読書日和

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「シマイチ古道具商 ー春夏冬人情ものがたりー」蓮見恭子

2017-04-08 23:35:18 | 小説


今回ご紹介するのは「シマイチ古道具商 ―春夏冬(あきない)人情ものがたり―」(著:蓮見恭子)です。

-----内容-----
茶碗、豆皿、丸ちゃぶ台、ここは想いが集う場所。
生活を立て直すため、大阪・堺市にある夫の実家「島市古道具商」へ引越し、義父・市蔵と同居をすることになった透子一家。
14年間、社会に出ていなかった透子は、慣れない店暮らしに失敗ばかり。
それでも道具や集う客の想いに触れて、透子もいつしか人生を見つめ直し始めーー。
どこか欠けた人たちのも、丸ごと受け入れてくれる場所。
古い町家で紡がれる、モノと想いの人情物語。

-----感想-----
物語の舞台は大阪の堺です。
プロローグの「堺の小道具屋」の語り出しに「窓から桜の花びらが一枚入り込んできて、透子の膝の上にふわりと舞い落ちた。」とありました。
冒頭の季節は桜の咲く春で、今はまさに桜が満開の時期なのでピッタリだと思いました
物語の語り手の透子は先月誕生日を迎えさらに高校を卒業したばかりの18歳とありました。
そして進路は決まっていないです。
透子は高校でお世話になった島田壮市先生の実家を見てみたいという好奇心で、堺にある「島市古道具商(しまいちふるどうぐしょう)」を訪れました。
そこでは後に結婚する壮市の父でお店の店主である島田市蔵(いちぞう)に遭遇しました。
透子が父と暮らすマンションにある卓袱台に「貧乏くさい」と不満を言った時、市蔵が次のように言っていました。
「お嬢ちゃん、道具は値段で見たらあきまへん。百万円出しても面白ない道具もあれば、百円でも人の心を動かすもんがあるんです」
道具を商う人ならではの良い言葉だと思いました。


「第一話 男やもめのお点前 ~香合に思いを込めて~」
第一話はプロローグから14年後の5月で、透子は32歳になっています。
今年38歳になる壮市と結婚して14年目を迎えたこの春、小学六年生の爽子(さわこ)と三年生の素良(そら)を連れて一家で市蔵のもとに居候させてもらうことになりました。
市蔵は現在76歳とありました。

ある日、雪野加津(かず)というお店の常連であるお茶の先生が来るということで、透子は市蔵を手伝って準備をしていました。
雪野先生がお店に来る時は大抵着物で、しかも毎回種類が違っていたので解説を読みながらどんな着物か考えるのが面白かったです。

そして雪野先生がやってきて、透子はお茶の支度をしながら過去の出来事を思い出していました。
ある日高校教師の夫の壮市が「電車に乗ると、息苦しくなる」と訴え、病院に行くと心療内科を紹介され、「過労による精神の消耗」と診断されました。
そこから休職と復職を繰り返すようになり、透子は休職して家にいる壮市に苛立ったりもしていました。
壮市には10歳年上の信子という姉がいて、信子には縁談の話が持ち上がっていたのですが、信子は「父を一人にできない」と渋っていました。
そこで透子は、堺に戻って信子の代わりに市蔵と同居し、そこで生活を立て直そうと提案します。
ただその時壮市が言った「透子には帰るとこがないもんな……」という言葉には不信感を持ち、透子の胸に硬いしこりとなって残りました。

お店に藪内という西郷隆盛のような風貌の男がやってきます。
藪内は今度自らが亭主としてお茶事を開くとのことで、道具を充実させるためにお店に来ました。
その時、「香合(こうごう)」という道具が話題になっていました。
香合は茶室で香を焚く際にお香を入れておく器のことで、季節によって材質や絵柄を変えるとあり、なかなか奥深いなと思いました。
ちなみにお茶事には雪野先生も来ることになっていて、藪内は雪野先生のことが好きです。
しかし雪野先生が藪内をどう思っているのかは分からないため、透子は市蔵から、買ってもらった道具を届けるついでに気持ちを聞き出してくるように頼まれていました。

この話は会話が楽しくて笑う場面が何度かありました
素朴ながらもとても暖かな会話で良かったです。


「第二話 数奇者(すきもの)の目 ~お宝の正体~」
季節は夏になりました。
心労の原因となっていた教師の仕事を辞め療養していた壮市は段々と朝スムーズに起きられるようになり、7月に入ってからは大阪市内にあるカルチャーセンターで絵画教室の講師として週に4日のアルバイトを始ていました。

子供たちが学校に行き市蔵も壮市も出かけて一人になった透子が物思いにふけっていると、店の前に車が止まり、見知らぬ男がやってきます。
男は猪俣と言い、小学生の時によくお店に来ていたとのことでした。

猪股が来た翌日、透子は雪野先生の手伝いで家の片付けをすることになります。
その家は雪野先生の母の姉、滋子おばさんの管理している築80年にもなる古家で、今度雪野先生がそこを好きに使って良いことになったのでした。
しかし前の住人の荷物が大量に残っているので、それを片付けることになりました。
片付けをする時、透子がプロローグで市蔵に「父を恨むのは筋違いだ」と諭された時のことを話すと、雪野先生が「なんで、おっちゃんは、そんなことを言うたんやろ?」と疑問に思っていました。
小説の後半でこの謎が明らかになるのかも知れないと思いました。

透子はその家で素敵な陶磁器を見つけ、元々全部棄てる気だった雪野先生の許可を貰って持って帰ります。
市蔵に鑑定してもらうと、それは神棚に供える御神酒徳利とのことでした。
透子はこの御神酒徳利を一輪挿しの花瓶変わりにし洗面所の鏡の前に置いておくのですが、後にこの御神酒徳利に事件が起こります。

