読書日和

お気に入りの小説やマンガをご紹介。
好きな小説は青春もの。
日々のできごとやフォトギャラリーなどもお届けします。

「少女は卒業しない」朝井リョウ

2015-05-05 16:05:02 | 小説
今回ご紹介するのは「少女は卒業しない」(著:朝井リョウ)です。

-----内容-----
今日、わたしは「さよなら」をする。
図書館の優しい先生と、退学してしまった幼馴染と、生徒会の先輩と、部内公認の彼氏と、自分だけが知っていた歌声と、たった一人の友達と、そして、胸に詰まったままの、この想いと―。
別の高校との合併で、翌日には校舎が取り壊される地方の高校、最後の卒業式の一日を、七人の少女の視点から描く。
青春のすべてを詰め込んだ、珠玉の連作短編集。

-----感想-----
この作品は以下の七編で構成されています。

エンドロールが始まる
屋上は青
在校生代表
寺田の足の甲はキャベツ
四拍子をもう一度
ふたりの背景
夜明けの中心

「エンドロールが始まる」の語り手は作田さん。
次の日に卒業式を控えた夜から物語は始まります。
通常、高校の卒業式は3月の初めに行われるものですが、合併によって高校がなくなる今年は明日、3月25日が卒業式です
取り壊しの工事が始まるのが3月26日なので、その前日に卒業式が行われます。

作田さんは図書室の先生のことが好きで、卒業式の日にその想いを伝えようと決心しています。
先生は大学を卒業してから5年間、この高校に勤めているとあったので27歳かなと思います。
非常に言葉の丁寧な先生で、作田さんは先生が持つ優しさに惹かれているようでした。

友達の陽子と佳織、生徒会長の田所君など、同級生の名前も出てきます。
これらの人達が他の章で出てきたりするのか気になるところでした。

そして卒業式当日、作田さんは先生に想いを伝えようと勇気を振り絞ります。
最後の終わり方が良かったです。

私の中にある思いは、過去形でしか伝えられない。
自分で小さくピリオドを打ちこんだあとでないと、伝えられない。
過去形にして無理やりせりふを終わらせればやっと、エンドロールが始まってくれる。


これは切ないなと思いました。
エンドロールが始まり、作田さんは区切りをつけた先へと飛び立っていきます。


「屋上は青」の語り手は孝子。
あと30分で卒業式が始まる中、孝子は幼馴染の尚輝と東棟の屋上にいます。
尚輝はダンスが得意で、中学に入ってすぐに芸能事務所に所属しました。
高校でも仕事で休むことがあり、生徒の大半が国立大学を目指す進学校であるため、次第に勉強についていけなくなり辞めてしまいました。
その既に退学している尚輝が卒業式の日に高校に忍び込んできて、孝子と屋上にいるというわけです。

尚輝が学校を休むと、生徒の中には「芸能人にでもなるの?」と嘲笑めいた言い方をする人もいたようです。
ただ好きなことを続けている尚輝のことを、なぜもっと素直に見守ることができないんだろう。

これは自分達とは違う異質な存在を目の前にした時、嘲笑することで自分のほうが優位だというのを確認できるからだと思います。
「なるほど、芸能の道に進むのか。まあ頑張れ」と適当に流せるだけの、人間としての内面ができ上がっていないということだと思います。

また、この話では「東棟の幽霊のうわさ」の正体が明らかになります。
意外なものが幽霊の正体でした。


「在校生代表」の語り手は岡田亜弓さん。
岡田さんは高校二年生で、卒業式で送辞を読みます。
送辞で「ある人の背中が私の知らない未来へと遠ざかっていくことがとても悲しい」と言い、その話を始める岡田さん。
まさかのドラマのような展開に卒業式の場に集まった全校生徒はざわつきます。

岡田さんの担任は前野先生といい、頭が薄いため、ザビエルと呼ばれています。
ちなみに岡田さんは女子バスケットボール部に所属しているようで、部活仲間のよっちゃんや二つ上の女バスのキャプテン、ゆっこ先輩といった名前が出てきました。

岡田さんが強く惹かれた人は田所先輩でした。
「エンドロールが始まる」に名前の出てきた人で、下の名前は啓一郎と言います。
卒業式の全生徒が集まっている場で卒業して行く田所先輩への思いを語るのはたしかにドラマみたいだと思います。
岡田さんが田所先輩に惹かれることとなった高校一年生の3月、卒業式の日、当時の田所先輩は生徒会の副会長でした。
田所先輩に近付くため、岡田さんは生徒会に立候補します。

この物語はずっと岡田さんが送辞を読む形で進むのですが、結構大胆なことを言ったりもしていました。
田所先輩に近づきたかったんです。一冊のノートに顔を寄せ合って、たまにおでこをぶつけてしまったりしたかったんです。

