老いの途中で・・・

人生という“旅”は自分でゴールを設定できない旅。
“老い”を身近に感じつつ、近況や色々な思いを記します。

あいまいな喪失(Ambiguous loss)

2021年03月04日 19時24分22秒 | その他

 3月2日の毎日新聞の「火論」というコラムで専門記者の大治朋子氏が「あいまいな喪失(Ambiguous loss)」について触れておられました。

 初めて聞く言葉でしたが、その文章に拠ると認知症などにも関係があるとの事だったので、興味を持って調べて見ました。

 社会学や心理ケアの分野に関する言葉で、一挙には飲み込めませんでしたが、色々なことを拾い読みしている中で、<災害グリーフサポートプロジェクト「あいまいな喪失」情報サイト>での説明が、一番理解しやすかったので、ここから抜粋紹介させていただきます。


◆あいまいな喪失(Ambiguous loss)とは
・長年、家族のストレスや家族療法について学際的研究を行ってきたミネソタ大学家族社会学の名誉教授であるPauline Boss博士が自身の体験から提唱された理論です。

・かけがえのない人や物を失うことを「喪失(loss)」と言います。
喪失を経験すると、多くの場合、その直後は悲嘆反応という悲しみの反応が出現しますが、時間の経過とともに少しずつその悲しみから回復していきます。

 これに対し、「あいまいな喪失(ambiguous loss)」は、その喪失自体があいまいで不確実な状況のことをいいます。Pauline Boss博士は、この「あいまいな喪失(ambiguous loss)」を「はっきりしないまま残り、解決することも、決着を見ることも不可能な喪失体験」と定義しました。そして、通常の喪失と異なり、あいまいな喪失の中にある人は、終わりのない悲しみのために、「前に進むことができなくなってしまう」という状態になります。


◆「あいまいな喪失」によって失われるもの
・大切な人(もの)の不在のために、それまであった関係性(relationship)や愛着(attachment)が失われます
・その人(もの)の未来とともに、自分の未来がきっとこうなるだろうという確実性が失われます
・人生を自分でコントロールできるという感覚が失われます
・将来への希望や夢が失われます
・アイデンティティや、妻としての役割・子どもとしての役割といった自分の役割が失われます
・世界が安全な場所であるという信頼感が失われます

 要するに、「あいまいな喪失」の状況では、しばしば「私は誰なのか」ということがわからなくなります。
夫が行方不明の時、「私はまだ妻なのか、そうでないのか」、農業に従事する人が原発の影響で仕事ができなくなった時、「私はまだ農夫なのか、そうでないのか」といったように・・・。
 あいまいな喪失では、自分のアイデンティティや役割が脅かされるといわれています。

◆「あいまいな喪失」の二つのタイプ
 この「あいまいな喪失」には二つのタイプがあるとされています。

(1)心理的には存在しているのが身体的には存在しない状況(「Leaving without Goodbye~「さよなら」のない別れ~」)
・カタストロフィックな状況の喪失
   行方不明、失踪、遭難、誘拐、痕跡不明な喪失など
・より一般的な喪失
   離婚、養子、移民など

(2) 身体的には存在しているのが心理的には存在しない状況(「Goodbye without Leaving~別れのない「さよなら」~」)
・カタストロフィックな状況の喪失
   アルツハイマー病やその他の認知症、頭部外傷、薬物やアルコール依存、抑うつなど
・より一般的な喪失
   大切な人の不在、ホームシック、ワーカーホリックな人など
(注)カタストロフィック:その人のいる環境に多大な変化が起こる悲劇的な状況。


◆「あいまいな喪失」への対処
 あいまいな喪失からくるストレスは、対処が最も難しいストレスの1つといわれています。
 自分が誰なのか、どのように生きていけば良いのかがわからなくなり、まるで生きる術(すべ)を見失ったかのように感じるからです。
そのような事態になった時の対処としては、下記のようなアドバイスがあります。

・毎日、それが無理ならば週に何度か、夫婦や家族で会話する時間を持ちましょう。
自分を理解してもらえる場があれば、どんな人にとっても、それは希望の源泉になります。

・家族の会話の場に、子どもたちも参加させましょう。小さな子どもに詳しく説明する必要はありませんが、親や周囲の大人がどんな事を心配しているのかについては、知らせておくべきです。
どんな人にとっても、知ることは、何も知らないことよりは良いのです。

・自分が何を失い、何は失わずに残っているのか、少し整理をしてみましょう。
そのような事を整理し、話すことで、気持ちが楽になることがあります。

・考え事をしたり、人と話をする時、さまざまな感情がわいてくるかもしれません。そのような時は、自分に優しい気持ちをもちましょう。どんな感情や思いも、あいまいな喪失が原因で起こったものです。

・情報を集めましょう。情報は力になります。

・自分の思いを楽に表現できる人、あなたを理解し、あなた自身もそばにいて欲しいと思える人を探してみましょう。そのような人を「心の家族」と呼びます。

・変化を怖がらないで下さい。それはこれから生きていく上で、とても大切なことなのです。

・同じ体験をした人とつながれる場所があれば、是非、参加してみて下さい。その人たちは、多くを語らなくても、あなたの苦しみを誰よりも理解してくれることでしょう。


 戦争や紛争だけでなく、大規模な自然災害や交通事故などに拠るかけがいのない人との理不尽な別れ(時には遺体がないままで・・・)や、原発事故や自然災害などに拠る居住地の喪失だけでなく、高齢化社会の到来により認知症患者の急激な増加予想など、この「あいまいな喪失」は極めて身近なものなっていると言えるでしょう。

 私自身、アルツハイマーが進行するツレアイとの生活で、「あいまいな喪失」の真っ只中にいる事を改めて自覚するとともに、上記の対処法を参考にして少しでも明るい生活を送れたらと思っています。

 更に、今世界中の人々が、新型コロナウイルスのパンデミックの中で、先の見えない不安の中にいます。この流行による不確かさは、ビジネス、コミュニティ、家族、個人など、さまざまなレベルで起こっています。
 例えば、外にでる自由の喪失、生活のコントロール感の喪失、いつも通りの人間関係の喪失、金銭的・経済的な喪失、安全性の喪失、家族や友人との物理的な接触の喪失、コンサートに行ったり、カフェでくつろいだりといった機会の喪失、など広範囲です。これらはすべて「あいまいな喪失」であると呼べるのものだと思います。

 「あいまいな喪失」の中にいるのはあなたや私だけでなく、実に多くの人だという事ではないでしょうか。(まさ)