今回ご紹介するのは「カエルの楽園」(著:百田尚樹)です。
-----内容-----
安住の地を求めて旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトは、平和で豊かな国「ナパージュ」にたどり着く。
そこでは心優しいツチガエルたちが、奇妙な戒律を守り穏やかに暮らしていた。
ある事件が起こるまではー。
平和とは何か。
愚かなのは誰か。
大衆社会の本質を衝いた、寓話的「警世の書」。
-----感想-----
百田尚樹さんの作品は初めて読みました。
アマガエルのソクラテスの住む国にある日、凶悪なダルマガエルの群れがやってきて、毎日のように仲間が食べられ国は地獄になりました。
致命的な体格差がありアマガエルに勝ち目はありません。
次々と仲間が食べられていく中、生き残るには逃げるしかないと悟ったソクラテスは、自分達が平和に暮らせる場所を求め仲間と共に旅に出ます。
旅は過酷なもので、60匹いた仲間はどんどん減り、最後にはソクラテスとロベルトの二匹だけになっていました。
やがて二匹はナパージュという王国に辿り着きます。
ナパージュはツチガエルの国で、それまで見たことがないくらい平和な国でした。
二匹がナパージュで最初に出会ったツチガエル、ローラは不思議なことを言っていました。
「どうして、生まれた国から出てきたの?」
「ダルマガエルがやってきたからです」
「ダルマガエルがやってきたくらいで、どうして国を出るの?」
「ダルマガエルはぼくたちアマガエルを食べるのです」
「じゃあ、食べるのをやめてもらえばいいんじゃないの?」
「やめてくれないから、ぼくたちが出たのです」
「そんなおかしな話ってあるかしら」
私はこれを見て、おかしなことを言っているのはローラのほうだと思いました。
「食べるのをやめてもらえばいいんじゃないの?」とのことですが、ダルマガエルたちは問答無用でソクラテスたちの国を蹂躙しアマガエルを食べていて、話が通用するような相手ではないです。
ローラは「食べるのをやめて」と言えば相手がやめてくれると信じきっているようで、そこに違和感を持ちました。
マイクというツチガエルによると、ナパージュを治めているのはナパージュのツチガエル達によって選ばれた元老(げんろう)達とのことです。
これは日本の政治のような「議会制民主主義」をモデルにしていると思います。
マイクもまた、ソクラテスとロベルトからダルマガエル達がやってきて仲間が食べられて殺された話を聞くと妙なことを言っていました。
「申し訳ないが、そんな話は信じられません。理由もなしにカエルがカエルを食べるなどということはありえません。あなたたちが言うように、ダルマガエルがアマガエルを襲ったというのが本当なら、それはあなたたちがダルマガエルを怒らせるようなことをしたからではないのですか」
これも凄い考え方だと思いました。
どうやら「世界のカエルたちは全て善良で、悪いことをするカエルなどいるはずがない。もしいるとすれば、それはこちらが相手を怒らせるようなことをするからだ」という考えが根底にあるようです。
ハインツという若いツチガエルの語りによって、ナパージュには三戒(さんかい)があることが分かりました。
ナパージュのカエルたちが生まれた時から戒めにしているもので、三つあるから三戒と呼ばれています。
一つ目は『カエルを信じろ』。
二つ目は『カエルと争うな』。
三つ目は『争うための力を持つな』。
遠い祖先が作ったもので、ナパージュのカエルたちは三戒をずっと守り続けているとのことです。
三戒は憲法九条をモデルにしているのではと思いました。
三戒について不思議に思ったソクラテスはハインツに疑問点を聞きますが、その時の会話は興味深かったです。
「もし襲われたら、どうするの?」
「襲われたって争いにはなりません」
「どうして?」
「ぼくらが争わなければ、争いにはならないからです」
ぼくらが争わなければ争いにはならないとありますが、それだと一方的に虐殺されてしまうと思いました。
ナパージュの王国のすぐ近くにウシガエル達が棲む沼があります。
