読書日和

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「13階段」高野和明

2015-12-24 15:48:08 | 小説


今回ご紹介するのは「13階段」(著:高野和明)です。

-----内容-----
反抗時刻の記憶を失った死刑囚。
その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。
だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。
処刑までに残された時間はわずかしかない。
二人は、無実の男の命を救うことができるのか。
第47回江戸川乱歩賞受賞作、江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

-----感想-----
樹原亮(きはらりょう)は31歳の死刑囚。
死神(死刑囚にこれから死刑が執行されるのを告げに来る人。死刑囚から見ると死神に見える)は午前9時に独居房にやってきます。
この時間は決まっているようで、毎朝9時になると独居房には緊張が走ります。
樹原亮は東京拘置所の死刑囚舎房、通称「ゼロ番区」に収監されて7年になります。
樹原は7年もの間、死の恐怖に怯えながら生きてきました。

「自分は処刑されてしまうのか。
まったく身に覚えのない罪のために。」


この作品は冤罪によって死刑判決を受けた死刑囚、樹原亮を救い出すための物語です。
樹原はバイク事故の影響により、自身が死刑判決を受けることになった事件前後数時間の記憶がないのですが、石田という男が死刑囚舎房から出房となり 死刑台に連れて行かれたその日、「あの時」死の恐怖に駆られながら階段を上っていたことを思い出します。

この物語の主人公の一人、三上純一は松山刑務所で仮出獄許可決定書を手に、仮出獄許可決定書交付式に出ています。
そんな純一を微笑をたたえて見ているのは、もう一人の主人公である看守長(首席矯正処遇官)の南郷正二。
純一は27歳、南郷は47歳です。
梅雨入り間近の6月から物語は始まります。

純一には8歳年下の弟、明男がいます。
実家を出てアパートに住んでいる明男のところに行ってみると純一を見た明男は露骨に嫌そうな顔をします。
人殺しとなった兄のせいで明男は高校を中退していました。
明男の口から聞いた、三上家が被害者の父親、佐村光男に払わなければならない慰謝料の額は7000万円。
この時純一はなぜ両親がぼろぼろの家に引っ越していたのか思い知ることになりました。

純一は旗の台にある雑貨店「ファンシーショップ リリー」を訪れます。
ここには木下友里という高校時代のガールフレンドがいます。
二人の会話の中で木下友里が「私は10年前のあの時から時間が止まっている」と言っていたのが印象的でした。
10年前に何かがあったようです。

純一が働こうと思い父のやっている小さな町工場「三上モデリング」に行くと、何とそのすぐ後に南郷がやってきます。
南郷は死刑囚の冤罪を晴らす仕事を一緒にやらないかと持ちかけてきます。
死刑囚の事件が起きたのは千葉県中湊郡。
純一が高校時代に木下友里と補導されたのも中湊郡、純一の傷害致死事件の被害者の実家があるのも中湊郡で、奇妙な偶然になっていました。
南郷からこの事件の成功報酬は一人につき1000万円であることが明かされます。
払う賠償金がまだ2700万円残っていることもあり、純一はこの仕事を引き受けます。

