読書日和

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「あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所」山田真哉

2014-12-20 12:43:52 | 小説
今回ご紹介するのは「あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所」(著:山田真哉)です。

-----内容-----
モデルを目指し上京した竜ヶ水隼人。
しかし、ある勘違いから東京芸能会計事務所―芸能人のみをクライアントとする会計事務所で働くことになり、美人だが暴走する所長・天王洲あいるにこき使われる日々を過ごしている。
ゴーストライターを見破る方法とは?
毒舌タレントが突然税理士を変えた理由は?
業界の謎を、アイドル税理士と天然青年コンビが解き明かす!
楽しく学べる超実用的エンタテインメント、始動!

-----感想-----
山田真哉さんの小説を読むのは「女子大生会計士の事件簿」のシリーズ以来となります。
あの時は「公認会計士」を題材にしていましたが、今回は「税理士」の世界が舞台です。

物語の語り手は竜ヶ水(りゅうがみず)隼人。
鹿児島県出身の19歳です。
モデルを目指しているのですが、ある勘違いから税理士事務所で働くことになりました。
その勘違いとは、「芸能事務所」と「芸能会計事務所」を間違えたこと。
烏山千歳(からすやまちとせ)という憧れのアイドルを追いかけて乗ったエレベーターで(ストーカーみたいですね)竜ヶ水は芸能事務所を見つけました。
そしてそこに飛び込んでみると、何とそこは芸能人専門の会計事務所、「芸能会計事務所」だったというわけです。
竜ヶ水が遭遇したのは所長の天王洲あいる。
りんかい線、東京モノレールの天王洲アイル駅のパロディとしか思えない名前です
商業高校出というところを天王洲あいるに目を付けられ、竜ヶ水はそのまま東京芸能会計事務所で働くことになりました。
ちなみに東京芸能会計事務所は従業員30人、抱えるクライアントは500人でなかなか大所帯とのことです。

物語は以下のようになっていて、一話簡潔の短編~中編で構成されています。

1曲目 ここは東京芸能会計事務所 職業・アイドル
2曲目 芸能界は奥深い 職業・タレント
3曲目 文学新人賞の秘密 職業・新人作家
BGM1 始まりのゴーストバスターズ
4曲目 ”言葉使い”にご用心 職業・作詞家
BGM2 クリスマスの会計事務所

各話で竜ヶ水と天王洲あいるがクライアントから税務の依頼を受け、そしてそこにある謎を解き明かしていきます。
この一話完結のスタイルは「女子大生会計士の事件簿」の時と同じで、今回は会計トリックが税務トリックに変わります。
確定申告書のことなどが出てきて、読むと税務のことにちょっとだけ詳しくなれるような小説です。


1曲目は「KEIO☆1000」というアイドルグループのことがよく出てくる話でした。
「KEIO☆1000」とは国民的アイドルグループで、桜上水芦花(ろか)と烏山千歳(竜ヶ水の憧れのアイドル)が人気を二分していたとのことです。
「KEIO☆1000」はAKB48をモデルにしているのだと思います。
この話のクライアントは烏山千歳だったのですが、終盤で名前しか出ていなかった桜上水芦花の意外な正体も明らかになりました。

また、この話では東京芸能会計事務所の使命についても言及がありました。
「所属事務所すら知らないようなプライベートも、すべて抱え込む。そして、クライアントを全力で助ける。これが、芸能人を専門とする会計事務所の使命、プロフェッショナル・ビジネスなのよ」

天王洲あいるの言葉ですが、たしかに込み入った事情を抱え込むこともあるんだろうなと思います。
烏山千歳にも世間には決して言えない秘密がありました。


2曲目はプラーザ多摩という毒舌タレントの話。
私は毒舌タレントと聞くと有吉弘行さんやマツコ・デラックスさんが思い浮かびます。
プラーザ多摩にはもともと世話になっている税理士がいたのですが、余程腹の立つことがあったらしくその税理士を替え、東京芸能会計事務所の世話になりたいと言ってきました。
そこで天王洲あいるが興味深いことを言っていました。

「税理士を替える理由には、大きくふたつあるの。ひとつは、顧問料が高いとか、対応が遅いとか、サービス面での問題」
「そして、もうひとつは会計処理に対する意見の食い違いやそもそもの節税感覚の違い、つまり経理面での問題。こっちだった場合は、税理士が替わってもまた同じ壁にブチ当たることが多いから、できれば引き受けたくないのよ」


これはなるほどと思いました。
後者の可能性が高いと見た天王洲あいるはプラーザ多摩の依頼を引き受けるのに乗り気ではありません。
そして竜ヶ水はプラーザ多摩のことを調べる特命係に任命され、どんな経緯で前の税理士、宮前平税理士を替えることになったのか調べていくことになります。
この竜ヶ水の調査の過程がギャグ的なノリで面白かったです。

「ほ、本当に、前の税理士に直接会いに行ったのお!?」
「なにか問題でも」
「い、いやー……別に問題じゃないけど、フツーしないかなあ。お客さんを奪い取っちゃうかもしれない相手なわけだしさあ」
「マナー違反でしたか?」
「マナー違反じゃないけど…先方に嫌がられなかった?」
「いいえ、別に。ただ、『お宅の所長はどういう教育しているんだ』とは言ってました」