ロベルトによるとウシガエルは「あらゆるカエルを飲み込む巨大で凶悪なカエル」とのことで、ソクラテスとロベルトはウシガエル達がナパージュに押し寄せたらひとたまりもないのではと心配します。
しかしその時話していた年老いたツチガエルは
「そんなことは起こらんよ。ナパージュには、三戒があるんでな」
と言っていました。
三戒を守っている限りナパージュの平和は守られ、ウシガエルたちが襲ってくることもないという考えです。
また、ナパージュは崖の上にあり、最近はよくウシガエルが沼を出て崖を途中まで上ってくることがあるのですが、老ツチガエルは「三戒があるから大丈夫」と言っていました。
この「心配ない。ナパージュには三戒があるんでな」といった言葉はよく出てきて、この作品では三戒が重要なテーマになっていることが分かりました。
ソクラテスとロベルトは三戒の力に魅せられ、三戒を世界中に広めれば世界は変わると思いました。
ロベルトが足を怪我しているため、その怪我が治るまでの間、「三戒」以外にもナパージュの国の素晴らしさはいくつもあるはずなのでそれらを学んで三戒とともに世界に広めれば、世界中が「カエルの楽園」になるとソクラテスは考えます。
ナパージュのカエルたちは「謝りソング」という歌をよく歌います。
我々は、生まれながらに罪深きカエル
すべての罪は、我らにあり
さあ、今こそみんなで謝ろう
ローラによると自分達の罪を謝ることによって世界の平和を願っているとのことですが、誰に謝っているのかは知らないとありました。
ナパージュのカエルたちには「遠い祖先が過去に犯した過ち」という罪悪感があります。
ただしどういった過程があってその過ちに至ったのか、またそれは真実なのかどうかについては調べておらず、「過ちがあった」という言葉だけを信じきっているようでした。
これは一方的に過ちと決めつけるのではなく、そこに至る過程を知ること、そして過ちについて語られていることが全て真実なのか知ることが大事です。
「ナポレオン岩場」という大昔にナパージュのツチガエルが何百匹も殺された場所が登場しました。
これは広島の平和記念公園がモデルだと思います。
ただローラや他のツチガエルもそれを誰がやったのかについては知らず、ソクラテスは「この国のカエルたちは三戒については詳しいのに、昔のことになると、知らないことばかりだね」と言っていました。
ナパージュの民の考え方にソクラテスは良さを感じながらもまだ懐疑的ですが、ロベルトはすっかり絶賛していました。
その時、ヌマガエルのピエールが話しかけてきて、「ナパージュのカエルは、本当はすごく凶暴で残虐なカエルなんだ」と言います。
ロベルトが「嘘だ」と言うと、「嘘じゃない。お前たちが見てきた一番残虐なカエルよりもさらに残虐なカエルが、ナパージュのカエルだ」と言っていました。
ヌマガエルのピエールは話し方が尊大で、その言葉からはツチガエルとナパージュを憎んでいることが分かり、なぜなのか気になりました。
ヌマガエルはツチガエルとよく似ていて、最初ソクラテスとロベルトもピエールをツチガエルと間違ったのですが、ピエールはそのことに激怒します。
ロベルトが「すまなかった」と謝っても、「ふん、ツチガエルみたいに謝れば許して貰えると思っているんだろうが、俺様は許さんぞ。お前が言ったことをいつまでも忘れない。絶対に許さないから覚えておけ」と言っていました。
この千年経っても許さないと言うかのような執念にはゾッとしました。
ピエールはエンエンという国のカエルで、「エンエンは世界で最も偉大な国でナパージュなんか足元にも及ばない」と言っていました。
エンエンという国名は「恨みを延々と忘れない」から来ているのではと思い、モデルは韓国だなと思いました。
また、ピエールはエンエンという国のカエルですが、ナパージュで生まれてナパージュで育ちました。
私はこれを見て、他の国のカエルがナパージュに住ませてもらっているのに中傷するばかりで感謝しないことに違和感を持ちました。
またエンエンがそれほどまでにナパージュより素晴らしい国で、しかもナパージュが嫌いなら、自分の国に帰るのが良いのではと思いました。
ハインツによって、なぜピエールに代表されるエンエンのカエルが「ナパージュのカエルは凶暴で残虐なカエルだ」と言っているのかが語られます。