純一は南郷とともに動き始め、まず南郷の依頼人である杉浦弁護士が登場。
死刑囚の事件がどんなものだったかが語られます。

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1991年8月29日午後8時30分頃。
中湊郡磯辺町に住む教員、宇津木啓介は妻の芳枝を連れて年老いた両親が住む実家への山道を軽自動車で上っていました。
実家手前300メートルの地点で路上に倒れている男に遭遇します。
男の後方にはオフロードバイクが投げ出されていて、状況から見てバイク事故であり、宇津木夫妻はすぐ先にある実家から119番通報しようと再び車に乗り込みます。
ところが実家に駆けつけた夫婦が見たものは、大型の刃物で襲撃された両親の惨殺死体でした。
殺害されたのは67歳の無職、宇津木耕平とその妻、康子。
耕平は定年まで地元の中学校の校長をした後、7年前からはボランティアとして保護司活動に従事していました。
捜査陣は現場から300メートル下でバイク事故を起こしていた樹原亮という青年に注目します。
当時22歳だった樹原は少年の頃の非行歴と、20歳を過ぎてから起こした軽微な窃盗事件のため、保護観察処分を受けていました。
そして彼を担当する保護司が、被害者の宇津木耕平だったのです。
捜査員が樹原亮が搬送された救急病院に向かうと、樹原亮の持ち物から宇津木耕平のキャッシュカードが入った財布が発見されます。
さらに後の鑑定で樹原亮の衣類からは二人の被害者の血液が検出されます。
状況は明らかで、樹原亮は面識のある保護司の家に上がり込み、宇津木夫妻を殺害した後、金品を盗み、バイクで逃走。
ところがその途中、カーブを曲がりそこねて転倒し、皮肉にも被害者の遺族によって発見されるという事態になりました。
樹原亮は入院中に強盗殺人の容疑で逮捕されることになりました。
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この事件には被告人の樹原亮がバイク事故のショックで犯行時刻の前後数時間の記憶を失っているという特異な点があります。
記憶がないのは裁判では不利で、裁判官に「改悛の情(反省して悔い改めること)」がないと判断されてしまい、無期懲役か死刑かの判断で死刑側に行きやすくなります。
また、自分がやったかどうかの記憶がないので検察側が主張する公訴事実にも反論のしようがないです。

南郷の依頼人である杉浦弁護士にはさらに依頼人がいて、杉浦弁護士曰く「匿名の篤志家」とのことです。
依頼人が行動を起こそうとしたきっかけは樹原亮が失われた記憶の一部を思い出したからとのことで、樹原は思い出せない四時間弱の時間のどこかで死ぬかも知れないという恐怖を感じながら階段を上っていたと言っています。
階段を探し出せば犯行現場から消えた凶器や他の証拠が見つかるかも知れないと考え、純一と南郷はまず階段を探そうと動き出します。

純一と南郷はまず惨殺された宇津木夫妻の息子夫婦、啓介と芳枝のもとを訪れるのですが、ここでの場面は印象的でした。
南郷達が樹原亮の再審請求をしようとしていると察知すると啓介が激怒。
その凄まじい怒りを見て純一は「死刑判決に疑義を呈するのは、被害者感情を蹂躙する行為なのだ。そこに論理がつけ入る隙はない。」と胸中で述べていました。

純一と南郷の話と同時進行で、樹原亮の死刑執行への手続きも着々と進んでいきます。
東京霞ヶ関の中央合同庁舎6号館、法務省刑事局にて、「死刑執行起案書」が作成されます。
この起案書は5つの部署、13名の官僚の決裁を受けることになっています。
また、死刑判決の言い渡しから執行までの手続きの数も13あります。
死刑までに上っていく階段、13階段です。

やがて純一と南郷は樹原亮が断片的に思い出した「階段」が一向に見つからないことから、階段を探すのではなく、真犯人を探す方向に作戦を変更します。
樹原亮死刑執行へのタイムリミットが迫る中、少しずつ手掛かりを得ていきます。
南郷の後輩の岡崎刑務官や樹原亮の公判で死刑を求刑した中森検事、さらに公判に出廷した弁護側の情状証人の二人、安藤紀夫(のりお)と湊大介など、色々な人に話を聞きながら調査していきます。
真犯人には驚きましたし、クライマックスの展開にも驚きました。
クライマックスは二つの物語が同時進行されたのですが、どちらもかなり狂気じみた怖い展開になっていました。
一つが「怒り」の感情でもう一つが「恐怖」の感情で、どちらも時として人を殺害する狂気の感情になることがあるのだと思います。

ミステリー小説だけに「冤罪を晴らす」「真犯人を探す」という謎解きの要素が面白かったです。
さらに物語の節目節目で着々と進んでいく死刑執行への手続きが緊迫感を与えていました。
先の展開が気になりどんどん読んでいける面白い小説でした。


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