この後竜ヶ水はプラーザ多摩の所属事務所「カントリーシティライン」の溝口社長にも会いに行くのですが、その後に上記と全く同じ展開が繰り返されていました(笑)
ほんと、ギャグ的なノリでテンポよくサクサク読めて面白かったです


3曲目は文学新人賞を受賞した新人作家の話。
アルピコ=シンシマーシマー=松本という音楽業界から転身した変わった名前の新人作家が「長野出版社ミラクル新人賞」という賞を受賞。
その賞金額は何と3000万円
クライアントが大出世して顧問料も大幅に高くできるということで天王洲あいるも喜びます。
しかし問題が発生。
年内に出すと言っていた受賞作の単行本は出ず、さらには賞金も1円も払われません。
出版社が意図的に、悪意を持って払わずにいると確信した天王洲あいるは竜ヶ水とアルピコを連れて長野出版社の姥捨(うばすて)社長のところに乗り込んでいきます。

この話では文学賞に対する税金の額の違いが興味深かったです。
ノーベル文学賞の場合は「社会への貢献が大きい」という理由で非課税。
芥川賞、直木賞、本屋大賞などの場合は「すでに世に出ている作品に対する賞金だから、偶発的」という理由で「一時所得」という扱いになり、税金は(収入-経費-50万円控除)×1/2 で算出されます。
江戸川乱歩賞、すばる文学賞、電撃小説大賞などの場合は「まだ世に出ていない作品なので、賞金は『著作に対する直接の対価』に含まれる」ことになり、税金は収入-経費で算出されます。
芥川賞、直木賞、本屋大賞のような既発表の作品が賞をもらった場合は馬券や落し物と同じ”一時所得”になり税金は安く済みますが、江戸川乱歩賞、すばる文学賞、電撃小説大賞のような公募文学賞の場合は賞金をもらうために書いて応募しているのだから、賞金をもらうことには「対価性」があり、通常と同じ税金、”事業所得”がかかるとのことです。

また、この話の中で「ちんどん屋はなぜ潰れそうなのか?」という本が出てきました。
会計本で初めてのミリオンセラーとのことで、これはどう見ても山田真哉さんの著書「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」のパロディだと思います。
「女子大生会計士の事件簿」のシリーズでヒットした後に出し、会計本で異例のミリオンセラーとなった本です。


BGM1、4曲目、BGM2はゴーストライター問題の話。
最初のBGM1でニセ作曲家のゴーストライター問題が出てきて、「楽譜が読めないのに作曲家だったなんて、ヒドイ話ですよねえ」とありました。
これは佐村河内守氏が新垣隆氏をゴーストライターにしていた問題のことだと思います。

「ゴーストライター問題に脱税はつきもの」というのは印象的でした。
ゴーストライターに支払った代金の源泉徴収漏れで、不納付加算税と延滞税を含めた追徴課税を受けることになるようです。
ゴーストライターを雇った側も源泉徴収をきちんとしなければ脱税になってしまうということです。
ただ竜ヶ水が「でも、『ゴーストライター代です』と税務署に申告する人って、いるのかなあ……」と疑問に思っていたように、正直に申告する人はなかなかいないのではと思います。
そんなわけでゴーストライター問題が発覚すると税務署が動き、税務調査が入ったりもするようです。

4曲目の依頼人は高幡百草(もぐさ)という人。
新規のお客で、職業欄に「言葉使い」と書いている謎の人物です。
この人物が天王洲あいるを前にした途端激怒します。

「―天王洲あいる。正体は、桜上水芦花」
「えっ」
「ああ、もしかして昔のファン?一応変装をしているつもりなんだけれど、あなた、なかなか鋭いわねっ」
「―フッ、お気楽なものね」
「え?」
「チッ、この裏切り者ッ!」

ものすごい怒りで、二人にどんな因縁があるのか気になりました。
しかもお金にがめつい天王洲あいるが高幡百草の依頼をタダで引き受けていて、やはり二人の因縁が興味を惹きました。
竜ヶ水との会話では以下のことを言っていました。

「そ、そんな。たしかに、天王洲さんは人形みたいに綺麗ですらっとしてて元アイドルで頭がいいけど……」
「―そうね。その通りよ。魅力ある女性よね」
「でもね。卑怯で、裏切り者で、人の夢や希望を平然と潰すような”最低の女”でもあるのよ」

またこの話では「KEIO☆1000」のことがよく出てきました。
「KEIO☆1000は創設期の頃はグループとしての人気はなかなか出ず、芦花ちゃんら一部のメンバーが露出する程度だった」とあり、やはりAKB48をモデルにしているなと思いました。
AKB48も最初は前田敦子さんら一部のメンバーが露出する程度でした。


どの話も展開が早く、ギャグ的なノリでサクサク読めました。
ただ「―」を多用するなど、文章表現力は純粋な作家さんと比べると見劣りします。
これはもともとが公認会計士・税理士なので仕方ないところです。
楽しくサクサク読めて会計、税務のことにもちょっと詳しくなれる本だと思います。
続編が出るようなのでそちらも楽しみにしたいと思います


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