その昔、ナパージュの国の祖先がヌマガエルの子供たちをたくさん食べ、さらにヌマガエルを奴隷にし、そしてナパージュにいるヌマガエルはその子孫とのことです。
ソクラテスとロベルトがそれは本当なのかと聞くと、「大人たちは皆本当のことだと言っている」と言います。
さらに「デイブレイクは絶対に間違いないと言っている」とも言っていました。
デイブレイクとはナパージュで一番の物知りで、毎日朝と夜にハスの沼地で皆を集めて色々なことを教えてくれるとのことで、ソクラテスとロベルトはデイブレイクの話を聞きに行きます。
デイブレイクはハスの葉の上に立ち次のように語っていました。
「今夜もまた悲しいお話をしなければなりません」
「この国はますます悪くなっていきます。食べ物はどんどん少なくなり、我々の生活はさらに苦しくなっています。世界でも下から数えた方がいいくらいのひどさです」
ソクラテスは旅で多くの国を見てきていて、ナパージュは安全で豊かに見えていたのでこの発言には驚いていました。
デイブレイクは「こんなひどい国になってしまったのは、わたしたちが急速に謝りの心を失ったから」と言っていました。
「近頃、若いカエルたちが謝りの心を失いつつあります。噂では、もう謝る必要はないと言い出すものまで出てきているといいます。そのせいで、最近、ナパージュという国の美しさが揺らいできているのです」
「わたしたちが謝りの心を失いつつあることによって、ナパージュを取り巻く近隣の国のカエルたちが怒っています。これまで周囲のカエルたちと仲良くやってきたのが、危うくなってきているのです。このままでは、ナパージュの平和が危ぶまれるは必定です」
これらの発言を見て、デイブレイクのモデルは日本のテレビと新聞のマスコミだと思いました。
「近隣の国のカエルが怒っているから謝ろう」と最初から相手の主張が正しいと決め付けている点など、言っていることがよく似ています。
デイブレイクが謝ろうと言っているのは「かつてナパージュのカエルたちが周辺のカエルの国を奪い、大勢のカエルたちを虐殺したこと」についてです。
ただしソクラテスから見てナパージュのツチガエル達はとても穏やかで優しく、そんな虐殺をするようには到底見えません。
ロベルトが質問をした時、デイブレイクは次のように言っていました。
「ナパージュのカエルたちを放っておくと、また周辺のカエルたちに争いをしかけるようになります。ナパージュのカエルの本性はそういうものなのです。ですから、わたくしが毎日こうして集会で、みんなの考えが正しい方向に行くように指導しているのです」
この発言を見ると、デイブレイクはナパージュのツチガエル達を悪いカエルと決め付けていることが分かります。
そして自分の話を聞かせることによってナパージュのカエル達の謝りの心を維持させようとしていました。
デイブレイクの考えは「とにかくナパージュは悪。近隣のカエルの国は正しい」と決め付けているため、「本当にそんな大勢のカエルを虐殺したのか」「それは虐殺ではなく、相手が襲いかかってきたから戦いになり、戦った結果大勢のカエルが死ぬことになったのでは」などの可能性が考えられていないです。
デイブレイクは「相手が怒っているから謝ろう」と言っていますが、詳しいことがよく分からないまま謝る必要はないですし、まして当時のことを全く知らない若い世代のカエルはより一層謝る必要はないです。
そのような「ひたすら謝り続けること」を要求する国と無理してまで仲良くする必要はないと思います。
また、ナパージュのツチガエル達はデイブレイクの言っていることを信じきって鵜呑みにしていて、そこも問題だと思いました。
「ナパージュで一番の物知り」とのことですが、そのような人物の発言だからといって信じきるのではなく、その発言は正しいのか一度は考えてみることが大事だと思います。
ただ、ナパージュにもデイブレイクの話を信じないツチガエルがいます。
ハインツという若いツチガエルがソクラテスとロベルトに「デイブレイクがいなければ、ぼくらはバカのままだったかも知れません。彼がぼくらを正しい道に導いてくれたのです」と言った時、ハンドレッドという老ツチガエルが「それは違うぞ」と話しかけてきます。
