読書日和

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「対岸の彼女」角田光代

2014-06-21 10:37:05 | 小説
今回ご紹介するのは「対岸の彼女」(著:角田光代)です。

-----内容-----
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。
結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。
多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。
第132回直木賞受賞作。

-----感想-----
35歳の田村小夜子と、同じく35歳の楢橋葵。
年齢が同じで、出身大学も同じの二人、この二人を中心に物語は進んでいきます。
物語は田村小夜子の視点で描かれる話と、高校時代の楢橋葵の回想の話とが交互に進んでいきます。

小夜子には夫の修二と、3歳の娘のあかりがいます。
ある日小夜子は葵が社長を務めるプラチナ・プラネットという会社の採用面接を受けました。
結果の電話が来て晴れて採用となり、葵の会社で働くことになった小夜子。
仕事の内容は旅行に行く人のお掃除代行業務、ハウスキーピングとのことです。
プラチナ・プラネットは元々は旅行会社で、そこからお掃除代行へと業務を広げようとしていました。
しばらくは研修で、葵は義母にあかりを預けての研修です。
義母が嫌味ばかり言う人で、研修初日から
「私は子どもたちが帰ってくるとき家にいない母親にはなりたくなかった、子どもにさみしい思いをさせてまで働く人の気が知れない」
などと玄関を出る小夜子の背中に嫌味をぶつけていました。
小夜子はうんざりしながら、こういう人なんだから仕方ないと諦めの境地です。

もう一つの話は葵の高校時代の話。
高校一年生の入学式の日から回想は始まります。
葵は中学校の卒業式までは神奈川県の横浜市磯子区のマンションに住んでいました。
葵は中学校時代、酷いいじめに遭っていました。
やがて学校に行けなくなりました。
そこで家族で母の実家がある群馬県に引越し、高校は知っている人の誰もいない群馬の女子高校に通うことにしたのでした。
高校の入学式で葵に話しかけてきたのが野口魚子(ナナコ)。
魚の子どもと書いてナナコと読む珍しい名前です。
葵とナナコの関係はちょっと変わっていて、クラスは同じなのに教室ではほとんど話さず、しかし学校の外に出ると二人でよく話しています。
葵は何人かのグループに入っていて、ナナコはどこにも属さず、昼休みは派手なグループから爪の磨きかたを習っていたり、体育の直前は体育会系グループに混ざって張り切っていたりと、自由に動き回っていました。
そんなナナコを葵はいつかクラスから疎まれていじめに遭うのではないかと心配しています。
そしてそのナナコと仲が良いということで自分もいじめられるのではと葵は恐れていて、学校の中に居る時はナナコと話せないようです。
凄いのはナナコで、葵からその胸中を告白された時も「それでいい、私が無視とかされてもアオちんはべつになんにもしないでいいよ」と全てを受け入れたようなことを言っています。
この境地にはナナコが育った環境が大きく関わっているようでした。

小夜子の物語のほうは、段々と研修が進んでいって、プラチナ・プラネットの他の社員も研修に参加していくのですが、あまりにハードな研修に社員達は不満タラタラです。
やがて「元々旅行会社なのに、なんでこんなことにまで手を回してるんだ」と社員達は葵への不満を口々に言います。
社長と社員達の間に確執が渦巻いていきました。
真面目に研修に取り組み、お掃除代行業務を真剣に考えていたのは小夜子だけだったような気がします。

小夜子にとって葵は、何でも話せる存在になっていました。
「義母のことも、夫の不用意な発言も、口に出せば喜劇性を帯び、すぐに忘れられる。言わずにためこむと、些細なことがとたんに重い意味を持ち、悲劇性と深刻味を帯びる。そして葵になら、小夜子は躊躇なく話すことができた。
たしかに口に出さずに我慢しているとどんどんストレスが溜まっていきますし、話すことが出来る相手は貴重な存在だと思います。

小夜子の物語のほうで、会社の事務所で葵が言っていた言葉で印象的なものがありました。
「観衆の心をとらえる方法はひとつしかない。それは誠実かつ謙虚な姿勢で観衆に訴えかけること」
フランク・シナトラの名言とのことで、歴史上の著名な人の名言がよく出てくる伊坂幸太郎さんの作品が思い浮かびました。
そしてたしかに誠実かつ謙虚な姿勢がなければ観衆は振り向いてはくれないと思います。

葵の回想の物語は、高校二年生の夏へと進み、葵とナナコは伊豆急行の今井浜駅からバスで10分くらいのところにある「ペンション・ミッキー&ミニー」でアルバイトを始めました。
二人の運命が大きく変わる夏です。
夏の間ペンションに住み込んでのアルバイトで、夏の終わりにアルバイトも終わるのですが、その後がまさかの展開になっていきました。
横浜のポルタやジョイナス、モアーズやルミネといった名前が出てきたのは横浜と縁のある私には場所の想像がつきやすかったです。
「あたし、ナナコと一緒だとなんでもできるような気がする」
葵がナナコに言った言葉です。

そして小夜子の物語ではこんな言葉が出てきます。
「楢橋さんといっしょだと、なんだかなんでもできそうな気がする」
葵の言葉と全く同じでした。
葵は自らの過去を思い出したことでしょう。
やがて小夜子は葵の過去に気付きます。
決定的に亀裂が入るのか、それとも色んな心境を乗り越えてまた一緒に進んでいくのか、最後の展開は興味深かったです。


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2 コメント

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はまかぜさん☆ (latifa)
2014-06-23 18:31:47
こんにちは、はまかぜさん
女子同士の友情とか、微妙な心理とか、角田さんは凄く上手い!と思っています。
女子高に長くいたら、そういう心理に特に詳しくなると、何かのインタビューで(作家さん同士の)聞いたことがあります。

男性のはまかぜさんが読むと、また女性が読むのとは、違った印象を受ける処があったりするのかなー
興味深いです。
返信する
latifaさんへ (はまかぜ)
2014-06-23 21:11:53
latifaさん、こんにちは
角田さんは女子高に長くいたのですね。
どうも心理描写が深いなと思いました。
たぶん女性が読んだ場合とは違う印象を持つ場所もあるのだと思います。
小夜子がママ友達グループのお茶会に参加した時とか、女性が何人も集まって会話している場面が何度かありましたが、ああいう場面を読んで受ける印象はちょっと違うかも知れませんね^^
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