こんなのを言ったら、女子生徒からは「きゃー」という歓声が上がりそうな気がします

夏の夜は、いくら更けていってもまだまだ明るい気がしました。
これはそう思います。
特に7月の、まだ鈴虫やコオロギが鳴く前の、鳴いているのは泣き声の地味な虫だけの頃の夜にそれを感じます。


「寺田の足の甲はキャベツ」の語り手は後藤さん。
女子バスケ部の元部長です。
この話では「在校生代表」で語り手だった岡田さんやよっちゃんこと「よしえ」が後藤さんの後輩として、倉橋さんが後藤さんの同学年の女バス副部長として登場していました。

後藤さんは寺田賢介という男子バスケットボール部員と付き合っていて、二人はバスケ部公認のカップルです。
この高校では卒業式の後にライブが行われるのですが、そのライブでの有名人「森崎」の名前が今まで何度か出ていてこの話でも登場し、いずれ森崎の話があるのかなと思いました。

卒業式の後、二人は河原に行きます。
後藤さんは寺田に何かを言おうとして意を決しようとしています。

あたしは知ってる。ずっとこういう日々が続けばいいって願ってしまった時点で、続かない、ってわかってること。

これは深い言葉だなと思いました。
ずっと続いてほしいと願ってしまった時点で、続かないことを悟っているとは…たしかにそんなこともあると思います。


「四拍子をもう一度」の語り手は神田杏子さん。
軽音部の元部長です。
ここでついに「森崎」が登場することになります。
卒業式後のライブを前に、森崎たち「ヘブンズドア」の衣装とメイク道具が全部盗まれるという事件が発生。
ガッチガチのヴィジュアル系バンドである「ヘブンズドア」にとってこれは致命的です。
ステージの控室でメンバーはかなり動揺していました。
そしてメンバーは名前が特徴的で、ヴォーカルの森崎は「刹那四世」、ドラムは「カムイ」、ギターは「世界が消えて失くなる前に」、ベースは「心音(パルス)」と言います。
このウザい名前に神田さんが激怒しているのが面白かったです(笑)

控室には放送部の元部長・氷川さんや放送部員、軽音部員、そして「ヘブンズドア」と同じく卒業ライブに出るギターデュオとお洒落な男女混成バンドがいます。
そのため誰が「ヘブンズドア」の衣装とメイク道具を盗んだのかで揉めることになりました。


「ふたりの背景」の語り手は高原あすかさん。
高原さんがこの高校に来たのは高校一年生の9月で、それまではカナダに住んでいました。

高原さんには楠木正道という友達がいて、二人とも美術部です。
楠木正道は3年H組という6人しかいないクラスの生徒で、知的障害を持った子たちのクラスとありました。

この話には里香と真紀子という、高原さんのクラスメイトが登場。
真紀子は里香の後についているだけなのですが、里香は最悪な女子でした
自分より目立つ人物が許せないようで、それまで英語が学年1位だった里香に対し、高原さんが満点を取り勝ってしまった日から、里香の態度が豹変。
露骨に嫌がらせをしてくるようになり、クラスで孤立させられてしまいました。
そんな高原さんにとって楽しい場所になっていたのが美術部での活動でした。
ただ高原さんは高校卒業後はアメリカに行ってしまうため、楠木君との別れの時が近付いています。


「夜明けの中心」の語り手はまなみ。
まなみは卒業式の後、思うところがあって夜の北棟校舎に潜入します。
しかしまなみが潜入した夜の教室には香川という先客がいました。
香川は剣道部の部長で、まなみは料理部の部長です。
剣道部には駿というエースがいて、まなみが潜入した教室で人影を見た時、思わず「駿?」と言っていました。
もともと香川とまなみは友達で、香川を通じて駿とも仲良くなったようです。
まなみと駿は付き合っていました。
この駿という人物について、夜の校舎に潜入した「今」と在りし日の駿を振り返る「過去」の物語が交互に展開されていきます。
読んでいて、駿は既に亡くなっているのだなということが分かりました。

お弁当は、いろんなおかずが詰め合わせになっているはずなのに、それでひとつの「お弁当のにおい」になるから、不思議だ。
これはたしかにそうだなと思います。
高校時代、お弁当箱を開けると美味しそうな香りがした日々が思い出されます

まなみも香川も駿について気持ちの整理がつかず、心がバランスを崩したままになっていました。
二人は前に一歩を踏み出すために、夜の校舎に潜入したのでした。
クライマックスが凄く良くて、これは前に進んでいけるに違いないと思える終わり方なのが良かったです


同じ学校が舞台なので、それぞれの話は少しずつつながっています。
卒業式に繰り広げられた七つの物語、まさに青春という読んでいて瑞々しい物語だったと思います


※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