読書日和

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「夜を守る」石田衣良

2016-11-19 20:28:51 | 小説


今回ご紹介するのは「夜を守る」(著:石田衣良)です。

-----内容-----
今度の舞台は、アメ横だ!
失踪した相棒を捜すダンサー。
嫌がらせに悩むヤクザ。
ひきこもりでシンナー中毒のイケメン。
商店街をおびやかす“ハイカラ窃盗団”。
アメ横の平和を守るため4人のガーディアンが今夜もガード下に全員集合!

-----感想-----
アメ横商店街をパトロールする青年達の話で、池袋ウエストゲートパークと似た雰囲気を持つ作品です。
物語は次のように構成されています。

プロローグ
アメ横の女
グリーンハウス
Xペリエンスの姫
夜のジャングルクルーズ
雨に踊れば
夏の自警団
アメ横ランナバウト

「プロローグ」
物語全体の語り手でもある川瀬繁は昼はレンタルビデオ屋でアルバイトをしていて、夜はアメ横に行きます。
私大を出て就職をせずに4年になる26歳です。
繁が「福屋」というJRの高架下にあるさびれた定食屋に行くとそこには共にアメ横でパトロール活動をしている橋本直明と服部要が来ていました。
三人は地元の上野中学の同級生で、揃いの青いフライトジャケットを来てアメ横のパトロール活動をしています。
直明は身長180cm、体重100kgの巨漢で、実家はアメ横で「ブルックリン」という古着屋をやっていて直明もそこで働いています。
あだ名は香港映画の大スターからサモハンです。
要は中肉中背で福祉関係の専門学校を出た後は隣の文京区役所で福祉課の仕事をしています。
あだ名はヤクショです。
繁にはあだ名はなく、いつも静かで頭脳は明晰、都立の進学校から私立大学に進んだものの、卒業しても就職はしなかったとのことです。

この場にはもう一人、誰とも視線を合わせずおどおどとしている謎の男がいました。
店主の真奈美によると男は繁たちの仲間になりたがっているとのことです。
この男は「のりすの家」という様々な障害者が力を合わせて暮らす生活支援施設の人で、一方的に仲間になりたがる男を三人とも煙たがっていました。
やがて男が「お友達になってください」と話しかけてきて、名前は岡田由紀夫だと名乗ります。
帰れと言っても引き下がらない由紀夫に対し、繁は「今晩中にアメ横通りにある全ての放置自転車をきれいに片づけられたら仲間にしてやる」と無理な条件を言って追い払います。
そして三人は夜のアメ横のパトロールに出掛けて行きました。

やがて三人は24時を過ぎた真夜中のアメ横で老人とともに放置自転車の整理をしている由紀夫を見かけます。
この姿を見て繁は由紀夫を仲間として迎えることにしました。
繁は昼間にもこの老人に会っていて、思わぬ形で再会して老人の話を聞くことになりました。
老人は4年前の12月にアメ横で当時大学生だった一人息子の増井信を殺されています。
増井老人は毎晩犯人を追いながらこの街をひとりで片付けていました。
街の片付けをすることについて興味深いことを言っていました。

「この街には理不尽な暴力を許してしまうような荒んだ雰囲気がある。あの放置自転車もそうだし、あのむやみにうるさいネオン看板や呼びこみもそうだ。信を殺した犯人はなかなか見つからないかも知れないが、この街の空気をちょっとでもいいものにするのはすぐにできることだ、そうわたしは思った」

四人はこの言葉に感銘を受けて、増井が犯人探しに区切りをつけて故郷の福島に帰るまでの一週間、増井を手伝うことにします。
繁は心の中からやる気が湧いてきて、次のように思っていました。
大学を卒業して四年。自分から進んで何かをやりたいと思ったことは今回が初めてだった。ひと晩で新しい目的が見つかったのだ。ちいさなころから親しんだこの街の空気をよくする。この街の夜を守る。


「アメ横の女」
福屋で集まるところから物語が始まります。
基本的には福屋が四人の集合場所になっています。
青いフライトジャケットに続き、四人揃いの青いベレー帽もでき、本格的なアメ横のガーディアン活動が始まります。
繁はぼんやりとアメリカの都市から始まって世界に広がりを見せるガーディアンエンジェルのことを思い浮かべていました。
それぞれのストリートネームが決まり、由紀夫は施設での呼び名をそのまま使って「天才」、直明と要は元々のあだ名のまま「サモハン」と「ヤクショ」、繁は「アポロ」に決まります。

福屋にプロローグでも登場していた、アメ横のカジュアルな格好とは違う雰囲気の丸の内官庁街のOLのような雰囲気の女が現れます。
天才がこの女と知り合いで、名前はレイカで新宿の会社で働いていると教えてくれます。
しかしヤクショが話しかけると酷くそっけない対応で追い払われてしまいました。

