読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「AX アックス」伊坂幸太郎

2017-10-28 17:43:26 | 小説


今回ご紹介するのは「AX アックス」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
「カマキリの斧(アックス)を甘く見てるなよ」
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。
こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
書き下ろし2篇を加えた計5篇。
シリーズ初の連作集!

-----感想-----
※「グラスホッパー」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「マリアビートル」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

この作品は「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く殺し屋シリーズの第三弾です。
今作は前半が「兜」という殺し屋が語り手で、後半は兜の息子の「克巳」が語り手になります。

冒頭、兜の語りの中で「檸檬と蜜柑」の名前が登場します。
檸檬と蜜柑は「マリアビートル」に登場した殺し屋で、兜は別の依頼人から同じ標的の殺害を依頼され、二人と共同で仕事をしたことがあります。
「同業者」「業界内」といった言葉が出てきて、冒頭から一気に殺し屋小説の雰囲気が出ていました。

兜は40代半ばで、普段は文房具メーカーの社員で営業をしています。
蜜柑が「業界内で兜と言ったら、一目置かれている。一目どころか二目も」と言っていて、今回の殺し屋はかなり腕が立つのだなと思いました。
ただし蜜柑はその後で「それがこんな恐妻家だと知ったら、がっかりするやつもいるだろうな」と言っていました。
蜜柑も言うように兜はかなりの恐妻家で、家ではいつも妻の機嫌を気にしながら過ごしています。

息子の克巳が兜に、高校に産休の先生の代わりに美人の国語教師が来ていると話します。
しかしこの国語教師が全然なっていなく、漢字も書けず太宰治という名前も読めなかったとのことです。
兜が「そんなことでよく務まるな」と言うと、克巳は「美人だから、オッケーなんだよ」と言っていて、これは「早起きは三文の得」をもじって使われることがある「美人は三文の得」ということだと思います。

克巳はさらに、隣のクラスの山田という若い男の先生が美人の国語教師と不倫関係にあるのではと言っていました。
山田先生は既婚者で、最近学校を休んでいて克巳によると罪の意識で参っているのではとのことです。
伊坂幸太郎さんの作品では序盤で少し名前の出てきた人が物語が進むと思わぬ形で登場することがよくあるので、美人の国語教師や山田先生がどこかで登場するような気がしました。

表向きは内科診療所の医師をしている男が兜に仕事を仲介しています。
医者と患者の会話を装い「あなたには、この手術をおすすめします」という形で仕事を仲介します。
医師が「この区内で近いうちに爆破物を仕掛けて籠城事件を起こそうとしている人達がいる」と言っていたのが気になりました。
事件が起こればしばらく都内は警察の監視が厳しくなり仕事もしずらくなるとあったので、物語の舞台は東京のようです。

兜は克巳が生まれた頃から仕事を辞めたいと思うようになりました。
しかし医師に相談するたびに「辞めるにはお金が必要」と言われ、その額が一戸建ての家が買えるほど高額なため、兜は仕方なく殺し屋の仕事を続けています。
そして早く殺し屋を辞めたいと思っています。
医師の言う手術には「悪性の手術」もあり、これは同業のプロを相手にするという意味です。
悪性の手術のほうが相手が強敵なため報酬も高くなります。

また、急に仕事を依頼される「緊急の手術」もあります。
兜は医師から緊急の手術を依頼され、相手は話題に出たばかりの、近いうちに爆破物を仕掛けて籠城事件を起こそうとしている人達の一人で爆弾職人です。
爆弾職人自体は難なく仕留めますが、その後思わぬ場所で思わぬ人物から襲撃されることになります。
早くも殺し屋小説らしく物騒な展開になっていました。

さらに兜は医師から「あなたを手術しようとしている人間がいるようです」と言われます。
これは命を狙っている人がいるということで、医師によると「スズメバチ」が兜の命を狙っているとのことです。
スズメバチは「グラスホッパー」「マリアビートル」にも登場した男女二人ペアの殺し屋で、女のほうは「マリアビートル」で亡くなりましたが男のほうはまだ生きています。
兜は誰がスズメバチに兜の殺害を依頼したのかを疑問に思います。

家では兜、妻、克己の三人でよく世間話をしますが、兜は失言で妻を怒らせないように常に警戒しながら話しています。
そしてまずい発言で妻が怒りそうになると克巳がよく助け船を出してくれます。
まだ高校生ですが父親の恐妻家ぶりをよく分かって助け舟になる発言をしているのが偉いと思います。

妻が庭にアシナガバチが巣を作っていることを知らせます。
兜が巣を調査すると実際はアシナガバチではなくスズメバチの巣であることが分かります。
妻は「危ないから業者に頼もう。絶対に自分で退治しようとしないように」と言いますが兜はネットでスズメバチ退治の情報を集めているうちに、自分で退治しようと思い立ちます。
虫のほうのスズメバチとの対決ですが、この展開は殺し屋のほうのスズメバチも現れそうな気がしました。

兜は都内にあるボルダリングジムに通っています。
同じくそこに通っている松田という広告デザインの営業をしている男と知り合い仲良くなっていました。
二人の会話で兜の苗字は三宅と分かりました。
さらに兜の息子の克己と松田の娘の風香はどちらも高校三年で同じ高校に通っていることが分かり、二人はより一層意気投合します。
兜は「自分に友達ができる時が来るとは想像したこともなかった」と胸中で語っていました。
ただし殺し屋小説なので、何か事件が起きるような気がしました。