「デイブレイクが言っていることで本当なのは、明日の天気くらいだ。だが、それさえ、しばしば間違う」
私は「デイブレイクが言っていることで本当なのは、明日の天気くらいだ」という言葉を見て、デイブレイクのモデルは朝日新聞かなと思いました。
ハインツは「ハンドレッドはナパージュで一番の嫌われ者で、他のカエルの悪口や滅茶苦茶なでたらめを言いまくっている奴なので信用するな」と言いますが、ハンドレッドの言葉にはどこか重みがありました。
三戒についてのロベルトとのやり取りは興味深かったです。
「カエルを信じろ。カエルと争うな。争うための力を持つなーーか。これが本当に正しいと思うのか?」
「でも、争わなければ争いが起こらないというのは正しいんじゃないか」
「たしかに争わなければ争いは起こらない。ただ、その場合は争いとは呼ばず、単なる虐殺という」
これはそのとおりだと思いました。
こちらが争わなければ争いにはならないですが、無抵抗で一方的にやられる虐殺となります。
ナパージュの東の岩山の頂上にはスチームボートという巨大なワシが棲んでいます。
ソクラテスとロベルトはスチームボートに話を聞きに行きます。
スチームボートによるとかつてナパージュのツチガエル達はスチームボートを追い出そうと抵抗し争いになりましたが、巨大なワシに惨敗し、楯突いたことを謝って東の岩山の頂上を棲む場所として提供しました。
以来、ツチガエル達はスチームボートが棲みやすいように色々と気を使ってくれているので、その代わりにスチームボートはナパージュのツチガエル達を守ってあげていました。
これを見てスチームボートのモデルは在日アメリカ軍だと思いました。
ナパージュの王国のすぐ近くにウシガエルたちが棲む沼がありますが、ウシガエル達が崖の途中まで上って来ることはあってもナパージュ国内に侵入してはこなかったのは、三戒で守られていたのではなくスチームボートの抑止力によって守られていました。
またスチームボートは年老いたので、そろそろツチガエル達も自分達のことは自分達で守ってほしいと思っています。
ソクラテスはナパージュは三戒ではなくスチームボートに守られていたのではと疑問を持ちますが、ロベルトはなおも三戒の力を信じていました。
ソクラテスとロベルトはナパージュの国を見て回っていき、ナパージュにはオタマジャクシや小さいカエルがあまりいないことに気付きます。
これは日本の少子高齢化をモデルにしていると思いました。
ローラに将来卵を産むつもりはあるかを聞くと、「卵を産んでも大変なことばかりじゃない?産んで何か良いことがあるのかしら?」と言っていました。
これにはデイブレイクが言っていた「この国はますます悪くなっていきます。食べ物はどんどん少なくなり、我々の生活はさらに苦しくなっています」が影響しているのではと思いました。
デイブレイクは毎日この言葉をナパージュのツチガエル達に聞かせていると言っていたので、毎日このような言葉を聞いていたら「そんな状況で卵を産んでもいいことはない。大変なだけ」と思うのではと思いました。
デイブレイクはスチームボートを追い出したいと思っていて、次のように語っていました。
「ナパージュの平和はスチームボートがいるお蔭などではなく、三戒のお蔭なのです。ナパージュのカエルたちの多くはスチームボートの存在を疎ましく思っています。中には憎んでいるカエルもいます。わたくしは、いずれこの国からスチームボートを追い出してみせます。その時こそ、ナパージュは真の自由と独立、そして本当の平和を手に入れることができるのです」
これは沖縄の米軍基地問題をモデルにしていると思いました。
スチームボートを追い出すとのことですが、そうなった場合スチームボートという抑止力を失って果たしてウシガエルの驚異からナパージュの平和を守れるのかという疑問を持ちました。
ある日事件が発生します。
ウシガエルが一匹崖を一番上まで登ってきて、ちょうど崖の上にいた老ツチガエルが驚いて腰を抜かしていました。
悲鳴を聞いて多くのツチガエルが集まってきました。
ウシガエルは老ツチガエルが大声で叫んだら崖を降りて行ったとのことで、現場からは既に姿を消していました。
