMの操作の仕方を聞かれたのですがどう見ても振り込め詐欺のため何とかして男性を思い止まらせようとしていました。

ブリとハマチの違いは興味深かったです。
成長するにつれ呼び名が変わる魚を出世魚と呼び、大きさが80センチ未満ならハマチ、80センチ以上ならブリになります。
また、ハマチは関西ではハマチ、関東ではイナダと呼び、東と西で呼び方が違うのも興味深かったです。
ただ寿司屋などに行くと関東でも普通にハマチとして売っていたりもします。

この話では「ぼったくり」常連の植木職人のマサが、奥さんのナミエが家に一人で居る時に振り込め詐欺の電話がかかってきた話をしていました。
息子のふりをした電話だったのですが、代理の者が家にお金を貰いに行くという電話に対し、騙されたふりをしてそのまま警察に電話して、犯人が家にやってきたところで張り込んでいた警察に逮捕してもらうという凄い対応をしていました。
中にはこういった物凄く機転の効く人もいるのだと思います。


「町の本屋」
商店街に「葛西書店」という小さな本屋があるのですが、この本屋が利用客減少により閉店することになりました。
「ぼったくり」常連のアキラは電化製品の取り付けを請け負う工事会社でエアコンの取り付けを専門にして働いていて、葛西書店はアキラが初めて一人で担当することになったお客さんで、故障時の対応もしているのでかれこれ10年の付き合いになります。
その葛西書店の店主、タケオが店の前を通りがかったアキラに近々店を閉店するつもりだと教えてくれました。
タケオが「小さい本屋はなかなか本を買ってもらえない」と言っていて、これはたしかにそう思います。
最近ではコンビニでも漫画や雑誌だけでなく小説まで売られるようになっていて、コンビニに置いていない小説やその他の本も品揃えの豊富な大型書店に買いに行く人が多いようです。
現在の書店業界の状況として、発行部数は減っているのに発行される本の点数自体は増えていることが書かれていました。
なので本の回転が早すぎるのが実態で、入荷して店頭に並べた本が次の入荷本が入ってきたことによりすぐに姿を消すことになってしまいます。
これは「書店ガール」のシリーズでも書かれていたことがありました。
また、「馴染みの店で顔を合わせて買うよりも、ネットでクリックして買い物をするという時代がもうすぐそこまで来ているのかもしれない。」とあり、これは寂しいと思いました。
ネットの便利さは圧倒的ですが、本については書店で実際の本を見て回りながら読みたい本を選ぶほうが好きです。


「釣り合わぬ恋」
「ぼったくり」常連の百貨店で働く女性、トモの親友が身分違いの恋をしています。
その親友は職場の上司に好意を持たれていて親友も上司のことが好きなのですが、家柄が違い過ぎるからと親友のほうは付き合うことに及び腰です。
これに対する馨と美音の感想の違いが印象的でした。
馨「えーでも、上司の人がなんとかしてくれないの?身分違いなんてなんのその、愛があれば大丈夫!とかさ」
美音「それこそドラマの世界でしょ。残念ながら現実はもっと厳しいわ。身分違いを乗り越えて結婚したところで姑にいじめられてひどい目に遭うのが関の山よ」
美音は冷静で現実的だなと思います。

美音は家でモンブランケーキを作っていました。
生クリーム、モンブランクリーム、スポンジケーキ、栗の甘露煮、全て手作りで、これをデザートとして特別に出してもらったトモはその本格的なケーキに驚いていました。
料理大好きの美音だからこそ作れる逸品だと思います。

奔放に恋をする自分とは対照的に、ぼったくりを守っていく店主という立場のため今まで恋もままならなかった美音に対し、馨はいたたまれない気持ちになっています。
そんな時、馨は今まで謎だった要の正体を知ります。
馨は美音に要の正体を伝え、そこから話が予想外の方向に動き出していきました。
美音は仮に要と結婚したとしても店を締めるつもりはないため、身分違いの恋はどうなっていくのか気になるところでした。


「路地裏の出来事」
「大根を千六本に刻み」という言葉が印象的でした。
千切りは知っていますが千六本切りは聞いたことがなかったのでどんな切り方なのかと思ったら、細長く切る千切りとのことです。

美音と要が付き合うようになり、かつてはそれぞれの段落ではそれぞれの視点で語られていた物語が、付き合うようになって一つの段落の中で交互に視点が変わるようになったのも印象的でした。
文章の表現の仕方を変えています。

八百源という八百屋を商っていて、町内会長でもあるヒロシの家に騒音を何とかしてという苦情の投書が来ます。
苦情対象の家は子沢山で、朝の7時前からピアノを弾いたりしていてかなり騒がしいです。
投書をしてきた家には交代勤務をしている家族がいて夜勤明けに寝ている日もあるため、騒音を何とかしてほしいという内容でした。
子供は元気が一番ですが、さすがに他の家から苦情が出るほど騒がしいのはまずいと思います。
そして親の子育ての方針にだいぶ問題があることも明らかになります。

天むすと天巻きの違いは興味深かったです。
衣に塩をきかせたエビの天ぷらをおにぎりにするのが天むすで、酢飯ではなく赤シソのふりかけか煎り胡麻、あるいは両方を混ぜ込んだご飯で海苔巻きにするのが天巻きとのことです。
天むすは食べたことがありますが天巻きはまだ食べたことがないような気がします。


「似て非なるもの」
この話では美音と馨、そして「ぼったくり」常連のシンゾウとウメが「ぼったくり」の先代、美音と馨の両親のことを色々回想していました。
「ぼったくり」の経営で忙しく美音と馨とすれ違い生活になることが多い両親は家族の時間を持とうと必死になっていて、休みの日には家族で出掛けることにこだわっていました。
週に一度の休みの日曜日はほぼ毎週どこかに出掛けていて、この張り切りぶりは凄かったです。

美音が要に勧めたお酒で、「純米酒 ささ匠(しょう) 丹山」という日本酒が登場しました。
京都にある丹山酒造が地元亀岡で自社栽培した米を使って醸していて、冷やすことでより酸味がはっきりするので、呑んだあとに残る酸味を楽しみたい客には冷酒が好評とのことです。
ただし要ははっきりとした酸味より微かな酸味を好むため、このお酒を冷酒ではなく常温で出していました。
常温だと酸味は鳴りを潜め、ふくよかな甘みが際立つとのことです。
同じお酒でも温度によって味わいが変わるのは面白いと思います。


今作では要の正体が明らかになったことにより物語が大きな転機を迎えました。
次の巻では恋の行く手に暗雲が立ち込めそうな予感もあり、果たして二人の付き合いは上手く行くのか、気になるところです。
続きを楽しみにしています。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