四人がアメ横のガーディアン活動をしていると、レイカが中央通りのABAB(アブアブ)のシャッターにもたれて立っているのに遭遇します。
レイカの本名は早川真由子といい、昼間は新宿の住宅会社のショールームでコンパニオンをしていますが夜の顔も持っていて娼婦活動をしています。
夜の顔を見られたレイカは衝撃を受けていました。


「グリーンハウス」
四人がアメ横でガーディアン活動をしていると70歳くらいの派手な格好をしたおばあさんが声を掛けてきます。
このように、活動していると声を掛けてくる人がいてそこから話が始まることもあります。
おばあさんはかなり大きな業務用冷蔵庫を運ぶのを手伝ってくれと言っていました。
近くと言っていたわりにかなり距離があり、湯島まで運ばされました。
その家はどこも明るい緑のペンキで塗られていて、そこらじゅうに電気製品が積み上げられていました。
ヤクショによると「湯島の緑の家」として、いわゆる汚屋敷として役所でも有名とのことです。
そんな汚屋敷も電気製品が安く手に入るということで外国人向けの観光案内に載っていて、観光名所になっていました。
ただヤクショの勤める文京区役所は湯島を管轄していて地域住民から苦情が寄せられているとのことで、やはり汚屋敷は他の住民にとっては迷惑だと思います。

アポロがガーディアンについて胸中で語る場面がありました。
夜のガーディアン活動は、実際には地味で体力をつかう仕事ばかりである。この定食屋でのひとときがもっとも安らげる時間なのだ。
ガーディアン活動と聞くと派手なイメージがありますが、実際にやっていることはゴミ拾いや自転車整理、酔っぱらいの介抱など、地味で体力を使うものばかりです。
それでも四人の中の誰一人として離脱せずに続けているのは偉いと思います。
定食屋「福屋」では口の悪いヤクショがよくサモハンやレイカを怒らせるようなことを言って軽い喧嘩になっていて、その掛け合いも面白いです。

福屋に汚屋敷のおばあさんが現れます。
名前は内藤サキと言い、緑の家が明日の朝に強制代執行で電気製品を片付けられてしまうため助けてくれと頼んできます。
四人にとってかなり長い夜になりました。


「Xペリエンスの姫」
レイカが友達の相談を聞いてほしいと頼んできます。
「Xペリエンス」という上野でも一、二を競うキャバクラで働いている春美という子です。
問題は春美が付き合っているミノルという男で、四人はミノルと会って話を聞くのを頼まれます。
ミノルはシンナーに手を出していました。

ファミリーレストランで四人とレイカが待っていると潮崎春美とその彼氏の児島稔が現れます。
ミノルは東京に出てきてからすっかり自信を失ってしまい、シンナーに手を出してしまいました。
ただし今は晴美と約束しやめているとのことです。
そして自信を取り戻すため、ミノルもハヤテというストリートネームでガーディアン活動に加わります。
しかしガーディアン活動が始まると、ハヤテは誰かを怖れているようでした。


「夜のジャングルクルーズ」
花見の時期が終わり、アメ横の喧騒もようやく普段の賑わいになった頃。
四人がガーディアン活動をしていると、城東天童会というヤクザの一団が歩いてくるのに遭遇します。
四人の活動はアメ横で有名になっていて、このヤクザの人達も知っていました。
その中のボス格の人物から「ちょっと顔を貸してくれないか」と言われた四人。
洒落たバーに連れて行かれました。
現実のガーディアン活動でこのような人達から声を掛けられることはあるのかなと気になりました。
ボス格の男は永沢秀美といい、城東天童会若頭補佐とのことです。
永沢によると天童会がアメ横に出している16店舗の風俗店に最近嫌がらせをする奴がいるとのことです。
そこで四人がアメ横をパトロールする際、天童会の風俗店にも注意を向けてくれないかと頼んできます。
永沢は比較的穏健派の人物で犯人を捕まえても亡き者にまではしないと言っていて、嫌がらせをしている犯人を見つけたら永沢に連絡することになりました。
しかし四人がパトロールをしていると天童会渉外部長の田神輝夫という男が出てきて、犯人を見つけたら永沢より先に教えるように脅してきます。
こちらは物凄く暴力的な人物で犯人は捕まったら命はなさそうでした。
四人は両者の板挟み状態になり、簡単にはいかない展開になりました。
また、お調子者のヤクショが永沢から報酬を出すと言われた際にすぐに乗り気になっていたのと違い、アポロとサモハンは慎重でした。
特にサモハンは他の話を見ても、見た目と言動は大ざっぱでもなかなか勘が鋭いと思います。
何かに対してヤクショは気付かなくてもアポロとサモハンは気付くということが何度かありました。