今までは崖の途中までしか登ってこなかったウシガエルが崖の上に登ってきたことに緊張が走りますが、デイブレイクは全く信じず、「心配はいりません。ウシガエルはこの崖を登ってきてはいません」と断言していました。
デイブレイクの言葉を聞いてツチガエル達は一斉に「寝ぼけていたのか!」と老ツチガエルを責めます。
しかしその場に居た中でハンニバルというツチガエルだけは老ツチガエルの言っていることを信じていました。
ハンニバルはとても大きな体格で筋骨隆々で、弟のワグルラとゴヤスレイも同じく大きな体格で筋骨隆々です。
体格はウシガエルに及びませんが、噂ではウシガエルと戦っても勝てるのではと言われています。
ソクラテスとロベルトはハンニバル三兄弟のところにも話を聞きに行きました。
ロベルトと次のように会話が交わされます。
「君らは実際にウシガエルと争ったことがあるのか?」
「一度もない。ナパージュでは争いは禁じられている」
「じゃあ、争えないじゃないか」
「でも、そうしないと仲間が殺されるときには戦うよ」
「だけど、三戒を破ると、重い罰が与えられるんだろう」
「その通りだ」
「そうしないと仲間が殺されるときには戦うよ」という言葉を見て、ハンニバル三兄弟のモデルは自衛隊だと思いました。
また、ハンニバルは「ぼくらはこの国では誰にも理解されない嫌われ者さ」と寂しそうに言っていました。
ナパージュの国では三戒を絶対的に信じているため、本来仲間をウシガエルのような凶悪なカエルから守ってくれるハンニバル三兄弟は三戒の三、「争うための力を持つな」に違反する存在として疎ましく思われています。
特にデイブレイクからはかなり嫌われているようでした。
ローラもハンニバル三兄弟を嫌っているのですが、その理由として「デイブレイクがそう言っているから間違いない。デイブレイクが嘘をつくはずないもの」と言っていたのは印象的でした。
デイブレイクを信じきっていて、これは「テレビと新聞が言っているから間違いない」という心理状態をモデルにしていると思いました。
この事件の次の日、またしてもウシガエルが崖の上にやってくる事件が起こります。
今度はウシガエルが居るところに多数のツチガエルがやってきますが、ウシガエルは全く怯んだ様子もなく崖を降りて行こうとはしません。
ウシガエルの凶悪さを知っているだけにどのツチガエルもみんな怯えています。
そこにハンニバル三兄弟が駆けつけてウシガエルと対峙。
三兄弟の強さを察知したのかウシガエルはそのまま崖を降りて行きました。
ウシガエルはハンニバル三兄弟が来たことで逃げていったのですが、デイブレイクは「これが三戒の力だ!」だと言います。
その時若いツチガエルが「それは違うんじゃないですか」と言います。
ハンニバル達が駆けつけたことによって逃げていったように見えたからです。
するとデイブレイクはそれまでの柔和な表情での丁寧な語り口から態度を豹変させ、次のように言っていました。
「俺がその気になれば、お前など、ナパージュで生きていけなくしてやることもできるんだぞ」
私はこれを見て、デイブレイクは三戒が大事と言いながら凄く好戦的だと思いました。
三戒の一に「カエルを信じろ」とありますが、デイブレイクは自分の発言に少しでも異を唱える者については全く信用せず排除しようとしていて、普段「三戒を守ろう」と言っていることとの矛盾を感じました。
次の日またしてもウシガエルが崖の上にやってきて、幸いすぐに降りて行きましたが、その場に居たうちの一匹のツチガエルが崖の下を覗き込んで悲鳴を上げます。
たくさんのウシガエルが崖一面にへばりついていたのです。
しかも以前は崖の中腹までしか登ってこなかったのに、そのウシガエル達は崖のふちのすぐ近くまで来ていました。
ナパージュのツチガエル達に動揺が広がりますが、デイブレイクは「ウシガエル達に悪意はない。もし悪意があるのならすぐにでも崖の上にやってくるはずだ」と言います。
その言葉にナパージュのツチガエル達は安堵していました。
ただし、以前は崖の中腹までしか登らず上にやってくることはなかったウシガエルが頻繁にやってくるようになり、さらに大勢のウシガエルが崖のふちのすぐ近くまで来ているのは、じわりじわりとウシガエル達がナパージュの国に迫っていることを意味しています。
