読書日和

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「ココロ・ファインダ」相沢沙呼

2014-09-17 23:59:59 | 小説


今回ご紹介するのは「ココロ・ファインダ」(著:相沢沙呼)です。

-----内容-----
高校の写真部に在籍する四人の少女、ミラ、カオリ、秋穂、シズ。
それぞれの目線=ファインダーで世界を覗く彼女たちには、心の奥に隠した悩みや葛藤があった。
相手のファインダーから自分はどう見えるの?
写真には本当の姿が写るの?
―繊細な思いに惑う彼女たちの前に、写真に纏わる四つの謎が現れる。
謎を解くことで成長する少女たちの青春を、瑞々しく描く。

-----感想-----
物語は以下の四編で構成されています。

コンプレックス・フィルタ
ピンホール・キャッチ
ツインレンズ・パララックス
ペンタプリズム・コントラスト

主要登場人物のうち、ミラ、カオリ、シズは高校二年生、秋穂は一年生です。
四人とも写真部に在籍していて、章ごとにそれぞれが語り手になっています。

「コンプレックス・フィルタ」の語り手はミラ。
本名は野崎鏡子。
鏡の子なのでミラという愛称になったようです。
しかし本人は自分の容姿にコンプレックスを持っていて、鏡で自分の顔を見るのは嫌と語っていました。
鏡の見れないミラ子と自嘲気味に言っています。

物語の時期は残暑の残る9月。
ミラはサッカー部の鳥越君に恋をしていました。

恋をすると、いやでも鏡と向き合うようになる。

という言葉が目を惹きました。
好きな人の気を惹くために、鏡と向き合う時間が長くなるということです。
「鏡の見れないミラ子」との対比が印象深く、そんなミラ子をも鏡と向き合わせるのが恋の力なのだなと思いました。

9月の半ばになって、カオリが部活に顔を出さなくなります。
カオリはオシャレで可愛くて人気者で、男子からの評価は高く、へんに媚びた性格をしているわけではないから女子からも好かれているとのことです。
ミラはカオリと親友で、「わたしは密かに、カオリと親友でいられることを誇りに思っていた」と胸中で語っています。
しかし完璧なカオリに少し複雑な心境も持っていて、「わたしが持っていないものを、カオリはぜんぶ持っている」と羨んでいました。

ときどき、羨ましくて。ときどき、妬ましい。

カオリの容姿が羨ましく、嫉妬の気持ちが湧いてきてしまうのは、止めようがないのだろうと思います。
自身にコンプレックスを抱いている分、なおさらですね。
それでも歪んだ気持ちがカオリに向かって冷たくしたりといったことをしないのがミラの偉いところです。

写真部の戸嶋先生、堀沢部長といった名前が出てきたので、物語に絡んでくるのかなと思いましたが、あまり多くは絡んできませんでした。
あくまでミラ、カオリ、秋穂、シズの四人をメインにしています。

カオリはどうして部活に来なくなったのか、ミラは考えます。
そしてトラブルを起こす相手で思い浮かんだのが、シズ。
「彼女は他人に対する思いやりみたいなのが、ちょっと欠けているところがある」とのことで、ミラはシズとカオリの間に何かがあったのだろうと考えます。
本来シズとカオリは仲が良いはずなのに、何があったのか…
軽めのミステリーのように、謎を追っていきました。

カオリとルミネに買い物に行った時、他の学校の高校生を見かけて「シズみたいなさらさらの髪。いいなぁ。羨ましい」と胸中で言っている場面がありました。
カオリに加えてシズの髪も羨ましいようで、ここにも自身の容姿へのコンプレックスが現れていました。

やがてミラは、カオリがシズに怒っていること、そしてその原因がシズが撮ったカオリの写真にあることに辿り着きます。
その写真には「何か」が写っていなくて、カオリはそれに対して怒っていました。

シズがそうやって被写体に手を加えることができるのは、写真の中の世界だけ。カメラで閉じ込めた世界でしか、魔法は効かない。それはかりそめの手段で、現実じゃない。

シズが良い結果をもたらすと思って使った魔法は、写真の世界では威力を発揮しましたが、現実の世界ではカオリを激怒させてしまいました。
そして終盤でミラが語った
完璧に見える彼女にも、彼女なりのコンプレックスがあるんだと思う。
は、ミラが自身のコンプレックスを受け止めて、それまでより少し心にゆとりが生まれたのが分かって良かったです。


「ピンホール・キャッチ」の語り手は秋穂。
後輩から見たミラ、カオリ、シズの描写が出てきて、カオリのことは日比野先輩、ミラのことはミラ子先輩、シズのことはシズ先輩と言っていました。
この章では「謎の壁」の写真が出てきます。
ミラが部室で文化祭で展示する写真を印刷しようとしていて、デジカメ(デジイチ)のSDカードの中に妙な写真があるのを見つけます。
それはクリーム色の配色のコンクリート壁の写真でした。
ミラはそんな写真を撮った憶えはなく、一体誰が撮った写真なのか、謎が謎を呼びます。

秋穂は友達付き合いが苦手で、クラスのオシャレな友達と話している時、苦痛を感じています。
これを言うと空気読めないと思われるんじゃないかとか、あれこれ考えているうちに何も言えずに周りの友達の会話が進んでいってしまうようです。
そして秋穂はシズに好印象を持っています。