この話では屏風や襖の「下貼り」の話が興味深かったです。
屏風や襖は和紙を重ね貼りして強度を持たせてあります。
江戸時代や明治時代など、紙が貴重品だった時代には帳簿や手紙、図面、版本をばらした物など用済みとなった故紙が下貼りとして使われたとのことです。
なので屏風や襖を解体するとその家にまつわる貴重な資料が出てくることがあり、そんな資料が屏風や襖の中にあるとは驚きました。
猪股が大阪市内にある大学の研究センターでそういった古い物や建物の研究をしているため、市蔵に頼まれて屏風の解体をしていました。


「第三話 家族の形 ~継がれた陶片~」
秋の10月になりました。
借り家の市蔵の家の大家、駒井亀吉(かめきち)の具合が良くなく入院したとありました。

お店に橋爪夏帆(かほ)という、素良と同級生の一馬(かずま)の母親と猪股がやってきます。
二人とも壮市の同級生でもあります。
夏帆は町家の情報を交換し、維持する方法などを語り合う「まちなみ保存会」に所属していて、観光客用にマップを作成するなどボランティアに励んでいます。
古い町家が少なくなっていることを嘆いていました。
市蔵が「昔から『京都の着倒れ、大阪の食い倒れ、堺の建て倒れ』と言うてな、堺の人は立派な建物が好きなんです。稼いだお金は食べ物や豪華な衣服やのうて、家に費やされたんです」と言っていたのが印象的でした。
堺がそんなに家にこだわっていたとは知りませんでした。

夏帆と透子が一緒にスーパーに買い物に行く道すがら、素良たちのクラスの問題児、堂本雄大という子の話になりました。
雄大は母親と二人暮らしで父親はおらず、一馬に連れられて夏帆の家に来たことがあり、暴れて家の中を目茶苦茶にしたり、いつまで経っても帰ろうとしなかったり、問題行動を起こしていました。
そしてふとしたきっかけから市蔵たちのお店兼家に来ました。
やはり問題を起こしていて、透子は壮市にそういった子供のことについて相談しようとしますが、疲れていた壮市は寝てしまいます。
これまでにも透子は「壮市に話を聞いてもらいたい」と思う場面があったのですが、そのいずれでも壮市の体調に来がねして話せずにいました。
「いつしか、壮市とは本音を言い合わなくなった。会話はいつも、差しさわりのない事ばかり。」とあり、夫婦仲がすっかり冷めているなと思いました。
やがてとうとう透子に我慢の限界が来て、激しい夫婦喧嘩になります。
透子の怒りと諦め、さらにいじけがないまぜになったような怒り方が印象的でした。

堂本雄大が市蔵たちの家で騒ぎ、市蔵の大事な皿を割ってしまいます。
市蔵が珍しく子供のしたことに激怒し、母親の初美を雄大と一緒に呼び出すように透子に言っていました。
やがてその皿がどんな皿なのかが分かりました。
また、初美を呼び出したことには大きな意味がありました。
そして市蔵の思いやりの深さが印象的で、雄大と初美の両方が良い方向に行くように思いやっていました。


「第四話 慈しまれた日々 ~父の卓袱台~」
晩秋になり、市蔵と透子が庭の柿の木から取った柿を食べていました。
その時、駒井亀吉の息子の栄吉から「立ち退いてくれ」と言われたことが明らかになりました。
亀吉が入院し弱ったため、息子の栄吉の発言力が強まっていました。
さらに、壮市が再び体調を崩して寝込んでしまっていました。

壮市が透子に、透子の母親のことを話す場面がありました。
これまで透子の思い出の中にしか出てこず、謎だった母親のことが分かり、さらに透子が非難していたのとは違う父親の意外な面も分かりました。

本当は立ち退きたくないであろう市蔵のためにも、透子は何とかして立ち退かなくて住むように方策を考えます。
また、プロローグから今まで何度か登場していた透子の卓袱台のことも、市蔵の話によって色々なことが分かりました。
透子の思いは最初は透子の考えに否定的だった壮市をも動かし、そして立ち退きを受け入れて家に住むのを諦めていた市蔵にも届き、再び市蔵に活力が戻っていました。
この話の後半はとても胸を打つ展開でした


透子は最初、母との華やかな思い出、父との嫌な思い出、そして壮市との結婚生活への疲れ、これらの思いで心の中がないまぜになり疲弊していました。
私的には心の病で療養する壮市を心配する透子の心の状態のほうが心配なくらいでした。
そこから次第にそれぞれの思いと向き合い自身の気持ちに整理をつけていっていました。
整理をつけることができたのは市蔵や壮市との会話のおかげであり、この家族のつながりが暖かくて良いと思いました。
長く心が沈みがちだった透子がまた人生を楽しめそうな終わり方をしていたのが良かったです


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2 コメント

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読んでみたい! (紅実子)
2017-04-09 00:17:57
まず、「春夏冬」で、「あきない」 …スゴイセンスですよね!
そして 「欠けた人たちも丸ごと受け入れてくれる場所」
「道具は値段で見てはいけない」 などの言葉…。
なんだかこれだけでも、優しい気持ちになれそうです。
はまかぜさん、良い本の紹介を、ありがとう!
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紅実子さんへ (はまかぜ)
2017-04-09 11:08:55
商いを、「春夏冬」で秋がないから「あきない」 にしたのは凄いセンスだと思いました
会話は素朴さの中に温かさのあるものがたくさんあり、優しい気持ちになりました
笑ってしまうような会話もあり面白かったです。
機会があれば読んでみてください
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