これは領土侵略をモデルにしていると思いました。
崖の壁は国境付近の小さな離島のことで、小さな島でも失うと次は本土が狙われることになります。
そしてウシガエルのモデルは中国だと思いました。
ウシガエルが崖一面を占拠している事態を受けて、七匹の元老達による「元老会議」が開催されます。
元老会議はナパージュの中央にある緑の池の中の小島で行われ、元老以外のカエルは会議には参加できないですが、池の周りから会議を見ることができます。
これは国会がモデルだと思いました。
プロメテウスという元老の中で一番若いツチガエルが「ウシガエルたちが南の崖を登ってくるというのは由々しき事態です。ナパージュはこれを放置はできません」
と言いますが、元老の長で一番の年長者のガルディアンは次のように言っていました。
「今、ナパージュでは、ウシガエルたちが襲ってくるというデマが飛び交っているが、これは根も葉もないことである。ウシガエルは友好的なカエルである。長い間、ナパージュとは争いがなかった。したがって、ウシガエルをどうするかという、この会議そのものが無駄なのである」
ウシガエル達は毎日南の沼に棲む多くのカエルを食い殺しているのですが、それでも「ウシガエルは友好的なカエルである」と言っているのが印象的でした。
また、「ナパージュには三戒があるので安全だ」とも言っていました。
この時プロメテウスが「ウシガエルたちは三戒を守る義務がない」と指摘していて、そのとおりだと思いました。
こちらが三戒を信じても相手には関係なく、一方的にナパージュを侵略されることになります。
プロメテウスが「南の崖の上に石を並べ、ウシガエルが登ってきたら落とすようにする。石を落とすのはハンニバル兄弟に頼む」という防衛策を提案しますが、ガルディアンはじめ年老いた元老からは「三戒に違反する」と猛批判されていました。
その夜のデイブレイクの話は元老会議のプロメテウスの提案についてで、「プロメテウスがハンニバルにウシガエルを攻撃させようとしている。明らかに三戒を破る行いで、プロメテウスはハンニバルに多くのカエルを殺す手伝いをさせようとしている」と猛批判していました。
デイブレイクに同調するカエルが多い中、一匹の若いツチガエルが疑問の声を上げます。
「プロメテウスさんはナパージュを守ろうと真剣に考えているんじゃないでしょうか。彼はウシガエルの襲撃からナパージュを守ろうとしているように思いますが、違うのでしょうか」
これを聞いたデイブレイクは激怒します。
「お前は戦争がしたいのか!ウシガエルと争うことによって、この国をめちゃくちゃにしたいのか。三戒を破りたいなどというカエルは、ナパージュの敵だ!」
若いツチガエルは謝りますが、デイブレイクは次のように言いました。
「お前みたいな若いカエルが天下のデイブレイク様に意見をして、ただですむと思っているのか。お前など葬り去るのは簡単なんだぞ!」
これを見てデイブレイクがまたしても本性を見せたと思いました。
三戒の一に「カエルを信じろ」とありますが、全然他のカエルを信じていないです。
また三戒の二に「カエルと争うな」とありますがデイブレイクは自分の意見に少しでも異を唱える者には凄く攻撃的です。
これらに「三戒を守れ」と言っていることとの矛盾を感じます。
また、デイブレイクがある二つの嘘をナパージュに広めていたのが明らかになる場面を見て、デイブレイクのモデルは朝日新聞だなと確信しました。
翌日の元老会議でプロメテウスは「スチームボートに南の崖を見張ってもらうのはどうか」と新たな提案をします。
これにはガルディアンらも賛成し、プロメテウスがスチームボートに頼みに行くことになりました。
するとスチームボートから「自分がウシガエルを追い払う時にはツチガエルも一緒に戦うように」と提案をされます。
それを翌日の元老会議で言うとガルディアン達から「そんなことをすれば完全に三戒違反だ!」と猛反発されます。
プロメテウスが「では、スチームボートがわたしたちを守るために戦っているときに、わたしたちはスチームボートを助けることができないのですか」と聞くと、ガルディアンは「そういうことだ」と言っていました。