先輩は静かだ。ほとんど無口で、あまり自分から喋ろうとしない。わたしと違うのは、物静かなのに、なんだか堂々としているというか、他人を恐れる気配がまったくないところだと思う。いつだって胸を張って生きているような感じ。人と喋れなくてなにがいけないの?シズ先輩なら、そんな台詞を言ってくれそうな気がした。

自分と似たところがあり、それでいて堂々としているシズに惹かれるところがあるようです。
シズが秋穂に言った以下の言葉も印象的でした。

「服を選ぶのって、自分を作っていくのに似てる。どんな服が自分に合うのか考えるのって、自分がどんな人間なのか考えるのと同じだよ」

自分に似合う服を選んでいるうちに、自分の個性が見えてくると思います。
また、秋穂は自分のことが分からずに、「自分らしい、わたしらしいって何?」をずっと考えています。
やがて秋穂は、「たくさんの光を放つことのできない存在だってある。薄暗い場所だってある。日の当たらない場所だってあるんだ」と、自分があまり強い光を放てない存在だということを受け止め、吹っ切れていました。
自身が発するうっすらと弱々しい光をいつか誰かが受け止めてくれるだろうかとも言っていました。
誰もが強い光を発するわけではないのですし、秋穂の弱々しい光に反応してくれる人も必ずいると思います。
現にシズは秋穂の心の機敏を正確に捉えていました。


「ツインレンズ・パララックス」の語り手はカオリ。
本名は日比野香織。
最初の章でミラが「わたしが持っていないものを、カオリはぜんぶ持っている」と羨んでいましたが、カオリはカオリで悩みを持っていました。

この作品では、カオリとシズが初めて会った時のことが描かれていました。
また、シズという愛称はミラが名付けたということも分かりました。
「この子は、大人しいわけでも、人見知りするわけでもない。ただ、必要でないときは、ひたすらに静かなんだ」とあり、そこからシズという愛称になったようです。

そして、カオリとシズの二人での会話がかなり印象に残りました。
鏡についてシズが語っていて、すごくためになりました。

「人間は、鏡に映るものを見るとき、左右の概念を、鏡の中の人間の立場で当てはめようとする。無意識のうちに、鏡の裏側に回り込んでしまう」

これはたしかにそうだと思いました。
右手を上げると、鏡の中の自分は左手を上げているように見えます。
でも実際には左手のように見えるそれは右手で、左右は反転なんてしていないということです。
シズは「これは、ロマンチストが突き当たる問題なんだよ。鏡の中に、人間がいるんだって考えている」と言っていて、私も鏡の裏側に回り込んで考えてしまうことがあるので、ロマンチストなのかなと思いました(笑)

そして鏡の話ではシズの物凄い鋭さに驚かされました。
カオリがシズに話していた「映子」という中学校の時の、クラス中から仲間外れにされるいじめに遭っていた同級生について、カオリが話さずにいた真相を突き止めてしまいました。
シズは静かですが物凄く鋭く、そして本当はとても優しい人でした。
カオリとの最後の展開は感動的でした


「ペンタプリズム・コントラスト」の語り手はシズ。
本名は天野しずく。
時期は文化祭の後で、二話目の「ピンホール・キャッチ」が文化祭で展示する写真の準備をしていたので、そこからある程度時間が経っています。

シズは天才的な写真の腕を持っています。
よくカオリをモデルにして写真を撮っていて、周りからもかなり好評です。
そして写真家になりたいと考えていて、そのために芸術学部のある大学へ行くつもりです。
もともと成績はよく、親は「良い大学」に行かせるつもりなのですが、シズの考える路線は親の考える路線と大きくかけ離れていました。

この章では、カオリが色々あってクラスでの立場が危うくなっています。
文化祭にシズが展示したカオリの写真にも、嫌がらせがされていました。
そしてその遠因はシズでもありました。

自分の撮った写真が、人を傷付ける道具になるなんて、想像したこともなかった。

こと写真のことになると貪欲で周りが見えなくなりがちなシズですが、カオリへの嫌がらせを前に、シズは初めて自分が撮る写真に疑問を持ってしまいます。
母親とも進路のことで対立していて、心はすごくささくれ立っていました。
前の章で大人びていただけにこの章での取り乱しように驚きました。
ただシズがやけを起こして一眼レフのカメラを叩きつけようとした時、それを食い止めてくれた3つの「物」がちょっと感動的でした。
「早まるな!」とミラ、カオリ、秋穂が念を送ってシズを止めてくれたような気がしました。


四人とも、悩みを抱えています。
他の人から見るその人と、その人自身が見るその人には差があり、それぞれの章でその差の部分が描かれていました。
それでも四人とも自身の悩みと向き合いながら最後には自分の気持ちに整理をつけていて、心が成長していました。
この四人で織りなす友達と先輩後輩の関係、良いなと思います


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2 コメント

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Unknown (ビオラ)
2014-09-20 13:55:37
「他の人から見るその人」と「その人自身が見るその人」

やはり自分自身を客観視できる心の余裕を、常に持っておきたいし、柔軟性のある考え方が、できる人でありたいです。上記の二者に差があるとのことですが、それが新たな自分発見や成長につながると良いと思います。

自分自身に対してもそうなんですが、物事を色んな角度から見られる人でいたいです。
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ビオラさんへ (はまかぜ)
2014-09-21 09:32:51
自分自身を客観視するのって、なかなか難しいですね。
まさに心の余裕がないとできないことです。
今日はちょっと落ち込んでるなとか、好調だなとか、その時々の状態を冷静に見ることができれば、心の余裕も持てると思います。
余裕があれば、自然と良い考えも出てくると思います。
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