読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「校閲ガール トルネード」宮木あや子

2016-11-12 16:48:31 | 小説


今回ご紹介するのは「校閲ガール トルネード」(著:宮木あや子)です。

-----内容-----
河野悦子、ついに憧れのファッション誌編集に!?
アフロとの恋の行方は?
ファッション誌の編集者を夢見る校閲部の河野悦子。
恋に落ちたアフロヘアーのイケメンモデル(兼作家)と出かけた軽井沢で、ある作家の家に招かれて……
そして社会人3年目、ついに憧れの雑誌の編集部に異動!?

-----感想-----
※「校閲ガール」のレビューをご覧になる方はこちらをどうぞ。
物語は次のように構成されています。

第一話 校閲ガールと恋のバカンス 前編
第二話 校閲ガールと恋のバカンス 後編
第三話 辞令はある朝突然に 前編
第四話 辞令はある朝突然に 後編
第五話 When the World is Gone ~快走するむしず

「校閲ガールと恋のバカンス」
悦子は三年目になりました。
冒頭、悦子は花粉症になったようで、酷い鼻声で声が歪み何を言っているのかよく分からない状態でした。
景凡社受付嬢の今井セシルからは「うわー河野さんブサイクー」と言われていました。
さらに悦子は景凡社の男性向けファッション誌「Aaron(アーロン)」にモデル出演するため編集部に顔見せに来ていた是永に鼻栓している姿を見られてしまったりもしていました。
付き合っているのかいないのか微妙な状況なだけに自身の失態に動揺していました。

悦子は森尾登代子からハクツーとの合コンに誘われます。
花粉症にかかりさらに是永とのこともあるので断る悦子ですが「残念だねー。『Lassy』の担当営業も来る予定だったんだけど」と言われたら速攻で「行く」と言っていました。
ハクツーは最大手の広告代理店で、この名前は現実世界での業界1位の電通と2位の博報堂を合体させたものだと思います。
ハクツーについて悦子は胸中で次のように語っていました。

最大手広告代理店「ハクツー」の営業との合コンは必ず12時前に終わる。彼らはそのあと帰社して仕事してるからだ。
本当に、いつ寝てるんだろう。

電通で入社一年目の24歳女性社員が上司からのパワーハラスメントと長時間残業で精神的に追い詰められ、自殺した事件が明るみに出た後でこの小説を読んだので生々しさがありました。
たぶん著者の宮木あや子さんは「毎日めちゃめちゃ頑張ってるなあ」という意味で悦子にこの言葉を語らせていると思います。
ただ事件の後に「本当に、いつ寝てるんだろう。」の言葉を見るとゾッとするものがあります。
電通は1991年にも「電通事件」という社員が過労で自殺する事件を起こしています。
ツイッターで見かけた伊藤絵美さんという臨床心理士の方がツイートで次のように書かれていました。

「企業でメンタルヘルスについて講演する際に必ず紹介する1991年の電通事件(2年目の社員が過労自殺。残業140時間超え。上司は不調に気づいていたのに対処せず。安全配慮義務違反。最高裁で和解。1億6800万の和解金)。まさか全く同じことを繰り返すとは。最悪としか言いようがない。」

電通はたしかに利益を見れば最大手の広告代理店ですが、その利益が地獄のようなブラック労働を強いることで産み出されているのは酷いと思います。

悦子は森林木一(もりばやしきいち)という元々はライトノベルを書いていた若手の文芸作家の雑誌の連載原稿を校閲しています。
この作家は初回から誤字脱字や単語の重複が多く、校閲をするのが結構大変です。
そして悦子はこの作家の誤字脱字や単語の重複にある法則があることに気付きます。

ゴールデンウィークが間近に迫った頃、是永からデートの誘いが来て悦子はかなり喜んでいました。
行き先は軽井沢の貸別荘です。

一方、森林木一の原稿の校閲では、気付いた校閲時の法則に則って言葉をつなげていくと、「私はそこから動けない。助けてくれ」という内容の、助けを求めているような言葉が浮かび上がります。
悦子は森林木一はどこかに捕まっていて無理やり小説を書かされているのではという疑問を持ちます。

その頃森尾は自身の企画が「C.C」の読者アンケートであまり良い結果を得られず落ち込んでいました。
悦子は居酒屋で森尾の悩みを聞いてあげます。
その中で、森尾も大学時代の友達と軽井沢の別荘に行くと聞き動揺する悦子。
是永との楽しいバカンスになるはずが、波瀾の展開になる予感がしました。

軽井沢にて色々ドタバタがあり悦子と是永は竜ヶ峰春臣という作家の別荘で行われているランチパーティに行くことになります。
貝塚と森尾もこのパーティに来ています。
伊藤保次郎という、竜ヶ峰春臣の孫で景凡社に今年コネ入社したナンパすることイタリア人のように口が達者な人も来ていました。