スチームボートも年老いていますし、さすがにこちらは一切協力しないのに南の崖を見張ってもらおうというのは無理があると思いました。
また、案を出しても反対するだけのガルディアン達に対し、プロメテウスは「皆さんは反対するだけで、南の崖をどうやって守ろうかという具体的な案を少しも出さないではないですか」と言っていました。
次の日の元老会議で「スチームボートと協定を結ぶことに賛成か反対か」の採決をすることになったのですが、元老会議は大荒れになりました。
前日の夜にデイブレイクが「戦いをするための協定を阻止しなければならない」と大々的に言っていたこともあり、小島の周りには大勢のカエル達が集まっていました。
プロメテウスとガルディアンで次のような会話がありました。
「ウシガエルたちが大量に南の崖を登ってきたら、わたしたちはどうやってそれを防ぐのですか?」
「簡単なことだ。話し合えばいい」
話し合えばいいとありますが、これは「話し合いが通用しない相手」がいることを考慮していないと思います。
やがて採決の時になると、「ぼくたちは反対です!」という声が上がります。
フラワーズという若いカエルを中心にした、いずれもオタマジャクシからカエルになったばかりのまだお尻にシッポが残ったままの若いカエル達が声を上げていました。
「ぼくたちはウシガエルとは戦いたくはない!」
「わたしも戦いたくない!」
「『戦いをするための協定』反対!」
「戦いをするための協定」は安全保障法制(集団的自衛権)が日本共産党などから「戦争法案」と呼ばれたのをモデルにしていると思いました。
また、フラワーズを中心とする若いカエル達は安全保障法制反対運動を展開したSEALDs(シールズ)がモデルだと思いました。
裁決ではぎりぎり「スチームボートと協定を結ぶ」という案が採用されるかに見えましたが、デイブレイクが「今こそ、立ち上がるべきです!」と背中を押す中、フラワーズ達が中心となって小島に殺到し、力づくで採決を潰してしまいました。
プロメテウスが「皆さん、暴力はやめましょう」と言うと、ガルディアンは「話し合いなど無駄だ!みんな、『戦いをするための協定』に賛成した元老たちをやっつけてしまえ!」と言います。
話し合いが大事と言っていたはずなのにものすごく暴力的なことに驚きました。
私はこれを見て日本共産党の「暴力革命」をモデルにしたのではと思いました。
「三戒を守れ」と言っていたはずなのに暴力によって民主主義を否定してしまいました。
ハンニバル兄弟に頼んで崖から石を落とす案が潰れ、スチームボートと協定を結ぶ案も潰れ、このような好機をウシガエル達が逃すはずはなく、より一層崖の上に押し寄せてくるようになります。
これは中国のフィリピン侵略をモデルにしているのではと思いました。
フィリピンにも在フィリピンアメリカ軍がいたのですが、「出ていけ」という声が高まってアメリカ軍が引き上げると、その途端に中国艦隊がやってきて島を侵略し、現在の南沙諸島の問題になりました。
デイブレイクの「三戒があるから大丈夫」を主張するための防衛ラインがどんどん後退しているのは印象的でした。
最初は「崖の途中まで登っているだけだから大丈夫」だったのが、いつの間にか「崖の上に来るようになったがまだ何もしていないから大丈夫」になっていました。
ウシガエルが頻繁に崖の上に登って来るようになるとついにツチガエルを襲おうとするようになり、ある日ハンニバル三兄弟の次男、ワグルラが戦うことになりました。
この戦いについてガルディアンらが「三戒違反だ」と猛批判していたのは印象的でした。
ワグルラは「相手が襲いかかってきたから応戦した」と言いますが全く聞き入れてもらえません。
これは北朝鮮の不審船の領海侵犯を海上保安庁の船が見つけ、相手が攻撃してきたのでこちらも応戦したらなぜか北朝鮮ではなく日本を非難した社民党をモデルにしたのかなと思いました。
応戦せずにいれば一方的にやられてしまいます。
ガルディアンやデイブレイクがあくまでウシガエルを擁護するような発言をしている間に、南の崖の上に登って来るウシガエルの数はさらに増えていきました。
その事態を見てプロメテウスは元老会議で「三戒の破棄」を提案します。