兜は新たに奈野村という男と親しくなります。
奈野村は警備会社の社員で百貨店の警備をしていて、テナントの文房具店に営業としてやってくる兜と最近よく話すようになりました。
二人の話の中で、人の暗い性格と明るい性格について兜が語っている場面が印象的でした。
「暗いというのは、単に、静かに日々を楽しむことができる、ということですよ」
明るい性格です、と自称する人間がえてして、他者を巻き込まなくては人生を楽しめないのを兜は知っている。

これはそのとおりだと思います。
また暗い性格を「静かに日々を楽しむことができる」と、良い面を見つけ出しているのが興味深く、これは「リフレーミング」という心理学の手法です。
伊坂幸太郎さんは哲学者の言葉を作品内で使うことがよくありますが、もしかすると心理学の本も読んでいるのかも知れないと思いました。

克巳はもう大学生になったとあり、奈野村と親しくなった頃には数年が経過していました。
そして奈野村と兜が出入りしている百貨店で大きな事件が起きることになります。


物語の後半になると、克巳は社会人になり既に結婚して息子もいます。
埼玉の分譲マンションに住んでいるとありました。

克巳が母の住む実家に行くと、田辺亮二という若い男が「ご主人、いますか」と尋ねてきたと言います。
田辺は22歳で、スポーツジムのトレーナーをしています。
名刺を置いていっていたのでそれをもとに克己が会いに行くと、田辺は10年前の小学校6年生の時に兜に助けらたことが分かります。
その時、兜が落とした診察券を拾ったとのことです。
その診察券は兜に殺し屋の仕事を仲介していた医師の診療所の診察券で、克巳は父親が裏で兜という名前で殺し屋をしていたことは知らないので、ただの診察券に見えています。
そして田辺を助けた次の日、兜は自殺して亡くなっていました。

田辺の話を聞き、克巳は父は自殺ではなかったのではと考えます。
そして診察券を頼りに診療所を訪れます。
すると医師が、10年前に父が息子に残したいものがあると言っていたことがあり、何か心当たりはないかと聞いてきます。
これは何を残しているのか気になり、さらに医師がそれを気にしているのも気になりました。

克巳は父の死について何か手がかりがないかと思い、実家の父の部屋を整理します。
すると、小さな封筒に入った鍵が見つかります。
克巳は兜が生前、大学生になった克巳の一人暮らし用にアパートを用意してあげようとしていたことを思い出します。
そこから克巳の話と10年前の兜の話が交互に続いていきます。

外野から、正しそうなことを言うのは易しい。当事者からすれば、物事はそれほど単純ではない。こちらも考えた末に行動している。
この兜の言葉は印象的でした。
正しいことを言う人が正しいとは限らないということで、「~すれば良いではないか」と言っている内容は正論でも、その正論が状況に全くそぐわない場合があります。

医師が鍵に興味を持ち、どこの鍵なのかこちらでも探すと言ってきますが克巳は断ります。
さらに休日にまで電話をかけてきたため、克巳は医師に不信感を持ちます。
医師が鍵のことを凄く気にしているのは明らかで、その鍵で開く部屋に何があるのか気になりました。
ただ前半の兜の物語から、何となく部屋に何があるのかは予想されました。
終盤は「デスノート」のメロとニアが夜神月(やがみらいと)を倒したのが思い浮かぶような展開でした。


今作は書店で見かけた当初は殺し屋小説を読む気分ではなかったのでしばらく読まずにいました。
それから時間が経ち読む気分になってきたので読んでみると、物騒な物語ではあっても軽やかで面白い会話がたくさんあり読みやすかったです。
読み出すと先が気になりどんどん読んでいける面白さがあります。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2017-10-29 12:45:38
今日は~

こちら現在雨がザーザー降っています
でも有意義にすごしましょうね~

この小説の内容は、結構不気味な雰囲気漂いますが、超一流の殺し屋なのに、妻に頭が上がらないとか・・・、結構笑えますね~

兜と言う人物は、きっと人間味のある優しさも持った人だと想像するのですが、なぜ、そんな人が、このような危険な仕事をしているのだろうとか、兜とつながりを持っていた医さん師は、どのように絡んでいるのだろうかとか、息子克巳の活躍が後半にあるのかな~とか、気になるところですね~

克巳さんが最後に、真相を暴いて、読者をスッキリした気分にしてくれるのでしょうか~
返信する
ビオラさんへ (はまかぜ)
2017-10-29 22:38:02
こんばんは。
こちらは夜になり雨が上がりました。
強風が吹いていますが明日の朝には収まってくれるのではと思います。
そして明日は晴れてくれるようなので良かったです

超一流の殺し屋なのに妻に頭が上がらないのは面白かったです。
妻の機嫌を取るために、妻の発言にどんな意図があるのか、自身はどう切り返したら良いのかなどをノートにまとめたりしていました。

医師は嫌な性格をしていて、兜が殺し屋を辞めるのに障壁になっていました。
克巳が語り手の話にも出てきて暗躍しますが、最後は殺し屋ではない克巳が大活躍することになりました。
親子二代の活躍で、最後はモヤモヤが吹き飛ぶような形で物語が終わりました。
返信する

コメントを投稿