「雨に踊れば」
上野駅前のマルイシティのショーウインドウの前でダンスをしている二人の女に遭遇します。
こういう光景は他の街でも見ることがあり、夜になると鏡張りの建物の前でダンスの練習をしている人を見たことがあります。
二人はミサリサというダンスチームで、ショートヘアの奥原理沙(リサ)、ドレッドヘアの清水美佐子(ミサ)のコンビです。
調子の良いヤクショがナンパしていましたがあっさりあしらわれていました。

それでも後に四人とミサリサは「福屋」で飲み会をすることになりました。
飲み会の数日後、リサからアポロに電話がかかってきます。
ミサが四日前から姿を消してしまったと言うのです。
ミサは男五人組ダンスグループ「シャングリ・ラ」のリーダー、アキヒロと付き合っていました。
しかし付き合ってしばらくするとアキヒロが暴力を振るうようになります。
ミサは飲み会で天才が言っていた「ぼくたちは明日のためじゃなく、今日のために生きている。今日が楽しくなくちゃ、明日なんてない」という言葉に感銘を受け、自分も勇気を出してアキヒロと別れると言っていたとのことです。
天才は知的障害がありますがたまに凄く良いことを言います。
そして常に「はいっ」と手を挙げて「⚪⚪であります」と軍隊員のように言うのが面白いです。
アポロを隊長、サモハンを副長と呼んでいるのに対してヤクショのことはなぜか二等兵と呼んでいて、そのヤクショとの掛け合いも面白いです。

シャングリ・ラが真夜中に上野恩賜公園で練習をしていることから、四人とリサは話を聞きに行きます。
夜の上野恩賜公園は危ないらしく、女性であるリサはかなり怖がっていました。
私はお花見の時期以外で夜の上野恩賜公園を歩いたことがありますが、そこまでの無法地帯ではなかったと思います。
ただ非常に広い公園なので奥のほうなど場所によっては危険なようです。
やがてシャングリ・ラを見つけて話を聞くと、何とアキヒロも四日前から姿を消していました。
別れようとしたミサがアキヒロによって連れ去られた可能性が高くなりました。


「夏の自警団」
アポロにサモハンから電話が来てご飯を食べに行きます。
サモハンはアポロに「コズミック」という雑貨屋の店長をやってみないかと誘ってきます。
店長の相良浩介が既に60歳を過ぎ子供もいないため、誰か後継者はいないかと探していました。

アメ横では現在、外国人窃盗団による被害が相次いでいます。
どの被害に遭った店でも値打ちのある物だけが盗まれ、しかもかなりの目利きでないと値打ちが分からない物まで盗まれていることから「ハイカラ窃盗団」と呼ばれています。
アメ横に詳しく、かなりの目利きの日本人が手引きしているのではとサモハンは言っていました。
実は「コズミック」の店長、相良からサモハンは「窃盗団を捕まえなくても良いからしばらくアメ横の商店街を守ってほしい、そしてできればコズミックから盗まれた物を取り返してほしい」と頼まれていました。
その結果を見てアポロに店長を任せるか決めるとのことです。
相良と会って話をしてみると、何と相良は手引きをしている犯人に心当たりがありました。


「アメ横ランナバウト」
アポロは「コズミック」で働き始めていました。
こころところこの店がガーディアンメンバーのたまり場になっています。

四人がガーディアン活動を初めて一年になり、再び冬の年末を迎えていました。
その夜のパトロールもいつもと同じことの繰り返しだった。それが一年たって、まだ空しくならないのは、わずかだが誰かのために役立っているという気分のせいかもしれない。
大それたことはしていなくても、ほんの少し誰かのために役立っているという実感があれば、継続する力になると思います。

増井のおじいさんが再び登場します。
増井に「事件の全てを知っている」という人から手紙が来たのです。
増井は初めて事件の核心に迫れるかも知れないという手応えを得ていました。
四人は増井のためにアメ横に事件の情報提供を呼び掛けるチラシを配ることにします。

そんな折、永沢からアポロに電話がかかってきます。
永沢が田畑という事件について何か知っている人を紹介してくれるとのことです。
5年間見つからなかった犯人に少しずつ近づいていました。


上野のアメ屋横丁を舞台に、一話完結型の話で四人の活躍が描かれているのは読みやすくて良かったです。
一話完結型の構成は池袋ウエストゲートパークと同じで、池袋ウエストゲートパークの舞台が上野になり、中心人物達が武闘派ではなくなったという印象です。
そしてこんなガーディアン活動をする人達が飲みの喧騒などで乱れがちな街並を整えるために活動してくれる街は幸せだと思いました。


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