そのパーティには森林木一も来ていて、是永が森林の家に招かれたため、是永と悦子は森林の家に行くことになります。
家に行くと森林とともに森林の内縁の妻の飯山という女性が登場します。
白いトレーナーの袖口が赤く汚れているのを見て悦子は飯山が森林からDV(家庭内暴力)を受けているのではという疑いを持ちます。
飯山は10年も内縁の妻を続けていると言っていました。
DVの疑いと校閲時に浮かび上がった「私はそこから動けない。助けてくれ」のメッセージから、悦子はあのメッセージは飯山が書いたのではと考えます。
メッセージの謎に謎に迫るミステリーな展開になっていきました。


「辞令はある朝突然に」
悦子は6月から「Lassy noces編集部」に異動になります。
この雑誌は「Lassy」の結婚情報に特化した季刊増刊で、編集長は「Every」の副編集長だった楠城かづ子。
予期せぬまさかの編集部への異動に悦子は喜びます。
ただしこの人事はあくまで人手不足による臨時雇いであることを悦子の教育担当となった綿貫から聞かされます。

「Lassy」本誌の編集長は榊原仁衣奈(にいな)と言います。
その榊原仁衣奈が度々「Lassy noces」の編集部にやってきて楠城編集長に因縁をつけてきます。
二人の編集長同士の対立が凄いです。
「Lassy」の編集長だけあり、風も吹いてないのに裾が翻るGUCCIの今季のワンピース、床に穴が空かないか心配になるほど華奢なルブタンのピンヒールでの登場シーンが文章だけなのにカリスマ的なものを感じさせました。
この圧倒的に緊迫した職場の空気にはさすがの悦子もだいぶ疲弊していました。

悦子と是永はお互いの呼び方が「えっちゃん」「ゆっくん」になっていました。
正式に付き合うことになりだいぶ新密度が上がっていました。

悦子の父が倒れて実家の母から連絡が来ます。
翌日の始発で悦子は実家のある栃木に向かいます。

悦子が病室で生死の境を彷徨う父を見て父との数少ない「家族の記憶」を思い出している時、父の「グアムでも行くか」という精一杯の家族サービスを冷めた気持ちで断ったというのがありました。
私が子供の頃父の「キャッチボールでもするか」という家族サービスを断ったのを思い出しました。
後年あれは父なりの家族サービスだったのだなと思い至りましたが当時はにべもなく断ってしまっていました。

母が父の急を知らせようとした時に悦子の携帯が切れていたこともあり母は悦子にあれこれと文句ばかり言っていました。
そんな母の言葉を聞いているうちに悦子は榊原と楠城の対立について閃きを得ます。
悦子の予想を見て、たしかに榊原のようなタイプの人はいると思いました。

またこの話では校閲部の部長のエリンギの本名が茸原だと分かります。
名前までキノコなのかと思い少し面白かったです。


「When the World is Gone ~快走するむしず」
冒頭、悦子は聖妻女子大学時代の友達の結婚式に行きます。
その際、同じく式に呼ばれていた真奈美という人が悦子との会話で見せた嫉妬による嫌味が印象的でした。

「モモちゃんすっごく幸せそうだったね」
「そうだね、素敵な結婚式だったね」
「でも、旦那さんちょっとキモいねよね。私だったら一緒に歩くのやだなあ」
「……そう?」
「外資の証券ってお給料すっごくいいらしいけど、あんなにいい子だったモモちゃんがお金目当ての結婚とか地味にショック。ねえ、悦子ちゃんのワンピース可愛いね、どこの?」
「ありがとう、ドルガバ。思い切って清水の舞台から飛び降りたら全身骨折だよ」
「へぇー。出版社ってお給料いいんだね。でも一月にレモンってちょっと季節外れじゃない?それに結婚式って本当は柄物NGなんだってよ」

モモちゃん(桃花)に対しては旦那がキモい、さらにはお金目当ての結婚だと批判しています。
そして悦子に対してはワンピースの柄が季節外れだ、さらには柄物はNGだと嫌味を言っています。
どちらの会話でも「でも」を使いそこから批判や嫌味を展開しているのが印象的です。
まず話題を振って、それに対して相手が何か答えたところで持論を展開し出すというやり方をしています。
これは私の嫌いなやり方でもあります。
また一連の会話の中で「お給料いい」が二回も出てきていて強い嫉妬心があることが分かりました。
結婚式という晴れの日の時くらい嫌みや嫉妬にまみれるのはやめられないのかなと思います。

悦子は貝塚にご飯に誘われます。
貝塚は「接待用に開拓しときたい店があんだよ、ひとりで行くのもかっこつかないから、おまえ付き合え」と言っていましたが、その様子からはデートに誘う口実として言っているように見えました。
度々校閲部にやってきて悦子と口喧嘩ばかりしている貝塚ですが何だかんだで悦子のことが気になるのかなと思いました。

森尾が辞めるという大事件もあります。
受付嬢の今井セシルが受付前を通りかかった悦子を捕まえてそのことを教えてくれました。
一方是永はモデルとして成功しますが同時に小説家としては挫折の時を迎えていました。
悦子の自分の夢見ていたこととは違う場所に、彼の居場所があったのだ。という述懐が印象的でした。
そして悦子も自身のこれからについて考えていたことがありました。

森尾も是永も悦子もそれぞれの道に進んでいきます。
重要な決断をしたそれぞれの人生がより良いものになっていってほしいと思いました。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