読書日和

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「ユング心理学へのいざない」秋山さと子

2016-06-05 23:59:51 | 心理学・実用書


今回ご紹介するのは「ユング心理学へのいざない」(著:秋山さと子)です。

-----内容&感想-----
文章がですます調で語られていて、とても丁寧な語り口の本でした。
1ページの行数を数えてみると15行でシンプル目の小説と同じくらいで、文字も少し大きめになっていて読みやすかったです。

「元型的イメージについて知ることはユング心理学の中心的課題であるとともに、人間の内的な世界を探究する鍵となる」とありました。
元型とは人間の心の中に場所や時代を超えて受け継がれてきた共通のイメージパターンです。
母親元型や父親元型などがあります。

この本では夢との対話である「夢分析」について詳しく
書かれていました。
夜に眠っている間の、暗い無意識の中の世界の動きを何とかしてとらえ、それにある程度筋道を通して考えてみようというのが夢分析とのことです。
こちらが夢に興味を持ち出すと、意識が向けられたことで刺激されるためか、夢の背景にある無意識の動きが活発になって、夢を通して色々なことを伝えてくることがあるというのは興味深かったです。
ただし夢分析については専門家ではない人が本格的に分析しようとするのはあまり良くないようです。
これは間違った解釈をして深刻に考え込んでしまったりする場合があるからだと思います。
私としては「嫌な夢を見た場合は心が疲れているから気分転換をしよう」など、軽く分析するくらいが良いのだろうと思いました。
そして本格的に分析したい場合は分析家に付いて一緒に分析する形のほうが良いとありました。
分析家というのは臨床心理士ように高度な心理の知識を持っていてさらに夢の分析についても高度な知識を習得している人のことだと思います。
ユング派による夢分析については次のように書かれていました。

ユング派による夢分析は、誰かが誰かの心の状態を分析するというようなものではなくて、夢について相談するものと、その相談を受けるものの二人が、明瞭な意識を持って協力し、二人の知識と連想を駆使して、夢を通して意識的世界に訴えてくる無意識の謎を解こうとすることです。

「夢は予想外の強い影響力を持つものですから、みだりに夢について考えたり、勝手な発言をすることは危険です。それは自分の夢について考える時も同様です。」
これは良いことを書いていると思いました。
分析家は相手への影響を考えて慎重に発言をすることが大事だと思いますし、夢が訴えているものを知りたいと考える人は深刻に考え過ぎないようにすることが大事だと思います。

絵について、子供の描く絵のほうが大人が描いた絵より内的世界が現れるとありました。
また、子供たちの絵の中にある輝きや力強さは、明らかに無意識の領域から現れる元型的イメージと関連があるとのことです。

「元型的イメージは大きな力を持つものとして古代の神像や宗教的な文献、儀礼の中に残されて、今日まで伝えられてきました。
さらに、古今の芸術家の作品の中にも、深い感動と神秘的な美しさを感じさせるものとして、表現されてきました。」
これらのことから、「集合無意識の概念は芸術や文学とも関わる」とあったのは興味深かったです。
優れた芸術家や小説家などは集合無意識がもたらす元型的イメージによるひらめきを巧みに捉えて、誰の目にも見えるもの、聞こえるもの、考えられるもの、感じられるものとして表現できるとのことです。
それが特に顕著な例としてピカソの絵が紹介されていました。

ペルソナという、どんな人でも持っている社会の中でつける仮面があります。
自分とペルソナを混同しないようにしなければ、自分のつけた仮面に自分自身が振り回されることになります。
「先生や医者はついそれを忘れていつでも権威的な態度をとりがちで、商人はあいそ笑いがくせになり、芸能人は普段の自分に戻っても人気者である癖が抜けなくてかっこばかりつけがち」とありました。
元型のシャドウ(影)についても書かれていました。
シャドウは自分自身の心の奥底にある「こういう人は嫌だな」というような暗い部分のことです。
この本はペルソナやシャドウについて詳しく書かれていてすごく分かりやすかったです。

グレート・マザー(太母)という元型イメージについても書かれていました。
母親の胎内を思わせるようなトンネルや洞窟、あるいは迷路、その中に住むドラゴンや魔女や海獣たち、さらにこれとかかわる蛇の持つ大地的なエネルギーなどがグレート・マザーの元型イメージです。
人間が一人の個人として自分の足で大地を踏みしめてしっかりと立ち上がるためには、心の奥にある本能的な母のイメージと戦って、その力を明るい意識の光で照らし、自我の領域に取り入れていかなければならないとのことです。
母のイメージに無意識なままでいるとあらゆるものを飲み込む鬼のような恐ろしい力となって現れる場合があるようです。
私は幼稚園生くらいの子供の時に自分が押し入れの中に入っていて、その押し入れを開けて恐ろしい顔の鬼が入ってくるという悪夢を見たことがあり、今でも覚えています。
ひょっとしてあれは集合無意識がもたらすグレート・マザーの元型イメージだったのかも知れないと思いました。

火は意識の象徴、水は無意識の象徴とのことです。
たしかに火は無意識のうちでは起こせず意識して起こすものですが、水は無意識のうちに飲んでいるということがあります。

臨床心理の現場での夢分析、箱庭療法、自由画の例を用いながら元型的イメージなどを説明していましたが、そんなに難しくはなく興味深く読むことができました。
既にユング心理学の本は「ユング名言集」「面白くてよくわかる!ユング心理学」「ユング心理学でわかる8つの性格」の三冊読んでいて下地があったのも大きいです。
私はユング心理学はとてもしなやかな心理学という印象を持っていて、私の感性と合うなと思います。
心を知ることで自分自身を生きやすくすることに役立てて行きたいと思います。


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