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「あるキング」伊坂幸太郎

2014-08-05 23:40:10 | 小説
今回ご紹介するのは「あるキング」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
この作品は、いままでの伊坂幸太郎作品とは違います。
意外性や、ハッとする展開はありません。
あるのは、天才野球選手の不思議なお話。
喜劇なのか悲劇なのか、寓話なのか伝記なのか。
キーワードはシェイクスピアの名作「マクベス」に登場する三人の魔女、そして劇中の有名な台詞。
「きれいはきたない」の原語は「Fair is foul.」。
フェアとファウル。
野球用語が含まれているのも、偶然なのか必然なのか。
バットを持った孤独な王様が、みんなのために本塁打を打つ、そういう物語。

-----感想-----
内容紹介文にあるように、今までの伊坂幸太郎さんの作品とは違っていました。
伊坂幸太郎さんの作品といえば、複数の物語が同時に進行していって、やがてそれらの物語が絡まり合い、うなりを上げて動き出すという展開がよくあります。
巧妙に張り巡らされた伏線が後半で思いもよらぬ形で現れて驚かされるといったこともよくあります。
しかしこの作品ではそれら伊坂作品の王道的展開にはならないです。
この作品は「伊坂幸太郎第二期」と呼ばれる期間に入るのですが、第二期では伊坂さんの王道的展開ではないものを実験的に書いているとのことです。
現在は第二期が終わったらしく、本来の作風に戻っています。

この作品は山田王求(おうく)という天才野球選手の、0歳から23歳までの物語です。
王求はまさに王になるために生まれてきたかのような、生まれながらの天才でした。
王求の父親の名は山田亮、母親の名は山田桐子。
物語の冒頭、桐子は臨月を迎えていました。

仙醍市という、仙台市をモデルとした架空の都市に、「仙醍キングス」というプロ野球球団があります。
地元仙醍市の製菓会社「服部製菓」が運営していて、毎年最下位か良くても5位という弱小球団です。
桐子はこの仙醍キングスの南雲慎平太監督に思い入れがありました。

桐子が出産をした日、南雲慎平太監督が敵チームの打者の打ったファウルボールが激突しそうになり、それを避けようとした際にベンチに頭をぶつけ、その衝撃が原因となり死亡。
この時の対戦チームは「東卿ジャイアンツ(読売ジャイアンツがモデルと思われます)」だったのですが、南雲慎平太監督に思い入れのあった桐子はこの日以来、東卿ジャイアンツの名前が出ただけで目の色が変わるくらい、東卿ジャイアンツが大嫌いになりました。

王求の名前の由来は、「将来、キングスに求められる存在なのだから、王に求められると書いて王求」です。
亮と桐子の二人とも、名前をつける時点で既に王求が将来プロ野球選手になり、仙醍キングスで活躍するのを全く疑っていませんでした。

物語には頻繁に黒色のロングコートを羽織り、頭には黒のチューリップハット、靴も黒の黒ずくめの魔女みたいな三人組の女の人が出てきます。
この三人が頻繁に王求の周辺に現れるのです。
三人は「めでたいねえ。おまえは王になるのだから」と王求が将来野球の王になるのを分かっているかのような、予言めいたことを言います。

王求は12歳の小学六年生の時点で、既に天才バッターとしてその名を轟かせていました。
プロ野球選手による野球教室では、プロのピッチャーの手加減無しの全力投球を打ち返し、ホームランにしてしまいました。
地元の少年チームの試合でも打席に立ってまともなボールが飛んでくれば全てホームランにしてしまうような怪物ぶりで、あまりに凄すぎるため、頻繁に敬遠されたり、味方チームからも煙たがられたりもしていました。
また、両親の王求がプロ野球選手になることへの愛情は半端ではなく、狂気じみたものを感じるほどでした。

王求の人生は予め決まっているかのごとく、黒ずくめの魔女みたいな女の人達の予言じみた言葉によって、導かれていきます。
そしてその言葉は、王求を順風満帆な野球人生には導きませんでした。

「真の王は、舗装された道を歩むべきではありません。そう思いませんか」

と、不吉な未来を予言しています。
実際に王求の野球人生は途中で大きく躓くことになります。

この作品では、一度登場した人物が再び王求の前に出てくることが多いです。
登場人物自体が一種の伏線のようになっていて、一度出てきた人物がまた出てくるのかなと気になりました。

旅行に行く日の天候が、晴れなのか雨なのかはコントロールできない。どうにもならないことを鬱々と悩み、天気予報に一喜一憂するくらいであれば、どんな天気であっても受け入れて、雨が降れば傘を差し、晴れたなら薄着をしていこう、と構えているほうがよほどいい。

「雨なんて降ってない」と言い張るよりも、豪雨を認めた上で雨具を身に着ければいいのだ。

王求21歳の章で出てきたこれらの言葉は印象的でした。
天気だけでなく他のことについても言えることだなと思いました。

またこの作品では「おまえは」という表記で、何者かが王求を見ている語り口で物語が語られています。
この人物は最後に明らかになります。

最初から最後まで独特な雰囲気を持つ不思議な物語でしたが、他の伊坂作品とは大きく異なる作品として楽しく読むことができました。


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