これもガルディアンや周りで見ているカエル達から猛批判されましたが、プロメテウスは「大事なことなので元老会議だけでなく、ナパージュのカエル全員に諮ろう」と提案します。
これは国民投票がモデルだと思いました。
ガルディアンは国民全員の意見を聞くことに反対していて、何度も「話し合いだ」と言っていたのに国民の意見を聞く気はないことが分かりました。
ただガルディアンは反対したもののまず元老会議では三戒破棄が決定され、次に三戒を破棄すべきかどうか三日後に国民全員に聞くことになりました。
ナパージュ国の運命が決まるこの物語最大の山場がやってきます。
その日の夜のデイブレイクの集会は大変な騒ぎになりました。
デイブレイクが「本日は三戒を守るために、多くの仲間たちに来てもらいました」と言うと「進歩的カエル」と呼ばれているカエル達が登壇して三戒破棄に反対するように訴えます。
ハンドレッドによると「語り屋」「物知り屋」「説明屋」「評論屋」「代言屋」といったカエルとのことです。
これはテレビのコメンテーターや新聞のコラムニストがモデルかなと思いました。
いつもお祭り広場で皆を楽しませているマイクというカエルの言葉は興味深かったです。
「三戒を守って、この国が滅んでもいいじゃありませんか。昔、ナパージュという素晴らしく美しい国があったーーカエルの歴史にそんなふうに記されることは、光栄なことではないですか」
これは経済評論家の森永卓郎さんの言葉がモデルだと思いました。
憲法九条についてほぼ同じことを言っていたことがあります。
国民全員に意見を聞く三日後までこういった集会は続いていきました。
ガルディアンとデイブレイクはウシガエルがどんなことをしてもあくまでウシガエルの側に立った発言をしていました。
ナパージュの側には立とうとしないのが印象的で、実はウシガエルを引き入れようとしているのではと思うくらいでした。
そして多くのカエルがデイブレイクの話を信じきってしまう時点で、ナパージュの結末は決まっていたのかも知れません。
最後に、ナパージュのモデルは日本だと思います。
ナパージュではデイブレイクの話を信じた結果どんどんウシガエルの侵略を許すことになりましたが、日本はそうはなってほしくないと思いました。
近未来のことなので今きちんと意識して対策すれば回避することができます。
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それでその後、「風の中のマリア」と言う本を買ったのですが
なんと主人公が蜂の女の子
蜂が擬人化されたお話で途中までは読んだのですが
どうにも馬鹿馬鹿しくなって読むのを止めてしまいました
なるほど・・・話の奥に隠された作者が言いたかったことを読み取る力が私には無かったのかも知れません~(笑)
対米服従誓約なのでしょう。
今の日本・・・、色々なメディア・・・、コメンテーターや新聞等の情報で、国民も、何を信じて良いか、さまざまな情報を聞きすぎて、考えが混乱したりしている人も多いかもしれませんが、こう言った小説を読んでみると、客観視できて、冷静な考え方ができるきっかけになりそうです。
カエルの国のお話しと言う事で、読書をあまりしない方でも、面白く読み進められそうな気がしました。
本には相性があるので時には読めない本に当たることもありますね。
「カエルの楽園」は何がモデルになっているかが色々想像でき、「風の中のマリア」より読みやすいかも知れません。
もし機会があれば読んでみてください。
そこから時間が経ち日本を取り巻く安全保障環境が大きく変化し、条文が現実にそぐわないという問題点が出てきました。
カエルの国を舞台にした珍しい小説です。
このレビュー、結構長くなったのですが読んで頂いてありがとうございます。
たしかにさまざまな情報がありすぎて混乱することもありますね。
起こったことをそのまま発信している情報もあれば意図を持って発信された情報もあり、冷静に見ていく必要があります。
意図を持った情報に流される様子はカエルの国の話として見ると客観視することができます。
物語はカエルの会話を中心に構成され所々に絵もあるので想像しやすく、あまり読書をしない人でも読みやすいかと思います。