読書日和

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「居酒屋ぼったくり5」秋川滝美

2016-05-07 18:54:58 | 小説
今回ご紹介するのは「居酒屋ぼったくり5」(著:秋川滝美)です。

-----内容-----
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情があるー
ゆるむ心と弾ける笑顔。
しばれた身体に燗した酒が沁み渡る。
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、待望の第5巻!

-----感想-----
今作は次の五編で構成されています。

実りをもたらすもの
窓の外に見える風景
最初の一歩
モーニングオムレツ
命の眠る場所

「実りをもたらすもの」
お盆が終わった8月後半のある日、馨が「ぼったくり」に熱中症気味のおばあさんを連れてきます。
美音と馨は水を飲ませ保冷剤で体を冷やし、そして塩分を摂らせるために冷たい味噌汁を飲ませて介抱します。
おばあさんの名前はツキミと言い、娘のところに取れたての野菜を持っていき、孫に食べさせてあげようとしていました。
ツキミとの会話の中で、ズッキーニがカボチャの一種とあったのは意外でした。
私はキュウリの仲間だと思っていました。

ツキミは野菜を川原で作っているのですが、無許可で川原を耕して畑にしているため、他の無許可者とともに「違法だから立ち退け」と言われています。
川原を耕すと地盤が緩んで危ないため、行政としても違法の畑は強制的に撤去する方向になっています。
ツキミも違法であることは分かっているのですが、アレルギー体質である孫に安全な野菜を食べさせるために日々野菜を作っていました。
畑が撤去されるとツキミは孫のために野菜が作れなくなってしまいます。
どこか他に野菜を作れる場所はないか、美音と馨は「ぼったくり」常連の面々とともに探していくことになります。
また、この話では「カワハギのみりん干し」を焼き網で焼いたものがとても美味しそうでした。


「窓の外に見える風景」
この話は「ぼったくり」常連であるウメの息子ソウタの妻、カナコの悩みの物語です。
カナコは専業主婦ですが、仕事もしながら育児をしている人を見て、自分も働こうと考えます。
自分は育児が一段落して楽になったものの、ソウタは働き盛りで仕事がいよいよ大変になり、大変さの天秤が夫に傾いているので自分も働こうと思ったようです。

「ぼったくり」常連の植木職人のマサと馨の会話は興味深かったです。
「人間ってなぁ、実に勝手なもんだ。これで満足ってことはねえのかもな」
「満足しちゃったらそこで終わりだもん、多少の文句は必要だよ」

たしかに昔から一つ便利になるたびに「もっと便利に」とより一層の便利さを目指し、今日まで進んできました。
ただ美音は「今あるもので満足することも大事ではないか」と思っていて、これも間違ってはいないと思います。

この話では美音が「店を続けることに反対する人とは結婚しない」と明言していました。
それくらい「ぼったくり」は美音にとって大事なもので、店を閉めるなどあり得ないようです。

カナコのような専業主婦について、「それでは自立した女とは言えない」と非難する意見があるらしいのですが、それは見当違いです。
人それぞれの家庭の事情や生き方の問題なのですから、家で家事に専念するのも良いと思います。

「グリーンレンタルサービス」の会社は知りませんでした。
カナコの友達が開くお店で、オフィスや店舗に観葉植物を置きたいが、自分で手入れするのは大変なので管理会社に任せて定期的に世話をしたり交換したりしてもらいたい時、その一切を請け負うのがグリーンレンタルサービスの会社とのことです。

鮭の塩ころがしという料理は初めて聞きました。
焼き塩の上で切り身を転がして塩を付け、付けた塩を五、六時間後にぬぐった後、日本酒をたっぷりかけて二、三日寝かせ、こんがりと焼き上げるとのことです。
一度食べてみたいと思いました。
また、餡かけ豆腐も凄く美味しそうで食べてみたくなりました。


「最初の一歩」
東日本大震災の後、海産物が大丈夫なのか過度に気にする人がいて、魚屋のミチヤは憤っていました。
美音はミチヤから秋刀魚を購入していて、震災の年の東北産秋刀魚は苦労の末に出荷されていたことが分かりました。

「ぼったくり」常連のリョウという若者は飲み会では大抵ビールを飲むのですが、会社の上司から「お前はいつまでビール一本槍なんだ。他の酒も飲め」と酒の飲み方について説教をされ悩んでいました。
お酒の好みにまで口を出す上司は最悪だと思います。

二年連続で国際ビール大賞の金賞を受賞した「ビアへるん」というビールは気になりました。
島根県松江市にある島根ビール株式会社によって造られ、松江を愛した小泉八雲(やくも)の別名「へるんさん」にちなんで名付けられたとのことです。
フルーティーな香りとあり、これはビールを苦手とする私でも一度飲んでみるのも良いかもと思いました。

後半は要が「ぼったくり」に来て二人のやり取りになります。
二人の会話は独特な空気が漂っています。
美音は要への思いを自覚するようになっていました。


「モーニングオムレツ」
美音に思いを寄せる要がついに美音を「ぼったくり」から連れ出します。
要がよく行くバーに二人で行きました。
しかし美音は居心地が悪いようです。
この話では美音の視点と要の視点が交互に展開されるのですが、二人の思いがすれ違ってばかりで面白かったです。
美音も要もお互いのことを思っているのになかなか上手くはいかないものです。


「命の眠る場所」
美音と馨の両親はお墓ではなく、蓮命寺(れんみょうじ)というお寺の納骨堂に眠っています。
そのことについて馨は彼氏の哲から薄情だと言われショックを受けました。
二人は喧嘩状態になっています。
哲は薄情だと言っていますが、その考えは言いがかりだと思います。
供養の形は人それぞれですし、事情があってお墓よりも納骨堂のほうが良いと判断したのならそれで良いと思います。
美音によるとお墓ではなく納骨堂にしようとした時、親戚から「親不孝者」的なことをかなりギャアギャア言われたとのことですが、ギャアギャア言うのであれば最低限お墓を作るお金を出すべきだと思います。
それをしないのに文句だけ言っても説得力がないです。

今作は美音と要に進展があったので、物語的にも佳境になってきたと思います。
次作では「ぼったくり」でどんな料理が出てくるのか、そして美音と要は本格的にデートに出かけるようになっていくのか、楽しみにしています。


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